TRANSFORMERS:FACTORS episode:2-2 [君といた地球]


あの日。
無数に歪む空の中で、僕達は砕け散った。

「ダイオン、聞こえるか俺達は...」

通信を妨害するような雑音が言葉を遮り
目前に迫る見慣れた無機質な敵もまた
なにか巨大な腕のような物に掴まれ飲み込まれていく

何処に?

そんな事は解らない
いつもの様に、人々への被害を最小限に抑えるため
異空間に戦闘の舞台を移して戦っていただけだ

「何だあれは、生命反応すら無いぞ」

叫びのような声が響いて、理解できた
皆が皆、感覚を奪われたか、何かに囚われた

よく知った世界であり得るはずのない事態
...だが、どうだろう
いま眼の前に広がる世界は、知っている世界と同じだろうか

感覚を奪い取られたまま感じる気配は、明らかに知る物とは違う
生命体と近い感情を持ちあわせてはいても
機械であるはずの己の心に、何か不穏な意識が生まれる
これが不安、恐怖というのだろうか。

渦のように一転の巻き上がる世界が腕の形を形成すると
敵も、仲間も、皆掴んで飲み込んでいく

「ローラー...ジェイド...皆何処だ!!?」

恐怖を実感した心は怯え
止まらぬ腕の震えは、己の変貌を教えるようで気持ちが悪かった

手に持った銃は目前の腕を確かに撃ちぬいている
周囲の敵は弾丸にあたって砕け散っているのだ
だけど...その腕は止まることなく、体を掴む

「やめろ...来るなっ」

鋭い爪のような指が幾つかの装甲を引き剥がし
その痛みだけが意識を保たせる、叫びは意味をなさず
次第に視界は歪み、消える。

...その後の事はよく覚えていない

目が覚めた時、体は医療用のポッドの中にあって
全く知らない世界の、自分と似たようなロボット達が
偶然、世話を焼いてくれて...今に至ってしまった。

゛いつの日か、還る"

その決意だけで、今日この日まで戦い続けてきた。
命を持つ機械、超生命体と呼ばれる彼等
そして俺もまた、その存在その者になって、延々と戦い続けた

そして、あの日
瞬く光はデータの海となって、この世界でただ俺一人だけが解る
元の世界の戦士たちの言葉として届いた

「幾つもの世界の友よ、この場所で待っている」、と。

罠かもしれない、勘違いかもしれない
だが、歩み始めた足は止まらない
帰るのだ、俺の世界へ...還るんだ俺達で。

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突き刺すような冷気は、風を澄まし
見据える地平は遥か遠く
この小さな視点の世界は、今は平穏の時を迎えている

抜けるような青空は激しい気候の変化を忘れさせるようで
段々と迫る、暖かな季節の気配をその身に教えているようだ

「此処に来るのは...もう随分久し振りですね」

町外れの薄暗い道筋を、青い光が突き抜けていく
人の目には一瞬何かが通りすぎたように見えるだけ
ごく普通の人間には関わりのない世界に彼等は居る。

突き抜けた青い光、ファクトコンボイが向かう先
古びた洋館と言った風な建物の中に彼等の拠点の一つがある

70年台から続く人間とミクロマンの協力関係
多くの戦士が眠りについている今も、それは続いていて
様々な場所に基地や居住地、関連施設は今も増え続けている

「今は誰が居るのか...
開門願います、ミクロアース・ファクトコンボイ」

声が響くと、無数の機械が蠢き、静けさに支配された周囲が微かに騒ぐ。
洋館を護る様に高くそびえる門の脇
外観に似合わぬ「礎」とだけ書かれた表札の真下に用意された
通称「小さき友人専用」のゲートが展開される。

『よう、大将。休暇かい?』

開いたゲートから移動用ポッドに乗り込むと
この拠点を管理するミクロロボット「レッド」からの通信が入る

まだ、超生命体になる以前からの戦友であり
ミクロマンとしてのファクトコンボイを知る数少ない存在である

「だと良いんですが、異界に呑まれた仲間達の探索の報告にね」

『あぁ...ダイオン達の...まぁ、早く降りてこいよ』

無数の電灯の光を抜けて、ポッドが地下まで到達すると
数秒の間の後、機密された空気を放ちながらハッチが開くと
館の地下に隠された基地施設が目の中に無数の情報として飛び込んでくる

「只今、戻りましたよ」

踏み出し先、無機質な壁に貼り巡る機器が光を放つ
目線の先に、数人のミクロロボットと一人の見慣れない戦士の姿
そして、まるで出迎えるようにレッドがこちらに向かってくる

「おう、来たな!何か色々あったみたいだなぁ」

「ええ、おかげで随分報告が遅くなりました...して、彼は?」

ミクロロボット達と共に武器やメカ類の整備を行う
赤い姿の戦士、姿こそ小さくミクロロボットと同じように見える

だがその身に宿るスパークの気配、生物と機械の融合した鼓動
何よりその体には見慣れたサイバトロンのエンブレムが輝いている
目の前に居るのは自分と同じ超生命体であると、すぐに理解できた

「アイツか?行き倒れてるのを拾ってよぉ。
レーザービーストってんだとよ、見ての通りお仲間だろ?」

この世界にはまだ確認できていない
呼び込まれたTF達が無数に存在している
彼等の保護もまた勤めでる...が、無数の世界の戦士は
それぞれが違う気配や力の色を放つため、判別が難しい
未だに確認の取れていない戦士も無数に存在している。

「なるほど、話を聞かな...なんです?」

早速、まだ見ぬ仲間の元へ向かおうとするその眼前に
高く掲げられた、少し小さな腕が飛び込み、歩みを遮ると
まるで兄弟か父親かのように続けて声が飛んで来る

「少し休め、後で呼んでやるから。まず報告ついでに休憩だ」

その小さい体からは想像できないほどの力で
レッドがファクトコンボイを掴むと
別に用意された会議用の室内に引き込まれていく

星間帝王との戦いから数ヶ月経過しているものの
その間も呼び込まれたデストロンやアクロイヤーの残党
更には未知の次元ゲートの出現と事件は起き続けている
レッドなりの気遣い...と言う事なのだろう

「で、異次元への行方不明者の現状はどうなってんだ?」

会話の向こう、窓の外にはミクロロボット7、パンチロボが並び
その後ろには強化回収されたミクロロボットⅤの姿も見える
戦いの数こそ減ったが、その一つ一つが熾烈を極め
加えて現状戦えるミクロマンの数も少ない
それゆえに過去以上に強い単体での力が重視されている。

「相変わらず行方は...ですが、微弱な信号が来ているようです」

「ホントか!?ダイオン達だと良いんだがなぁ」

1980年台、亜空間での戦闘実験中に起きた事故により
ファクトコンボイは勿論、共に任務にあたっていた戦士たちは
散り散りに無数の世界へと強制的に転送された

現時点で帰還できたのはファクトコンボイやブラスター等
ほんの一部の戦士のみであり、未だ多数の戦士は行方不明のままである。

それらの事故に星間帝王、ユニクロンの手による介入が絡んでおり
その野望のために無数の命が弄ばれた...その事実が判明したのですら
先の戦いにおいて、帰還した戦士たちがユニクロン打ち砕いた結果
やっと得られた微かな情報でしか無い、今もこうして探索は続いている

「解析結果が吉報だと良いのですが...
最近頻発している不安定な亜空間ゲートの開きも気になるところです」

カップに満たされた経口摂取用エネルギーが湯気を上げる
既に30年以上の時が過ぎ、ファクトコンボイと同様であれば
異界での時間経過はもっと遥かに長い、数百年単位にも及ぶ

星間帝王の洗脳と改変による変貌で記憶を失ったもの
加えて姿が変わり、完全なは会社へと変わった者も居るだろう
可能な限り早く救い出せなければ、自体は深刻さを増す一方である
...だが、打つ手は極めて少ないままだ

「亜空間への突入がもっと安定してりゃなぁ」

「ええ、このマトリクスの力がもっと広く使えれば...」

ファクトコンボイの胸に輝くエネルゴンマトリクス
この力もまた未知の部分が多く、完全に力を放っているわけではない

「まっ、今は出来る事を全部やろう。ひとまず休憩だ。俺もサボりたいしな」

だが、次第にその力の流れが変わり、範囲も広がり始めている
その広がりが新たな可能性に届いている
それをまだ、ファクトコンボイ達も知らないまま
また新たな波が起き、世界は動き始めようとしていた。

---

「と、言うわけで、俺は君達に出会ったんだ」

無据うの色が飛び交う異界の海を
龍の首を持つガレオン船が悠々と駆け抜ける
極めて異質で、それでいてよく馴染んだ光景

ダイオン達はその船の中で
彼がどう生き、何処から来て今に至るのか
その武勇伝を聞き、大げさに盛られた噺に一喜一憂する

至って平穏な船内、代わり映えのしない派手な景色
それらに退屈する暇も与えない話術は
彼の才能の一つであり、遥か昔から変わらない。

「あんな事もあったなぁ、窮地の瞬間、体が変貌!」

「ええっ凄いジャン!?」「それで今の体に!!?」

双子の質問が荒らしのように飛び
一段落、噺を終えたダイオンは
まるでショースターのように一礼するとその場に座り込む

「野郎、何を思ったんだか」

一部始終、ただ黙って耳を傾けていたマイナーが呟く
長い付き合いの中で、過去の話をする時は
何時も何か目前の恐怖を思い出したようで落ち着かない
そんな彼の癖をよく知っているのだ

「へっ、無理してやがら...んな過去話してどうする」

「うっ...うるせぇ、武勇伝話す位いいじゃんよー」

面白おかしく語りはしたが
その実、頭のなかには何時も宿り続ける
命を得た事による恐怖

何より今の自分は何者なのか
それが恐怖となって目前に現れる

「まぁ、なんだ。何があっても諦めなければ何とか成るんだ!」

今の自分を立ち上がらせる何か
それが希望という光なのだろうか
あの日生まれた生命としての不安や絶望
それと同時に、心のなかに光があるとするならば

「だから、この先何があっても諦めるな」

あの時聞こえた声は、本当の声で
この旅路は、希望へと続く道筋なのだろう

「そして、俺を...俺達を信じろ」

声を受け、目の前の双子の兄弟はまるで子供のように
盾に大きく首を振って、その見に巡る闘志を見せる

「...随分クサイ事言うのな」

「えーかっこいいジャン」「イカしてるよー」

希望へ向けて船は征く
遥か彼方、始まりの世界へ。

龍の首は叫びを上げ
無数の色の世界を震わせ、その旅路を照らす
到達地点は気づけば近く、もはや目前

帰還の時は近い
しかし、この帰還と同時に
不安定な世界の壁は幾つもの「何か」を呼び寄せる

光と闇は、希望と絶望は
いつの時も背中合わせに存在し
その一時も離れず、互いを見ている。