神の呼び声なんて、悪役の自分には聞こえない。
聞こえないったら聞こえない、聞こえてはいけないはずなのだ。

ならば、目前の「ソレ」はなんだろうか
禍々しいのか、余りにも神々しいのか形容しがたいそれは
言葉で表現するならば「力」、それも圧倒的な。

「アンタ等倒せば良い事あるのかい?」

この空白の世界、今いる地面が何処なのか境目すらない
何も無い白を、足が強く蹴り込むと体が前に進む
「歩く」それが人間の動きの行動、「闘争」それは人間の本性
ならば目前の力は...人間だとでも言うのだろうか

『戦いの対価を求めるか...良いだろう、我らを倒せばお前に褒美を授けよう』

シュリョーンが駆ける、迫る目前の異形に向かい、無の空間の風を切り裂く。
一歩、また一歩と駆ける先、距離感すら感じられない無の中で
次第に近づく異形に向け、その刃が音を立てて振るわれる

「そういう事ならっ...喜んで倒させてもらうよっ!!」

狙った先は巨大な腕の異形、まるで鉄球がそのまま腕になったような
明らかに巨大でバランスの悪い両腕が、シュリョーンの刃を受け止める

金属が削れ、火花が散りそこから出た光だけがこの空間で戦いを盛り上げる中
力を込めた亜空力の刃がと異形の腕がその激突に震え上がる

延々と続くかと思われた力のぶつかり合い
その緊張を解いたのはシュリョーン
一瞬解かれた力をそのまま流し、体を半回転させるとそのまま両腕に全力を込め
巨大な異形をそのものを真っ二つにせんと声を上げる

「力で勝とう何ざぁ思っちゃいない」

振るわれた刃が異形に突き立てられる、その一瞬の刹那
摩擦と蓄積したエネルギーが擦れ合い火を放ち、全てを巻き込んでその巨体に直撃させる

『ぬぅ...っ!!』

何も無い空間で繰り広げられる異様なほどに強烈な力と力のぶつかり合い
異形が飛んだ先、巻き上がった爆炎で煙に巻かれているが、その姿にダメージはない
もう一人の異形もまた、何も手を下さずただその様子観察し続けている

「こういう展開も慣れっこだからなぁ...でも、本気出すには尺がまだある」

大きく構えたままのシュリョーンが、誰に対するわけでもなく呟く。
その切っ先からは未だ微かに火が出ている

「...そうだな、本気の前に、今までの力を使わせてもらうかな」

シュリョーンが手を挙げる。
高く伸びたその先に赤と紫が走り、その後を追うように漆黒の空間が開かれる
亜空の扉が開かれた、そしてその先から3つの巨大な影が出現する

一つは巨大な翼、もう一つは巨大な砲、そして最後の一つは巨大な爪
それらは言うまでもなく、今まで彼らを助けてきたサポートマシンである

「多勢に無勢...って程でもなさそうだが、これで均等ぐらいじゃないの?」

細身の異形にシュリョーンが問いかける
答え次第では使わない...ほど、悪役も生やさしい生き物ではないが
相手のルールを聞く位の甲斐性はある

『別に何を使おうが構わん、好きにするが良い』

まるで天から突き刺すように声が聞こえる
そして、その答えによりルールは大体把握が出来た
後はする事は一つ、曖昧なままではない...全力の戦い。

「有り難いね...じゃあ遠慮無く、そろそろお互い全力で行こうぜ」

シュリョーンの目が大きく開かれ、異形に一直線に指が突き出される
そのまま手が返されると、誘うように指を動かす

『ふむ、そう願うのなら答えよう。ディポラー来い。』

『うむ、十分に力はあるようだぞ、マニック。』

煙の中から巨大な異形も姿を表す
ディポラーとマニック、それが異形の名前だろうか
だが名前より今一番大事なこと、それは勝手その力を得る事

与えられる物、この世界の存在意味
...その者の力、全てはシュリョーンの為に用意された舞台であるかのよう

「やっと名前が聞けたな。俺はシュリョーン。お前達と同じ異形の悪者さ」

真っ白な空間に微かに風が吹き抜けた。
対峙する影と影、1対2の構図だがシュリョーン側にはサポートマシンが浮遊し
彼を補佐する形で目前の2つの異形に今にも牙を向かんと激しい機械音を上げている

ジリジリと焼けつくような力と力の干渉
それは眼に見えないぶつかり合いではあるが、互いの間には一瞬の静寂が訪れる

そんな静寂を打ち破るかのように、細身の異形が手をかざし
もう一方の巨大な異形も既にその傍らに戻っている。

『我らは試練を与える存在、亜空の世界において無を有する者。名は私がティポラー』

『そして我が名はマニック。シュリョーン、お前の地上での戦い...ずっと見ていたぞ』

張り詰めた空気をまるで切り裂くかのように、一瞬の静寂の後に訪れる緩み。
彼らは「戦い」を求め「力」を放っているが、どうも敵ではないらしい。
だが明確なのはここから出るには彼らの言う「試練」をクリアせねばならないという事

「...思ってたより、話が通じるんだな」

『試練を与えるのには説明も必要だろうて』

「そうかい、有り難い。んじゃあ...続きと行くか」

再びシュリョーンが虚空に手をかざし構えると、亜空力が刃を形成する
緑色の輝きが鋭い刃となると同時に強く握られると
まるで何ふり構わぬような勢いでシュリョーンが目前の試練の対象へと走りだす

---


⇒後半へ
Ep:02へ/Re:Top/NEXT