TRANSFORMERS:FACTORS episode:2-6 [呼び声、遠く]


無数の光、嘗て彼はその一つで
一度はそれを失った、だが今はどうだろう

宙に浮くような、痛みも悩みもない光の中
まるで夢幻、これは夢だと気づいている

あぁ、このまま機能停止に至れれば幸せだろう
だが、現実は何時もすぐに戻ってきてしまう

「まだ、生きているというのか」

メガ・トロンが目を開け
見渡した視線の先は何処かの施設だろうか
幾つかの機材からミクロマン達の技術がある事が解る

体は動かず、右半身には感覚すらもない
どうやら、先程までの地獄のような光景は現実で
平穏な輝くの中にある安らぎが夢であった様だ

「目覚めたかね、どうやら随分と手痛くやられたなぁ」

視界の先にオレンジ色のやけに小さい誰か
見た覚えのない、超生命体。
センサーがスキャニングして示す、ミクロロボットではない
スパークを宿した宇宙人がそこに居た。

「私はスクリーチ、医者だ。まぁ正規のじゃないがね」

ぎこちなく見せた笑顔は、胡散臭いという言葉がよく似合う
何者であるか、何故この世界に居るのか
頭に幾つもの言葉が絡みつくが、今はそれ所ではない

「礼を言う...時に、あれからどれ程経った?」

「あの爆発からかい?4時間程だな」

幾つかの回路を繋げながら
スクリーチは慌ただしく動き回っている

そこで意識を体に移して気づく
以前の体とは明らかに違う何かを

視界が少し広く、見える世界の対象物が大きく感じる
重いほどだった体の感触も薄い

違和感はある、だが今はそれよりも確認せねばならない
彼を助ける事が出来たのかを

「ラチェット...もう一人の戦士は無事か?」

一瞬、スクリーチの手が止まり
噛むように息を飲むと、目線を向けぬまま彼は言う

「無事ではある、だが...もう彼ではないかもしれない」

先程までの軽快な口調とは違う、感情を含んだ声が
まだハッキリとしない意識の中で事実を理解し
少なくとも命はある事実に、若干の安堵を覚えさせる

「完全に体が変質してしまってなぁ、意識が戻らん事には何とも」

変質、あの異質な存在が放った闇の影響による物
それが何であるのか、理解は出来ないが
一つだけ同じ状況、同じ変貌を知っている

「...ミクロマン側のデータを見ろ、アクロイヤーという項目だ」

汚染による変貌、心を蝕む闇
あの光景を知っている
我等と同じ存在、しかし対する者達

「アクロイヤー...解った、直ぐに調べてみよう」

瞬間、変形したスクリーチは
スライドするドアが開ききるのを待たず飛び出していく
常に何かをぼやいているが、内容までは聞き取れない

だが、腕は確かなのだろう、以前よりも体を流れる
エネルギーの循環はよく、ダメージは少ないようだ
右腕の感覚は違和感はあるが、今は自分はどうでも良い

「あの時見た、異形への変貌と同じだった」

ラチェットを覆った闇、それにともなって起きた変質
それは確かにその目に焼き付いた光景
嘗て、アクロイヤー化に至った戦士の変貌と同じ事象だった

「だが、汚染や事故による変貌ではないのか...?」

アクロイヤーとは、汚染に寄って異常を来したミクロマンが
異質な要素、汚染を経て変貌する存在
故に、宇宙の彼方の過酷な環境でも生まれる可能性はあるとされてきた

だが、「何かの介入によって」それが目の前で起きた
飛躍してはいるが、これまでの変質の全てが
本当は何者かの手によって異質な要素を盛り込まれ
汚染や事故はそのトリガーでしか無い、もしそうであったなら

「直ぐにでも、奴の所に向かわねばならんな」

立ち上がり、覚えた違和感
右腕の感覚が明らかに違う事に気づき
視界に飛び込んだ、自らの腕、そして全身に驚愕する

「...体が変わっている!?」

「ああっメガ・トロン、まだ起きてはいけないよ」

大声を上げた背後から、突然合成音声の様な声が突き抜ける
驚愕のまま、勢い良く振り返ったメガ・トロンの目
破壊大帝らしいその恐ろしげな視線にも動じない、白い戦士が立っている

「まだ、体の適合は完全じゃない。安静に」

タイヤと一体になった足を軽快に動かし
瞬く間にメガ・トロンを座らせると
幾つか持ち込んできた医療器具を体に繋いでゆく

「私はグリット、スクリーチの友人だ」

手際よく処置を行いながら
グリットは現在に至るまでの流れを語る
僅かな時間の間に何が起きたのか

爆音を近くで聴いた彼等が駆けつけた頃
既にラチェットは危機的な状態で倒れていたが
マイクロン3人の力により侵食・ダメージ共に
最小限に抑えられていたという。

「それに君だって、今確認しただろう?
リバースコンボイに預かっていたボディがなければ死んでいた所だ」

メガ・トロン自身も右半身に甚大なダメージを負っていたが
この施設で保管されていたボディとパーツを交換する事で
何とか無事に動ける状態となっている。

「そうか...だが俺は後で再スキャニングすれば十分だ
何故、ラチェットにこの体を使わなかった!?」

少し強い口調で投げかけられた疑問に対し
グリットは首を横にふり、力なく言葉を返す

「それは出来なかった、彼の体構造はもうTFの物とは違うんだ」

その口から語られた事実が
考えの中で、先程までの疑問の答えとなって振りかかる

超生命体ではない、別の生命へと完全に変貌させる
やはり、あの事象はアクロイヤー化と同じ
だとすれば...あの闇の存在は...

「そうか...しかしその事象、我らにはデータがある
あの小さい奴にも伝えてあるが、俺も行こう」

「解った、適合ももう終わる、だけど無理はいけないよ」

新しい体への適合が終わると
グリットが再スキャン用のデータを受け渡し
メガ・トロンは新たな体へ自身を適合させる
TF達の体構造の変化、リフォーマットを果たし
今正に蝕まれ続けているラチェットの元へと急ぐのであった

---

『異界の仲間達よ、この声に応えて欲しい』

友を信じる心、ただそれ一つ
小さな体を改造し、他のバケモンに負けない様に
ただ生きる為に戦い続けてきた。

ここには誰も居ない、死んだ霊が来る場所だと
かなり前に空から落ちてきた戦士がそう言っていた
そいつは直ぐに灰になって消えてしまった。

辺りは砂漠、見回す限り屑鉄と砂
その下に無数のバケモノが潜んで
偶に降り注ぐ眩い輝き...魂を食うのだ

「アレが俺の中にもあるんだろうか」

流星の様に空を彩る魂の欠片
美しいが何故か寒気がする、それが死の結果だからだろうか

もう何百年も変わらぬ、張り詰めた日常
本能だけで襲い来るバケモノに命を狙われ続ける日々

それらの全てが息を潜める闇、夜の間だけ
ぼんやりと空を見上げ、過去を思い出す。
昨日も今日も変わらない...筈だった

『異界の仲間よ』

声が聞こえた、どこかで聞いた様な、心を揺らす声が
揺らめく死の輝きの先、希望の光が見えた

その時から、彼の試練は色を変えた
積み重なる死の残骸を積み上げ
体感で解る限りの一日の全てを塔の建築に捧げた

幾多の日が過ぎ、バケモノに塔を破壊されても
ただ上を、ただ希望を見据え、遙か天へ

「どうして俺がこんな目に」

何度思っただろうか
何かを呪えば、少し楽に慣れると最初は思っていた

「何故、誰も助けにこないんだ」

手を滑らせ、落下した後、脳裏にこんな言葉が浮かんだ
絶望も恨みも、とうの昔に頭を埋め尽くしていた
だが、どうだろう...あの光を見ているとそれも消える気がした

「もっと上へ、もっと光の方へ」

塔は高く聳えた、遙か天の先
バケモノが突撃しようがビクともしない鉄の塔が

常に補強し、幾多のダメージの耐えた体は
もうかつての原形も留めていない、昔の名前も忘れてしまった
俺は誰で、何であったのか、何処が故郷なのか
...わからない、ただ見えるのはもう目前の希望だけ

『この声の元へ』

「あぁ今行くさ...ッ!?」

もうわずか、強化したジェットを飛ばせば手に届く
そんな時、遥か眼下、伸びる塔から煙が上がる

何か呪詛を唱えるような呻きを上げ
今まで見た事もない巨大なバケモノが
塔を巻き込み、締め壊しながら這い上がってくるのだ

「どこまでコケにしやがる...邪魔すんじゃねぇぞ!!」

弱音にも似た、あえて口にした荒い言葉が突き抜け
瞬く間に迫るバケモノを避けるように
ジェットが火を吹き光へと駆ける

だが、バケモノの機動は理解を超えている
見る見るうちに真後ろまで追いつくその様は
まるで死者たちが、彼を逃がさんと襲い来るようにも見えた

気がつけば今いる場所は
恐ろしいと感じた魂の輝き達が流れる場所
周囲のぬめりとした輝きもまた、彼を押し戻すように威圧する

「嫌だ...嫌だ嫌だ!!俺はあの光の元へ行くんだ」

無数の呻き声を掻き消すように叫び
その手を千切れんばかりに伸ばして、その指先が光に届く

これが届いたとして、何の意味がなくても良かった
ただ、その希望を得ようとする諦めない自分が居て欲しい
そう願っていた、そしてそれが叶おうとしていた

限界まで伸ばし、がむしゃらに振り放った手が
小さな、地上で見えていた大きさとまるで変わらない
だが、あまりにも強く暖かい光を勢い良く掴んだ

...その瞬間、周囲を暗闇が包んだ

【お前をそっちには行かせない】

巨大なバケモノの呻き声がそう言った
何故か、やけに耳に残る

「んなこと知るか...俺はやったぞ」

光を掴んだのに、何も変わらなかった
それでも良かったのだ
希望も何もかも、闇の中に包まれた様だった
だけど彼は満足していた、そして、その瞳からは光が消えた

「あぁ...俺は誰だったかな...」

薄れ行く意識の中
微かに思い出した過去、そうだ俺は...

---

深き闇の存在の目の前に銀色の戦士の体が横たわる
誇らしげな表情で眠るその体に光はもう殆ど無い

「ローラー、最後のパズルのピース」

闇の存在がローラーと呼ばれた戦士に闇を放つと
その見は瞬く間に変貌し、巨大な足へと変化すると
ゆっくりと闇の向こうへと飛び、巨大な体へと融合する

闇の向こう、微かに見える影
あまりにも巨大な何か
顔であろう部分、瞳が赤く輝き、口元は歪む

「我が最後の僕よ、お前の出番だ」

禍々しい、命の輝きが5つ光る
遥か彼方、暗黒宇宙の更に深淵に潜む者
それが生み出した魔神が一つ、また動き始めたのだ

それは嘗てのアンゴルモア、星間帝王
それらと同じ、彼等は悪の根源ではなく使者なのだ

魂の輝きが照らし出した巨大な魔神は
次元の壁を意図も容易く叩き割ると
その視線を遥か彼方、零世界の地球へと向ける

「征くが良い、怨霊破壊大帝」

低く唸りを上げた魔神が次元の壁を突き抜ける
まるで継ぎ接ぎされたようなその巨体は
幾つもの世界の絶望を宿した破滅の権化ともいうべき物

その到来は宇宙を震わせ、その叫びは未だ遥か遠い地球にまで轟き
各地を護る戦士達の心に、危機の襲来を知らせるのであった。