TRANSFORMERS:FACTORS episode:7 [奪われた魂]


無数の宇宙に呼びかけた声
星間帝王と戦う為の力を求め
マトリクスが、幾つもの光ある者に願いを飛ばした。

しかし、舞い戻った声は、応えではなく
かつて共に戦った仲間からの助けを求める声だった。

「友よ、我が意識が消える前に力を貸して欲しい」

声の主、リバースコンボイ。
別次元の惑星ビーコンのプライムであり
同時に彼の宇宙では最後のプライムである。

彼が居る時空には既に超生命の存在は極めて少なく
僅かに残った命を救う為、未来をつなぐために
新天地を探す次元連結の研究をしながら
無数のドローンを駆使して脅威と戦っていた。

「あの世界にはもうプライムは一人だけ...彼に何が」

時空の壁を切り裂き、ファクトコンボイが飛び出した先
目前の惑星は幾つもの爆炎が巻き上がり
一点にあまりにも異質な気配が放たれている

惑星の外からでも感じられる程の異様
考えるまでもなく、星間帝王の魔手が伸びたのだ

機械の惑星から、悲鳴が聞こえた様に感じられる
命を持たずとも、そこにある存在は無ではない
それを破壊する者、奪う者、敵。

「今、行きますよ」

頭を刺すように巡る怒りを噛み砕き
青い光が、放たれる異質な気配めがけて飛び込んでゆく

無数の建築物が破裂し、黒煙を上げる破滅の世界
降り立った先、視線の先に写った異形が
殺気を放ち、巨大な砲門をこちらに向けている

「あれは?そんな...まさか」

放たれた殺気が異形に纏わり付く黒煙をかき消すと
怒号の中に佇む影は他でもないリバースコンボイであった

「待っていたぞ、ファクトコンボイッ!!」

青い体、僅かに残った命を護る為に
忌むべき兵器の体を持つ事を選んだ戦士が眼前に居る
だが、その魂の輝きは別の意識に濁らされている

「答えろ!?何をした...彼に何をしたんだ!!」

構え、かざした手の中に光の刃が現れると
鋒は真っ直ぐにリバースコンボイを捉える

「奴の持つ技術、この世界、良い物を持っていたのでな
全て奪ってやったまでだ...この俺様が」

リバースコンボイの顔が言葉の内に歪み
次第にその評定が変わり、別の物へと変貌してゆく
白銀の兜、歪んだ笑み...どの世界にも存在する
それは、プライムに対する影、悪意の象徴。

「お前は、メガトロン!?...姑息な真似をッ!!」

漂う黒煙を切り裂き、一直線にファクトコンボイが飛ぶ
巻き上がった砂が地面に落ちるよりも早く
その刃が、リバースコンボイであった存在を狙う

同様に今や悪の象徴と化したメガトロンも
周囲の残骸を投げつけ、手に持つナイフで応戦すると
無数のエネルギーが火花を散らし、無数の爆発を起こす

「良いのか?俺の体は人質でもあるんだぞ?」

「...ッ!!」

「フハハッ星間帝王様の贄となれぇ!!」

高揚し、勝利を確信した笑いが木霊する。
...しかし、己に迫る攻撃の手は止まる事はない
あろう事か、確実に破壊を狙った攻撃を繰り出している
次第に笑みは薄れ、その行動に困惑の色すら見える。

「どうしました、下品な笑いはもうお終いですか?」

メガトロンの言葉をまるで意に介さず
光の刃が腕、足...頭を狙い伸び貫く

その動きはまるで探るように、僅かな反応を見
相手の言葉から導き出された、ヒントを元に可能性を探る。
幾つかの動きに、一瞬のズレが感じられる。

動き、感覚は全てが解へ繋がる鍵。
敵の切り札はこちらにも同様に「生きている」証を示す。
体は器、魂たるスパークさえ無事であれば救うことが出来る、

「破壊大帝ともあろう者が、この程度とは」

振り上げた刃がキャノンごと構えた左腕を叩き上げると
そのまま体を半回転させ、振り上げた足を脇腹に叩きこむ

跳ねるように吹き飛んだメガトロンの体が
後方のビルの残骸に激突し、再び爆炎が巻き上がる。

「グッ...何故だ、何故容赦なく戦える」

自らの動きの不完全さ、それすらも理解できていない
即ち、まだ得た体の限界、それどころか自由すら掌握できていない

場合によっては容赦なく破壊する、それは勿論だ
だが、それ以上に刃が重なる度聞こえる声がある、此処だと。
我らは友に闘っているのだ、その中に眠る彼と
まだその体の中に魂は生きている。

「解らないのか?お前の中にある魂が...容赦はするなと言っている!!」

刃を構え、体に流れるエネルギーを一点に集中させる。
今ならば、まだ取り憑いた悪意を切り離せば救うことが出来る
そこに至る確信を得るには、十二分の材料は揃っている。

「己ぇ、ならば貴様も同じ目にあわせるまでぇ」

メガトロンの叫びと共に、全身の火器から砲撃が放たれる
無数の弾丸、上下左右から迫るミサイル
それらが音の早さで迫る...その刹那、音を超え光が走る

「見極めたぞ...その体を返してもらう」

無数の攻撃による怒号が、静寂に呑まれたかと思うと
ファクトコンボイの体はメガトロンの目前に現れ
その首を体に張り付いた砲台ごと叩き斬り、跳ね飛ばす

放たれた砲弾達は、目標を見失い混乱したように飛散すると
周囲を破壊してその役目を終え爆散する。

「貴様の本体はこの砲、寄生とは破壊大帝も地に落ちたな」

吹き飛んだ砲を持ち上げると、繋がった首がダラリと下がる
苦悶の表情を浮かべてはいるが、これでもまだ死ぬ事は無いらしい

「自由を奪われる気持ちが理解出来るだろう」

ギィギィと呻きのような声を上げ
ファクトコンボイを睨みつける顔は、最早メガトロンとは言い難い

果たしてこれが元よりメガトロンであったのか?
今となっては、志も持たぬ異形である
所詮はは星間帝王の野望に魅せられた愚者でしか無い

「誇りなき者よ、闇の世界を彷徨うがいい」

ファクトコンボイが眼前に手をかざすと
時空の狭間が開き、漆黒の世界が対面側に見える
そこは暗黒宇宙、遥か遠い闇の果てに繋がっている。

「縁があればまた会う事もあるでしょう」

手を離すと砲台と首だけになった異形が飲み込まれていく
物言いたげに口が動いているが
闇に飲まれたその表情から言葉を読み取ることは出来ない。

「さて、彼を早く治療せねば...一度帰りましょう」

リバースコンボイの魂はまだ体の中に眠っている
しかし、長時間このままの状態が続けばその火も消えてしまうだろう
崩折れた体を持ち上げると、開いた別の時空の狭間を通り
ファクトコンボイはまた、新たな世界へと飛び出してゆく

「すぐ、元の姿に戻れます。少しの辛抱ですよ」

まるで答えるように、体が変形し本来の頭部が現れる
かすかな瞳の光と共に、頷くと
リバースコンボイは暫しの眠りのつくのであった。