TRANSFORMERS:FACTORS episode:2-9 [運命、砕く者]


一瞬、空を見上げた
それが何かの意思、呼ばれているのだと理解していた

次の瞬間、世界は穏やかな光の中に変わる。
目前には見知った赤い巨神
そしてその手前に青く輝く誰かが浮かんでいる

「希望の戦士よ」

光の君が声を上げる
突き抜けるような、それでいて落ち着く声色

一点に自分を見つめるその視線から
「希望」などと大層な呼び名だと思いはしたが
自分の事を呼んでいるのは理解させる。

「ダイタリオン、そして...貴方は?」

声に合わせて、胸のマトリクスが輝きを放つ
まるで共鳴するように、目前の光に反応している

「君はもう私を知っている。理解するのだ、君自身を」

光りに包まれ、明確には見えなかったその存在の姿が
一瞬、脳裏にある記憶と結び付き明確にその形を魅せつける

ああ、そうだ
あれは...あの存在はそう。

「絶望の襲来は近い、あの闇は全ての悪意の根源」

脳裏に過る闇
焼けた臭いと、混ざり物の多い空気が鼻につく

視線を前に流せば、見慣れた景色は焼け落ち
包み込む黒い霧は...悪夢の病を運ぶ
砕けた命は途端に異形へと変貌していく

この地獄の中を、ただ己を目掛け闇が睨む
あまりに大きな巨神の姿がその目線の先に浮かび
更にその無効に、感じた事の無い程の重厚を感じる

「これが、未来に起きる出来事...?」

他に誰も居ない、残されたのは己のみの世界
果たしてそれが、本当に未来だろうか
我々の命はそうも脆いだろうか

何度、絶望に抗った
我等の持つ希望はこの程度だろうか
我々の持つ戦う力箱の程度か?

思考が巡る度、胸に宿る輝きが光を増し
絶望を写す世界をその輝きで掻き消してゆく

「我等の力を理解し、我等と同じ存在へと至るのだ」

光は言う、そして遥か遠くへと遠ざかってゆく
その寸前、背後でただ佇むだけであったダイタリオンが
ほんの隙を見つけたように、軽く手を振ると
次の瞬間に、視界は既に見慣れた空を見ていた

そして未来は訪れる
だが、一つだけ違う要素がある。
我等は希望を持っている、皆が其々の心に。

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希望の空は歪む

示された一点、決戦の地を示すポイントは
地図表示される筈の地形は少し前からエラーを示し
視認する僅か先の世界はいつの間にか闇で染まっている

ファクトコンボイもまた、その気配を察し
スクリーチ達の仮説医院を飛び出すと
視線の先の異常な光景に、頭に過る幻影を重ねる

「あの先に...全ての闇の根源が居る」

闇の先、そう遠くない場所に悲劇の根源が存在している
今まで以上に強い重圧から、その存在を確信させる
神に等しい存在すらも危険と判断する、総ての闇を統べる者

「そうだよ、だから私も来ちゃった」

声を受け振り返るとそこには、一人の女性が立つ
地球人用の巨大なパイプを携えた
やたらと露出が多く恐ろしげな姿とは裏腹に笑みを見せる

「おや、ローズさん。随分と大きくなって」

「親父か...そういう貴方も、何だかゴージャスになっちゃって」

ローズと呼ばれた女性は、ファクトコンボイの長年の友であり
互いの窮地には呼ばずともある時突然現れ
その傍らに立っている、まるで半身のような存在である

「お互い色々あったようですね、しかし貴方が現れるという事は」

「そうそ、暴れる時が来たって事ね。しかも今回はおまけつき」

得意気にローズが何処からともなく石版を取り出す
淡い光りに包まれ、12の光を宿すそれは
嘗て星間帝王を倒した際に生まれたマイクロンパネルが変化した物

青い光と紫の光、互いが半々に別れ
更に個々が独自の輝きを放つその輝きに、嘗ての闇は感じられない

「それは...持ってきたんですか!?」

「うん、だってこれがあれよ...【勝利の鍵】って奴よ」

そう言うと、パネルを空高く放り投げ
抱えたパイプの先端を中心めがけて勢い良く叩き込む

その衝撃に、石版は分裂した12の光に沿って砕け
半分がファクトコンボイの前に、もう半分がローズの前に浮遊する

「ええっ!?...あっ...あぁなるほど、これが起こし方なんですね」

「おうよ、集められた力が1個のパネルに12個の魂を宿したんだとさ」

浮遊していた輝きは、青と紫の輝きに別れ
各々が覚醒し、小さな超生命体、マイクロンへと覚醒する

「命をやり直した...と言う事ですか、しかしこの姿は」

その姿は様々な世界で語られる英雄たちの姿を模し
青い光はオートボット、紫の光はディセプティコンの戦士を形取る

「...」

宙に浮いたままの光の内、オプティマスを模したマイクロンが
目前に広がる闇を指さし、「共に征かん」とその意を示すと
青い6つの光は結合し巨大な剣に、紫の光は巨砲に姿を変える

「宇宙に伝わる神器、スターセイバーとアストロブラスター
破滅は巡り巡って、希望に姿を変えたったことさね」

「では、彼は救われたんですね...そして今、力になってくれている」

闇に利用され、星間帝王となった一人のミクロマン
その魂が浄化され生まれた2つの神器
嘗て己が星間帝王であったからこそ、その脅威の到来が予見できるのだろうか
自ら戦う姿勢を見せ、迫る闇を圧倒する様に光を放つ

「で、お礼参りに行きたいってさ」

「行きましょう...破滅の元へ」

二人の戦士が歩み、そして宙へと舞う
見据えた先、地上と空から遥か闇に向かう幾つもの影が見える
反応はオートボット、ディセプティコン、ミクロマン、アクロイヤー
様々な者が入り混じっている、全てが手を取り合っていると言ってもいい

「あれは...皆来てくれたんですね」

集い戦士達、まるでその時を待っていたかのように
背後からも新たな気配が迫り、直後時空の壁が裂ける

異界の向こうから、ジェット機のような何かげ突き抜け
ファクトコンボイとローズの前に浮遊する
その上には、見知った赤い姿、ノックアウトの姿があった

「どうもお久しぶり...ふむ、間に合いましたね
...異界のプライム、貴方の力を今一度お借りたい」

「ノックアウト!勿論、力は貸しますが...また友達に何かが?」

微笑を浮かべはしているものの、どこか余裕を感じさせないまま
ノックアウトは前方に広がる闇を指さし
左手に抱えた箱を掲げると、ファクトコンボイへ告げる

「その通り。私が友、ブレークダウンの体が悪用されているのです
そして、調べによれば貴方の仲間も一人、魔神の一部にされている」

「魔神ねぇ...確かにヤバイ気配が段々近づいてるわ」

闇に近付く程、指すような気配、鼓動のような衝撃が体を包む
ローズが見据えた視線の先、既に闇の壁は歪み始め
気配はもはや目前まで迫っている事を理解させる

「魔神はデッドユニバースに迷い込んだTFの体を利用し
怨霊破壊大帝として貴方達に仕向けているのです」

「そして、その体というのが...」

「そう、ブレークダウンや貴方の仲間なのです」

そう言うと、ノックアウトはフライトユニットで浮遊し
自らの乗る巨大なボードをファクトコンボイへ手渡す

盾の様にも見えるそれは、生み出された剣と砲と同じく
マイクロンの生命の鼓動を感じさせる

「タダでと言うのも難ですからね、それはコスモテクター
戦争も終わった私達には過ぎた物ですが、貴方にはまだ必用でしょう」

輝く盾は、剣と砲に共鳴し、更に強い鼓動を放つ
それはまるで迫る負の鼓動を打ち消すように高らかに響き
マトリクスやミクロジウムにまで反応を誘発する

その高い力は、暗黒の壁を目指す戦士達にも伝わり
其々が目指す場所として、光の鼓動を指さし、目指し始めている

「一先ず私は他の皆さんと合流します、デカい一撃頼みましたよ」

自身の体を変形させながらノックアウトは地上へと降り
迫るアイアンハイド達地上の戦士へ状況を伝えるべく駆けてゆく

「さぁ来るぜ~倒しちゃ行けない相手になっちまったよ?」

「私にいい考え...というとダメらしいのですが、策があります」

会話の間にも、闇の壁が大きく揺れ、巨大な指の様な物が
左右に闇を引き裂いて、その巨大な姿を見せる

「ウォォォォォォン」

巨大なその表情で悲鳴を上げるそれは正しく怨霊
苦悶に歪んだ様にも、泣いている様にも見える

透明な右腕、灰色の左腕に覚えはないが
右足がブレークダウン、そして左足...そこに妙な感覚を覚える
よく知っている筈の気配、スパークの鼓動が確かに聞こえている

「んで、策ってのは?」

「アレに乗ってきたんですよね、使いましょう」

アレといって指さされた先
遙か後方に既にメガ・トロンが乗り込んだ
巨大な戦艦「グランドベース」が浮遊し
此方に猛然と飛び込んできている

「良いねぇ、で、私達は何処狙う?」

「まず足に居る二人を分断します、私は左を」

「了解、赤いアンちゃんにぶん投げれば良いってことね」

互いに確認し、頷き合うと二色の光が舞い
今正に現世に這い出ようとしている巨神へと迫る

その光を追い抜くかの如く、巨大な戦艦を駆り
メガ・トロンもまた叫びを上げながら
巨神の出現に合わせ飛び込むと、戦艦は巨大な人型へと形を変え
悲鳴を上げる頭部を掴み、現世へとその姿を引きずり出す

「今だ、お前達の力で一気に切り捨てろ!!」

力は互角、巨大な腕は軋みを上げ
幾つもの折り重なる鋼は轟音と共に火花を散らす

怨霊ながら自らと同じ破壊大帝を名乗る魔神
悲鳴を上げる表情はまるで自分を見ているようで
それもまた、メガ・トロンの怒りが力を増幅させる

「その顔、破壊大帝とあろうものがその体たらくか!!」

一瞬、グランドベースの力が巨神を上回ると
その瞬間を狙い、メガトロンは右腕をキャノンへと変形させ
巨神の顔面めがけて融合カノン砲を最大の力で放つ

「今です、行きますよローズさん」

「うん、良い!今のもう一回言って!!」

悪ふざけのように呼びかけに喜びながらも
その体は靭やかに伸び、背から伸びる巨大な爪は空を叩く

光の帯が巨神の額を直撃し、激しい爆炎が上がると
巨神の足元は大きく揺らぐ

その間を縫うように青い光と紫の光が交差すると
一瞬の斬撃音が響き、衝撃が突き抜ける

ファクトコンボイ、アーデンローズ両者の一撃が直撃し
巨神の両足から激しい爆炎が巻き上がる

『ガァァァァァッ!!』

呻きの様にも聞こえる叫びが響く
無数の爆炎に包まれ、巨神の体は激しく燃える

しかしその進撃は止まることはなく
砕かれた膝は無理矢理に繋ぎ直され
へし折れた首はそのまま悲鳴を上げている

「ダメみたいよ...予想以上にバケモンだわ」

完全なる異形と化した魔神がグランドベースの腕を掴み
これまで以上の力でその力を放つ
その勢いはグランドベースの力をも圧倒し、巨体を後方へと押し始める

「ぬ...これでは手足を構成する者達の命が危ういぞ」

グランドベースを押す巨神の全身から火花が上がり
まるでそれを糧にするように黒い霧が全身を包み
巨神全体の力をより一層増してゆく

それはまるで命を喰らい尽くす様に
構成する戦士の命など構うことなく
その力は上がり続け、命を蝕み続けている

「何という非道、しかしどうすれば...」

グランドベースを守る様に、巨神の両手首を叩き切り
再び隙を作るも、それ以上の決定打を得られないまま
ファクトコンボイは無数に放たれる攻撃を弾き、巨神を見据える

「魂だ...魂に呼びかけるのだ、ファクトコンボイ!!」

その時、声が突き抜け
巨神の胴体目掛け、巨大な船が突撃すると
船は瞬間姿を変え、巨大な龍の姿を形取ると巨神をその手で押さえ
体から無数の雷を放ち、その進行を妨害する

「マトリクスだ...我が友よ、あの時の様に魂に語りかけるのだ!!」
雷撃を中をくぐり抜け、一陣の光が巨神の胴体を斬り裂く
巨大な刃。グランブレードを携えたグラディオンの姿がそこにあった

「あぁそうさ、俺達にも聞こえたあの声を聞かせてやれ」

更に追い打ちをかけるように、龍の肩から無数の砲撃が降り注ぐ
ありったけの武装を装備したダイオンが
グラディオンの行く道を作り、一閃を直撃へと導いたのだ

「グラディオン、ダイオン...そうか、魂
彼らの魂、スパークがまだあるのならば...ッ」

ファクトコンボイの体が、言葉に合わせ
全身を包み込むように蒼く輝くと
斬撃が切り開いた一直線の先、虚神の魂目掛け飛び込む

「うぉぉぉぉぉぉっ!!」

目にも留まらぬ程の、それは光
2つの世界の力が英知の輝きによって結ばれた希望

その輝きが、巨神の胸へと突き刺さり
刹那の静寂の後、僅かな衝撃に体が気付く頃
叫びは巨神を捉え、光は闇を打ち払う

「我が魂なる核よ、彼等に光を」

巨神の胸が激しい衝撃に撃ちぬかれ
光と闇、互いの対話の時が始まる
その魂は何処に宿るか、その魂はまだ生きているのか

遙か希望、マトリクスを宿し戦士は
彼等を救う事が出来るのだろうか...