TRANSFORMERS:FACTORS episode:13 [導きの先]


「この空間は美しい、気に入りましたよ」

死の世界の輝きは、ノックアウトの性に合うらしい
四方を見ては、興味深げに感想を述べている

「この世界には死龍という異形も居るようです、気をつけて」

「敵ですよ?心配してくれるとは、とんだお人好しですねぇ」

異様な世界を、本来敵同士であろう筈の戦士が二人
まるで、敵を惹きつけでもするように際立っている
概念や意識の支配する死の世界では、気配は特に異質を呼ぶ

「私は所属より本人の意志が大事ですか...ッ、何か来ますよ」

敵意を隠す事すらしない、巨大な力が迫る気配
無が支配するこの世界で、これだけの気配はあまりのも異質
考えるまでもなく、来るであろう存在は予想ができる

「噂をすればなんとやら...勝算は?」

「出たとこ勝負と言った感じですかね」

「...何だか、貴方の事気に入ってきましたよ」

軽口を交わす間にも、地面がゆらぎ
無数のひび割れから、鈍く輝く何かが蠢く姿が見えている

「おおっアレですよ、あの中に魂が」

感覚なのか、知識があるのか
蠢く輝きに向かい、駆けていく

ザワザワと何かが囁くような音が響く空間に
刹那の静寂が訪れ、気配は一瞬にして淀む

「ノックアウト待つんだ、気配が近い」

声が届くか否か、鈍い光は激しく動き
それが無数に繋がり伸びた長い体である事を明かす
闇の中から見えるそれは、この世界の万人「死龍」の一人

「解っていますよ、彼に魂を返して貰いに来たのですから」

静止を振り切り、ノックアウトが飛び込む
背中に融合した共生兵器が展開し猛然と襲い掛かる

死龍の存在を認識した上でファクトコンボイを利用した
その事実がすぐに理解できるほど、準備のいい装備
その巨大な顎が勢い良く伸びた鎖が長い龍の体を縛り
共生兵器の強靭な顎が鋭く牙を食い込ませる

「図体の割に簡単な...美しさは評価しますがね」

何か楽しげな程に、縛り上げた死龍を眺め
笑みすらも浮かべている
しかしその視線は常にその全身に巻き上げられた魂
その内の一つを睨み続けている

「さぁ今ですよ、コンボイ!とどめを...っ!?」

突如として目前の死龍が霞と消える
確かに悲鳴をあげていた体は消失し
共生兵器は行き場を失ったまま中に舞う

「いけないっ、ノックアウト!後ろです!!」

ファクトコンボイの声が届くか否か
ノックアウトの体を巨大な鋼の尾が薙ぎ伏せる

声も出ないほどの衝撃の後、その体を潰すように
はるか上空から巨神が姿を見せる
死龍の本来の姿、死の魔神が姿を見せたのだ

倒れたノックアウトを足蹴に
まるで意趣返しようにその顔には笑みが浮かぶ

「...随分と趣味が悪いのですね」

目前の光景に怒り、それに合わせるように全身を光が包む
胸のマトリクスが全身に力を巡らせる

死した物達が最も恐れる光が、明暗の均等な世界を照らす

『その輝き...この邪悪な存在を救うのか?』

予想外の存在の予想外の行動に驚いたのだろうか
疑問を投げかけ、その手を巨大な刃に変える

「当然、少なくとも今は...彼は敵ではない!」

言葉とと共に地を蹴り、その腕には巨大な刃が形成される
そしてファクトコンボイも魔神と同様、姿が消えたように見えた
その刹那、既に両者の刃は交わり、激しい火花を散らす

『ほう、煉獄の炎か...我等と変わらぬ異形の力』

「そう感じたのなら...その身で知るが良いッ」

軋みを上げ、互いを削り合う刃が、一瞬振れたと思うと
瞬く光が形成する刃は無数の青い炎へと変わり
死龍の体に纏わり付くように焼け伸びる

『ぬっ...グオォォォッ』

消え逃れんと、その身を消そうと試みるが
纏わり付いた炎は消えず、消失を妨げる

同時に死龍の体をめぐり
いくつかの点となり、輝かせる

「...ッ、あの輝きは」

轟音の中に声が響く、激突の衝撃により
昏睡から目覚めたノックアウトが目にした光
その内に一つに求めていた魂の気配を感じる

ファクトコンボイもまたその輝きを見据え
動きを止めた巨体から奪い取らんと
その拳を鋭く伸ばし、突き刺すように叩きこむ

「ノックアウトの求めていた魂は...これか」

体中に宿る魂は死龍の体を鈍く輝かせている
その全てが嘗て生きていた者達の魂であり
視界に広がる無数の世界の輝きもまた、同じく。
この暗闇の世界を照らす光は魂の輝きなのである

全ての色が異なる光の中で僅かに応える声がする
求める魂はただ一つ。
死龍の胸を抉るように掴み、その輝きを掴むと
叩きこむ衝撃で巨体を後方へ跳ね飛ばす

「成程、確かに違うようだ...だが、逃さぬっ」

無数の砕けた闇をバラバラと落としながら立つ死龍が
ファクトコンボイめがけその体を伸ばす
人型を形成していた体は、崩れるように分離し
その姿は既に龍の形へと変貌し目前へと伸びている。

変貌した腕は巨大な頭を形取り
目標に向け大きな顎を開き、瞬く間に距離を詰める
...が、目前でその動きが止まる

「一人忘れてちゃいませんか!美しい体に傷をつけたお礼です」

死龍の体を締め上げる鎖、そして食らいつく牙
立ち上がったノックアウトが再び共生兵器を放ったのだ

纏わり付いた炎が死龍の消失を妨げ
共生兵器から逃れることも出来ない
金属同士の悲鳴が響き、付いた傷から新たな魂が落ちていく

「エネルゴン全開放、超磁力パワー連結」

ファクトコンボイが天高く剣を構えると
全身の輝きはより強く増し
気配は突き刺さるように、死龍を包み込む

「一閃ッ...エネルザンッ!!」

叫びと共に、まるで空間ごと切り裂かんかの如き
巨大な刃が死龍に迫る
それは切り裂くのではなく、エネルギーの帯に呑まれる
まるでそんな規格外の圧倒が無を呼び込んでいく

『これ程とは..歪な力よこの先また相まみえ...ぐおぉぉぉッ!!』

死の存在に死があるのか、それは解らない
だが光の中に呑まれた死龍は
バツンと途切れるように声も姿も消え去った

残されたのは衝撃により飛び散った魂と
ノックアウトの求めていた友の魂

共生兵器を手元に戻すと、ノックアウトは
雪のように舞い落ちる輝きの中から
自分にだけ解る、決して見逃す筈のない輝きを見つけ
飛び掴むと、その場に崩れ倒れた。

「ノックアウト、無事ですか!?」

「無理しすぎましたが、礼を言いますよコンボイ。
おかげで、彼の魂も安心できる」

勝ち誇るように掴んだ魂を掲げると
次第に体が透け、その姿が薄れていく

「...その姿は!?」

「おや時間切れですか。ちょっとした保険です
死にかける事があれば強制的に帰還するよう仕込んであるのです」

「ほう...ならば何より!元の世界で傷を癒してください」

強制帰還を促すゲートが展開し
ノックアウトの体がゆっくりと転送されていく。

「そうさせて頂きますよ。ですが、この借りは必ず...アデュー」

いくつかの輝きが交差し、ノックアウトの体が消失する
いくら計算尽くとはいっても、相当なダメージを負っている
彼がこの先どうなったのか知る由もないのだ。
何時の日か再開する日を祈ることしか出来ない

「無事だと良いのですが...さて、私もこれからですね」

激戦の後、死の世界には無数の魂の輝きが灯る
その儚い光の中の幾つかに、探知した異質な強い力を感じ
ファクトコンボイは歩みを進め、力の発信源へと辿り着く

「あれは...マイクロン?」

球状に覆われた繭のようなスペースに2体のマイクロン
そして近くにも幾つかのスパークの気配がある

無数の電子音のような声を上げるマイクロン達に触れると
彼等の言葉が脳裏に直接響いていくる

「僕らの主が蘇る、共に戦いたい」

刹那の後、背後から新たな気配を感じる
鋭く磨き上げられた強い命の輝き、彼等が主なのだろう

「そうか、彼等の道標になれと...これも使命なのでしょう」

こちらに向かって駆けてくる戦士達
彼等がこの先の戦いで、共に戦う力となること
軍団を超える、まだ誰も知らない世界を作るとは
この時は彼等も、ファクトコンボイもまだ知り得ては居ない。