TRANSFORMERS:FACTORS episode:2-5 [闇より暗き者]


充満する空気の中に潜む者
この空間の中に一つだけある影
それが放つ闇が、体を蝕む様に絡みつく

希望を飲み込み、汚染するそれは
遥か昔、力を持つ希望の人々を変質させ
この宇宙に絶望を齎す悪魔に変えたという

彼らはアクロと呼ばれていた
この宇宙最高の知的生命体であった彼らは
汚染され変貌する自身達すらも
より上級な者へと変貌しているのだと錯覚し続けたという

そうして彼らはより上級の種族として
最高の称号アクロを超える「アクロイヤー」と名乗り
宇宙世界の侵略へと踏み出していった

彼らが踏み込んだ世界には
その身が振りまく因子が根付き、数百年も汚染されたという

彼等の上救種だけが放つそれは
彼等とは違う種族も、同族へと変貌させ
勢力は拡大を続けた。

かつて、白い光の中にあった宇宙は
次第に闇に飲まれ、希望を忘れる星星だけが輝く
暗い闇の中へと堕ちた、無限の闇の世界が生まれたのだ。

遥か昔、数億年前の出来事だという伝説
誰もが空想の話だという

しかし目を凝らして世界を見て欲しい
破滅の存在は、息を潜めているだけなのかもしれない。
彼等は闇の根源、光と同様に当たり前にある
だから常に隣りにいる、そういう者かもしれないのだ。

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目の前に存在するそれは何なのか
頭が理解を拒む、恐怖など、恐れなど無いはず
破壊大帝とまで呼ばれた自身がその存在に怯えている

誰であってもそうだろう
元に共に行動していた軍医、ラチェットも
普段は崩しもしない表情が、明らかに驚愕のまま硬直している

本能的に、突き刺さる気配が命の危機を知らせる
決して大きくない、薄闇に浮かぶ人型の何かが
我々の存在を呑み込むほど強大な意識を放っている。

「メガ・トロンよ一つ問いたい、あれは...何です?」

振り絞るように放たれた声が、安堵を求め突き刺さる
しかし、それに応える術を、目前の何かの正体を理解できない

「さぁな、解る事は一つ、あれは普通じゃない」

闇の塊のような影が微かに見える鈍い輝きをこちらに向ける
次第に、目がその存在を認識し、形を理解し始めている
輝く物はその瞳であり、その下で動く口

何か言葉にしている、そして我々に行動を起こそうとしている
敵か味方か、問われれば明らかに前者であろう
だが、頭に焼き付くように電気信号が告げる、今は引けと

「戦うべきではない...貴方の口からは言うべきじゃない」

蒼白の表情のまま、ラチェットは淡々と銃を構え
目前の存在に威嚇をしながらも、退く為の道を探る

「だから私が言います、逃げますよ破壊大帝」

突然として闇に包まれた空、周囲の世界
まるで幻に呑まれたような状況下で
不思議と、反する筈の互いの思考は一致する

「心遣い感謝する、だが破壊大帝などもう居ない」

駈け出した足は、確かに退路を歩んでいる
だが、暗中を駆ける両者の足は進んでいるようにも
その場にとどまり足踏みをしているようにも感じられる

「その興味深い話は後ほど、今はこの状況の打破を」

共に異界へと飛ばされてきた戦士の保護に向かった所で
突如として飲み込まれたこの異質な世界
亜空と呼ばれる間との壁が極めて脆い状態の現在
何が起きても不思議ではない、だが、それを理解しても尚
目前にあるそれは、この世界は異常だ

「来るぞ、俺が引き付ける、お前は先に...ッ!?」

僅かにではあるが、遠くに離れた漆黒の存在
その異様な気配から枝分かれした腕がこちらに伸びたと思うと
その背後から無数の帯が伸び、迫る。

「これは...何だ!?」

逃げる暇もなく、伸びた帯に手足を捕まれたかと思うと
その根本からまるで霧の様に闇が舞う

ラチェットの体は瞬く間に闇に飲まれ
体に触れた箇所を侵食し、変質させていく

「ラチェット!?いかん、ガブ、バル、ダイ、力を貸せ!」

メガ・トロンの呼びかけに応え、輝いた右腕の中に3つの輝きが宿ると
巨大な刃が鈍い光を放ち、周囲の闇を叩き切る

「でぇぇッりゃぁぁぁッ!!」

宇宙の暗黒を宿すと言われるダークマターカリバー
3つの命を宿すこの刃ですら暗黒の中では輝いて見えている

怒号と共に振るわれた巨剣の
一閃、また一閃と、その刀身が放つ斬光を恐れるように闇が遠のき
その一時の隙を突いて、ラチェットの身を掴むと
右腕に宿した融合カノン砲を構え、目前の存在へと撃ち放つ

「...」

激しく伸びる轟音、刹那の後、目前に爆炎が上がる
確かに直撃した圧倒的力の弾丸が不穏な存在を焼いている

だが、体中が焼けても尚、何の言葉も発することはなく
炎に照らされた全身が微かにその輪郭を写す

胸に宿る宝玉、全身を護る鎧、大きく伸びた角
人の形をしているが、その一つ一つの要素は異質
その気配が放つ不穏さとよく似た、恐怖を持つシルエットが
僅かの間に、余りにも鮮明に目に刺さり、焼けつく

「メガ・トロン...どうやら手遅れのようだ」

力なく抱えられたままのラチェットが
残された力を振り絞り、声を上げる

目前の闇に目を奪われていたメガ・トロンが
まるで我に返るように目線を向けると
その手が抱えていたはずの存在の姿が変質していた

「その姿は!?...あの闇か」

この身を狙う闇、それは我等を異形へと変質させる闇
そう理解する、それ以前、現実が目の前に存在し
禍々しい程の変貌が、痛みを伴って襲う現実を見せつける

「変貌しきれば私もああなる...私は置いて、さっさと逃げなさい」

体中に巡る異質な反応が起こす電撃が痛みを与え
ラチェットの体は次第に全く別物へと変わり始めていた
時間は、残された猶予はほぼ無いに等しい
そんな中で、メガ・トロンは一つだけ、可能性を見据えていた。

「何処にというのだ?なぁに一つ考えがある、そこで耐えていろ」

メガ・トロンが一声の後、刃を高く掲げ
佇むままの闇の存在へと猛然と飛び込んでゆく

たった一つの可能性
退路等なく、蝕まれる命を前に
それを打破する方法、それは根源を絶つこと

完全に倒せなくても良い
存在が保つ意識をそらし、この世界を一瞬でも消し去れば
ラチェットを救い、この場から退却する事も叶うだろう

「さぁ見せてやる、忌々しいこの破壊大帝の力を」

闇が支配する世界に叫びが轟き
距離感すらも掴みあぐねる、闇との距離を放つ異質から感じ取る
感覚全てで、恐怖すらも相手を手繰る道具として支配し
メガ・トロンが大きく飛び上がると、刃は闇へと叩き込まれる

存在を覆う闇が弾け、メガ・トロンの身を微かに焼くが
それを意に介す事もなく、巨大な刃が闇を砕く

「...お前も、完全なる進化を果たせ」

砕いた闇が眼前を通り過ぎ、目の前の闇がついに
その腕で刃を受け止めた、その姿を目視した瞬間
異質なる存在は口を開き、遂には言葉を放った

「何を言っている、貴様は何者だ」

メガ・トロンの刃が圧倒する闇を次第に割り、砕く
それに合わせ、周囲の世界もまるで画面にノイズが走るように
瞬間的に歪み、元の景色と混濁する

「我は、お前達の恐れ...恐怖...闇...そして進化」

「...?戯言を!ならば、それをも上回るまで!!」

叫びを受け胸の奥の魂が、スパークが輝き
命を宿す刃と共鳴し、そのエネルギーは遂に目前の闇を叩き

金属と金属の削りあう轟音が火花と共に闇を照らし
その場に宿るエネルギーが遂には炎をあげる

「これまで、我を...再び相見えるまでに、思い出すが良い」

メガ・トロンの方を向いた巨大な目が赤く輝く
機械的な、無機質な異形の表情
だが、その無に等しい顔が最期の瞬間酷く歪んだ笑顔に見えた

「3つの命よ、ラチェットを守れ!俺なら問題ない」

直後、強烈な一撃の炸裂に闇は遂に光に呑まれ
その場の全ては衝撃の後消滅し、何もかもを消し去った

瞬いた光、3つの小さな光が爆炎からラチェットを守り
メガ・トロンは光の中へ消えた

「破壊大帝、あの存在もまた、極めて異質。脅威だ」

遥か空、闇を携えた異形の姿が浮かび
ただ一言、言葉を放つと忽然と消える

この世界に、宿る闇
まるでそれその物が、猛威を奮うというのか

放つ闇が伝染しあらゆる物を呑み込む時
混迷、破滅、それよりも恐ろしい支配が待っている。