TRANSFORMERS:FACTORS episode:23 [希望たる者]
眠る地球、我等の第2の故郷
その深き深層に、その魂は根付き巣食っている。
「活動の為の義体を打ち砕いた事で、道が開いた...と」
開かれた新たな異界への扉
それは地球深層へと臨む、最も近く遠い場所
遥か下方へと開く、闇へと続く穴の中へと
超生命体の力を象徴し相反するはずの二人が
ゆっくりと、力を周囲に放ち、その見を守りながら降りてゆく
「先に言っておく。ミクロアース代表として今は手を貸す」
そう言うと、メガ・トロンは変形し
その体のサイズを縮め、ファクトコンボイの腕へ収まる
「が、話し合いは性に合わん。任せるぞ」
「...いざという時の汚れ役でもするつもりですか」
「どうだかな、俺は奴を消せればなんでも良い」
微かに笑ったように、その身を揺らし
軽口を叩く姿は、嘗てのガンロボ達と同じ
歪められた世界が存在しなければ、こういう世界もあったのか
奪い取られた全てが重く募り、怒りは力へと変わる。
微かな、その幻を描かせて、変わった者、消えていった者達の
その全ての時間が、今、背を押しているのだろう。
「奴は何故、私達を変えてまで世界を狙ったのでしょうね」
「理解したくもない事を聞く、俺よりも、本人に直接聞けばよかろう」
落ちてゆく闇が、瞬間完全に途切れた意識の間に
瞬くましろな世界へと変貌を遂げる
それは終わりのない無の世界
壁も、天も地もない、あるのはただ白
そこに青く輝く光が存在しているだけ。
だが、その存在はこの白の世界の神にとって
何よりも恐ろしい者へと変貌を遂げた。
「居るのでしょう?出てきてはどうです」
あたりを見回し、闇の気配すらない真白の先に
一点の歪を見つけ、ファクトコンボイが声を投げる
響く音は無数の衝撃となって世界を震わせ
僅かだった衝撃は次第に広がり
その歪な一点に集約されると、縺れは広がり
まるで影が剥がれ落ちるように、闇が姿を現す
『我が身を滅ぼしても、まだ足りぬか』
浮かび上がった闇、浮かび上がる光はその瞳
無数の世界に存在する闇の根源がついに姿を見せた。
思っていたよりは呆気ないほどの存在
しかしそれは同時に、世界に影響を与える者でありながら
その殆どの気配を感じさせないまま、入り込んでしまう
当たり前に存在する闇である事実を実感させる。
「ここで大人しくしているなら、このまま帰りましょう」
不意に右腕に握れた銃が反抗するように上下したが
それを抑えながら、正面を見据えた先に解を求める
『永遠に破滅の輪から逃れられなくても良いのか』
揺らめく闇は微かに星間帝王の影をちらつかせながら
大きな顔だった姿は次第に人型へと変わる
嘗ての、幾多の世界での記憶が混在した姿
それは破壊の歴史、己の戦いの全て
その度希望を得る事もなく絶望し続けているのだろう
「今やその環は存在しない、未来は変わったんだ」
宇宙暗黒の力に呑まれたハイパーミクロマン
彼が過去に飛び、星間帝王としてミクロマンに挑み
その力の余波がαH7を呼び寄せる、彼はこれを幾度と繰り返した
何百、何千との繰り返しの中で、その力は各世界に飛び火し
次第に歴史は外部からの干渉、そして内部に生まれた強い力の反発
幾多の要素が加わることで変化を起こし始める。
『当然だ、その為に我が軍勢をこの世界に呼び戻したのだから』
確かに、最初は闇に飲まれた存在の暴走
地獄から抜けだそうと足掻いた結果が無数の世界に
そしてこの零の世界に影響を与えた、いわば事故だった
だが、今となっては、野望を持ち世界に手を伸ばした
その時から、環から既に抜け出してしまっている
だからこそ、地球は第二のミクロアースになることはなく
我等は確かに生まれたが、人間と共に生き
迫る脅威に撃ち勝つことが出来たのだ、もう環など存在しない
「抜けだした環の先に、お前は何を求めた」
変わった未来、地球は30年以上変わらぬまま
繰り返し起きた争いは、全て異界からの介入があった
アクロデビル、アンゴルモア、ルキファー、ゼノン
その全てが本来では生まれ得ないほどの闇を持ち
宇宙を破壊する程の異質な力で迫り続けてきた。
彼等もまた、ファクトコンボイ達と同じく
零世界の存在が、この闇によって異界へ召喚され
作り変えられ、無限の争いの中を彷徨い、生まれた者達
『全ての世界を手中に収める力、争いばかりの世界は簡単だった』
数百万年の闘いが続く超生命体の世界
その争いもまた、異界から落とされた戦士たちが
作り変えられた力で引き起こした戦争。
正義のサイバトロン、悪のデストロン
自由を求めるオートボット、破壊を愛するディセプティコン
その全ての戦いの火種が、作り変えられた者達
だから彼等はトランスフォーマーと名乗った
自分が変えられた事、ある者はそれを忘れないため
ある者はそれが何かを求め、ある者はそれを否定し破壊を行った
そう、全ての世界は繋がっている
そして全ての災の根源は目前の闇。
「結局、力に飲まれその程度の欲望で終わるというのですか」
ファクトコンボイの瞳が青く輝き
振り上げた右腕の先、銃口が闇を捉える
意識を奪ってでも、今この時己を弾丸を放とう
そう意識しメガ・トロンもまた動きを見せていた
だが、それよりも早くこの光は怒りを露わにした
『結局はお前もまた争いの中にしか要られぬ者』
揺らめく闇はより一層強く恐怖の象徴の形をとる
対峙してきた悪意の姿が瞬きをする度目の前に現れる
人々の恐れ、故郷を失った我等の悲しみ
命ある者達の恐怖が姿を変え続けている
だが、同様にその闇を祓い続けた輝きが
その放たれる絶望を打ち消し、構えた銃口は一切の震えもなく
目前の闇の頭部を狙い定めたまま、変貌する闇を見据えている
「ええ、だからこそここ迄辿りつけたのですよ」
銃弾を放った所で、この闇という概念に近い存在を
打ち砕き、破壊する事などは出来ないだろう
だが、既に零の世界に集った戦士たちの
闇の意志ではどうする事も出来ない、揺るがない意思
そして目前に存在する本来善と悪の象徴が組んだ姿
最早、闇が存在する場所などこの世界には残っていない
『愚かな、環を無くした世界には更なる破滅が迫るぞ』
微かな理性なのか、逃げ道を探っているだけなのか
最早、脅威とは程遠い影のような闇は
自らが存在することで繰り返される環の先を憂う
破滅するはずの世界が破滅せずに進めば
必ず起こるべきだった未来を完遂するため
更に強い脅威が生まれ、世界を破壊しようとする
『平穏など無い、宇宙は一つになどならぬ』
真白の世界が声を受け、波紋のように揺れ撓む
自らは必要悪であると主張するように
それは最早、自分が存在し続けたいと願っているようにも見える
「元よりそんな事は解っている」
叶わぬ理想を掲げ、戦い続ける事も
武器を持たぬ者の為戦う事も、それは希望へと繋がる
今はまだ戦えない者達が
次への希望へと変わる為には力が必要になる
その力を、今の戦う者達がその身で示す
いつか見た戦士たちが謳い、掲げた希望が
今もまだこの胸の中で輝き続けている、だからこそ
『お前達まがい物に何が出来る』
目前に立つ闇、その身を一瞬光りが通り抜ける
ついに引かれた引き金はその強い力を一筋の光に宿し
目前の悪の根源たる闇を猛然と貫いた。
「希望というものは、予想外の所から現れるのですよ」
今だ、一瞬の間に姿を変え続ける闇が
その体の中心に大穴を開け、撃ちぬかれた事実に驚愕の表情を見せる
自ら闇であると自覚し、実体を持たないはずの体が
己でも実感できる明確なダメージを受け入れ、視界を歪める。
『...!?お前達の中から感じるその力は...!?』
「解らないか!?お前に生み出されながらも光を求めた者達の力が」
本来善と悪の戦士である二つの声が重なり
その背後には無数の戦士たちの姿が浮かび、光を増してゆく
「何度迫る絶望も、打ち砕くだけの力をもう我らは持っている」
光はみるみる内に融合し、メガ・トロンごと大きな光の剣を形成すると
その一閃が、穴の空いた最早消えかけの闇目掛け振り下ろされる
『与えねば、思想を植え付けねば生きも出来なかった貴様等を』
『輪廻の中で滅ぶお前達を、何もかも救おうとした私を...ああっ』
それは斬撃と言うにはあまりにも巨大な光の帯
闇は飲まれ、再び世界は真白に霞む
僅かな静寂の後、現れた光の剣は消え
変形したメガ・トロンがファクトコンボイの傍らに立つ
「人間も我等も、もうお前を必要とはしていない」
メガ・トロンが虚空に手を広げると
そこに六角形の小さな石版が浮かび、幾つかの光を吸い込み
ファクトコンボイの腕の中へと落ちる。
「お俺の闇に怯え、永遠に眠り続けるがいい」
石版...マイクロンパネル
闇として生まれた星間帝王の力は最後の輪廻を巡り
今このパネルの中で眠りの時を迎えた。
「この中で自分と見つめ合えればいいですが」
鈍く光る緑色の輝き
それは他のマイクロンと同じ、生命を宿した光
闇ではなく、濁り無きその輝きは何を見るのか
「コイツの未来は我等の選ぶ未来で変わるのだろうな」
そこに立つ影は、ただあの日地球を守ろうと戦い
共に同じ未来を見た、ミクロマンとガンロボの姿
繰り返しから逃れ、破滅する筈だったの未来は終わり
今歩みだした未来から、世界はまた色を変る。
「さぁ戻るぞ!今日だけは、お前の味方だ」
風が舞うように、軽く宙を舞った二人の戦士が
真白な世界から飛び立つ頃
地上に放たれた邪悪もまた駆逐され、消え去っていた
「今日だけ...ですか、まぁ良いでしょう」
一時の平穏
異界の道を抜けた先、傷ついた仲間達が見える
これからの世界はまだ何も見えない
だが、ダイヤより固く強い友情が希望となる未来へ
この世界は変わっていくのだろう
全てが始まり、命が舞い戻るこの世界で
彼等の戦いは次の時代へ、そしてまずは明日へ。
確かに変わり始め、歩み続けてゆく。