TRANSFORMERS:FACTORS episode:2-12 [本当の声]


それは昔々のお話
この宇宙に伝わる、悲しき王様の物語。

君は知っているだろうか、あの頃宇宙は光り輝いていた。
今のように黒い世界ではなく、光り輝く世界だった。

『私の体は何処?』

『此処は最高だ』

『痛い、悲しい、何もかも忘れたい』

『一つになると云う事は苦痛も共有するという事』

『僕らはしあわせだ』
無数の声が、赤い宝玉の中で木霊する
栄華を極めた超進化生命体「アクロ」
彼らはさらなる高位存在に至るため、全ての生命を統合し
意識・肉体・精神その全てを共有した一つの命「アクロイヤー」となった

全知全能の力で宇宙を統べ、繁栄の限りを尽くし
彼らは...否、今やただ一人のその存在は
あらゆる存在を取り込み、全てを手に入れた

人々は強大に進化し続ける何かに対し恐れを抱き
全てを統べる姿から、名すら持たぬそれを皇帝と呼んだ

孤独の皇帝、全てを手にしたその存在は
何者にも負けず、圧倒的な力を誇り君臨した。

対した敵、望んだ者、生きれなかった者何もかも
全てを取り込み、光りあふれる宇宙の中で彼は無数の命と共にあり
それら全てを理解し、戦い続けた

そして彼は、全てを持つ故に無数の思考に応えを阻まれ
己の心が至るはずであった解には至らなかった。

何一つとも、完全な同化を果たせないまま
一つの体に無限にも感じられる魂を宿し
その全てが自らに語りかけてくる

彼は恐れた、そしてその恐れが
完全であった筈の皇帝の魂に闇を産み
その心から生まれた闇が、宇宙中に散らばり
気がつけば輝いていた世界は闇の中の様に
見知った宇宙は漆黒の世界へと変貌していた

彼が放った闇が、宇宙中に根付いたのだ
それは生命も同じ、根本に闇を抱き
弱き者から感染し、異形が次々と生まれた

それらは心を持たず、破壊を願う機械の様だったという
皇帝は、生み出された異形たちを率い
まるで恐れを振り払うように闇を広げ続けた

いつしか、希望の名であったアクロイヤーという名は
宇宙中に広がる疫病、異形へ変貌する病の名となり
異形その者を示す名前へと変貌していった

【アクロウイルス】

最終的に付いた名前。病原。
皇帝の闇が産み落とした闇、振り撒いた災厄。

この宇宙に恐れが存在する限り
それは発現し、現れる宇宙に巣食う病。

すべての生命の悲しみの根源に宿り
発現すれば、その身は異形へと変わる。

---

輝く刃が、無数の異形が組み合い構成した様な
異常な重なりあいの上に成り立つ、その異形の首に伸びる

光が告げる、この存在は純粋なる邪悪だと

闇が告げる、目前の存在は天敵であると

互いに胸に宿した生命の証が共鳴しながらも反発する
その生命は同じであるかもしれない
例えそうであっても、今それは関係なく
目前に居る存在は互いに、倒すべき存在

「理解は不要と、この胸は言います...ですが」

今にもその首元を切り裂かんばかりに
鋭い光を放ち、闇をに対し威嚇する光
しかし、声を受けその怒りは下方に振り払われ
ファクトコンボイは構えを解くと、闇に語りかける

「貴方の力を受けた者、その全てが狂気ではなかった
私は知っている、闇であるから悪ではないと、だから知りたい」

互いに纏うその力の根源が、ゆらりと伸び
其々が激突する度、反発し小さな爆発を起こす

相入る事のない力、光はそれを破壊しろという
そして、闇のまた同じ意識を伝えているのだろう
無言のまま佇む、闇の根源はただ敵意を据えた瞳を此方に向けている

「数々の闇達は、君が生み出した...それは自分の意志だったのか」

闇が、自分とは真逆であり、同時に同じ様に
力に導かれ、意味も解らぬまま、力が言う声に従い続けているのだとしたら

飲み込まれれば最後、個を失い、兵器同然となる
そんな抗うことの出来ない闇の影響を受けた者達の中に何故
理解し合い、友となり、愛し合える者達まで存在したのか

「私は知りたい、君という存在が何なのか」

胸の光は意志に反するように戦えと体を震わせる
この力もまた、使い方を誤れば
目前の闇と同じ、歪な力になる可能性を秘めている

「...光とは愚かな、我は総て闇その者でしかない」

闇、アクロエンペラーと名乗るその者から声は聞こえない
初めはこの口から漏れているように感じられていた
しかし、一言、また一言言葉が飛んで来る度
その方向は異なり、全て違う声が語りかけてくる

無数の命、それを抱えているのではなく従えている
互いに喰い合い、強く闇を発するそれは
自身が言うその意識同様に全てが別の存在の継ぎ接ぎで
その物自身の魂は胸の球形にすら宿っていない様だ

「我を知り、貴様の...貴様ら生命にとって何になる
弱き命が我が闇を勝手に汲み取り、我等になっただけの事」

エンペラーの姿が突然目前から消えると
少し後方、その影が大きさを増しながら
自身の理解の範疇にない言葉に威嚇するように牙をむく

振りまかれた胸の奥にざわつくように違和感を与える黒
これが、この宇宙の全ての生命に宿された闇
諦め、後悔、悲しみを喰らい、生まれる悪意達の種

「ならば何故、君はその悲しみと共にあるのだ」

降り注ぐ黒い闇の種を、輝く刃が焼き払い
その切れ目から突き抜けたファクトコンボイが
アクロエンペラーの目前に再び飛び込むと
胸に宿すマトリクスを開放し、その輝きを放つ

「その絶望に、その痛みに何故寄り添い、共に生きている?」

エンペラーの口元から、背後から、頭上、真下
ありとあらゆる箇所から悲鳴が漏れ
マトリクスの輝きに照らされたその身が
光を拒むように反発し赤紫の炎が身を焦がす

「貴様は愚かだ、この闇を救おうとその光は呼びかけている」

エンペラーの肩から刃が伸び
腕から分離し、四本の腕のように伸び闇を纏うと
一瞬のうねりの後、目前の光を跳ね除けると
闇の中に光が飛び、後方まで光の線を描く

「...!!」

闇の放つその一撃はマトリクスの力を持ってしても
防ぎきることは出来ず、青く輝く装甲を焼き付けせる
声にならぬ呻きが口の端から漏れ、痛みを理解させる

感覚を覚える間にも、追撃する様に闇は刃となって伸び
跳ね飛んだ体目掛け幾つもの切っ先がその身を狙う

「そうだ、救いたい!そう思って何が悪い」

体を回転させ、無数の刃を跳ね除けると
闇が支配する大地にその足を叩きつけ
腕の中に宿るエネルゴンの力を炎とし闇を焼き払う

「煉獄の炎...やはりお前とて我等と変わらぬ」

薄闇の世界を青い炎が照らし
目前のエンペラーを見据えるその瞳は揺らめき輝く

再びその身目掛けて伸びる刃を、両の手に握る刃で切り伏せ
その度に闇を照らす炎が、闇の意識を弱らせる

一歩また一歩と歩むその足跡にも命の火が燃え
闇の中を藻掻くようだった足取りは既に駆け
大きく踏み込むと、エンペラー目掛け、その身を放つ

「君自身の、その生命と解り合わねばならない」

自らが放つ光の粒子を足場に回転し
再びアクロエンペラーの元へとファクトコンボイは飛び込む

その一瞬の動きの中でも光と闇が交差し
闇はその輝きを恐れ漆黒の世界に道の様に一筋の輝きが生まれる

「貴様の光、何時も我々の前に現れる忌々しき者」

重く響く声が、その奇跡を一瞬撓ませる
しかし、伸びる一閃の光は絶えず一つの影を目指す

「だが、その身の中にも我と同じ闇を宿しているのだ」

叫ぶように声が響く、それはまるで光を恐れる様で
同時に怒りに任せた感情を感じさせる

感情が幾つも折り重なり、完全な闇であった筈のそれは
対する者の出現に怒り、バランスが崩れている

「闇にしてやる、お前も、無数の世界も全て」

予期せぬ位置から響く声は鳴り止まない
その間を抜け、再びファクトコンボイが
アクロエンペラーの目前へとその身を飛ばす

「それで、君の本当の声は何処にあるのです」

その手に握られた刃が、両肩の複腕を切り払うと
伸びた腕はそのまま刃を放し、勢いのままその腕が
エンペラーの胸に宿る宝玉を掴み、力を込める

「マトリクスよ、力を貸せ」

強烈なまでの反発、腕ごと消し飛ぶ様な闇の波動に
感触すらも感じられない、だがこうしなければ
闇を代弁するこの存在の心を知る事は叶わない

「単なる器のままで居るんじゃない」

宝玉を掴んだ指が、一瞬の反発の後
めり込むようにその球形の中へと飲み込まれ
次第に光と闇が融け合うように交錯する

「お前は...私は...」

世界を覆い尽くす闇の中心から光が湧き上がるように
刹那の光が全てを照らすと、二者の姿がその場から消滅する

淡く光る世界
何一つ無い景色が広がり、そこには静寂だけが存在していた

---

虹色の境界、魂の至る場所
互いの宝玉の輝きが混ざり合う事で
初めて到達できる地点

青い輝きを纏う者と、漆黒の闇を放つ者が
今正に対面し、次の動きを探り合っている

永遠の輪廻の中に存在する光と闇
全ての存在がどちらかの力に属し
己の為、何かの為にその力を使う

だが、今対面する二人にそんな物はない

仮面の奥、輝いた瞳が笑った様に見える
直後、強く握りこんだ拳と共に叫びが響き
互いに踏み出した足が虹色を震わせる

「ただ、願いを叶えていただけだ、皆が終わりを望んだのだ」

胸に叩きこまれた拳から、対する存在の意識が突き抜ける
最早本来の自分の姿をも思い出せない、異形と化した存在の
記憶と、この時に至るまでの戦いが頭の奥に流れ込んでくる

「戦い続ければ、いつか全てと分かり合える、救えると思っていた」

巨大な翼を跳ね除け、飛び込んできた一撃が
体を砕きながら、同時の中に眠る意識を蘇らせていく

「だが、痛み、疲れ果てた心は終を望んだ」

炎が胸に燃える、胸の宝玉が砕ける感覚だけが宿り
視界は虹の架かる空を映す

「ここは何処だ、こんな世界を見たのは...久しぶりだ」

声が漏れた、まるで全ての枷が外れた
そんな風に体が軽い、だが、立ち上がる力はもう無い様だ

「ここは、命が還る場所...の入り口ですね
心に残る希望がその目に見えるといいます」

視界に青い仮面の戦士が映る
穏やかな気配、今時分の打ち倒した筈の存在だが
それが自分の命を奪う存在ではない事も解っている

「そうか、これが私の心にもまだ希望があったのか」

穏やかな気持、自分だけの意識、体は溶ける様に世界に張り付き
最早自分は存在しないと思える程、全ては世界へと還ろうとしている

「その希望を、君が放った全ての闇も持っていたのですよ
闇から生まれようとも、手を取り合えた仲間達がその証明です」

薄れる意識の中で、幾つもの己と同じ闇から生まれた者達が見えた
その運命に抗い、希望と共に生きる者達の美しい姿が見えた

私はそれを願っていた、器になっても何もかも忘れても
そしてその願いは彼らの受け継がれ...成就したのだ

「光の者よ、私は消える。だが闇は存在し続けるだろう」

倒れた体は、既にそのシルエットを薄め
無数の黒い粒子となり虹の彼方へと流れ始めている

全ての色の中には闇も居て、必ず必要な存在である
故に消える事はない、だが一つの輪廻はここで終わる

「解っています、今度は生まれ変わって、共に行きましょう」

「ああ...ありがとう」

最後の力が、希望に向かい手を伸ばすと
別れを告げる言葉とともに、霧散し空へと消えてゆく
最後に残った僅かな輝き、それこそが宿した希望だったのだろうか

「また何処かで...さて、私には未だ一仕事残っていますね」

虹色の境界、そこにただ一人、戦士が佇む
既に体中の装備が砕け、痛々しく火が走る
しかし、その光はより一層強く、輝き続けている

「魂の地に宿りし闇よ、この刃が斬り裂く」

一瞬にして景色が先程までの闇の境界へと戻ると
光の刃が幾つもの異形の影を斬り裂き、その身を振るう

この輝きが、闇の意識、その全てを斬り裂く時
世界には一時の平穏と、新たな時代への道が生まれるだろう

それは光、そして光あれば闇もまた生まれる
新たな時代、それは即ち新たな戦いの始まりでもあるのだ。