TRANSFORMERS:FACTORS episode:2-3 [割れた空]
闇の中のようでいて
煌めく無数の光を宿す、宇宙の中
幾つかの戦いで不安定なまま
その最も強大な悪意が消失した事で
この宇宙は今、極めて異界と近く脆い。
何かが、引き金を引けば
その壁は簡単に溶け去り、世界と世界は繋がり
その穴から、這い出てくるのは常に闇
何時の世も、何より先に現れるのは
希望ではなく絶望であり
それを乗り越えた先に、未来がある
パンドラの箱を開けてはならない
そうは言うが、勝手に開いてしまうのだ
そしてその先にある濁流の中に呑まれ
希望はまた立ち続ける。
平穏は終わる、終わるからこそ愛おしい。
そう思わなければ、居られない。
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耳を劈く、鈴の音のような甲高い音が響く
それは突然始まり、空が割れた。
各地からの緊急通信の警報音
目まぐるしく移り変わるモニターを前に
ミクロマン地球方面指揮官・トムが司令を発する
「超生命体部隊と協力し、現活動戦力は全て戦いに備えよ」
幾度と無く、滅亡に瀕する戦いを潜り抜けてきた
しかしソレに慣れるという事はない
常に自体は、前回の上を行く悪夢として襲ってくる
『異次元干渉多数、亜空間フィールド強制切断にも限界あり』
地球全土のネットワークを総括する
システム・ミクロムが示した数字は有に三桁を突破している
ミクロマンゾーン、所謂亜空間を経由したものであれば
強制遮断による異界へのゲートの出現回避も可能だが
それを伴わない、ありとあらゆる異界への開放が突如として
世界規模で巻き起こっている、全ての状況を把握する事すら危うい。
「突然一体何が...彼等はもう既に動いているのか」
困惑の表情を浮かべ、トムがミクロムに語りかける
殆どのミクロマンが眠りについた今
まるでそれを狙い澄ましたかの様にかつてのアクロムーンと同じ
異界転送の技術を用いた襲撃、それも同時多発的に巻き起こっている
『ファクトコンボイ、並びにTF戦士は既に活動を開始しています』
「そうか...しかし彼等の力になれる者が余りにも少なすぎる」
幸い、まだ無数のゲートが開いた
...それだけに等しい状況ではある
だが、その先に既に適性を持つ波動の数値を観測している
それらに対応出来るだけの戦力は今のミクロマンは持ち合わせていないのだ
「...彼等に力を、希望たる彼等を限界まで支えよう」
絞り出すように放った言葉
強く握られた拳は、込められた力で震えている
直後、トムは一瞬の迷いを振り払うように
大きく虚空に手をかざし、全部隊へと指揮を飛ばす
「ミクロム、開発班へ十号の機動を急ぐ様、伝達を頼む」
『了解致しました...司令は何処へ?』
「幾つか、策がある。しばらく任せるよ」
トムが背を向けると、普段は使うことのない
自身専用の装備を装着し、足早に駆け抜けていく
状況は一刻を争う、不穏の気配その威圧は既に間近に迫っている
溢れ出る闇を前に、希望の光を潰やす訳にはいかない
トムはある決意を胸に、基地最下部へと向かうのであった。
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日常と非日常の間
見上げた空が砕け、異様な色の世界が覗いている
人の目では解らない程小さいそれは
人の世を壊す可能性を十二分に秘めた異界への扉
「なんだってこんなにゲートが!?」
スコープマンが空を見上げ思わず声を上げた先
既に数個のゲートが開き、割れた空の欠片が
落ちたかと思うと下方に溶けるように消えてゆく
「開き方も異常だ...コンボイ、これは一体!?」
先に周囲を調査していたソナーもまた
異質なゲート、そしてあまりにも強大な力に驚きを見せる
既に数個、今後開くであろう地点も幾つか
まるで突然、次元の波を乱されたかの様に
本来は意図的に開かなければ開く筈のない
亜空間が小規模ながら露出している
「現時点では何とも、ですが急激な干渉による乱れ...ッ!?」
視線を細め、異界の先を見つめるファクトコンボイの脳裏に
突然として突き刺すような感覚が走る
胸に宿すエネルゴンマトリクスが危機を教えている
「取り敢えず話は後です、何か...来ますよ」
声を受け身構えた戦士たちの目線の先
鈍く輝く光の渦の向こうから幾つかの影が見え
小さいそれは次第に近づき、大きさを増していく
「アンノウン反応と...サイバトロンの反応!?」
そして気配もまた、明らかに刺々しい
破壊を目的として、攻めてくる敵意を感じさせる
その背後に、仲間を示す反応が激しく動き流れ示しを見せる
「これは...出現次第、電磁キャプチャーで捕獲します、連携を」
本来であれば、ゲートを閉じ侵入を防ぐべきだが
救援すべき反応がある以上、閉じれば見殺しになる
イレギュラーな手段ではあるが捕獲を狙う
3人がゲートを囲むように陣形を組むと
装備したキャプチャービームが入り口を覆い隠す
ビームが放つ電磁音と異界の底から響く唸り声の様な何かが
重なり、異様な気配が現世に向けて放ち続けられている
刻一刻、迫る気配が一瞬止まり
突き抜けるように風が抜けた...直後衝撃が走る
「活きが良いのが来たようだ...っと、なんて力だ」
ビームの網に戦艦のような生物のような何かが激突し
そのままビームを突き破らんと猛烈な勢いで四方暴れまわる
「ギギィィィッ」
瞬間、異形が唸りを上げビームネットを突き抜ける
...と、その背後反応を示していたであろう影が
画面表示同様に激しく揺られながら一つ張り付いている
「うわぁぁぁぁ、助けて欲しいんだな~!!?」
突き抜けた先、異形は虚空を舞うように半回転し
悠々と構える戦士たちの前に浮かび佇む
その後部に、青いTFがしがみつき悲鳴を上げている
「ちょっと貴方大丈夫!?今助けるわ」
ソナーが腕のブレードを展開し攻撃の姿勢を見せる
異形もまたそれが攻撃の意志だと理解すると
顔のような部分が攻撃の姿勢を見せる
「お姉さん待って、こいつ凄く強いから気をつけて」
来訪者はなんとかしがみ付きながら、声を上げる
その姿は獣と人型の中間を行くような
他にはない個性を持ち、胸には時計の様な文字盤が宿っている
「皆さんは彼の救援を、奴は私が引き受けます」
ファクトコンボイもまた、剣を出現させると
スコープマン、ソナーがその左右を突き抜け
異形を翻弄するように、大きく飛び開きながら接近する
「嬢ちゃん、俺の光で奴を翻弄する、その隙に行け!」
初動に反応を示す姿を確認するとスコープマンが
その腕に装備したフラッシュバインダーを放つと
その瞬く光に異形は一瞬完全に停止する
「またお嬢ちゃんと言って...貴方、少し衝撃に耐えなさいね」
迫した空気、突き刺さる気配の矢となったソナーは
異形に微かな力で捕まる来訪者を翼で掴むと
そのまま敵の攻撃圏外であろう地点まで飛び抜けていく
「隊長、こっちは完了だ!!」
異形の周囲を回転しながらフラッシュビームで焼き
スコープマンが次第に異形を追い詰めていく
円盤の様な、生物の様な姿が、次第にひび割れるのが見える
だが、それは破壊を意味する事象ではない
「ビースト...変身ッ」
変形する為の音声認証を発した
ただそれだけといった異質な発音で声を上げると
一瞬空が震え、変貌するその姿は
正しく超生命体であり、同時に宿す力が異常である
真っ当ではない何かであると直感させる
「スコープマン!...直ぐに引いてッ」
ファクトコンボイの声が飛び込むか否か
鮮やかに輝く光が、スコープマンの腕を貫き
直後、激しい爆炎がその身を焼く
「んなっ...野郎ッ、腕の一本がなんだってんだ」
火をあげる右腕を強制的に分断し
残った腕が宿すキャノンを構えるとスコープマンが吠え
まるで返すように眩い光を強烈な力として異形へと放つ
「...」
異形、ビーストと名乗った戦士に迫る光
まるで意に介さないと言わんばかりに
振り上げた腕を振るうと、光は霧散し
まるで風が刃のようにスコープマンを襲う
「おいおいおい何だよあいつは...ッ」
もはや避ける術もなく、防御の手段も持たない
無防備なまま迫る刃を見据える
その間、瞬く間
自らの死を覚悟し、閉ざしたアイモニターの向こう側に
青い光が走り、スコープマンに迫る刃を叩き落とす
「全く...言う事は聞く物ですよ」
青い光がまるで霧のように周囲を舞い
目前に眩しい程の輝きが立っている
風の刃を叩き壊し、ファクトコンボイが
スコープマンを護るように佇む
「光!!...マトリクスの光、潰す」
人の姿を得ても尚、異形としての気配を見せる
まるで拘束具でも付けられている様な口から漏れる
僅かな言葉は、光を奪う侵略者である事を理解させる
「あの姿、破壊大帝...しかし何かが違う」
異様なまでのオーラを纏ったその姿は
幾つもの世界で相見えた破壊大帝に酷似した姿
しかし見知るそれらとは違う、なにか異常な気配
思考の間にも、異形は既に動き
目前に迫ったそれは巨大な腕を振るい落とさんとしている
「スコープマン、まだ戦えますか?」
「ああ、何とか行けるぜ」
乱暴に振り落とされた腕を右腕の刃が受け止め
左腕に宿した光が新たな刃を形成し異形の腕を切り裂く
その突然の攻撃を前に、異形が背後へと飛ぶと
それを見越したように、更に槍状の刃を投擲し
飛び出してきたゲート付近まで異形を押し戻す
「先程の一撃、どうも効いてるようですよ...これなら」
力任せに振るわれる攻撃、定めないまま放たれる光線
それらの攻撃を捌きながら、ファクトコンボイは確信する
スコープマンの光が異形の視界を狂わせた
この一連の動きがその予想を確信に変える
一瞬スコープマンへアイコンタクトを送ると
ファクトコンボイは異形に向け飛び込み
巨大な刃は異形の腕を叩き、動きを完全に止める
「...この光、邪魔だ」
無数の攻撃を前に、業を煮やした異形が
大きく動き、その身に隙を作る
その瞬間こそが、現状唯一の勝機
視線から事を察したスコープマンが
激突する二人の背後で残された力を
その腕に宿す光子キャノン砲に集中させ、一点を狙う
「やられっぱなしで終われるかっての!!」
叫びは合図となり
両者が組み合ったままの状況に
躊躇わず貯めに貯めた一撃を放つ
暴力的なほどの光の帯は異形とファクトコンボイを包んだ
...かと思うと、青い光が霞と消え
光の威力は異形だけを飲み込み、ゲートの奥へとその身を押し返していく
「...ッ!?」
不安定になったゾーンを利用した瞬間転送
捨て身の連携が今一瞬の勝機を掴む
「何とか、押し返せましたね」
「すまねぇ、想像以上に痛手だ...おい待てよ!?」
転送されたファクトコンボイを抱えたスコープマンが
驚愕の声を上げる、異界の先にまだか影が残されている
それは段々と巨大になり
その先には今押し返し異形の姿がある
影、それを形取るシルエットは巨大な船
異界から迫る大群を意味する
「手遅れになる前にこのゲートを閉じねば」
一時的に力を使い果たしながらも
ファクトコンボイがゲートへ手をかざし
マトリクスがゲートを閉じるべく光を放つ
...しかし、巨大な影はそれを阻むように
巨大な船首をゲートに突き刺すと
閉じかけた異界と現世の間に
その一角を突き出し、マトリクスの光を遮る
現世への出現に成功した影から無数の分身が飛び出すと
其々が形を作り、宙に舞う
最大級の脅威の到来は避ける事は出来たかもしれない
...が、これはまだ一つ目
他にも開く可能性の高いゲートが有り
既に現れた闇を前に窮地に陥っている
「まさか一つのゲートにこれ程の数とは」
現に周囲に迫る影一つ一つが
先程までの異形と同じ強大な力を持つ敵である
そう理解する事は容易、当然というべきか
「こりゃまずいな、二人でどこまでやれるか...」
手負いの戦士二人が背中合わせに構えると
無数の影は次第にそれぞれ違う形を形成し
対する悪意となって、色を得、その姿を表してゆく
「救援を待ってくれる程、余裕はなさそうですね」
まだ意識すら持たない異形の群れが
円形に二人を囲むと、其々が銃を構え狙いを定めている
明確に侵略を狙った集団での侵攻
先ほどの異形は尖兵だとすれば
その力は異常とも言えるほどに高く
尚更、ここで食い止めねばならない存在である
「ネジの一本になるまで戦ってやるよ」
異形たちの銃口に光が宿る
逃げ場のない状況でも尚、戦う姿勢を崩さず
二人の戦士は構え、互いに全体に向け意識を放つ
打つ手はない、しかし諦めを受け入れる気はない
刹那の間に生と死の境界が迫り
生命の鼓動はまるでカウントするように脈打つ
「来ますよ」
無数の光が弾け、夥しいエネルギーが迫る
研ぎ澄まされた神経がそれらをスローに見せ
一瞬は永遠かと思わせるほど鮮明に刻む
打ち砕け、消える瞬間をその目で見るのか
覚悟を決めた瞬間、遥か下方から声が走る
「待て待て待ていッ!!」
突き抜けた叫び、新たに割れた異界への扉から
巨大な海賊船が飛び出すと、影の集団を蹴散らし
その巨大な龍の頭に、傷ついた戦士を載せ飛び上がる
「悪いが邪魔だぜ...。ライトニングボルト!!」
海賊船から叫び声が響く
無数の砲門から雷撃が飛び影を瞬く間に打ち砕くと
上空、僅かに飛び出た影の船首に突撃し
ゲートの向こうへと押し返す
「...これは一体!?」
刹那の間に戦況が大きく転じ
ファクトコンボイが驚愕の声を上げる
巨大な龍の頭の上から、甲板に降り立つと
まるで理解できないまま
傷ついたスコープマンと共に、その場に座り込む
「よぉ、大丈夫かい。随分やばかったね」
視線の先、数人の戦士の姿が見える
その体にはオートボットの刻印が輝き
彼等が敵ではない事を示している
「助かりました...貴方達...!?」
鮮やかな色の戦士が手を差し伸べる
その手を握り返し、立ち上がると
お互いに顔を見、何故か懐かしさを覚え思考する。
どこかで会った事があるだろうか
何故か、その姿、握った手の気配に強い覚えがある
「...あのさ、変な事聞くけど、知り合いだっけ?」
その色、声色
姿は明らかに違う、だが漠然とその名が浮かぶ
あの日、遥か異界の彼方へ消えた仲間の名が
「...まさか、ダイオン!?」
目を丸めたまま、視線の先の戦士は笑みを浮かべ
何か噛みしめるように、開いた方の拳を握ると
喜びのまま声にならない叫びを上げる
「ジェイドか!お前ジェイドだ!!帰ってきたんだ俺!!」
戦士は叫ぶ
永い年月を超えて、辿り着いた故郷の空に
まだ、全てを理解しきれないまま
互いに、段々と、何が起きたのか解ってゆく
この世界では数十年、彼等にとっては数万年
あまりにも永い時を経た再会の時
それは新たな戦いの始まりも意味している。
割れた空の向こう、絶望と希望はともに現れる。
世界を割り、運命を弄ぶ者は誰か
彼等の運命と共に、新たな戦いが始まる。
「この壁...破壊する」
閉じたはずのゲートは、別の地点で弾け開く。
押し返した筈の闇もまた、密かに現れ
この世界へと到来を果たす
「...全てを破壊するぞ、お前達」
異形の背後に無数の影が蠢く
この、小さな視点の世界で始まった異変は
世界を破滅へ導く闇の到来
始まりの鐘は鳴り、思惑が動き始める。