TRANSFORMERS:FACTORS episode:17 [-狂宴-]
「宇宙に歪みが広がっている、これが脅威なのか」
無数の悪意を打ち砕きながら
3つの星が地球に向かい猛然と駆け抜ける。
時の神に与えられた使命
友を助け、宇宙全体の敵星間帝王を砕く
まだ現世に馴染みきっていない体が
より協力に地球に募る悪意を感じ取る
「時間がない、間に合ってくれ」
深く念じた、その意識が
同じ世界を変える力を持つ兄弟にも届いた時
彼はまだ、窮地の中にいる
急がねばならない、彼と出会い自分もまた変わらねば
そして何より、その生命を救い守らねば
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空が歪む、別の世界の扉が開く
幾度と感じた、慣れる事のない歪な感触
その先、黒い影が気配を伸ばす
明らかに強い、刺さるような怒り
いやに輝く朱の色が、黒い体を際立たせる
「見つけたぞ、フォースコマンダー」
叫びを上げた声は
その禍々しいほどの怒りからは想像できないほど
喜びすら感じるように軽く叩き付けられる
「...どうやら、言葉が通じる相手じゃなさそうですね」
異界の王、カーザ。
マイクロノーツと呼ばれた戦士達と争い、打ち果てたその魂は
今もなお、宿敵を求め、飢え狂い続けている
はるかエンプに見えたその姿が、瞬く間に迫り
その巨大な体を理解させるやいなや
振るわれた腕から巨大な槍が投げ飛ばされる
「今日こそは...貴様等の死する時!!全滅だっ!!」
まるで風が吹き抜けるように突き抜けた槍を
刃で受け流し、叩き落とすとファクトコンボイは視線を向ける
目線の先の狂気の瞳、前を見ているようで何も見ていない
それは、まるで死者のようで、強すぎる力とは相反している
そう考える内に、その姿は既に目前まで迫っている
青く、透き通った空は今だけは嫌な程冷たい
「問答無用であるならばッ」
不利構えた刃、滾る力が実感を与えてくれる
空気が輝きの中で力に、そして体中に巡る
僅かに体を前に傾けると、その姿は刹那に消え
迫る狂戦士の目前へと転送される
エネルギーの波を走る、存在その物が力となりつつある
「--キィィィ--」
目前に現れた宿敵にまるで歓声を上げるように
金属と金属が削り合うような唸りが轟く
その間はほんの一瞬、次の瞬間には強力な力がぶつかり
互いの刃が火花を散らし、空を歪ませる。
「随分と鮮やかになったなフォースコマンダー、紅を追加してやろう」
まるで壊れた機械のように、あらぬ角度から振り回した腕
何も握っていないはずの拳には突如巨大なロッドが握られている
その常軌を逸した言動、動き、何かがおかしい
しかしそれを感じさせるよりも早く、一撃が体を叩き
次の瞬間には、一撃、もう一撃と叩き込まれる
「ッ...まるで存在が無いかの様だ」
全身を護る光、そして刃が辛うじて体を守っている
しかし、その気配も武器から起きるはずの空気の流れすらも
目前の狂戦士からは何も感じられない、見えている、だが無なのだ
【察しが良いな。そう、其奴は既に存在していない】
まるで声に答えるように、猛攻の先
異形の背後に影が映る、歪な骸骨のような顔
緩んだ笑みを浮かべたそれは、紛れも無い忌むべき存在
「貴様は...星間帝王」
叩き込まれるロッドを刃が絡め、狂戦士の腕から払い落とすと
仮面の瞳が、まるで気配を変え突き刺さるように輝く
姿勢を崩したカーザに向け拳を放つと
腹部に開いた攻撃器官にそのままえぐり込み、力を送り込む
「グガ...ギャァァァァァッ」
悲鳴のような声が、表情を持たぬ顔を歪ませる
本来、既に存在を持たない者、しかし目には見えている
即ち、何かしらの力はあり、その場に存在はしている
ならば同等かそれ以上の己の命、力その物をまとい
目前に存在するその姿に対し力を送り込み、内部から破滅させる
存在その物を消し去る必要がある、魂までも破壊する術
そうしなければ倒せない程、この目前の狂戦士は壊され利用されたのだ
【ハッハッ強いな、だが其奴は死なんぞ...我が贄となるのだ】
背後の声がまるで命を弄ぶように、再びカーザの体を動き始める。
まるで何事もなかったように、体から火を上げながら
終生のライバルが目前に居ると錯覚したまま、生と死を繰り返す
「貴様...今度こそ欠片残さず消滅させる」
腹部を貫かれ、動きはすれど力を失ったカーザの体を掴み
そのまま担ぎあげると、胸に輝くマトリクスが光を放つ
「貴様に出来るなら...私にも出来るんだよ」
一瞬、ファクトコンボイの声が低く多重に重なり響く。
魂が無理矢理に形を与えられている、この存在を
マトリクスの輝きが包み込み、体中に浸透すると
壊れた機械その物の動きを見せていたカーザの動きが止まり
次第に光は繭のようにその全身を包み込む
【あぁ解っているさ、だが、それはそこにあれば良い】
「何を...しまった、パープル達が」
周囲に広がる気配、地上一点の大きな気配から
次第に無数の力が迫っているのが感じられる
目前には星間帝王の意思が、そしてカーザを縛り付けいる
カーザは依代であり囮、最初からここまでは想定されていたのだ
【察しの良い貴様なら解るだろう?】
声は次第に揺れ、高く笑い声が木霊する
青いままの空も、トーンを落としまるで闇のように感じられる
鈍く刺さる気配の群れ、ジリジリと精神を蝕む威圧
為す術は...果たして無いのか
「貴様に出来る私にも出来る、そう言いましたね」
声とともにファクトコンボイが刃を空高く掲げると
無数の気配の中に、闇とは違う力の気配が生まれ始める
それは地上より遙か下、地中から迫る無数の力
地球に生きる戦士達の眠りを呼び起こす声
地面が震え、まるで雄叫びの様に響き
遥か上空で睨み合う二人にまで轟いている
【ハハッそうでなくては、だが状況は変わらんぞ】
蠢く闇の靄、星間帝王の影は未だ余裕を見せるが
この目前の敵を消滅させる為に、これまで動いてきたのだ
この状況もまた、想定の内の一つ、罠にかかり同時に罠に嵌めたのだ
「油断を見せたな星間帝王、この気配にも気付けないとは」
瞬く光は地上だけでなく、空にも同じ光を呼び寄せる
遥か彼方から、異常な程のスピードで迫る3つの光
光は瞬く間に星間帝王の異質な気配の壁を砕くと
周囲を覆い、2つの光はカーザを縛った繭を奪い
もう一つの影は幻影の星間帝王に突撃する
「はぁぁぁぁッ!ブレイク...ザンッ!!」
光は刃に、光は騎士に次第に形を変え
叫びを上げ、その一閃をふるい落とす
鋭い斬撃が音を上げるか否か、叩き切られた幻影が
何が起きたかも理解できぬまま悲鳴を上げ粒子となり消え果てる
瞬間の出来事の間で、現れた騎士はこちらに向くと
その顔を護る仮面を開き、穏やかな笑顔を見せ、手を差し出す
「待たせたようだな兄弟よ」
「貴方は...まさか、ダイタリオンの!?」
差し出された手を握り、見上げた視線の先
見知った存在ではない、しかし確かに解る
自分と同じ力の流れる戦士の波動を感じられる。
「私の名はグラディオン、共に戦おう」
「あぁ、やっと出会えた、私はファクトコンボイ」
グラディオンが軽く頷くと、遥か下方の気配を察知する
まだ星間帝王の仕掛けた罠は続いている
分散して戦っているパープルにもまた脅威が迫っているのだ
「急ぎましょう、援軍は用意してありますが数が数です」
遥か上空から、二人の戦士が地上に向かい降下するのに合わせたように
星間帝王により遮られていた通信装置から声が響く
「こちらインセクトロン、既に可愛い子ちゃんと地獄の真っ只中だ」
厚い雲の向こう、既に無数の爆炎と光が走っている
相当数の敵がまだ用意されていたのだろう
「了解、すぐに向かいます。行きましょうグラディオン」
「あぁ!決戦の時は近い、急がねば」
雲が切れ、視界の中に戦いの火が映る
空の蒼は再び穏やかさを取り戻し、彼等を後押しする
流れる真昼の流星が2つ
戦いはついに最後の局面へと、動き始めた
そして、幻影のままの巨悪もまた本当の姿を見せようとしていた。