TRANSFORMERS:FACTORS episode:2-1 [旅立ちの時]


星間帝王の脅威は去った。
今の所は、と言うべきかもしれない
だが、幾ばくかの平穏を絵て、無数の世界はつながりを保つ。

今は、均衡
だが、それは嵐の前の静けさか。

一つの世界が始まる時、一つの世界には終りが来る
それが絶望であれ、希望であれ必ず対になっている。

例えば、叡智の光が戦士を巨大な希望に変え
星間帝王を打ち砕いた希望の世界がある影で
その星間帝王によって狂わされた世界は
ついには均衡を失い、世界は崩れ、操られた者の多くは死に絶えた

世界は常に均衡を保つ
故に、世界の始点たる零の世界にもそれは存在する
星間帝王という闇の柱を失った事で
この世界には新たな闇の柱、その候補が呼び込まれようとしている。

戦いは終わらない。
だが、闇が常に存在するのであれば
同時に希望、対となる大きな光もあり続ける

永遠の輪廻の如く続く連鎖を断ち切るには
今はまだ、彼等も地球人も若すぎる
故に今は、まだ力を持ち希望を描き続けねばならないのだ。

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スペースブリッジの輝き
撓み、揺らめく光の前で、青と黄色の体の戦士が
今か今かと、転送先の情報が流れ込むのを待っている

「やっと見つけたんだ...随分とかかってしまった」

落ち着きなく床を叩くつま先に影が伸びてくる
背後から3つの影が迫り、彼の少し後ろで止まると
各々が旅立ちの準備をするように自由な動きを見せる

「ねぇダイオン、これから行くとこって何処なの?」

「俺も聞きたいジャン、この時空が不安定な時期に危険過ぎる」

よく似た姿の若い戦士が二人、ダイオンと呼ばれた戦士に語りかける
一人は炎を、もう一人は氷を、まるで自在に操り
魔法でも使っているかの様に周囲に放ち続けている

「聞いても無駄だろ、お前等そういう知識ないし...なぁ兄弟」

少し後ろで話しに耳を傾けていた小柄な獣のような戦士が
その手に持った鞭のような武器を軽く伸ばし注意をひくと
前方に揺らめく光に向けて視線を誘導する

「悪いね皆、今回は僕の里帰りさ。ただ旅行ってわけじゃない」

無数の計器が並ぶ部屋
座標位置伝達を知らせる電子音が響く

「「はぁ~?」」

予想外の言葉を受けよく似た二人が声を合わせ悲鳴を上げる
だが、それも予想通りといった風に虚空に指で円を描き
まるで演説でもするようにダイオンは言葉を続けてゆく

「ジャットファイヤー、ジェットストーム。これは初の実戦だぞ?
それに他のTFが知らない世界を見られる、だろマイナー?」

幾つかの言葉に一喜一憂を見せる双子
そして突然の問いかけに驚きの表情を見せるマイナーと呼ばれた戦士
狭い室内には、幾つもの情報が飛び交い
次第に空気は次の舞台への機体とまだ見ぬ興奮を感じさせる。

「゛オプティマス"マイナーな。大事だぞ。
んで、まぁ説明は後でするが...今回は舟に乗るぞ」

まるで声に合わせるように、揺らめく光の向こう側から
巨大な戦艦の搭乗口が姿を現し、タラップが降りてくる

だが、どうにもその船の姿は宇宙戦艦と言うにはオーガニックな
...言うならば、文献で見た辺境の惑星の木製の船のそれに近い

「俺の親友でな、コイツも友達に会いに同じ場所に行くんだよ」

光の向こうに見える巨大な船体
そこから伸びる光の道が、まるで乗り込めという様に差し込み
何の躊躇もなく、ダイオン達はそれに足をかけ乗り込んでいく

兄弟も恐る恐るそれに続き
駆け足で乗り込んだ先、想像よりも広い船内

外観から感じられる気配とは明らかに違う
古臭くはあるが、十二分な程に豪勢な内観が目に痛い程

声にならない声を口から漏らし、キョロキョロと見回す兄弟の姿は
少年海賊の様で、妙にこの場に馴染んでいる

「さぁ行こうか、ガリューン」

ダイオンが大きな声で船自体に声をかけると
全体がまるで呼応するようにかすかに揺れ
スペースブリッジの先、遥か虹の地平へと
その巨大な船体を浮かべ、進み始める。

『待たせすぎだ、さっさと行くぞ』

どこからか聞こえた声は、この船自身
同時に映しだされたモニターには
龍のような姿の戦士が移り、こちらを見ている

「おう、ガリューン元気か」

マイナーが軽く手をかざし、馴れ馴れしい挨拶を放つと
操舵席に座り、まるで慣れた動きで座標をセットし終えると
操舵桿に足をおいて早速だらけた気配を放っている

『俺様の体の中という事を...忘れるなよ猿』

モニターの向こうの龍の戦士は表情こそ変えないが
その見た目とは裏腹に、穏やかな気配を感じさせている

「いいじゃねーか、いつもこうだろ?」

『...好きにしろ。で、目的地は此処で良いんだな』

モニターに表示された座標
完全とはいえないが多元の宇宙を渡る術を得ている
だが、その情報や技術を持ってしても何も表示されない
その地点はゼロ。すべての数字が「0」を示すのだ。

「ああ、そこで大丈夫。還る資格がある者だけ往ける場所さ」

声を受けダイオンは遥か遠く、窓の向こうを指さし応える
永く、それは遥か永遠かのように求めた故郷への道

「さぁ皆、出航だ」

遥か遠くへ咆哮が響く
ガリューンが遠く放った光の道筋をその船体が突き進んでゆく
この旅立ちは、帰還であり、戻れぬかもしれない旅路

不安はないか?と言われれば皆の胸には幾つもの不安もあるだろう
だが、それを恐れて歩みを止めるほど弱いつもりもない

「...俺達で大丈夫かな」

「なんかビビっちまうジャ~ン」

だが、初めての旅というのは心に思わぬ影を置くこともある
怯える心に、闘志を燃やすには...何が必要だろうか

「どうした?初めての旅に緊張でもしたか?」

ただただ、あまりの状況の変化に立ち尽くし
首位を見回す双子は、声を受けて少し驚いて振り返る

「ははっじゃあ一個、俺の最初の旅の話をしてやろう」

その様子を見てダイオンは微かに微笑むと
まるではるか昔のお伽話を語るように
彼等に、昔起きた出来事と、この旅の理由を語り始めた

「よく聞けよ、これは昔々、俺がまだこの姿になる前の話」

設置されたやたらと古そうなソファーに腰掛け
双子にも手近に座るように合図すると
ダイオンは静かに、そしてやたらとドラマチックに
自らに起きた出来事を語り始まるのであった。

---あれは、1980年代後半

地球を少し離れた宇宙での出来事
あの時俺は、まだミクロロボットと呼ばれていた。

彼はダイオン。
彼もまた、零の世界の戦士と同じ
星間帝王によってその生命を歪められた一つの命。

「あっ...あぁまぁ長くなるが、大丈夫かな?」

「良いんじゃね、どうせ向かう先は遥か遠くだ」

やたらと豪勢で、機械生命体が語らうにはモダンすぎる
アンバランスな船内で、その真実は語られる。

あの日の出来事、そして今。
これはまだ旅の始まり、出会いの先に新たな戦いが始まる。