TRANSFORMERS:FACTORS episode:14 [現世の空へ]


生と死が混ざり合う場所
常識を超えた重なりは、次々と命を繋ぐ

生命の輝きは、より似た色に吸い寄せられる
死の世界では生者と死者だった者が
その外では、本来は手を組む筈のない存在が

何の因果か、その運命の糸を絡めるように
互いに向かい歩み始めていた

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生と死の狭間の世界は静寂に包まれたまま
ファクトコンボイ、スタースクリーム、アイアンハイド
3人の居る球体の空間だけが、今は光を放っている

「...でだ、ここから一体どう出るのだ?」

アイアンハイドがサーチを持ち上げ、目を合わせながら呟く
小首を傾げサーチもそれに応えるのだが
既に共通の言語での意思疎通は遮断され
何かを返しているのだが、機械音しか聞こえない

「あぁ!それに関しては...私にも相棒が居ましてね」

虚空を指さし、くるくると回すが
当然のように何も起きない、まだ時は着ていない
...とでも言うように、また静寂が訪れる

「どうやら、まだまだ話す時間はありそうだな」

「話かー...知りたい事は山盛りだな」

ニヤリと笑った二人の顔
突然として蘇った己の存在への困惑
これから起きるであろう、次の戦いへの迷い
そんな物を考える必要も無くさせるには
今はまだ、静かな無の中で、笑いあい、知り合う事が重要か

「お教えしましょう、これから帰る世界の事、そして私の事も」

幾つかの出会いと別れ、静寂が収まる時
彼等は新たな仲間となるのだろう
今はただ、迫る嵐の前に、少しの休息を...と言うべきか。

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遥か海上、異形の翼が空を舞う
その背中には、小さな体の少女の姿

体こそ小さいが、嘗ては惑星を滅ぼし
宇宙数万の民の怒りと恨みを一手に引き受けた
それはもう恐ろしい暴虐の女王ともいうべき存在
それが彼女だ、名はアーデンパープルという

「...ったく、何で私がミクロマン助けんのよ」

「おや、我が大将の元の姿をご存知で?」

空を舞う水牛、としか表現できない姿
彼はファクトコンボイの部下である戦士ノクトロ

ベクトからの信号を受け、異界への扉が開くポイント
今正に飛んでいる海上に居る訳なのだが
理由も解らぬまま、背には友人だという少女を載せている

「ん~まぁ面識はないけど、敵っちゃ敵よね」

「...場合によっては、斬りますが」

羽の先に光る爪が鈍く輝く
まるで周囲に何もない海の上を高速で駆け抜ける
この状況で切られても、落とされても流石に無事では済まない

「いやちょっと待って、もう改心したから、一回死んでるから」

「フフッ冗談ですよ。話は聞いています」

「あぁそう...まぁいいや。で、そろそろなの?」

晴天の空、相変わらず何もなく、地平線が見える
体が小さい彼等だが、移動距離は人間の常識を平然と超える

目的地まで向かうのは意図も簡単だが
対象がいる異界の扉を開けるポイントを探す
...口で言うほど簡単な物ではない

「大体の位置は掴んでいますが、何とか出来ますか?」

数時間前、ノクトロは人間の協力者から彼女を預かり
その直後、ベクトからの通信でファクトコンボイの現状を知った

データでアーデンパープルの過去と現在を知り
散らばったパズルのような情報を組み上げた結果
一番の最善策はパープルの力で扉を直に開ける
...という、至ってシンプルな結論だった

「まぁ、感覚掴んでいい感じにドーンと行けばOKっしょ」

「ほう、良いですな。ではお手並み拝見」

軽く返事をすると、パープルはノクトロの背中に立ち
母星の言語だろうか、聞いたこともない術式を詠唱する

背から感じる気配、異様なほどのオーラが空気を震わせ
静寂の海にまるで電撃の波が走るように溢れた力が巡る

「穴開けるわよ、ちょっと吹っ飛ぶかも。フォローお願い」

「当然、その為の私です」

短い会話が終わるか否か
パープルが右手に装備したアームユニットを構えると
先端から強烈なエネルギーが放射される

無数の光の帯が四方に広がり巨大な円形を構成し
まるでそこだけを切り取るように空に穴が開く

「よし上手くい...ッ!!」

異様な光景が浮かんだかと思うと
そのエネルギー波が生まれた反動がパープルに襲いかかる

術に力を使い、隙を見せた小さな体を突風が襲う
...が、既の所で、背後に影が走りその体を受け止める

「お見事、随分大きく開きましたな」

人型へ変形し、パープルを抱きかかえたまま
目前に大きく開いた円形の異界への扉を見上げる

極彩色と漆黒、正反対の色が折り重なる異様な世界
これが死の世界だというのだから、俄に信じ難いが
同時に、これほど理解できないからこそ真なのだろう

再び変形し、ノクトロが理解をするまでの間にも
幾つもの気配と、無数の声が響いていた

「...今はね、そんなに長時間は開けておけないわ」

円の周囲に稲妻のように走るエネルギーの帯
これが異界の壁をこじ開けているの過ぎない

「それに、救援信号ありってことは一人じゃないでしょ」

「察しが良いですな、ニ名程御連が居るようです」

あぁ..と納得するように軽く声を漏らすと
目を細め、遥か先に視線を向ける

「多分、結構近い...んじゃ、アイツを使うか」

パープルの胸の宝玉が輝くと
小さなロボットが光を放ち飛び出してゆく
その姿はまるで機械の怪鳥のようだ

「ほう、マイクロン...あれで飛べたのでは?」

「体力温存よ、その為の貴方でしょ?」

遥か彼方へ飛び消える鮮やかな怪鳥を見送りながら
状況とは見合わぬほど、穏やかな空気が流れる

「これは手厳しい、確かにそうですな」

相変わらず背中にパープルを乗せたまま
その姿はさながら悪の女王とその側近と言った風だが
彼等もまた、光を救うための希望の一つ

それもまたこの世界が歪である証拠であろうか
将又、形に囚われる事の愚かさを恥じるべきか
それはまた別の機会に話すべき事だろう

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「この世界にもユニクロンが...」

「これも何かの因縁だな!手を貸すぞ!!」

死の世界に怪鳥が飛ぶ頃
異界の奥、三人の戦士もまた意思を通じ
共に戦う決意を固めていた

「それは有り難い...!おや、来たようですね」

光の中、立ち上がったファクトコンボイの元に
パープルの放った怪鳥が辿り着く
上空をゆっくりと回りながら、雄叫びを上げ自身を示す

「なんだ、マイクロンか!?」

アイアンハイドが驚く横で、サーチは既に意思疎通を行っている
グリッドもまた電子音を発し、何かを受け取っているようだ

「どうしたグリッド...これは、出口のデータか」

怪鳥が送り込んだデータから異界の外へのルートが示される
待ち構えていた救援の到着で間違いはないようだ

『何人いるかしらないけど、さっさと来なさい、閉じるわよ』

グルグルと旋回する怪鳥から突如声が響く
異界の扉を開くことは容易ではない

それを伝えるための警告なのだろうが
随分と荒い口調の女性の声は聞き覚えがない

「...これ信じていいのか?」

「大丈夫でしょう...きっと」

若干不安な表情を浮かべたアイアンハイドだったが
急がばと変形し、戦車へと姿を変える
スタースクリームも戦闘機へと姿を変え、怪鳥に並ぶ

「善は急げ...悪は?いや待てよ今は善か、さぁ急ぐぞ」

「フェクトコンボイは俺の背中に乗れ、サーチは任せる」

声を受けアイアンハイドの背中にファクトコンボイが乗ると
ビークルモードに変形した二人は圧倒的なスピードで
怪鳥が示す道を進み、幾多の光と闇を駆け抜けてゆく

夢か幻か、判断も付かぬほどの世界
死から生へ、途方も無い道のりに感じる程の異質

そこから彼等は抜けだすのだ
道は過ぎ、視界の先に青空が見える
当たり前にある空、それがやけに安心感を与えてくれる

「見えたな、一気に抜けるぞ」

瞬く間に迫る生の世界
一歩、また一歩と突き抜けた先...

「さぁ俺達も行くぞ...おぉぉぉぉ!?」

視界の先は海、当然下も海
開いたゲートは空の上...戦車は飛ぶことが出来ない
勢い良く飛び出したアイアンハイドが叫びを上げる

「海!?これは聞いてないぞぉぉぉ!!?」

飛び散る海水が光を反射し小さな虹を作ると
ゲートは閉じ、海に浮かぶアイアンハイド
そしてその背中にはファクトコンボイが乗っている

「...何やってんのアンタ達」

「なぬ! アンタとは何だ、もっとこう場所があるだろ」

パープルの呆れた表情、冷めた口調を前に
僅かな変形で、顔だけを出したアイアンハイドが怒りを見せる

そんな彼をスタースクリームが変形し持ち上げると
舞い戻った怪鳥と合体した、パープルが
まるでおちょくるようにアイアンハイドの上に乗る

「おいおい、そう怒るな。良いじゃないか生きてるんだ」

「そうそう、私疲れたから変わって、コンボイちゃん」

青い海の上を、今は小さな体の戦士達が駆ける
はるか、始まりの世界の上、その地平の先には何が見えるのか

「ファクトコンボイ、ご無事で何より」

「ええノクトロ、助かりました。そして彼女も、予想外ですね」

誰もが考えもしなかった物が手を組む事
それこそが、最悪の存在に打ち勝つ可能
...なのだろうか、その答えはいつの日か見える

この現世の空に、本当の平穏が戻る日に。