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自らの所有物、アウトゥラを取り戻すべく
エレジーとレガシーは今夜もまた町外れの再装填社への道を往く。

決して早くはない、しかしなにか違和感のあるその足取り
彼女等は全てにおいて何かがずれており、違和感と言う名の気持ち悪さがある

その評定は極めて明るく、なにか嬉しい出来事があるかのように笑を浮かべている
スカートが揺れ、体全体がふわりと浮いたように軽く跳ねる
それが何人もの人間をパーツ単位に分解し繋ぎあわせ続けてきた
最早、冥府魔道の異形をも超えた現世における狂気の怪物化した存在であるとは
傍から見れば誰も解らない、だからこそ違和感が生まれる

「あれ、この感じ...来るわね、レガシー」

「ええ、そうのようですわね、エレジー」

その足が、青葉生い茂る公園に差し掛かった頃
強烈なまでの現世にはない力を感じ止まる。それは確かに昨晩感じた力
求めていた物はどうやら向こうから現れたようだ。

『そこで足を止めてもらおうか、化物お姉さん』

エレジーとレガシーの行く手を阻むようにアンチヴィランが目前に見える
バイクの姿をしたその上にはアウトゥラが座り二人を睨みつけている

深夜の公園、広場に静寂と緊迫した空気が突き抜ける
人が生きる世界において、今存在するのは異形のみ

「自分から出てきてくれるなんて..うれしいわぁ、私の可愛い子」

エレジーが歓喜の声を上げ、アウトゥラへとまるで警戒する様子も見せず
まるで可愛いわが子に再開したように大きくてを広げ抱きつこうとする

「寄るな外道、お前のような奴に馴れ馴れしく近づかれる所以はない」

が、しかし次に瞬間にはその頬に傷が入る...が血は出ていない
アウトゥラの手に仕込まれた短い刃がエレジーの顔をかすめたのだ

アウトゥラは間違い無くその瞬間にエレジーを仕留めようと動いていたのだが
確かに刃を当てた、次の瞬間にはエレジーはアウトゥラの手を握り返していた
強い言葉で応戦はしたが恐怖が、「殺される」と言うストレートな感覚が心を支配する

「痛い...痛いわ、行儀も悪い...何処でそんな下品な手段、覚えたのかしら」

握られた手に人間らしい見た目からは想像もできないほどに強い力が篭り
アウトゥラの機械の腕が悲鳴をあげる、そしてその衝撃が伝わりアウトゥラに痛みを与える
その痛みの先に、目に映るエレジーの姿は人であり人ではない、異質な力がだんだんと大きくなっている

アウトゥラは声を押し殺し耐えるが、一瞬体が浮いたかと思うと
その苦痛は取り払われる、目前に目をやると
アンチヴィランが姿を変え、エレジーへ突撃するようにぶつかっていく姿が映る

『おっと、そこまでだ...お姉さんが何だかは知らないけど、酷いやつなら倒すまでっ』

突然変化し、自身の体を吹き飛ばす勢いで攻撃を仕掛けてくるアンチヴィランに対し
エレシーは少し驚いた表情を見せるも、状況を理解すると
相変わらず怒りの表情を浮かべたまま、アンチヴィランにも劣らない力で両手を掴むと押し返してくる

互いの両腕が全力の力で組み合い、一進一退の様相を見せる
流石に異形であってもその姿は人間である以上、力に限界はある
戦闘用として作られたアンチヴィランに分があるのは間違いないが
それでも互角以上の力を発揮していることに、驚きと恐怖を感じることは間違いない

その状況を察知したレガシーがエレジーの援護に入ろうとするが
その目前に緑の光を放つナイフが刺さり、その足を止める

「エレジー、今私がっ...とっ!?新手ですか」

投げかけられた声を跳ね飛ばすように、シュリョーンがアクドウマルを振るうと
レガシーの髪を数本切り、そのまま風に飛ばされる

「もう一人いる事を忘れない方が良いですよ」

両腕で強く握りこまれた刃が
レガシーごとその場全てを切り裂くかの如く轟音を立て空を切る

既の所で刃を交わしたレガシーも宙返りの合間にその右腕を刃に変質させると
地面に足を踏み込み、跳ね上がるとシュリョーンに向かい飛び込んでくる
刃と刃のぶつかり合い、飛び散る火花と互いに違う強烈なエネルギーのぶつかり合いが
深夜の静寂を打ち破り、金属のぶつかり合う音が鳴り響く

「中々やりますね、貴方方、その姿含めて興味深い」

レガシーの声に仮面の瞳が一瞬細待ったように感じられる。
一瞬の怒り、アウトゥラの事を思えばシュリョーンたる葉子の感情は高ぶりを見せる
そして、その怒りが一瞬互角の力を上回ると、瞬時に出来た隙を突くようにレガシーの腕が高く跳ね上げられる

「っ!?なんですこの力はっ...しまった」

高く上がった腕、隙だらけのレガシーの体をシュリョーンがまるで乱暴に蹴り飛ばすと
次の瞬間には姿勢をただし、刃に力が宿す。

「一気に終わりにしてあげる、アンタ達みたいなの大嫌いなのよ!!」

アクドウマルが赤紫の光を放ち、シュリョーン全体を包むと
未だ姿勢を崩したままのレガシーに向かい強烈な一撃を放つ

「偽善...いや、今回に限りっては、悪党!一刀両断!!」

アクドウマルに宿った力がまるでビームの刃かのようにその刀身を巨大に見せると
大きく横に構えた刃がレガシーを意図も簡単に一刀両断する

1秒の間に人の感覚を焼き切るように、次の瞬間には肉を焼き
レガシーを構成する体のパーツがキレイに上下機で分割されると
そのまま上半分が吹き飛び、地面に勢い良く落ちると完全に動きを止め
下半分も力なく崩れ落ちる...しかし、そこには血が流れていない

「...血も内蔵もない!?彼女も人形だとでも言うの!?」

亜空力の熱と摩擦により巻き起こった炎でその断面に火が出ているものの
確かに目前の存在は人のようでいて人ではない、人であるためのパーツが存在していない

そして次の瞬間には吹き飛んだ上半身が腕の力で立ち上がり
下半身に向かい動き始めている、彼女もまた自身を改造した異形である
...そう考えて間違いはないだろう

「..フフッ、驚きましたよ。加えて言えば油断していました。
素晴らしい力です。ですから力ある貴方に敬意を表して、私のタガも外させていただきましょう」

様子を伺うシュリョーンを尻目に、レガシー言葉を放つと
その姿は分断された上半身と下半身が見る見るうちに繋がり
そして次の瞬間には何か見たこともないような異形へと変貌している

言うならば人間のまま、各部が異形へと変貌したような姿
かつて戦った宇宙人に近いが、それよりはもっと生命的で不気味な姿

「それが正体、というより、自分も改造した結果...異形、ならば切るまで。」

その存在は把握できない、しかし状況は把握出来る。
シュリョーンは再び刃に力を込めると、レガシーに対し戦う姿勢を見せる

「出来るものならやってみなさい、弱い人間がどこまで戦えるのか興味深いですからね」

真っ赤に染まった体、両腕が刃となり、顔は真っ黒に染まったスキンヘッド
服装は焼けて朽ちた制服がまるで戦闘服でもあるかのように体を覆っている
最早何と形容すべきかは解らない、各部がチグハグでありながら均等が取れている
それはまるで「より良い改造」を自分自身に繰り返した怪物

「上級種気取りも大概にしろ、その傲慢な精神私が叩き切る!」

シュリョーンとレガシーの刃が叩き合いぶつかり合うことで激しい音を立て
それと同時に言葉も互いに力としてぶつかり合い、火花を散らす

『お姉さんもああいう化け物の姿があるわけ?』

アンチヴィランの弾丸を刃の腕でエレジーが叩き落すと
組み合い融合した5本の指の先の爪が指から離れ
アンチヴィランに弾丸として放たれるが、アンチヴィランもエネルギー砲で応戦し
一進一退の攻防が未だ続いている

「ええ、勿論。でもまだ見せてあげないわ...それに価する力を見せてもらってないもの」

まるでアンチヴィランを煽るようにエレジーが言葉を繋ぎ
その間も無数の爪がまるで弾丸のようにアンチヴィランを襲う

『その割に、距離をとって接近戦は避けてるようだね。じゃあこれはどうだいっ!』

アンチヴィランがエレジーの視界から消えたかと思うと
次の瞬間バイクモードへと姿を変え目前を猛烈な勢いで駆け抜ける
...その刹那、エレジーの体に強烈な痛みが走る

「ぐっ!?いつの間に切られた!?...あぁっもう!何なの小賢しい」

周囲をアンチヴィランが駆け抜けるたび、エレジーの体に痛みが走る
応戦しようと両腕を刃に変化させ乱暴に振り回すが効果はなく
次第にその体を傷が覆い尽くすが、レガシーと同様に血が一切出ていない

『さぁ、これで終わりだよ。バスターモード!さぁ本当の姿をさっさと見せなさいな!』

アンチヴィランの持つ全ての銃火器がエレジーを捉え一点に砲門を向けると
色とりどりのエネルギーが折り重なり熱と光の激流を創り上げる

「チッ...案外やるじゃなっ...がぁぁぁ!!?」

完全に翻弄されたままのエレジーがアンチヴィランを視界に捉えた瞬間
その正面には既に攻撃は迫り、避ける暇もなく全てのエネルギーが直撃する

『これでも生き返るって言うのかい?』

その熱で体を覆う皮膚も、何もかもが溶け、消え去ったたように見えた
...が、しかし。彼女もまたレガシーと同じくまだ死ぬ事は無く
全てが消え去り焼け焦げ、火のついた地面に次第にシルエットが舞い戻る

「フッ..ククッ、当たり前じゃない。でも熱かったわ...それに痛い。アンタ絶対殺してあげる」

まるで砕け飛んだ粒子が一つ一つ再構成していくように
次第に姿を取り戻していく、だがそれは先に変貌していたレガシーとは色が違う
青い体に無数の棘と派手な服を着たような体を覆う鎧を着た異形が立っている

喋ってはいるが、レガシーと同じく黒く人間の形だけを形成するそれは
頭髪すらない真っ黒な形にしかなっていない。

体が異様なまでに色とりどりのパーツの集まりなのに対し顔だけが何もない
そのアンバランスさが極めて気持ち悪さを際立てている

『思ってたよりずっと化物だね...まっ、僕が言えた立場ではないけど』

アンチヴィランとシュリョーン、互いが敵の本来の姿を引き出し
戦いは更に激しさを増していく、タイムリミットまではまだ遠い
この戦いに残された道は、この目前の異形を倒すこと

...だが、それは想定した以上に難しい壁であり
対峙しているソレは、余りにも狂える怪物である事に
彼女たちはまだ気がついていない...故に戦いの向く方はまだ見えないでいる。

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異形としての本質を表したエレジーとレガシー
その姿は宇宙人でも、異世界の怪物でもない
その目前に存在する赤と青の異形は人間である。

この世界の中にあって、自身の体を改造し
様々な要素を取り込み続けたことで体は変貌し
次第に人から離れ、結果として『何でもない』そして『何にもなれない』
言わば形容できない化物へと変わったのだ

そこに到るまでには、手段は解らないが別の世界の技術も入り込んだのであろうか
現実ではありえないまるで人間とは遠い硬質化した皮膚や刺
そして何より何の個性も持ち合わせない黒い顔、その全ては不気味に折り重なっている

彼女たちが人間の姿の時に放っていた違和感
それは、この姿が隠しきれない異端の気配を常に放っていたからに他ならない
使用法も、限界値も知らずに欲望のままあらゆる要素を取り込んだそれは
かろうじて人間の姿を留めるてはいる、だが御世辞にも美しいとは言えない。

「綺麗でしょ、この姿。色んな物が混ざって色んな世界が私の中にあるの」

青い体は服と体が溶け合ったような形を形成し
黒い素体を覆い隠すようにまるで鎧ででもあるかのように
それでいて黒い部分との境目に段差は一切無い、奇妙なバランスで成り立っている

「レガシー、この姿になっちゃった以上もう加減もいらないでしょ?一つになりたいわぁ」

エレジーが声を上げると、シュリョーンと刃を交えていたレガシーが後方へ跳ね退き
自身の変化させた腕を元に戻すとエレジーの隣へと並び立つ

その周囲には二人の体の色と同じ色の靄が浮き出ている
それは彼女等の持つオーラその物が色を持ち、まるでその体を守るかのように現れている
そして、その靄の一つ一つが2人の体にまとわりつくと
エレジーの体にレガシーが絡みつくように抱きつき、互いの色を混ぜあっていく

「...何をしてるの..!?」

次第にエレジーとレガシー体は靄が創りだしたエネルギーの繭に包まれると
完全に一つとなり、シュリョーンとアンチヴィランが手を出す暇もなく
それは最初から一つのものであったかのように、巨大な影へと姿を変える

『もう何がなにやら...アウトゥラ、あれなんだか分かる?』

余りにも急展開を見せる、勝手が過ぎる2人の異形に対し
アンチヴィランが助けを求めるように後方で戦いを見守っていたアウトゥラへ問いかける

「いや...奴らがあんな姿だった事も今知った位だ。だが解ることが一つある。
あの力、オーラの靄は明らかに私がいた世界の力だ」

アウトゥラもこの状況は全く想定していなかったようだが
ひとつだけ分かった大きな収穫、それはあの力がアウトゥラの世界のものであるという事実
やはり異世界の力を無理やり引き出した結果、あの二人は人でありながら異形へと変貌したのだ

「まぁ、何というか...とんでもなくヤバそうだよね」

胎動を始めた巨大な繭が、今正に目覚めんとしているのか
次第に各所がヒビ割れはじめ、その中に潜むさらなる異形の存在を予感させる

ただでさえ、理解し難い存在であるエレジーとレガシーという怪物が
一つの新たな存在へと変わる、普通に考えればありえないことだが
今までの狂気すらも超える意味の解らない個性と言うには強烈すぎる言動
そして人を人とは思わない残忍さを考えればこの程度は驚く程の事象ではない

では、今何が出来るだろうか...と言われれば、事が起きる前に
この世界にとって害となる存在を消す事の他にすべき事はない。

「じゃあ、取り敢えずあの繭を叩き斬ってみるから...出てきた瞬間一斉攻撃を頼むよお二人さん」

目前にそびえる巨大な塊、それがこの世界のルールと同じ原理であるならば
中で一度溶け、混ざり合って形を形成する筈である
それ即ち、その間に破壊すれば最も簡単にあの化物を排除できるというわけだ

『でもさ、それって失敗フラグって奴じゃない?』

体に装備された全ての重火器を正面に構え
アンチヴィランが攻撃の姿勢を見せるが
この作戦の失敗の可能性の高さに不安感が言葉に出てしまう。

「...まぁね、でもまぁ出たら出たで叩き潰すしか無いし」

シュリョーンも刀に力を込め、今正に繭に向かい飛びかからんとはしているが
自分で言い放った言葉に若干の不安感があったことは確からしい
だからといって、今出来ることはただ一つである事は変わりないのだが。

何分時間がない、そうこう会話をしている今正に繭は呻きのような音を上げ
次第にヒビ割れが広がっている、実は上手く行くかも知れなかった作戦が
次の瞬間には立派な死線越の脅威になっている可能性だって十分にあるのだ

「んじゃ、行きますよ...ふんっ..!でぇりゃぁぁぁ!!」

高く舞い上がったシュリョーンが目前にそびえる繭に向かい刀を振り上げる
その刀身には夥しい量の赤と紫のエネルギーの帯がまとわりつき
次の瞬間には斬撃と共にその全てのエネルギーが繭に向かい爆散し炸裂する

「これで終わらず..もう一発!」

第一波が炸裂し無数の白煙が巻き上がると
そこを目がけて更に強烈なエネルギーの並を放ち続ける
そしてその背後から波に続くようにアンチヴィランも全てのエネルギーを放つ

乱暴なまでに放たれる亜空間の力を持つ者の一撃
それらが全て繭に直撃し、次第に入り始めていたヒビ割れが進行するように大きく伸び
最早、僅かな繋がりで張り付いたその外殻は今にも割れようとしている

「これで最後!砕け散りなさいっ!」

最後の一閃、赤と紫のエネルギー波が直撃すると
まるで一本の紐が切れたように強固な外殻を持った繭が崩れ落ちてゆく
まるでビルが倒壊するようなその光景は、その中に潜む巨大な何かを予期させる
それだけの質量の何かが中に潜んでいるのだ、考えただけでも厄介極まりない

...のだが、既に外殻が崩れ落ちたというのに
その内容物が液体であれ個体であれ、流れだしても出現もしていない
その事実は直感的に「既に遅かった」と伝えているようにも感じられる

『やっぱりちょっと遅か...っ!?』

巻き上がる煙の先をセンサーがスキャンし、アンチヴィランの目に情報を示す
通常の動作の中に一瞬影が写ったように見えた
故障はありえない、半生命であり人間と同様に自動回復するのだ
「では今の影は何だ?」アンチヴィランが思考を巡らせた次の瞬間、激しい衝撃が体を襲う

『ぐっ...なんだっ!?』



背後からの衝撃、突然の一撃にアンチヴィランの思考は一瞬途切れ、体は煙を上げ
繭の残骸の方へと吹き飛ばされる、かなりの重量のあるアンチヴィランを一撃で
意図も簡単に数十メートルの距離を吹き飛ばした...その目の先に影、正体が見える
回復した視界の先、そこに写っているのは巨大な”何か”に掴まれたアウトゥラの姿だった。

「アンチヴィラン!?...お前はエレ..いや!?一つに..なっている!?ぐっ、ぬっ..」

アンチヴィランの後ろで援護に回っていたアウトゥラをまるで人形であるかのように
片手で軽く持ち上げた巨大な影...赤と青の入り交じった怪物
色、そしてこの状況から判断できることは一つ、その化け物の正体はエレジーとレガシーである。

繭の中で融合し人間の姿を捨てたのだろうか
最早女性的な要素は影を潜め、単なる巨大な怪物となったそれは
アウトゥラを持ち上げると、その腕に力を込める

「なっ何を..あ!?がぁぁぁっ!?」

掴んだアウトゥラの腕を怪物が何の躊躇もなく引きちぎり
無数の液状エネルギーと血液が噴出し怪物を染め上げる

既に機械の体であり、それによって死に至ることはないが
人間と同様の感覚、痛みを感じる体で突然として腕を奪われた衝撃で
アウトゥラは絶叫し、全身を震わせ力なくうなだれる

「アウトゥラ!?何なのあれ...本当に怪物そのものじゃない」

シュリョーンも怪物の姿を確認すると、アウトゥラを救出すべく
遥か上空からその身にある全ての武装に亜空力を流しこみ投げつけた後
自身もエネルギーに包まれさながら弾丸のごとく突進する

『くそっ僕がついていながら、今ッ..今すぐ助けるっ』

アンチヴィランも地上から怪物に向かい攻撃を仕掛ける
陸と空、両方からの強烈な攻撃が怪物へと迫る
しかし、怪物はそれを意にも介さず、アウトゥラのもぎ取った腕を投げつけると
次はその首に手をかけようと開いた右腕を伸ばす

「そうはさせないっ...」

手が首にかかろうとした瞬間、シュリョーンが猛然と怪物に突撃を仕掛ける
激突の衝撃と先行していた亜空ナイフ、スライサーが突き刺さり
既の所でアウトゥラはその巨大な腕から跳ね跳び解放される
しかし、突撃を受けても尚怪物は吹き飛ばずそのまま刃を受け止め押し返さんと力を込める

【...フフッ...アハハッ】

大きく開いた怪物の口から、エレジーとレガシーの笑い声が反響する
そこに意思は感じられないが、明確にあるのは破壊の衝動
その圧倒的力はシュリョーンの全力を込めた一撃ですら受け止め跳ね返す乱暴なほどの力を示している

「止められた!?...何なのこの力!?」

シュリョーンの刃から赤と紫、そして最大の力を示す緑の光が強烈に発光し
怪物を打ち砕かんと炸裂するのだが、右腕だけで簡単に受け止められてしまう

『僕のことを忘れてるんじゃないの!』

シュリョーンの攻撃を受け動きを止めた怪物に、アンチヴィランも突撃を仕掛ける
残された砲弾全てを放つと、脚部よりナックルガードを展開し突撃形態へと姿を変え
そのままエネルギーを開放し全開の力で攻撃を仕掛ける

『アウトゥラ、動けるなら今の内に逃げてッ』

シュリョーンの攻撃で飛ばされたアウトゥラにアンチヴィランが声をかけると
そのまま通り過ぎ怪物の胴に向けエネルギーを込めた強烈なナックルを打ち込み
それを高速で何度も繰り返す...が、衝撃こそ与えるもののダメージが無いように見える

「アンチヴィラン、どうもこのバケモノ、バケモノの中でも相当な問題児みたいよっ」

一瞬の隙を付き、シュリョーンが怪物の腕から刃を引き抜くと
若干、その腕を形成する皮膚が切り裂かれるがそれを気にする様子も見せず
シュリョーンに向かい重く鋭い一撃を放ってくる、避けは出来ても反撃は難しい状況である

『解ってる...けど策がない』

シュリョーンへの攻撃に気を取られた怪物に対し
アンチヴィランはホイールユニットからブレードを展開
回転ドリルと化した前輪は怪物の硬い体を切り裂くように火花を散らすが
やはりかすかな傷をつける程度、決定打にはならない

2対1、数的には有利だが攻撃のほとんどが意味を成していない
圧倒的な窮地である上に打開策がない

【ククッ...アハハハハッ!!】

2人の攻撃を全身に受けて初めてその存在に気がつくように
怪物は反応し攻撃を仕掛けてくる、その口から漏れる笑い声は
怪物である見た目とは明らかに違う異質な声、不気味な恐怖を煽る姿である

そして、その笑い声が次第に大きくなり
次の瞬間に途絶える...その直後、激しい光が怪物の全身から発せられる

【全員消えなさい】

冷淡な声、ただ一言、声を上げた怪物の体中から
刺のような大小様々なエネルギー結晶が放たれる。

高速で撒き散らされたそれは無差別に撒き散らされ、シュリョーンとアンチヴィランに直撃する

『ぬ...だぁぁぁッ』 

「痛っ...アウトゥラだけでも!

激しい光の煌き、それは見る分には美しいが
攻撃としては無差別、そして余りにも強烈な一撃

巻き起こる砂煙と、周囲の壁は砕け公園の遊具も無残に歪曲している
まるで爆撃でもされたような異様な光景の中に怪物の笑い声が反響している

「ぐっ...ぬっ..やられた...アンチヴィラン、大丈夫!?」

咄嗟に背後に亜空力のシールドを張りはしたものの
シュリョーンは全身にダメージを受け、そのエネルギーもすでに尽きかけている

『マズイよ、両腕が動かない...いや、もう全身無理かも』

瓦礫の中で、身動きを取るのも危うい状態まで深刻なダメージを受けた二人
亜空シールドによりアウトゥラはなんとかダメージを与えずに済んだが
彼女は既に致命的なダメージを追ってしまっている、何より早く彼女を助けねばならない
しかし、自分がこの場から生きて逃げることすら危うい...万策は尽きた

【フフ〜...ククッ、フフッ】

動けない亜空戦士たちを見つけると怪物がゆっくりと迫る
まるでそれは獲物を追い詰めた強者その者
最早自我でも何でもなく、野性的な直感だけでそれは動いている

『不味い、せめてアウトゥラだけ逃がさないと...くそっ!動かない』

アンチヴィランが悲鳴にも似た声を上げる
怪物の足はもうすぐそこまで迫っている、一歩ごとに地響きを立てるそれは
まるで命の残り時間を告げる秒針、終わりの時を告げる音のように聞こえる

「先にこっちにしときなさいな!!」

何とか気をひこうと、シュリョーンが残る力で亜空チェーンを伸ばすが、硬い皮膚に跳ね除けられ意味を成さない
あらゆる手段、最後の悪あがきすら全く意味を持たず
先にアンチヴィランの元へとたどり着いた怪物の腕が高く振り上げられる

『っ...』

巨大な手の影がアンチヴィランから微かな光を隠す
次第に迫り来る腕は本来ならば相当なスピードのはずだが
まるでスローモーションかのようにゆっくりと動いて見える...電子脳が思考を拒否しているのだろうか

最早これまで、自身の最後の瞬間を感じ取ったアンチヴィランが
声にならない声を上げる...が、その巨大な腕は自身を砕くことはなかった

「お前...よくもまぁ俺の大事な嫁に仲間を...死晒す覚悟は出来てっか?」

アンチヴィランを隠した影が形を変えている
モニターに写ったその事実に気がついたアンチヴィランが驚いた表情を見せる

『あっ...ああっ...君は』

頭脳内の声のデータが告げている、目前の存在はシュリョーンであると
しかし横には葉子が変貌したシュリョーンが倒れている
そして聞き覚えのある声がする...最後の希望そんな単語が脳裏に浮かぶ。

「嘘...矜持..君?」

葉子もまた驚愕の声を上げる、そこに居ないはずの人間が
変わらぬ姿で、同じ声で、自分たちの窮地を救い出した事実が
まるで死の恐怖から逃れるために見た幻であるように、真実を受け入れる予知を作らない

「悪い、遅れた...後でこの詫びは倍返しで一つ。でだ、葉子。力を貸してくれる?」

握られた見覚えのない刀が怪物の腕をなぎ払うと、大きく振り上げた足が
怪物の顔に直撃し、そのまま地面に叩き付けられる
その力は以前よりも明らかに強くなっている、見た目は同じだが湧き出る力がその身を覆い
漠然と何か全く別の姿を形成しているように見える。

「もちろん...でも、どうすれば良い?」

「何、簡単な事よ。前と同じで二人で融合変神だ。さぁさ、お手を拝借」

葉子が桃源の手を握ると
二人のシュリョーンが強烈な赤・紫・そして緑の光に包まれ
その直後には二人の体はひとつの強力な力を放つ変神へと姿を変える

『あれは...今までのシュリョーンじゃ...ない?』

全身に浮き出た亜空間の力を示すライン
強く大きく伸びた角、開かれた胸の金十字
そして、その奥に宿る新たな力の結晶が強烈な光を放つ

生まれ変わった姿...否、それは真なる姿
真・シュリョーン。二人の命が一つになる時、この世に生まれる亜空の力の化身

【アァァァァ...ククッ、フフッ】

立ち上がり、再び不気味な声を上げる怪物
その怪物に対しシュリョーンがその手に握る刀を振るう

新たな刃・ガドウマルが空を切ると、亜空力の斬撃が怪物に襲いかかり
その硬い皮膚に一直線に傷をつける

「「この力でもその程度か...恐ろしいバケモノだな」」

軽く言い放つとシュリョーンが力強く地面を蹴り
飛び上がると怪物に強烈な蹴りを食らわせ、そのまま反動で後方へ反転すると
更に着地の勢いを利用し一直線に怪物に斬撃を加える

【ギィィィィィッ!?】

一閃、怪物の凶悪な表情が左右で半分に叩き割れる
明確なダメージはこの一撃が初めてであり、怪物が絶叫を上げる
完全であると確信した異形が不意なダメージに恐怖の声を上げる

「「何だ、もう根を上げるのか...じゃあこれはどうだ?」」

着地し刃を振るい怪物と一定の距離をとると
仮面の目前の刃を構え、力を込める。
するとその背中に巨大な亜空力で形成された羽が出現する

その色は緑、最大級に放出された亜空力を現世で実体化した最大の色
その羽根でシュリョーンが高く舞い上がると
遥か上空から怪物めがけ一点集中で降下を始める

「「亜空開放...我道突貫ッ」」

一直線の強烈なエネルギーの一閃が迫る
怪物がそれに向けて全身、そして口から高圧エネルギーの刺を放つが
そのすべてがシュリョーンに吸収され、更に強烈な力をまとうエネルギーとなる

一瞬、また一瞬距離が縮まり
猛烈なエネルギーの刃と化したシュリョーンが怪物の体を貫く
激しいエネルギーとエネルギーのぶつかり合いで眩く輝く。

超速の激突の刹那、光が見えたかと思うと
怪物の体は円形に巨大な穴が開き、貫いた先にシュリョーンが刃を構えている

『凄い...あのバケモノを倒しちゃった...っ、アウトゥラを早く』

余りにも鮮烈な戦いを目にアンチヴィランが呆気に取られ見入っていたが
亜空力の放出のおかげで体の中にエネルギーが戻り、動けるようになると
変形し、倒れたアウトゥラの元へと向かう。
腕を吹き飛ばされてはいたが、バイク形態になればアウトゥラを一人乗せる位は難はない

「「闇を透過し光とす、我道の刃...変神シュリョーン、ここに再臨。」」

「バケモンよ、手を出した相手が悪かったと思いなね」

怪物が完全に消滅すると、シュリョーンも変神を解除する
桃源と葉子が元の姿に戻ると、アンチヴィランの元へと駆け寄る

「大丈夫!あぁ、もうこんなにボロボロに...」

「すぐアキの所に戻ろう。...しかし随分とまぁ恐ろしいバケモンが出たもんだ」

バイクモードでアウトゥラを乗せたアンチヴィランを
軽く押すように桃源と葉子が帰路に着く

圧倒的窮地を前に、新たな力を得て舞い戻った桃源矜持と葉子の融合変神により
シュリョーンは真なる力を発揮した。

しかし、エレジーとレガシーのような格段に強い力を持つ異形との境界を超えた人間
そしてそれと同時に訪れたシュリョーンの進化は何を意味するのか。
大きな騒乱の波がこの街にまた訪れようとしているのかも知れない

『いや、今回は危なかった...でもこうしてまだ生きている。何とかなったね』

アンチヴィランが二人に向け声をかける
アウトゥラはエネルギーが切れ、アンチヴィランの上で静かに眠りについている

「ああ、諦めず抗い続けてくれたから何とか間に合ったよ」

「でもビックリしたよ、まるで正義の味方みたいな戻り方なんだもの」

「だよねぇ、でも二人の命を守れてよかったよ...まっ、募る話もあるし、取り敢えず帰ろう!帰ろう!」

まだ朝は遠い夜更け、少し賑やかな帰り道。
この街の悪役が帰ってきた、また賑やかな日々が始まろうとしている。
シュリョーンの戦いは、もう一度再び始まったのだ。

そして、エレジーとレガシーの打ち砕かれた残骸もまだ怪しく光り輝いている。
それを持ち帰る謎の影、そして彼女等を異形の力へ導いた者。それらは一体何者なのか
全ては終わり、全てはまた始まる...いつか何処かで。


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幕間
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「...何だその姿は」

巨大な異形の影を切り裂いた新たな姿、真シュリョーン。
そしてその姿と共にこの世界に戻った桃源に対し
アキは帰還の労いでも、喜びの言葉でもなく怒りを表した

「...何がよ?」

「だからその姿だ、私の最高傑作が何か違う物になってる事だ!」

いつも通りに、普通に玄関に入り
さも当たり前のように軽い挨拶を交わし
そのままエレジーとレガシーのデータを渡し、桃源とアキはいつも通りに流していく

そんな若干違和感のある光景の中で
葉子の鼻歌が静かに響く中...僅かな平穏はアキの叫びで打ち破られた。

真シュリョーンの姿を見たアキが驚愕の声を上げたのだ。
その姿は、彼女にとっては完成された作品が改変された魔改造とも言うべき姿であり
どうにも許せなかったのであろう...おそらくは。

「良いじゃない、羽とか生えてカッコイイ!しかもパワーの増加が凄いの!」

何時もと違う賑わい、そこにいるのは亜空間の住人たち
半永久の時間を持つ彼等だが、時間の感じ方は人間と同様であり
現世で過ごす間は人間と変わらない人生を送り続けている
それは即ち毎日のように変化があり、変わり、戦い続けているということである。

「亜空間のある場所にテュポラーとマニックってのがいて、そいつ等から力を貰ったんさ。
奴らが言うには反転・陰の力で、一つに成ることで真の姿を表す...要はこの姿が正解なんだと」

変化の積み重ねの中で、人は人として形成されてゆく。
それが正解である者もいれば、逆に闇の淵へと進む未来を選ぶ者もいるだろう
彼等はこれからもその幾多にある世界と対峙していく運命を課せられている。

「...まぁ、良い。いつまでも文句を言っても仕方がない。
よく見れば中々私らしい要素もあるしな...しかし、なぜ今なんだ」

その為に、彼等の可能性は常に進化を果たしている。
闇として悪として、世界に存在する正義を見据えてゆく
その為にはあらゆる障害を打ち砕く力が必要なのだ

「それはやっぱり、何か有るんでしょうね。あのバケモノお嬢さんたちも関係しているでしょう。
自分達だけで人間だったアウトゥラをあそこまで改造して
それでいて生かしたままに出来るなんて技術、持ってる奴らは早々居ない」

光の前には影は消える、だが太陽は覆い隠される事でその本来の意味を知らしめる。
一つ一つの小さな、少しづつ歪に変質した正義と狂気の融合した何かが
母であり父である大きな太陽の元、独りよがりな輝きを照らそうとしている。

「俺も呼び戻されたんだろうさ、
今のシュリョーンにしか倒せない相手がもうすぐ...いや、もう存在している筈」

強すぎる光は害となる、その光を遮る影がこの世界に舞い戻った。
幸いな事にまだ光は微かな無数の点であり、大きな白々しい輝きではない。

だからこそ、その光を遮るためにそれは舞い戻ったのであろう。
輝く逆光はその姿を映し出す。
光は彼のスポットライトであり、彼女にとって最高の舞台。

「本当に、人間の世界は懲りる事を知らないんだな
...まぁ良い、もう一仕事頼めるか我が友よ」

立ち上がる二つの姿は二人で初めて一つである影
亜空間より人が生み出し人が進化させる、悪として目覚めし者。
その名はシュリョーン、我道を貫く亜空の使者。

「勿論だとも、首領様」

「ええ、喜んで。全部の力を貸しますよ」

重なりあった声は響く、幾許かの平穏な日々の後
激しき日々が再び始まる、序章は終り、これより激しさを増してゆく日々が待つ。

「そうか...じゃあ、もう一暴れと行こう。」

光の中に消える強大な敵
シュリョーンの新たな戦いは、こうして幕を開ける。
新たな力、新たな可能性...悪が必要とされる限り、その戦いは終わらない。

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-Episode:05「真黒、再臨」 ・終。 Episode:EX‐完
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