TRANSFORMERS:FACTORS episode:2-7 [二人の英雄]


無数の歴史が見える
それはまるで走馬灯の様で、何もない始まりの様にも見える
何度なく生と死を繰り返す、数百万年単位の輪廻

遥か彼方の世界では異星人と地球人の絆が
目前に見えた世界ではマイクロンと人間の心が
そこら中に広がる光の一つ一つの中で
夢幻にも等しい希望が闇を払い、この輪廻を構成している

無数の世界の希望がこの私の存在その物
そして、払われた闇達が、奴の存在その物

そう、時間すらも存在を超えたこの場所すら
光と闇は存在し、互いの輪廻が巡る

だが、奴はその輪廻の中から抜け出すことだけを考えていた
そして、奴は見つけたのだ、どの光にも属さず
代わりにどの光からの干渉も受ける、不動の世界がある事を

私がそれに気がついた時
既にその世界には奴の闇を埋め込まれた生命が存在し
世界に定められていたはずの、平穏への道筋は歪められていた

既に、その世界の生命体に根付いている闇は
どういう形であれ、私が手を下すことは出来ない
しかし、同様にその世界に存在する命に
私の無限の光を分け与えることは出来る。

奴の闇のようには増える事はない
力も、覚醒に至るには幾多の困難があるだろう
力になりきれない事を、私は悔やんでいる

だが、君は必ず、私の力を目覚めさせ
...いや、それ以上の光の存在として
世界に根付いた闇を切り払うだろう

我が名はプライマス
君が胸に宿す希望と同じ者
常に君の希望、君の光となりて側に居る。

---

何時もと同じ目覚め
しかし体を起こす事が叶わない

ラチェットは、目前に移る幾つかの視線を感じ
自らに起きた出来事をゆっくりと思い出していた

浅い夢の向こう、見えた光
そして、詳しくは知らないこの世界の闇
アクロイヤーという言葉が、やけに脳裏にこびり着いている

「おおっ目覚めたか、調子は...良くはないだろうなぁ」

彼は...確かスクリーチ
その隣りにいるのは、グリットか
何かを言っているが理解が追いつかない
ただ、彼等なら安心して任せておける

彼らの背後にもう一つの視線を感じる
...そうか、彼が私を助けてくれたのだった

「すまないラチェット、俺が付いていながら...」

破壊大帝が何を言っているのだ...
いやおかしい、彼は間違った戦士ではない
何だこの短絡的な思考は、まるで怒りが思考を覆い隠すようだ

「大丈夫...だが、原因が解るなら対策を急ぎたい」

持ち上げた腕は、緑色に変色し
そこら中に禍々しい何かが浮かび上がる
これはまるで...怪物だ、そう思った瞬間
また頭に思考を遮るようにノイズが走る

「どうやら、段々と意識も取り込まれて行くようだ
メガ・トロン、貴方なら何か覚えはありませんか?」

「ああ、我々の世界にアクロイヤーという軍団がいる
奴等はミクロマンの成れの果て、だが変貌には何か理由がある筈だ」

メガ・トロンが巨大な右腕をかざすと
虚空に映しだされた光が、無機質な表情のロボットを映し出す

この世界の文献で見、今正に言葉に出たアクロイヤーの姿
有機生命体が変質したとは思えない硬質な姿
まるで機械の体に魂だけを閉じ込めた様にも見える

「汚染や環境でここまでの変化があるのか...驚いたな」

その変貌にスクリーチが声を上げる
ビースト戦士のように、隠れるために有機生命を取り込むのではない
完全に真逆に作り変えてしまう、こんな事は原理としてもありえないのだ

「ミクロマン、彼等はサイボーグ的な身体を持ちます。
ですが、それを踏まえてもこれは何かの作為が無ければ起こりえない」

グリッドもまた、常識を超えた現象に驚きを見せる
それと同時に、背後何かが存在する可能性を指摘する

「そう、例えば私達も同じ、異世界に送り込む際に作り変えられた」

星間帝王による侵略兵器として作り変えられた魂
しかしどうだろう、ある存在との出会いがこの魂を開放した
ただひとつの術、侵食する魂を救う手立ては残されている

「我等は自らの意志と...何に導かれたか、それが答えだ」

暗黒の存在に常に立ち向かい続けた光
この世界のTF達をミクロマンと繋ぎ、星間帝王に対抗した存在
軍団を超えた戦いの中に居た、常にあった光は誰の物であったか

「隊長の...マトリクスなのか!?」

「あぁそうだ、悔しいが奴の持つ光でなくては救えない。
既に連絡はしている...もう少しの辛抱だ」

---

ミクロマンのルートを使った緊急通信
嘗てのワルサーロボのコードで流れたそれは
一刻を争う状況を理解させるには十二分であった。

「この地点に急行せよ...ラチェットも居た筈ですが」

直前に感じた不可解な力の流れ
そしてこの、我々にしか解らない方法を用いた通信

思考を整理する間もなく、その足は基地を抜け
示された点へ向け、その身を飛ばす
無数の青い輝きが粒子のように舞い、その気配を示す

「空の向こう、まるで何かが見ている」

何時もと変わらない空、駆け抜けるその全ての向こう
まるで作られた舞台装置のような、鮮やかな空が
本当に単なる幕でその向こうに巨大な何かが居る様な
異質、まるで押し潰されそうな気配を宿している

「この気配、これが彼等に迫ったのだとしたら...」

無数の光の粒子が空に彼方に消え
一直線に伸びる光の方へ、気配は移る
まるで視線が向かうように、力の強い方へ重圧が迫る

「ファクトコンボイ、見つけたぞ」

空から声が響き、次の瞬間には空が割れる
反転し、破滅したような色の世界から
這い上がるように巨大な異形が姿を見せる

「お前は、この間の!?」

この異変の始まり、無数の異界への扉が開いた際
姿を見せた異形、確かに扉の向こうへ送り返した筈だが
こうも安々と壁を破壊できる以上、現れても不思議ではない

「我が名はショカラクト、貴様を狩るのが使命だ」

豪腕が放つ一撃が言葉を交わす暇もなく迫る
空を切る炸裂音が耳に響き、それを合図に身を引くと
ファクトコンボイの腕に青い輝きが宿り
ショカラクトの体へとエネルギーの弾丸となって炸裂する

光が飛び、互いに衝撃で距離が開くと
双方の腕には瞬間の内に刃が宿り、互いに構えを見せる

刹那の間、強烈な攻撃と攻撃が交差する空
僅かな声すらもなく、常識を離れた力が激突する

『敵に構っている暇はない...ですが』

幾つかの思考が頭をめぐる
簡単な手で倒せる相手ではない
出し抜いても、助けを待つ仲間を巻き込む形になる

ならば答えは一つ、罠にはめその動きを封じる他にない

「その輝き...マトリクスは全て破壊する」

対面する悪意、そこから漏れ出る情報から相手を探る
狙いはこの胸の叡智、命であり...同時に最強の武器でもある

「ならば、私を殺して奪い破壊すれば良いだろう?」

「言われずともッ」

煽るように言葉を放ち、目の前の猛獣は一目散に
この胸目掛け、手に宿した刃を構え猛然と迫る

単純な行動ではない、余計な行動は必用無いとでも言うのだろう
確実に剣を交えれば相手を仕留められる、その自信がそうさせる

乱暴に突き伸びる刃が、瞬く間に自分を切り裂けるだけの射程に伸び
胸の叡智の結晶を貫く...その直前
ファクトコンボイの姿は霞と消え、目前には巨大な光球が残される

「貴様ッ逃げるかぁ!!」

声を荒げ、異形が光球を切り裂くと
背後に感じる気配目掛け気迫と共に振り返る
たしかにそこには、ファクトコンボイの姿があり
既に刃を胸に構え、体中に宿した力を貯めている

「その程度で逃れたつもりかぁぁ!!」

怒りのまま立ち止まる目前の目標目掛け異形が跳ねる
...しかし体が動かない、直後刃を持った腕が突然
強烈な力によって背後に引き戻される

「貴方は私の力を之だけだと思っている様ですが」

力を宿しきったファクトコンボイの瞳が輝き
胸に宿すマトリクスの更に奥、本来、戦うために宿した力
ミクロジウムコアが激しく共振を始める

「本当の力は、別にあるのですよ」

放たれ、2つに切り裂かれた光球に宿る超磁力が
ショカラクトの体を引き戻しその鋼鉄の両腕を掴み動きを封じる
その刹那、瞬間的に姿を転送しその巨大な禍に輝きを放つ刃を叩き込む

同時にファクトコンボイは光球と同極の超磁力を
無数の網状にし放つと、ショカラクトの鉄の体中に
強烈な超磁力エネルギーが絡みつき焼き付きながら拘束する

「こういう手は好まないのですが...邪魔の礼です」

幾重にも張り巡らせた超磁力の網が異形を包み
巨大な光の繭を形成すると、ファクトコンボイは再び扉を開き
繭ごと狭間の世界へ叩き込むと扉は再び封印される

「時間稼ぎにしかならないでしょうが、今は...ッ」

閉じた筈の異界の壁、今は空を写す景色から
途切れた筈の異形の唸りのような叫びが漏れる

「まさか...あれを破る程とは」

再び空が割れる、そして目前には全身から煙を上げ
砕けた両腕から、無数の液体を吹き出しながら唸りを上げる
完全なる異形の姿が、此方を見据える

その評定はまるで笑うように歪み
まだまだ戦えると言わんばかりに、体制を立て直そうとしている

「直ぐにでも行かねばならぬという時に」

再びファクトコンボイが刃を構えると
異形もまた壊れた腕をまるで気にせず構え
先程よりも荒々しく、より速いスピードで一撃を仕掛けてくる

僅かな間、目前の異形が次第に大きくなる
まるでスローモーションのように映る世界
次の手を巡らせてまま、目前の世界は突然激変する

「ストライクギルダー!!」

刹那、異形の体を黒い衝撃が突き抜け
遥か下方へと吹き飛ばす

突然の状況に、ファクトコンボイが声の方へ振り向くと
そこには白銀のマクスの戦士が一人此方を向いて佇んでいる

「貴方は...アーデン!?」

鋼の体、見知った存在とは少し違うが
黒い鎧にはためくマント...間違いなくアーデンの姿がそこにある

「私の名はアーデンギルダー、話は後だ、征け!!」

ただ一言、名を名乗り異形を見据える戦士の姿
それは嘗て敵として対立した存在

しかし、その名を聞いてファクトコンボイは理解した
アーデンギルダー、己の正義を信じ戦う誇り高き騎士が居ると
共に生きる道を選んだアーデンの戦士達から聞き知った英雄の名

「しかし奴は...解りました、直ぐに戻ります。用心を」

「なに、手負いの異形なぞ直ぐ方を付ける、後で合流しよう」

すれ違いざま、軽くファクトコンボイの肩を叩くと
仮面の口元に微笑を浮かべ、目的地の方へと誘う

「了解しました、後は頼みます」

ファクトコンボイの光が遥か彼方へと消える
それを見届けると、ギルダーはヒラリと揺れるマントを脱ぎ捨て
再び雄叫びを上げ飛び上がる異形目掛け駆ける

「随分と品のない...彼等の邪魔はよしてもらおうか」
白銀の腕が瞬間に剣を宿し、異形と交差すると一閃、また一閃と
手玉に取るように異形の体を切り裂いてゆく

「我等アーデンにとっても彼等は希望、そして貴様らは忌むべき敵だ」

眼前に構えた細く鋭い刃を高速で突き、異形の動きを封じると
生まれた隙を突き、その身を掴み、遥か下方へと投げる

「さぁ出番だタコロイヤー...おっと、今はタコタンクだったか」

声が届くと、地面が割れ巨大なタコ型のロボットが現れる
その大きな触手を伸ばし、異形を掴むと
その強烈な腕力で、左右に引き体を完全に破壊しようとするが
全身が悲鳴を上げ、スパークの輝きが見えた瞬間
異形の姿がまるでどこかに転送されるように消滅する。

「目標、消滅...ダコ?」

「どうやら奴の親玉が回収したようだ...厄介な事だ」

タコタンクと呼ばれた巨大なタコの頭部が展開し
ギルダーがそこに着地すると
そのまま頭部が閉じ、航行モードへと切り替わる

「さて、我等も急ごう。ファクトコンボイ達に説明せねば」

「了解ダコ...全部終わったら此処で暮らすダコ!」

モニターに映し出されるタコロイヤーの姿
嘗てアクロイヤーに寄って生み出された存在だが
その身は何倍にも大きく、とても同じ物とは思えない

「勿論だ、その為にも彼等と平和を取り戻そう」

突如として現れた、アーデンの戦士とタコタンク
彼等もまた、マトリクスに導かれ帰還した
異界へと呼び込まれた戦士達なのだろうか

新たな希望、新たな闇
破滅は回避する度、大きくなって再び訪れる
だが、希望もまたそれを砕くために何度でも蘇り
何度でも奇跡となってその力を発揮する

変貌した者達の、運命を取り戻すための戦い
その真実を知る者、語る者達が揃う時
この戦いは最終局面へと向かい始めるのだろう。