異形の足跡は異形にはまるで光る道であるかのように
当たり前のように目に見えてその軌跡が解るという。

今正に自分たちが創り上げた異形を追う
見た目だけ見れば冷淡な少女二人がそれを証明するかのように
その足跡を追ってまだ誰もいない薄暗い闇を抜け
光だけ灯った人の気配のない商店街を足早に歩いてゆく

表情こそ微かに笑みを浮かべ穏やかそうに見えるが
その足は何かを我慢出来ないとでも言うかのようにせわしなく交差し
異様な速さで商店街のアーケードが描き出す薄オレンジの明るい光のアーチをくぐり抜けて行く

「段々と気配が強くなっていますわ...もうそろそろですわねエレジー」

「あぁ..もう、我慢も限界。早くあの娘に会いたいわぁ、もっと良くしてあげなきゃねレガシー」

スカートが揺れ、2人の内片方..エレジーと呼ばれた髪の長い少女がその鋭い目を細める
絵に書いたような「お嬢さん」と言う言葉がふさわしい、気品すら感じさせる姿
だが、その全身から漂う気配は、何か違和感がある

「もう少しよエレジー、だけど..何だか変な気配が、私たちの子の周りにいるのが気がかりねぇ」

もう一人の少女、セミロングの髪を後ろで一つに束ね、スラっと伸びた肢体はまるで人形のようである
レガシーと呼ばれた彼女もまた普通の目で見れば異質に感じる程整いすぎている

制服を着た人形が動いている、そんな風に見えるかも知れない
会話をし、当たり前に歩いている。だがこの闇が支配する真夜中において
その内にある余りにも歪で煮詰まったようなむせ返る程の嫌な気配が
彼女達の本来の姿を写しているようで、余りにも気持ちが悪い

「...なぜ、逃げたのかしらね」

「さぁ...私たちの気を引きたいんじゃないかしら」

「パーツは人間でも、機械人形の考えることはまだ理解出来ないわ」

当たり前のように交わされる会話、その意味は理解しがたい
怒りと憂いと、そして何か興奮と愛欲に満ちたような
2人共にその表情はまるで恍惚の表情とでも言うべきか

冷静なようでいて、滲み出るほどに欲が全面に押し出た、狂気の顔
互いに顔を合わせ微笑を浮かべると更にその足はスピードを上げ
遥か遠くまで続いた長いアーケードはすでにその終わり、先にある闇夜へと続いている

「ここを抜ければもうすぐなのよね、ねぇそうなんでしょ?レガシー?」

「ええ、もうすぐですともエレジー...一緒に行きましょう、何だか賑やかな予感がしますわ」

駆け出した二人、地面を踏む足が次第にその姿からはありえない
人間の体では想定されていないスピードで前に進み始める

地面に敷き詰められたタイルが、その衝撃を受けコンクリートの隙間とぶつかり
カラカラと音を立て、それが波紋のように商店街の中を反響していく
それはまるで二人の内面にある何かが叫びを上げたように、暗闇の中では恐ろしく聞こえる
...段々と迫っている、それは今までになく恐ろしい何か。

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「ふむ...全然解からん」

アウトゥラについてなんの確証もえられないまま、アキはその存在の不可思議さに声を上げる
この目前に存在する人間であり機械でありどちらでもない「物」が何なのか解らないのだ。

亜空間を通じて、無数にある多重世界の様々な技術を
完全とは言えない物の常人よりははるかに多く学び、活かして生きたアキにとって
それは中々に屈辱的なことであることは間違いない

「アキさんでも解らないあんて、よほど滅茶苦茶なのか全く知らない世界の技術か...位だよね」

変身を解除した葉子が、とりあえず着替えを済ませ
頭を混乱させたままのアキのもとへと戻ってくると
その後に続くようにアンチヴィランと、
その腕に抑えつけられたままの形でアウトゥラも連れてこられる

「だから言っているのだ、私はメアリーの世界の戦士だと...いい加減、抵抗はせんから放せ」

アンチヴィランの腕から逃れようとアウトゥラが暴れるが
アンチヴィランはその声や動きを意に介さず、アウトゥラを抑えると
アキにアウトゥラの言葉から浮かんだ疑問を投げかける

『そういえば彼女、追われていると言ってたけど追手が来るんじゃないのかな...
何だかとんでもないものを連れてきてしまったみたいで申し訳ない』

アンチヴィランがアウトゥラを片手で軽く持ち上げると
その顔を指さし、その存在を追ってくるであろう存在の影を顕示する

「まぁ、そうだろうがこんな興味深い生き物なら私でも連れてきたさ、気にする事じゃない」

思考の途中に思わぬ言葉を受け、糸がほどけたように力を抜きアキが言葉を返す
こういう類の厄介ごとはどう避けても当たることはアキ自身よく知っている
遅かれ早かれこの謎の生き物には遭遇する運命だったのは間違いない

「それに、この子を見過ごしてたらその追っ手に殺されてたかも知れないし..
少なくとも、アンチヴィランはいい事をしたんだよ。立派に街のヒーローの役目を果たしてる」

アキの言葉に続くように葉子もアンチヴィランへ労いの言葉をかけると
その手に拘束されたアウトゥラの目線を合わせマジマジと見つめてから
全身をゆっくりと眺めて、何か結論をつけたように立ち上がる

「まぁ、生きているんだからとりあえず助けてあげなくちゃ」

葉子がアウトゥラの機械的な手を持つと、その発言に少し驚いたような顔をしながらも
手を握り返し、微かに笑みを浮かべアンチヴィランの腕を少し動かし顔を出し、応答する

「ありがとう...しかし、さっきはいきなり襲いかかったのだぞ、信用してくれるのか」

どう反応したらいいのか解らず、アウトゥラが身振り手振りでリアクションを見せる
アンチヴィランに抱えられたままのその姿は、何かとても可愛らしく見える

「私たちを敵だと思ってたんならしょうがないよ、ね〜アキさん」

葉子の言葉を受け、アキもまた軽く頷く
この程度の事など最早日常茶飯事である、受け入れることも容易いのだ

「そうか...すまない礼を言う...っ!?」

こうして少し重苦しい空気から解放された、室内であったが
突如として何か重くのしかかるような強烈な気配が亜空力を張り巡らせ
再装填社の周囲に張り巡らされたフィールドから感知され、葉子やアキに直に伝えられる

そしてアウトゥラの脳内にもその感覚は伝わってくる
よく知っている強烈な二つの気配、それが段々と自身に迫っている感覚
忘れもしない、自分がいた世界、自分を破壊した存在が来る

「うわぁぁぁっ!?来るぞ...奴等が」

その声、そして力に押され、アンチヴィランが思わず手を話すと
アウトゥラはずり落ちるように、地面に手を付きながらもその気配が来る方へ目を向け
頭の中に走る衝撃に耐えながら立ち上がる

「どうやらもう随分と近いようだな、気を抜くなよ」

アキの言葉を受け、葉子とアンチヴィランに緊張が走る
張り詰めた空気の中、葉子の体は次第に亜空力の結晶に覆われ
迫る驚異に対抗するためにシュリョーンの姿へと変神する

変神したことで事で研ぎ澄まされた感覚が目前の存在の距離を明確に伝える
数百メートルが瞬時に数メートルに縮まり、次の瞬間にはドアの前に立っている
その感覚が手に取るようにわかる、悍ましい程の気配、相手は人間とは思えない
だが、その扉越しに感じられるそれは人間と同じ姿形をしているのだ

トントンとドアを叩く音がする
大きなドアは営業をしていない時間は鍵が閉じられ
その中央部に非常用の通常サイズのドアが付いている
その目前に2つの異様な気配を持つ影が立ち、ドアを叩いている

「すみません、こちらに私たちの子がお邪魔していませんか」

女性の声が響く、想像していたよりも若い声が
考えの中にある想定よりも人間らしい声がする
普通であるからこそその存在が恐ろしく感じられる

ドアに向かおうとするシュリョーンだが、その前にアンチヴィランが立ち道を塞ぐ
どうやら正体不明の敵に対し壁になろうというのだ

『葉子、ここは僕が...』

息を潜め、相手の出方を伺う
ドア一枚を隔てた力と恐怖のせめぎ合い...緊張が走る

「誰もいないのですか?...おかしいですね、こんなに気配があるのにっ!」

先に手を出したのはドアの向こうの影であった
ドアノブを力いっぱい引くと、その隙間から何か煙のような影が溢れ出し
中には入り込もうと仕掛けてきている

『そうは行かないよ、葉子!僕が相手を引きつける強烈なの一撃頼むよ』

アンチヴィランが叫びをあげると、ドアを一気に全開にし
その目前に立つ余りにも強烈なオーラを漂わせる二人組に突撃する形で突っ込む

「あら、やはり人がいたようですよエレジー」

「そのようですわね、レガシー」

アンチヴィランの突進を後方に飛び、回避した二人が後方へと着地すると
まるで驚く様子も見せず互いに手を取り合い、会話している
アンチヴィランの目には余りにも違和感がある、それは異質な何か、人間には見えなかった

『何だか厄介そうだけど、僕等もそういうの相手が専門なんでね』

アンチヴィランが亜空間より出現させたライフルを前方の二人に放つ
エレジーとレガシーもまた、それに対応するように手を振り回すと
その手が煙のように変形しその直後に巨大な刃へと姿を変える

「何だか面白い物が相手のようねレガシー」

「ええ、そのようですね、何か良い材料だと良いのですが」

声が響く、朝が近い...しかし、まだ薄暗闇の世界で
亜空の力と未知なる力の激突が今正に始まろうとしている

その力は未知数、頼れるものは経験のみ、切り札は...無い
しかし戦いはすでに始まっているのだ。

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