TRANSFORMERS:FACTORS episode:2-4 [空の守護神]


龍の咆哮が、割れた空に木霊する
無数の異界への扉からは、既に異形の影が漏れだし
既に手遅れと言わんばかりに、散らばり始めている

「再会を喜ぶ暇もなさそうだ...今は何て呼ばれてんの?」

戦場から見上げる空は、絶望の色に染まる
しかし、ダイオンの表情には笑みが浮かび
天高く指差すと、その体に力を込める

「今はコンボイ...ファクトコンボイと」

ダイオンの隣で輝きが舞う
まるで戦士を鼓舞するような輝きは心を震わせる
嘗てと同じ存在だが明らかに違う何かがそこに居る

そして、その名を聞いて彼は理解した
だからこそ、絶望的な状況でも笑い飛ばせる。

「その名は...そうかその輝きは...心強いぜ!」

超生命体が存在する銀河に轟くその名
コンボイ、プライム等と呼ばれる戦士たちは
常に絶望の前に現れる伝説であり、希望である

空を見上げた二人の戦士が
応急処置を終えた仲間達に合図を送ると
無数の異界の壁に向かい飛び立たんとした...その瞬間声が響く

「待って欲しいんだな、僕にいい考えがあるんだな!」

両者の前に、離脱していたソナーが飛び込み
そして彼女が助け上げた戦士がぶら下がり叫んでいる

「隊長、失礼をば...彼に、ハインラッドに策があると」

自身より大きな体のハインラッドと呼ばれた戦士を
甲板へ下ろすと、策を自ら提案するよう指で合図する

その意が伝わったのかは定かではないが
のそのそと立ち上がると、背筋を整え
何か呪文のようなものを唱える

「何だ何だ...大丈夫かおい」

突然の出来事を前に呆気にとられたダイオンが
その光景を只見守る事しか出来ず、声を漏らす

「任せて欲しいんだな!」

伸ばした手の先には突如、小さなロボットが現れるが
その見た目はまるで酒瓶のようで
幾ばくかの不安感を煽るが、漲る力は凄まじい物がある

「僕の時の力で開いたゲートを全部閉じるんだな」

声と共に、ロボットが銃に変形し右手に宿ると
虹色の光が空に放たれ、上空に巨大な時計の文字盤を写しだす

ガチガチと無数の歯車が動き
時を示す針は次第に遡るよう回転を始めると
闇が蠢く空に、枝葉を伸ばすようにその力を巡らせていく

「この力は...ダイタリオンと同じ...」

「流石なんだなファクトコンボイ!僕は君に会いに来た」

降ろされたゴーグルを軽く上げ
満面の笑みを見せながら差し出された手を掴むと
その体に流れる気配から、強烈な程の力を受けその存在を理解する

「でも話は後、時間を戻して扉を閉じた...後は君のターンだな」

親指をグッと立てると、空を見上げたハインラッドがニヤリと笑う
それに呼応する様に時計の針は過去へと戻り始め
無数に開いた次元の穴の時間を逆流させてゆく

しかし、時間逆流の効果は次元の扉に対してであるらしく
そこから飛び出した影達は未だ残ったまま
動きを見せない異形を見てハインラッドは叫ぶ

「あの靄がこの世界を理解すると、本来の姿を取り戻すんだな」

まだ靄の掛かったその身は適応の準備段階
この世界の情報を得ることで、次第に本来の姿を得ようとしている
それまでに次元の向こうへと戻すことが出来れば
この世界に脅威が訪れる前に、事態を収束する事ができる

「なるほど、解りました...皆、ダイオン達も行きますよ」

声を受けるか否か、ファクトコンボイの背後から
2つの風が突き抜け、目の前の影へと飛び込んでいく

待ってましたと言わんばかりのその姿は
瞬く間に空に舞い、幾つかの闇を叩き飛ばすと
ダクトコンボイの方を向き、大きく手を振る

「ダイオンの友は俺達の友って奴よ、行くぜ兄弟」

オレンジと青の風は、自在に空を舞い更に異形一つ、また一つと裂き
はるか上空でクロスしたかと思うと眩い光を放ち叫ぶ

「ジャンジャンOKじゃ~ん、リンクアップ!!」

異形を象る靄が散見する空に幾つか稲妻が走ると
二色の光は一つの姿へと融合し
乾ききった風に、多すぎる程の命の気配を流し込み
それを纏うと、光は弾けその中から強靭な一人の戦士が現れる

「セーフガード、バトルアップ!!」

雄叫びと共に飛び出した巨体は
その巨体を嘘のように軽々と突き抜ける
一瞬の静寂の後、轟音とともに爆発の波を突き抜けると
セーフガードの胸が強く輝く

「へっへっ俺がお前でお前が俺だ!!絶好調だぜ!!」

叫びを上げた巨神が拳を前に振るうと
纏った雷が幾つかの波のように空を走り
大量の異形をかき消し、元の次元へと叩き返す

「ほう...セーフガード、私に合わせられますか?」

影を打ち消した勢いのまま上昇するセーフガード
その隣にファクトコンボイが飛び込むと
融合させた巨大な剣を振るい、青く輝く力を込める

「当然!この一撃でこの影のヤロウを全部掻き消してやる!!」

巨大な両腕が炎と氷の力を纏い、正面にフィールドを張ると
ファクトコンボイを包むように重なり
刃に宿るエネルギーを中心に高速で回転し周囲の影を一掃する

3つの力が結合し、一瞬にして空は光を取り戻し
ファクトコンボイとセーフガードがその渦の中心から飛び抜ける

「名づけてダブルスパークトルクメガトン!!どうだいコンボイ?」

圧倒的な力、虚空に拳を突き上げ再び叫びを上げる
異界、そして初の実戦の中で確かな実感がその身を震わせる

「見事でしたよ、では残りを...!?この気配は...」

空に舞う無数の意識の中に、異様なほどに鋭い何かが
ただ一人、ファクトコンボイめがけ投げかけられている
静けさを取り戻した空の向こう、見えぬ何かが

「俺にも随分と恨み有りげな気配をザクザク差してきてるなぁ」

振り返るとそこにはダイオンの姿があり
その背後からもう一つの戦士の姿が写り、飛ぶ

まるで空を叩き、跳ね上がるその姿は
自由自在に森を駆ける獣の様で
その異様さに目を奪われている内に
一つ、また一つと影が叩かれ消え去る

「お二人よぉ、嫌な気配も確かにするが...サッサと片付けようぜ」

エネルギーのフィールドを真下に張り
猿のような特性を持った戦士が影の集まる空の向こうを睨む

「...確かに今はまだ、仕掛けてくる気配は無いようですね」

今はまだ、戦士と影がぶつかり合う音だけが響き
異界への壁は閉じたまま、空には何もない
だが、その向こう、確かに異質な何かが存在している
壁を隔てていても解る何かが、その意識を刺すように放っている

「何事もなけりゃ...まぁ無いって事もないか、嫌だねぇ」

僅かに残った影も戦士達により切り裂かれ、消えた
しかし、残る気配の与える不穏は、影よりも深く、濃い

狭間の向こう、そこに何が居るのか、今は未だ解らない。
異界より戻りし者にのみ伸びるその矢のような気配
それが何を意味するのか、遠くない未来でそれを知る事になるだろう。

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異界、異質な力の戦士、合体
彼女の理解を超えた現象が瞬く間に押し寄せる
正直、この流れの中では考える事は無駄かもしれない

「理解を超えすぎよ、アンタ達」

呆れた声を漏らしながらも、その視線の先
蒼を取り戻し始めた空の向こうに見える光に
言い得ぬ安堵感を覚え、心は弾む

「俺からすりゃぁ、姐さんも理解の向こう側よ」

船から基地内部へとダイオンが降り立つと
そこには嘗てと同じようで、少しだけ変わった世界があった

嘗て過ごした場所、そこについに帰ってきた
体感では数百万年、この世界の経過時間では30年程だろうか

「どう?何か昔と違う?」

彼がどれだけの経験をして、どれだけこの場所を思い続けたのか
それを知る由はない、ただ、何かを探るように
あらゆる方向を眺め、目を細めて思い返す姿に言い得ぬ哀愁を覚える

「そうだな...違う、けど同じ...帰って来たんだなぁって」

今までとは違う、本当に気の抜けたような笑顔で呟くと
一つ一つを実感するように、彼方へと歩いてゆく

今は超生命体ではなく、ミクロロボットのダイオンとして
一時、あの日に帰っているのだろう

「さて、私は彼等の船の登録を...!?」

その姿を見送り、ダイオン達の船の方へ振り返ると
そこにあったはずの船は無く、巨大な龍が腰を据えている

さも当然のように名簿データを見るその姿は
あまりに巨大ではあるが、超生命体そのもの
まさか船まで変形するというのか、驚きに声が止まる。

「お嬢さん、気になさるな。俺はガリューン、ここにあった船だ」

「えっと...では、名簿に登録を」

衝撃も行き過ぎると冷静になるものだな
そんな事を思いながらソナーはドローンを呼び出し
彼もまた、新たな仲間としての登録の準備を進めてゆく

「心得た...時に此処にはグラディオンが居るのか?」

この世界は刺激の連続である。
常に新たな何かが現れ、世界は色を変えてゆく。

「ええ、知り合いなの?じゃあ貴方も別の星の...?」

「ほう、そこまで知っているか。土産話も多いなぁ」

勿論これからも、理解を超える出来事は、起こり続ける。
これら不可思議な出来事の先にある平穏
それがいつの日か、この場所での当たり前になっていく
...そんな未来を、今は願っている。