夜が来る、そこにあるのは暗闇と人の欲望
その数だけ力が生まれ、意味のない戦いが今日もまた繰り広げられる

それが人間だ、そう言ってしまえばそこまでかもしれない
だが、その闇の中にいるのは本当に人間だろうか
ルールの中で規則正しく生きている者の中に、そこから外れた何かが潜む

「人は”ステキ”ねレガシー」

「ええ、そうですね。ほおって置いても勝手に争い勝手に狂うのですから」

闇夜にあっては何も見えない
そこにいた人間が消えようが誰も気に留めない
そこにいた人間の代わりに新しい人間がその場に納まるだけ

「可哀想」「寂しい」そんな飾り気のある言葉はない
そこにあるのは無残な死と、その死後に来ても尚その体をパーツ単位で利用される悪夢
最早それは道具以下の扱いであり、即ちそれは単なる「塊」でしかない

ケタケタと笑いながら、まるで菓子でも作るかのように
彼女は狂える怪女子によって生み出された、もう一度。
それは悪夢の終わりであり、始まりであり死すらも許されなかった哀れな者
その日、アウトゥラは生まれた、後悔すらも浮かばぬ気持ちの悪い感覚の中で。

「出来たわレガシー、私達の子。凄く変だけど可愛いの...大事にしなきゃね」

「ええ、ええ。しかし歪ですね...そこが実に美しいのだけれど」

人間の体に伸びる機械の手足、それはあまりにバランスが悪く
まるで何の考えもなく繋ぎ合せた化け物に近しい何か
顔と体だけが人間の女性の柔らかなラインを形成する、それは正に異形。

指先まで漠然と繋がった感覚が指を動かし、意識が唇を振るわせる
言葉にしなければいけない...だが、言葉が思い出せない
全てがどこか遠くにあるような感覚、異音が思考を遠ざけていく

「...あっぁぁ...あぁ!!?」

何かが解った気がする、解ってはいけない事が
目前にある顔、女、二人...その先に見える棒のような腕
私の腕、私は人間、私は...私は...

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」

声が、絶叫が響く。暗い室内、機械を作り上げるような装置もない
ただ無駄に広い、そして暗い部屋に叫びが響く

そして、液体の中で悲鳴をあげた異形は
その体に巡る力を振り絞り、その世界から飛び出した

無意識に体がカーテンを掴み、引きちぎり高い窓から飛び落ちるように
彼女はこの街の闇の中へ帰った、もう人へ戻ることはない異形として

息を切らし、ただひたすらに走り逃げた。
「あの二人は追いかけてくるだろう」という恐怖を背に
「己は誰だという」疑問と、無くなった真っ白な思考を掴んでただ走った。

街の中、誰もいないビルの鏡面の己の姿が移る
その姿は最早自分ですらそれが何なのか理解できない

「...?何だ?私は...メアリーの...それは本当の事?あれ?」

止まれば頭が狂いそうだった、故に走った
そして彼女のエネルギーに限界が来た時、救いの手が彼女に伸びた。
...それがこの事件の始まりである。

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人が人あらざるものに人間性を求める時
それは即ち狂気の類に分類されるが、その思考自体が元より狂気の世界にあるとすれば
それを求め行動することは極めて正常と言える。

アウトゥラの体を調べ、彼女に適したエネルギーを補給するアキが
ふと、頭に想定した彼女の誕生の経緯
それは考えれば考えるほど理解しがたいが、自身が追い求めた亜空間の力
亜空人間となり力を制御することも同じではないか、そう思うと否定はできない

「よし、これで体は自由に動く。原理としてはロボットと同じだが、お前はちゃんとまだ人間だ
言うならば完全に思考や神経系とリンクした義手と義足を付けている状態という訳だ」

秋の言葉を受けたアウトゥラが表情を曇らせると
自身の機械の腕を見つめ呟く

「人間...人間か、だがこんな姿ではどう生きていけばいいのか」

既に人ととは遠き姿、そしてこの世界は彼女の世界ではない
言わばこの場所に居場所はない、元の世界に帰ったとしてもそれは同じだ
彼女は遊び半分であの化け物達に改造された被害者でしか無い

「それは、全てが終わってから考えよう。私達がついてるから、大丈夫だよ」

葉子もまた声をかけると、アンチヴィランがアウトゥラを整備用ベットから抱え上げる
ゆっくりと支えられたまま地面にたったアウトゥラの全身にエネルギーが回る
穏やかなその表情に数時間前までの緊迫した苦しさは感じられない。

『ん〜そうだな、終わったら僕と組まないかい?この街を守るヒーローになるんだ』

アンチヴィランがアウトゥラの手をとると、姿勢を下げ、目線を合わせて問いかける
それはこの世界で生きて行く理由、そして彼女の居場所をアンチヴィランが勤めようというのだ

『僕等の住む裏の街なら義肢ぐらいじゃ目立たないし、普通に暮らせるよ』

アウトゥラがアンチヴィランを見つめる...が声は出せないでいる
余りにも無償の優しさ、巨大なその体の中に子供のように無邪気で
輝きすぎているようにも感じられる正義が見える、彼に何があったというのだろう
アウトゥラは自分の先の未来以上に、アンチヴィランの心に惹かれ始めていた

「未来の話をすると死期を早めるぞ、さぁそろそろ時間だ。今回も勝ってこい」

外は既に闇が支配し始めている
化け物達の時間の到来をアキが告げると、ガレージのシャッターを開ける

葉子、アンチヴィランそしてアウトゥラの3人がそれぞれ戦闘形態へと変貌し
異形たるエレジーとレガシーに対抗する為、武装と移動補助装備を身につけ
アンチヴィランはバイクモードへと変形する。

「こんな時に矜持君がいればなぁ...あんな奴らチョチョイのチョイなのに」

『ふふっ、そうだね、シュリョーンが二人の力で戦えたらもっと楽なんだろうけど』

各マシンが起動する轟音の中で、まるで世間話でもするように会話を繰り広げると
アウトゥラを背中に乗せたアンチヴィランとシュリョーンが勢い良く飛び出していく

アウトゥラとその完成までの犠牲となった者達の自由を駆けた戦い
その時は近付いている、その先にあるのは激しき衝突と力の葛藤。

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