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羅亜堕 天落編:2 [光臨]


今此処に存在する己は自らで選んだ結果。
悔いることはあれど、恥じる事など無い。
だが、この存在が世界ごと変わるのだとしたら?
違った可能性を強制的に享受せねばならない、してしまったのだとしたら

どうだろう、興味深く憎らしい
好奇心と怒りが交互に精神を逆なでする、強大な理の渦。

輪廻か遺伝子か、表現するならば螺旋
絡み合った二つの色を持つ世界が捻じれたかと思えば
時に反発し、時に混ざり合い「知っている世界」だった

だが、ある朝、ある瞬間その世界は直線の二つに解け
我々はそれを理解しないまま、それが正しいそれまでと同じだと
なんの違和感もなく受け入れ生きている

それに気付いているだろうか
昨日まで確かにあったあの場所は?
あの日まで確かに居たあの人は?
君は覚えているか?姿が違う事に違和感を覚えた事は?

僅かな歪、変わる瞬間を意識した時
それはノイズとして記憶に刻まれる
だが...それもいつの日か忘れ、当たり前に呑まれてゆく

何が生命を生命足ると証明するのか
意識か、肉体か、将又別の何かか
今生きている私も、貴方も刹那の後には別の何かに変質している
そんな疑惑も、理が見えてしまえば理解し確信に至る

...見えたからと言って解に至るかといえば
それほど簡単な事象なら困らないと云うしかないのだが

もしこの世界にその解を超えて
絡み合う世界に取り残されたままの、言わば「空白」があるのだとしたら
そこに存在する命はどんな形をしているのか

その閉ざされた空白の箱を開けた時
其れ等はどうなってしまうのか
惹かれる何かが其処にはあって

「私はそれが知りたい」

理由としてはそれだけで十分だと、今は言い聞かせれば良い。
例えその答えが、鮮やかに映る禍だとしても。

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深い闇が其処にある
上下左右、全てを包むように漆黒がある

飛び込んだ禍と呼ぶべき深い闇の底
激しい風に包まれた数秒の後
体は漆黒の中でまるで静止し包み込まれたままある

『まるで私になった様でしょう?』

確かに、内に居る筈の黒が
逆転して己を包み込んだ...逆転した世界が広がる

落ちているのか、上がっているのか
感覚は薄く、止まっていると体は感じている
現に装束に備わるセンサーは全てが止まっている

此処が、この闇が目指していた声の先なのか
ならば内に存在する黒と何が違うのか
声が、黒に取って代わった手足が漆黒に溶ける様に
全ての気配を...心を止める

スッと僅かな一息だけ吸い込むと
体を形取る青が、仮面の銀の輝きが全て塗りつぶされ
他同様に忽然と漆黒だけが残り、世界となった

『私になる』

止まった心に「もう一つ」が容赦なく声をかける
煽る様に、何かを求める様に
怯える程の静寂、黒の中で否応にも精神は尖り
微かに、己の中の黒とは違う気配を察知する

『理解なさい聞こえる筈。いや聞こえるわ、もう煩いもの』

解らなければ此処に解はない
理解しなければ、これで終わりだとそう言っている

故に理解する、違和感として浮いた黒い声と四肢に
そこにあった筈の記憶と意識の声帯と四肢を重ねる

本当にそこに己はあったのかと思う程に希薄だった感覚が
血の通う感覚と共に強烈に流れ込む
激流の様に溢れる意識と感覚が己を黒と同化してゆく。

「やっと意味が解ったよ...これも作られた闇」

重く垂れ込んだ視界がいつかの様に鮮やかに軽い
フィルターのかかった聞こえの悪い耳も今は聞こえ過ぎる程
闇に落ち、闇と溶け、闇となり、己となる

そしてこの暗闇の中で我等が唯一ではないと
確固たる己を理解して初めて見据える

『目前。4つの回転する金属音、生命の気配』

「言わなくても解っている」

漆黒の先、微かに撓む闇の色が見え始める
鮮やかな虹のグラデーション、闇にそぐわぬ色が漏れ出て
自身の身の回り、周囲に広く混ざり込んでいる

「この先に何を求める」

まるで暗闇に浮かぶ皺の様に輪郭が動き声を発する
巨大な体、背後に音を放つ4つの光輪を持つ異形
回転する輪が色を撒き目で捕らえてもその姿は完全には定まらない

この音と闇に混ざる色が認識を狂わせ無へと誘っていたのだろう
外と内、二つの命で同時に知覚しても尚不気味に歪む影が問う

問い掛けが脳内で木霊する
4つの輪から不規則に響く音と声、動きが世界を歪める

「貴様は我等と同じに見える、故に何を求める」

声は続く、異様な声は刃となって体を傷つけ
反響し響く渦はその身を飲み込むように全体が呻きを上げる

これも幻覚だろうか、音が丸で描かれた円として目前に無数に浮かぶ
痛みと理解に至らぬ異質な状況、表現ではない正しく悪夢がある

「此処から先は我等の領域だ、悪意を通す訳には行かない」

斬らねばならない、さもなければ此処で終わる
目前のそれは敵か、斬ってしまえば見えかけた何かが霞む

二つの感情を黒の意識が覆い隠すように歌う
葛藤が呑まれ、黒の腕を歪め次第にそれは巨大な刃を形取る
何処かで聴いた懐かしい歌、不快で悲しく忘れたい歌

『私が歌ってあげる、耳を塞いでも中から聞こえる、怖くない』

刹那、静寂、無数に震え霞んだ視界が正常な一点を示す
暗闇、今ではそれが黒の中で完全に知覚出来ていた

己と己の中にある存在、その理解と共存
そしてそれ以上の彼方、完全なる歪へと存在が変わる
その瞬く間、己と黒はそれを永遠であるかの様に受け止め
静止した目前の異形をついに理解し、その腕を振るう

「これは、歪な...ッ」

光輪の異形の表情が歪む
振るわれた腕は天高く、異形の放つ虹色を絡め取ると
その刃に全てが集約され、色の混ざりあった結果生まれた闇は消える

幕が開く、言葉にするのならばその様に
刃に飲み込まれた闇はその切っ先を目前の光輪の異形へ定め
空を、その場をそのまま切り裂くかの様に構える

「理由を知りたいと言ったが、呼んだのはお前達の筈」

渦巻く黒が光輪の異形を捉える
奪い溜め込んだ色の力、そして自らの力が宿る刃が落ち炸裂し
鮮やかな破裂が幾重にも重なり空に跳ねる
そこは既に一面の青空で、落ちた筈の世界の空の上

『甘いわねぇ...ちゃんと倒さなきゃ』

黒が巻き起こす風が爆風をかき消すと
異形の光輪が砕け、無機質な仮面が此方を見据えていた
命を奪う必要はない、この穏やかな空、眼下の街並
彼はこの世界を護っている、侵略者は此方の方だ

『怖いの?代わりにやってあげる』

闇が腕を飲み込み肥大する
同時に体の奥から眼球の奥底から体の全てから黒が覆い体を縛る
強烈な拘束の痛みが自意識を完全に掌握する

手負いの獣を握り潰すだけの乱暴な拳が伸び
右半身を締め上げ痛みを伴う中で拒む心が抵抗する

「やめろ、こいつは...ッ!!」

問答無用というのか、黒の意識は全身を支配し異形を狙う
張り裂けんばかりに肥大化した腕が限界を超え
猛烈な勢いと共に振るい落ちる、空を切る音がまるで悲鳴の様だ

悲鳴、とっさに声を上げていたのかもしれない
肥大していても尚明確に残る感触が異形を砕く
...その瞬間、何か違う強烈な熱と硬質な感触が腕を刎ねた

「そこまで!...もうお止めなさい」

突き刺さる声、目の前に突如として現れた光
歪な、もう一つの異形が全壊を狙う黒の腕を軽々と掴んでいる

「...お前は...!?」

無数の要素が絡み合った四肢
しかしその体はラアダと酷似した同族の者に見える
そして鈍い光、まるで奥底から輝く気配が漏れ出ている

「主、自ら御出に...不覚を取りました」

黒との極端な融合により嫌が応にも研ぎ澄まされた神経が
その存在を克明に記録し、そして次の瞬間激しい光に目が焼かれた

「よく頑張ったね。ミラージュは僕の大事な家族なんだ、奪わせはしない」

極光の中で声が響く。闇の次は光の中。
無や死は極限までの白だと聞いた事がある
ならば自分は...黒に呑まれる自分は何だというのだろう

「そして、君を待っていた。少し話をしよう」

雲ひとつ無い鮮やかな空の上
微かな炸裂の後、眩い光が炸裂し消えた

白と黒の邂逅、最も近く遠き者
神と呼ばれた異形が指し示す先は終わりか、始まりか

天に堕ちし者が看る世界はあまりに鮮やかで穏やかな
これではまるで、この世界の悪意は何方か
何も解らなくなる、解らない。見えなくなっていた。