激しくドアを叩く音がする。
その向こうにはあまりに巨大な影が見える。
だが、その家の現在の主たる、少女と言っても問題はない外見の彼女は
あまりにも何の警戒もせずにドアの方へと向かっていく

時間にして言えば朝の5時頃
謎の歌を聴き、その違和感に目覚め、アキと少し会話をした後
やっと眠りについた彼女の眠りを妨げるようにそれは訪れた

「...こんな事なら、最初から完徹コースで遊んじゃえばよかったか」

不意にこの長い夜の時間配分を間違えたことに後悔したが
そんな考えを巡らせるよりも早く、ドアは開き
その向こうの相手に呼びかけながらだんだんと開いていく扉の先に見える
あまりにも異様な何かと、よく知った仲間の姿に葉子は一瞬困惑する

「あっ...アキさーん、私そっちで寝てますよね、今起きてないですよね!?」

目前に広がった光景。
アンチヴィランが人間のようなシルエットの「何か」を抱き抱えている
人間らしい顔と体を持っているがそこから伸びる手足は明らかに機械であり
しかも人間らしさなど一つも考えていない機械然とした形をしている

『いや、起きてると思うよ葉子。...でもまぁ仕方ないよねぇ、これは明らかに異常だ』

アンチヴィランの眼が言葉にあわせ点滅する
よく考えれば彼が玄関から訪ねてくるという事も珍しい
何もかもが異様、最早朝に近しいこのアンバランスな時間には
ある意味では最も適した気持ちが良いほどの混沌が葉子を支配する

「やっぱりか...で、その御方は?人...だよね?」

なんとか違和感を振り切り、その異様について葉子が質問を問いかける
...と言っても明確な答えなど、得られるとは到底思ってもいないのだが
一応答えを聞いてみて、それが明確であるのなら、これほど楽なこともないだろう。

『私も解らないんだ...広場でまるで電池が切れたように動きが止まっていたから
あのまま置いておけば何が起きるか解らないし、ここに来れば何とかなるかな...とね』

アンチヴィランの機械的な表情からも読み取れるほど明らかに困惑している
ヒーポクリシー星人との戦いの後も様々な異形が出現してきたが
その殆どが「解りやすい」存在であったのは言うまでもなく、頭では理解できた
...しかし目前のそれは、明らかに「理解を超えた」存在である

人の姿をしているがまるで機械をつなげて無理やり人にしている、そんな感じである。
一部に見える人間と同じ肌箇所も血が通っていないかのように青白い
その表情やスタイルは美しいのだが、何かが違和感を産み、その全てが異様である。

「まぁ、とりあえず中に入って、誰もいないだろうけど見られるとマズいし。
ちょうど今日はアキさんもいるから、何か解るかも!」

再装填社は地上では最も亜空の世界とつながりが深い場所であり
いわば現世において最も異界に等しい違和感を持つ場所なのだが
その住人を以てしても違和感のある存在というのは貴重である。

朝焼けの光が差し込む再装填社の入口からそのまま続く客室
そこに動きを止めた「異形の女性」を運びこむと
アンチヴィランは何かひと安心したように、少し息を付くと
相変わらず違和感は拭えないが、少しだけ張り詰めた空気が緩む

「何を騒いでるんだお前等...って、何だコレ」

騒ぎに気づき起きてきたアキもその状況を見て一瞬動きを止めるが
流石に無駄に長生きしているだけあってそれに飲まれるようなことはない

そのままソファーに腰掛けると、目前の「異形の女性」をか観察し始める
その表情は新しい玩具を見つけた子供そのものであり
ある意味危険なのだが、今の状況ではこれほど心強い味方はいない

『おね...アキさん、その人の事何か解る?明らかに人間じゃないようなんだけど』

言葉を聞いてか聞かずか、アキは早速目前の興味の対象に手を伸ばす
すると、まるでアキの動きの感応するかのように、異形の女性の中から
無数の歯車が動くような音が鳴り響き、固まった体が微かに動く

「これはアレだろ、オートマトン。人間そっくりに作られた人形だ。
だが、現世においてそれを動かす術なんぞ、車屋が頑張って研究してる位だが...ふむ?」

アキの知識を以てしても尚、現時点では明確にはならないそれは
ひたすら何かに向かい手を伸ばしている、果たしてそれは何なのか?

「まぁ触って動かせば解るだろ...さてさて」

何の警戒をするでもなく、アキが異形の女性に手を伸ばす
キュラキュラと歯車の音がなり、それは微かに動いている

「...力..!?」

異形の女性は何かを求めている...そう見えるが動けない風だ
そんな力無き存在に、アキの手が触れた瞬間
それは何かを得たように、動きを早め自身に伸びたてを掴む

「ほう、私が触れると動ける...と言う事はお前、亜空間の物か」

腕を掴まれたまま、アキが異形の女性の顔...額に人差し指を立てる
すると、黒い影がまるで蜘蛛の巣のように伸び、全身を覆う
体中、隅々まで伸びた影がまるで自由を奪うように異形の女性を拘束する

「...ぬっ、何をする貴様!」

その目前の機械人形は今の時点で全てが不明確であり
「それが何か」なんて事は、この中では誰も答えを知る由もなかったが
どうやら亜空力に反応していることは明らかであり、アキは相手から情報を得る策を練り始める

力の源であろう亜空力を注ぎ込めば、多少動けはするだろう
幸い、今放たれた言葉で「人語が喋れる」事は解った、十分だ。

「動けないだろうが我慢しろ。代わりに亜空力を少し体に回してやった、喋れてるだけ有り難いと思え」

何時もなら、高校の制服とは言えちゃんと服装は引き締まっている秋だが
今は何分唐突な状況であり、だれきったジャージ姿でどうにも決まらないが
流石に亜空の世界そのものと契約しているだけあって、未知なる状況にも極めて強い

「貴様は何者だ、私は今何処にいるのだ、教えろ!帰らねばならないのだ」

エネルギーを得たことで途端に生命的になった異形の女性が声を上げる
早朝には相応しくない大声は、少し気分が萎える気がするが
相手が相手だけに常識は当然通じない、見る限り明らかに「歩み寄る」タイプではないようだ。

「私は、ワルモノだよ。名前はアキだ。ほら、名乗ったんだからお前も名乗れ」

相変わらず額に指を当てたまま、アキが名乗り、相手にもそれを求める
異形の女性は動こうとしているが、アキの力によって抑えられ溢れた力で体が震えている

「私は..アウトゥラ、メアリーの世界から来た!レガシーとエレジーを止めるために」

半ば無理矢理に近い強い力で足に対向する「アウトゥラ」
彼女の言う世界は、亜空間から繋がった世界のどれかだろうが
だが、亜空間の全てを知るアキも「メアリーの世界」という物に聞き覚えがない。
明確に「自分の世界とは違う世界」が存在すると理解している点も違和感がありアキには興味深かった

「随分力が強いな、しかも自分のいる世界を一つの世界、そして他が存在すると捉えている..っ!?」

「隙あり!」

思考の隙間、アキが一瞬考えに集中し力が緩む
その瞬間にアウトゥラはアキの手を逃れ、そのまま後方へ一旦引いたかと思うと
そのまま足に力を込め、アキに向かい攻撃を仕掛ける

「何者かは知らんが私の邪魔させん!!」

軽く飛び上がったアウトゥラが力任せに足を振り下ろし
強烈な一撃が秋の顔に炸裂する...と思われた瞬間
その飛び込んでくる足を、金色のてがつかみ、そのまま投げ飛ばすように放り投げる

「アキさんは警戒心が無すぎる、危ないでしょうが」

黄金の金十字、黒い鎧
輝く赤紫の粒子が、懐かしい程に強烈にその力を発現する。

そこに立っていたのは紛れもなく「変神・シュリョーン」
しかしその姿は以前とは違い、女性的なラインを構成している
葉子が変貌した、「彼女一人」のシュリョーン、それもまた完成形の一つである。

「...!?何だお前は」

「地域密着型・ご当地悪役戦士...ってところかな、解った?暴れん坊さん。」

言葉が終わるまもなく、シュリョーンの背中に紫の羽が出現し
無数の赤紫の粒子の帯がアウトゥラの手足に伸び、動きを封じる

「ちょっとは大人しく話をさせてください。問題起こさないなら私たちは何もしませんよ」

『一応、私がいるのもお忘れなく。逃げ場はないよ。』

アウトゥラのを掴んだ帯が、ゆっくりとアウトゥラをシュリョーンの方へと運ぶ
同様にその背後に立ったアンチヴィランが既にアウトゥラにに向け銃口を向けている
気配なく、しかし認識した途端あまりに大きな気配、強烈なまでの力を感じる

アウトゥラも抵抗はするがアキの時とは違い、明確に「抗えない力」を感じている
目前の存在は自分より明らかに強い、そう気づいたアウトゥラはある答えに行き着く

「..力を...力を貸して欲しいのだ」

アウトゥラが力の抜くと、それを感知してシュリョーンの粒子帯が解除される
目前の存在に最早戦意はない、そう判断し、
シュリョーンはその場に崩れたアウトゥラに近づきしゃがみ込むと、その手を取る

それに気づいたアウトゥラが手を引かれ立ち上がり
自身がこの世界に来た理由を、その口から語り始める

「私の世界の過去の遺産と、それに捧げられた哀歌が、怒りの念に駆られ逃げ出してしまったのだ」

抽象的な言葉...というよりは、単語だろうか
それが人物なのかは解らないが、シュリョーンたちがいる世界で言えば
形無き物に与えられる名が、まるで人名のように語られる。

「その、逃げ出した何かをそれとも追ってきた...と?」

「そうだ、奴等の力は強い...別の世界に逃げればどうなるか解らないのだ」

『だけどもう既に逃げこんでしまっている、そしてそれがこの世界だって言うんだね』

会話を続けながらも、アンチヴィランはアウトゥラを持ち上げ動けないように抱え込む
問題を持ち込んだ自責の念から、自然と自分がやらねばいけないような気がしているのだろうか
その機械の体を活かして、完全に動きを封じてしまっている

「おい、放せ、目的は話しただろ!?もう暴れもしない!?」

『ちょっと信用できないね、信用できるまでは私が貴方を監視するから』

まるで子供を抱き上げるようにアンチヴィランの巨大な体がアウトゥラを包み
その動きを意図も簡単に封じる、その姿は遊んでいるようにも見えて少し面白い

「終わったか、じゃあそこの明らかに馬鹿っぽい奴から色々聞いていくとしよう」

こうなる事は予想済みと言わんばかりに、アキがタイミングを見計らって号令をかける
その表情は明らかに不敵に歪んだ笑で邪悪に彩られている
”侮っていた”というべきだろう、普通の人間ではなかった。目前のそれは間違いなく。

アウトゥラの場合「相手が悪かった」としか言いようがないが
この場合最高の仲間が見つかった、とも言えるかも知れない、目的が言葉通りなら...だが

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