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羅亜堕 天落編:4 [激昂]


言葉は武器だが余りに鋭い、簡単に手に出来る物でありながら
命を奪い、精神を鼓舞し、他者をあらゆる意味で動かしてしまう
だからこそ、私は、我等はこの武器を捨て寡黙の中、無で居たいだけだ

この場が、この世界が忘れられた物であるのなら
せめて此処だけは、理から外れた無でありたい

そう願いながらも、どうしても弱い心は他者を求め
この世界にもまた、一つになれないまま無数に心が存在する

願いは未来、先に至る解だ
今は完成されない個々の魂が何時の日か目覚め
一つの無となって生まれ変わる時
二重螺旋の運命が成就し進化を果たす

遥か昔、遠い未来
栄光の使者と呼ばれた者達の願いもまた
この地に存在する魂が至る事により救いを得る

今はまだ未熟な個々の生命、それにも意味がある。
与えられた役目、果たすべき使命
命は必ずをそれを持って産まれ出るのだろう

無へと至る民達と出会い、君は何を得るのか
君という強烈なる先の存在との邂逅は民を変えるのか
出会う事で世界の真が見据えられ、闇もまた現れるだろう。

私は君達を愛おしいと思いながら
私は君達を試し、欲望にも似た感情に喜びを覚えている
全てが終わった時に、君達に破壊される
そんな未来でも...その未来が良いと何処かで願いながら。

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太陽が霞む、まるで2つある様に空に浮かび
世界はまるで舞台装置にも見えて
青い空と雲を描いた膜に光を透かして見ている様だ

バートルとの邂逅の後
神が居る領域から抜け人々の世界へと降り立った
彼の言い残した「皆」に出会う為に。

『何も居ないって感じね』

近代的な割に生命の気配が薄い街並み
閉鎖された空間世界とは思えない広い世界だが
その中に存在する人間、生命の気配は感じられない
故に世界は静寂に包まれたまま、嫌に冷たい

「導いてくれる、か」

何処へ流れているのか、大きな川に架かる橋
その橋中を照らす灯の上、風を受け見渡す世界は
短いサイクルで生と死が繰り返された激動の歴史を
まるで感じさせず、穏やかで、異様ではあるが静寂は心地が良い

「ん...?あ!神...様?」

突然、無の中に人の気配が飛び込んで来た様だった
そこにあったのは少女の姿
それまでは無かった明確な生命の熱を感じ、眼下に視線を送る

「君は?」

歪んだ世界は時に小さな体を人間同様のサイズに変える
しかし、今この時はその少女は大きく
見知った地球人と同じ我等から見れば巨人の姿をしている

「は~...神様じゃないけど...違う神様?」

質問よりも好奇心が勝る、そんな風に此方を見上げ
会話をするよりも前に疑問が投げかけられる

黒く長い髪は風に遊び光が透け微かに赤く毛先を照らし
紫の大きな瞳の奥に無数の輝きが見える
一人の影に無数の存在が重なった様な
見た目から感じる気配よりも深く穏やかな気配

『神ではないわね、でも悪魔かも知れないわ』

視界の半分を黒が支配する、喉を勝手に使い声を放つ
明らかに挙動や肉体と異なる声を聞けば
普通の人間ならば警戒、それどころか恐れ逃げ出すかも知れない
突然の事に思考は巡るが纏まらず、目前の少女も驚いた顔を見せている

「っ!!貴方もお友達が一緒にいるの!?」

異様な存在に驚いている、そう思っていた
しかし目前の少女が驚愕したのはその存在への違和感ではなく
目前の異質な存在の内に漂う意識への理解と共感であった

そして、嬉しそうに此方に両腕が差し出され
掌に乗る様にと、無言の催促が視線として届く

何故だろうか、古い日々を忘れた友を思い出す様だ
誘いに乗り舞い降りたその手の上で
幾つかの場面が思い出され、それが何だったかは理解できないまま
この懐かしさは何なのか...少しの間、言葉を失った

「どうしてこんな所に?神様のお友達?悪魔なの?」

相変わらず静寂が支配する世界
彼女の気配と声だけがこの周辺で唯一の気配であり
それ以外は溢れる緑も陽光も何もかも熱を感じない

「友達ではないし悪魔でも...恐らく無い、彼に出会って此処に来た」

唯一の気配、そこに居るのは我々が守り続け他地球の人間
そして未来で我々になる存在...出会いは歪み
正された世界にその歪みは存在しない
故に何方も理解したままの今の君はいつか消える

「彼が待つ場所、光の宿る場所を知っているか?」

『貴方達が教えてくれるって』

神と呼ばれた存在はそう伝え、この世界に
この世界の中にだけは歪を残し
いつか終わる時まで見ぬふりをしてくれないか
...そう願っていた、その様に理解している

「神様がそう言ったの?...そっか...」

少女の詩線が、一瞬だけ遥か遠く地平を見据え
作り上げられた舞台の様な世界が揺らいだ

波紋の様に気配が伸び世界が撓む
彼女の手の上で、それ以外の世界が跳ね
まるで漫画か映画でも見ている、そんな非現実的な思考すら巡る

強烈な変質は微かな頭痛と共に視覚に世界を理解させ
平穏だった世界は突き刺さる灰色の荒野と交互に世界を映し出す
常に感じていた平穏の中の冷たすぎる気配、その正体が姿を見せる

『...あら、貴方なんだか物騒ね』

暖かな掌は硬質な鋼の上へと変貌し目前に異形の影を見せる
そうかと思えば元に戻り、穏やかな世界で彼女の表情は重い
何度も繰り返すそれは不安定な世界の表裏

鋼の異形が黒に対し視線を向ける
しかし言葉は発せず、あくまで光る仮面の奥の視線が
ニヤニヤと笑う黒に対して強烈なプレッシャーを放っていた。

刹那、その点々と繰り返す明暗に平穏と不穏が交差し
少女と異形、己と黒が常に対し睨み合っている
私と貴方、合わせる視線の先、思考の奥で自分と自身が強制的に相対している

「心が一つなんだね、一つの体にこんなにしっかり同居している」

声が刺さり、我に返る様に意識が体に帰る
乗せられた掌が眼前へと掲げられると風が抜ける

長い髪が靡き微かに花の香りと煤けた破滅の気配が漂い
希望と絶望が同居する平穏が舞い戻ってくる。

「君は一体...」

幻影の様な光景、その表情に幾つかの影が重なり
其処に存在する彼女は、そこに存在しない誰かと重なって見えた

「私はそうじゃない、だから急がないと。あの丘へ一緒に行きましょう」

幾つかの気配、幾つかのシルエット
少女の年相応の気配は薄れ言葉に気が籠もる

言葉を終えると世界は再び瞼を閉じた様に漆黒へと変わり
鮮やかな光の円を幾つか見せ、見知らぬ部屋の中を飛び
彼女が願う場所へと変質し、モノクロの世界が産まれ色が着いてゆく

冷淡な世界へ切り替わり黒の存在が浮き彫りになると
再び少女は消え、目前の異形は言葉なく黒の睨みつけている

そして、この世界自体を包み込むような回転音が常に響き
ジリジリと、その体を追い詰める圧力
少女の姿は無いが、巨大な手に握り潰される感覚が纏わり付く

『何なのかしらねぇ...見てるんでしょ、この間の奴!!』

羅亜堕の腕をまるで自分の物と自在に変貌させ
伸びた腕は黒い影から刃を形取り、目前の異形へ掲げられる

『アンタは殺すなって言われてるけど、コイツはどうなのかしら?』

全身から黒い塵が吹き出し、仮面の瞳が赤く鈍く光る
掲げられた刃もまた、本来の形より長く細い物へ変わり
今直ぐにでも闘う姿勢を強め、相手のフィールドを黒く支配して行く

「...」

変わらず言葉のない異形、そしてその背後に微かに歪み
その違和感の隙間から4つの輪が浮かび上がり
輪郭が砕けるともう一つの異形、ミラージュの姿が現れる

鈴の音が響き、無数の輪が光るその姿は
常に視覚を狂わせ、術中に相手を誘い込む存在その者が罠の様だ

「構わない、お前はこの存在に勝たねばならない」

ミラージュの姿が右に、左にと点々と現れは消え
脳裏に言葉を塗りつけるかの様に返答が刻み込まれる

異形に勝て、潰して良い...妙だ、が、都合は良い

『ならまとめて潰してあげるけど?私はアンタ達になんの感情もないし』

白銀の仮面の上に纒わり付く気配が無機質な顔をニタと笑わせる
全身の外装もまた黒の放つ気配と塵を纏い動く度にそのシルエットが変貌する

「ああ、そうしてくれ。出来るものならな」

刹那、四つの輪が輝くとミラージュは姿を消し
鋼の異形は合図を受けたとでも言うのか全身に折り隠されていた長槍を展開し構える

対峙、異質と異質の視線が気配が容赦なく噛み合い
聞こえない筈の生命の音を体感させる
それは快とも不快ともなり得る戦士だけが持つ兵装

『彼奴っ、元から精神だけか!』

何故、体の主導権が自分にあるのか今は感じられない羅亜堕の存在
その影響か本来より体は軽く好都合だ
...だが、漠然と足元に宿る不穏が精神を尖らせ
怒りが嫌に突き出る実感があった

「...諤悶>縲√〒繧ょ享縺溘↑縺阪c」

互いの気配以外は全て死に絶えた世界そこに響いた音
...声だろうか聞いた事もない音が、尖る精神を削る

『まぁ良いわ、貴方を潰して心を落ち着ける事にする』

球体に装飾が浮かんだ様な異様な頭部同属とも思い難い
辛うじて人型の異形こう考えている自分とアレは何が違うのか
思考と理解と忌避の交差に全身が怒りの悲鳴を上げる

闇に解け一体化した刃は身体からの指示を受け
まるで鞭の様に靱やかに垂れ下がったかと思うと
タンッと軽快に跳ね切っ先は畝りながら異形目掛け牙を剥き、異形を締め上げる

「ッ!!」

声にならない悲鳴の様な音を上げ体を無理矢理に動かし
火花と共に鋼鉄の異形が身を捻り腕を外しながら拘束を打ち破る

がむしゃらという言葉そのままの動き
まるで戦いではなく、衝動と...怯え、恐怖している
対峙する相手を理解し、怯えながら対抗している、そんな風だ

『何なのコイツ...イライラするッさっさと潰すか...?』

呆気なすぎる、余りに脆い
感じ続けている違和感、此処はアレは何なのか
あの少女、どうも同じ気配を感じる...

捻じれた世界、あの神モドキの言う二つ存在した世界
反転したアレはもう一つの可能性、あったかも知れない
人間の成れの果て...御伽噺の様だ、だが自分の姿もそう変わりはしない

異形が機械化した腕から杭を打ち出し、幾つかの火器を放ってくる
そのどれもがあまりに遅く、鈍い、ぎこちない動きとは不釣り合いな
全身に継ぎ接ぎで付け加えられた装備が嫌に目立つ
何だと言うのか、少女の気配を感じると同時にその体はあまりにもガタが来ている

『...チッ、読めてきた』

激音と共に眼前に飛びこんでくる弾丸、止まって見える程に遅いそれを
気付けの為だけに微かに掠め、身から流れた赤い血液を確かめる

地球人と同じ、地球人の成れの果て
この体の持ち主と、目前の存在が嘗てそうだった者達
此方側にはその破滅が写っていて、私はそれを砕く...仕組まれている

色の無い世界、死に絶えた生命の気配
対峙するそれを破戒する事...そんな簡単な事が答えか?

『あの中に、まだ気配があるなら中身もある筈よね』

絶え間なく、手を変え品を変え仕掛けられる攻撃
その全てを跳ね跳ぶ刃が叩き落とし、砂煙が上がる

その度、削れた地表から嘗て存在した生命の気配が砕け飛び
幾つもの戦いの歴史が色のない世界に鈍く濁る輝きを見せる

噎せ返る生命だった気配、不思議と其れ等は執念や怨念の類は無く
ただ、空になった嘗ての器として記憶を脳裏に見せつける
皆何処か満足そうで、それでいて物悲しい終わりの記録

「これで良いんだ」

一つの声が聞こえた刹那、黒は借り物の体に自らが馴染む感触を覚え
つま先まで宿る自らである実感と共に大地を蹴り鋼鉄の異形へと跳ねる

幾つかの攻撃が体を掠め火花が散り
その度、体は痛みを理解し己が己として存在する全てが解る
今になって初めて身体がある、痛みがあると私が思い出している

此処に居た空になった全てもまたそうだった
彼等は二つの内の一つを選び、彼女はその介錯をし続けている
此処での死とは、此処での私とお前は...

『そうか...そうかい...そうなんだったら見せてみな...アンタの顔を』

握り込まれた刃は大きくうねりを上げてから一直線の硬質へと戻り
顔を覆い隠すように振り上げた腕の先全ての力を宿して悲鳴を上げる

遙か天、鋼の異形が此方を見上げ今も尚攻撃を続けている
人間の形をした悲しみの形其の者が、まるで泣き喚くように火を放つ

そんな他人の悲鳴を受け入れる程優しくはない
だが、それを殺す事が此処に居る私の使命ではない
それは奴等が狙う答えで、私の答えではない...私の答えではないのだ

「縺ゅ▲?趣シ趣シ弱≠縺ゅ≠縺ゅ...この化け物ぉぉぉッ」

聞こえない声、解らなかった声が、明確に同じ言語で脳裏に刺さる
奴から見れば私が怪物、破壊者、常に現れ続けた敵対者

道を失った世界に残された人々の行く末を決める存在
この世界の彼女は仲間を異形として錯覚したまま
次の輪廻へ開放する為に命を奪う役目を背負っている

何故彼女が、何故この世界でこんな事が起きているのか
推測でしか無い、確証はない...だが、この戦いの中で実感が体に宿った
事実と不理解...解らない、解らなくていい...今はその理解よりも先に

『あぁそうだ、化け物でいい...アンタの使命を終わらせてやるッ』

一閃、空から大地へ青い光が突き抜ける
互いの絶叫、破壊された異形の両腕と吹き飛んだ鋼鉄の仮面
世界の柱である異形が砕けた事で全てのバランスは崩れ
激しい歪みが体を揺らし、視界が歪む...

「お~い、どうしたの?もう丘に着くよ」

刹那の衝撃に飲まれ、結末は見えないまま
ドンと胸を叩く感触が宿り、意識は刹那の永遠から舞い戻る

平穏の世界、祈りを捧げるという丘に彼女の姿がある
色のある世界、自分と黒の境界が解らなくなる程に実感のある狭間
痛みと感触がそれは幻覚ではないと、形跡を残す

「すまない、問題はない...だが、聞かせて欲しい事がある」

黒の気配を感じられない...そうなのだろうか
今見えた己の戦い、黒の理解が事実なのであれば
この世界は、デモンバートル...神の言う二つの世界
そして彼が望み、この世界が迎える無とは何なのか

一閃の先、黒には見えなかった異形の素顔が
この体に全てが戻る瞬間、脳裏に焼き付いて思い出していた
君は、異形となってもまだ今と同じ微笑みを浮かべていた
あれは終りへの安堵だろうか...それとも