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『我らも行くぞ』

軽と重の二つの影もまた迫るシュリョーンに向かい
その軽く浮いた体を瞬く間に加速させその腕を構え、一直線に激突する。
まるで刃のように狂人な硬さと鋭さを得たその腕がシュリョーンの刃と激しくぶつかり合うと
先程よりもより強烈な力と力の反発に火花が上がる

「手加減は無しだ、時間制限はないが寄り道するほど時間は無いんでね」

声を上げたシュリョーンが、激しくぶつかり合う衝撃を利用し後方に飛ぶと
それをまるで包むように、亜空アームがシュリョーンの背中に合体する
そして、そのまま中に浮かび、再び異形に向け猛烈な勢いで加速し降下を始める

『そういう事なら我も加わろうっ!』

猛然と刃を向け降下するシュリョーンを目前に
マニックの前にティポラーがまるで壁のように立ちふさがり影を作る

「そう来ると思った、だからこそのアーム装備ってなぁ」

シュリョーンもティポラーの動きを予想し、亜空アームで応戦する
巨大な腕と腕が、まるで巨大重機のぶつかり合いの如く激しい音を出し揺れる

『2対1でどう戦うか、見せてもらおうか』

衝突の間にマニックが高く飛び上がり、自身の刃に変形させた腕をそのまま投げ放つ
ぶつかり合い、動けぬままのシュリョーンに勢い良く飛び刺さらんと風をきる

「言われなくても見せてやろうさっ亜空ウイング!」

シュリョーンの声を受け、飛び込んでくる刃をあくうウイングがエネルギー砲で撃ち落とすと
そのままマニックに猛然と突進を仕掛ける
機械ゆえの捨て身の一撃にさすがのマニックも押され、後方へと吹き飛び地面へたたきつけられる

『ぬっマニック!?』

「...油断したな!すぐに相棒のところに飛ばしてやるあぁぁ!」

マニックが地面に叩き付けられたことでティポラーの力が一瞬緩まる
その隙にシュリョーンが亜空アームでティポラーを持ち上げると
マニックが落ちた地点めがけその巨体を全力で投げ伏せ、さらに高く飛び上がる

「亜空アーム合体解除、更に亜空キャノン...いや、フルブラストメイナード!合体だ!」

高く飛んだシュリョーンの背中から亜空アームが分離し
その背後に高く飛び上がった亜空キャノンが入れ替わるように合体すると
空中でその全ての砲門を煙を上げ倒れる二つの異形に向け構える

『...ぬぅ!?あの光は!?』

「さぁ、悪の一撃...その体で受けてみろ!!」

シュリョーンの声を受け、全てのエネルギーが異形に向かい放たれる
巨大にして極太のビームが何も無い白い世界を無数の光の色に染め上げたかと思うと
異形がいた地点で大爆発が起こり、濛々と爆炎と煙が吹き上がる

「メイナード、合体解除だ...これで決まった訳は無いよな?」

巻き上がる爆炎の無効にシュリョーンが声を上げ問う
異形が放つオーラ、そしてその持つ力はあの程度で倒せる相手の物ではない
今の一撃でよくて半壊といったところだろうか

シュリョーンが地面に降り立つと、そのまま爆炎の方へとかけ出す
その手には刃を握り、仮面の顔は何か笑っているようにも見える

「さぁ出てこい!お前達の力を俺のすべての力でねじ伏せるっ!!」

シュリョーンの叫びが響くと爆炎の中からそれに答えるようにマニックが飛び出してくる
その背後にはテュポラーも地響きを立ててゆっくりと出現している

その体には無数の焦げや、ひび割れが入っているが明らかにダメージにはなっていない
予想通り、「まだまだこれから」らしい。

『想像以上にやるようだ、こちらも本気で行かせてもらうぞ』

マニックの声は先程までより明らかに人間に近い声になっている
テュポラーもまた足音がより重く「そこに実際に存在する」感触がある

「そう来なくっちゃなぁ...こっちも本気だ、全亜空力開放!!」

高速で互いに向かい刃を向ける異形と異形
その姿はまるで戦いを楽しみ高め合う友のように
しかしその目的の果てにあるのはどちらかの死、いわば死闘

赤紫の光の坂に緑の刃が光、更にその奥に燃えるように赤い瞳が輝き
何時ものようにシュリョーンは全力で必殺の一撃の姿勢を取る
違いといえば、いつもは輝かないはずの胸の中心部も紅く輝いている事だけ

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『さぁ今こそ授けようぞ、お前に...我が全力の一撃を』

「こっちも全力、新しい一撃を見せてやるっ!」

シュリョーンとマニック、互いにこの一撃で雌雄は決すると理解していた
しかし、どちらがかつかは解らない...そうでなくてはならない
だからこそ、「負け」を意味する言葉なぞ、吐いた瞬間にその戦いは決まるのだ

「悪道・真我一...亜空一閃!!さぁ全力で来いマニックっ!!」

『言われるまでもないわぁ!!』

互いがぶつかり合い、通り過ぎ、すれ違う一瞬の一閃。
その刃はあるで風か光か、刹那の一撃。

その勢いは通り過ぎた後に訪れ
刃から放たれた互いに宿したその意志が爆裂的に燃え上がる

「...断絶ッ」

互いに一撃を与えた姿勢のまま、シュリョーンの声だけが響くと
マニックが崩れ落ちる、シュリョーンもまた肩鎧と右の角が吹き飛び亜空力が漏れ出している

『...ぐっ..確かに受け取ったぞお前の...力っ!』

倒れたマニックから、輝く光が溢れ出すと
シュリョーンの力を宿した胸のエネルギー球体に吸収されていく

「これは...何が起きてるんだ」

シュリョーンの胸の金十字の中央部にエネルギーが集まり球状に形成される
それはまるで意思を持つかのように無数の粒子が絡みあった光

通常の亜空力よりも赤が強い、明らかに強い力を秘めたその球体は
まるでシュリョーンに元から用意されていた物かのように
当たり前に胸前に止まり、そこから全身に駆け巡るように力を送り込んでいる

『マニックをこうも簡単に打ち倒すとは、だが我はそう簡単にはいかんぞ』

思考の間にも、もう一つの試練がシュリョーンに向かい猛烈な勢いで迫る
巨大な体躯は地面を揺らし、小刻みに揺れる視界の向こうに既にしっかりと見えている

その巨体に向けシュリョーンは高く刃を構えると
そのまま刃全体に力を込める、無数の光の粒子が集まると刃はエネルギーにより肥大化し
巨大な刀身へと姿を変えると、軽く振り下ろされる

「正攻法がダメなら、無理矢理にでも叩き割ってやるさ」

シュリョーンもまた巨大な姿へと変化した刀を引きずり
異形に向かい地面を切り裂きながら駆け出す

吹き抜ける風と共に、何もなかった空間が気がつけば無数の破壊の跡と
巻き上がる爆炎で次第に色を取り戻すように染め上げられていく

力と力がぶつかり合い世界を変えていく、それは正しいこととは言いがたいが
何も無いよりはよほど愉快で、実感のある世界のようにも感じられる

『行くぞ、亜空間の黒い戦士よっ!!』

「手加減無用だ、全力で叩き斬るっ!!」

風を、空を、大地を、景色すべてを斬り、叩き壊すように
激しい激音と空気が張り裂ける音がこだまする

かけ出した二つの力が一点で激突すると
刃と巨大な金属の腕が火花を散らし爆発するかのように激しく力が削れあう
その様はまるで打ち出された弾丸同士がぶつかり合うかの如く

次の瞬間には互いがはじけ飛び消滅しそうなほどに一瞬、その刹那に力が巻き上がり
周囲に波紋を広げながらその生命から生み出された力を弾きだす

「...亜空一刀両断ッ!」

シュリョーンの刃が火花を上げながら異形の腕を切り裂く
何度となく駆け抜け、交差し、その度に一撃を加えていく
互いにその力の全開...それ以上の力が直撃し爆炎を巻き起こす

「どうした、俺より随分大きい体の割に段々と力が落ちてるようだが?」

しかし、異形はその腕を囮にもう片方の腕をシュリョーンに向け乱暴に叩きつける
互いが互いに強烈な一撃を浴びせる、捨て身とも言うべき限界の戦い

『ぐぬぅぅッ...想像以上、いや...ありえない、何故まだ戦える』

テュポラーが何度跳ね飛ばし、一撃を与えてもシュリョーンは立ち上がる
マニックが十分にダメージを与えた後にも関わらず
そのマニックを倒し、挙句の果てには自身まで次第に追い詰め始めている

「そんな事、自分で解ってたら困らないね...だが、今は好都合」

距離をおいた互いの間、シュリョーンが一旦の静寂を引き裂くように
再度刃を構える、赤紫の光が宿り輝きを増した刃が激しい光を放ち
シュリョーンを後押しするように相手に向かい今にも弾けるかの如く力を増していく

『お前は戦いを楽しんでいる、そしてその中で新たな覚醒を続けている...末恐ろしい奴だ』

テュポラーもまた既に各所が砕けた両腕を大きく持ち上げると
その両の拳に黒い無数のエネルギーが集まり更に巨大な拳を形成していく

互いの最大級の一撃、必殺の構えが対峙した白色の空間で発動の時を待つ
それは言葉無くとも「次が最後である」と示すのは明らかである

「遠慮無く本気で、勿論全力で次の一発で決めさせてもらう」

無数の色を織り交ぜながら、シュリョーンの胸にエネルギーが集中する
刀を構えたその姿は、心臓の鼓動の度に、次第にその姿を変えているように見える

『あの姿は...一人でも覚醒できているのか。面白い..次の一撃、全力で来るが良い!!』

まるで鼓動がそのエネルギーを弾き出すかのように空気を揺らし
赤紫の光がシュリョーンの姿を明確に変貌させていく

体を拘束する鎧はその制御を開放し、胸の金十字が展開する
全身の形状が「人間用」から「異形用」へと変わってゆく
より明確に「亜空人間」としての姿を色濃く表したそれは
今までと同じでありながら、明らかに何かが違う...別の何か

「亜空の力よ、目前の壁を砕く俺の...力に変われッ」

白色の空間が一瞬、シュリョーンの鼓動に飲まれたかのように揺れると
次の瞬間赤紫色に塗り固められた空間が出現する

シュリョーンの胸のエネルギー体が円状にエネルギーを放出しながら
轟音を上げその空間すべてを塗り替え、その場に存在するエネルギーを吸収すると
変貌した体は地面を蹴り、刃はその後を切り裂きながら猛然とテュポラーへと迫る

『いい色だ、この鮮やかな世界がお前の色か...この拳で確かに受けさせてもらうッ!!』

色を持った世界に伸びる、それはまるで一直線のラインのように
テュポラーの灰色の体もまた、シュリョーンに向かいそのエネルギー全てを乗せて迫る

互いが互いに向かい合い、空気がかすれ切り裂かれる感触が全身を襲う
特殊素材を覆われた体の各部がその鋭さに悲鳴を上げ
その一個一個の音がその場を盛り上げるようにその世界の一部へと姿を変える

「切り裂け!亜空・一刀両断ッ!!」

『ふん...ぬあぁぁぁ!!』

強烈なまでの光が激突しあい、無数の衝撃の後には光の塵が舞う
もはや形容しがたい程に変貌したフィールドに二つの渾身の力が激突する、

激しいエネルギーの衝突はまるで互いの刃で鍔迫り合いをしているようにも見える
一進一退の攻防、力は互角かと思われた
...その時、シュリョーンの背後からさらに強力な力のうねりが巻き起こる

『何と!?この技以上の能力を発現するというのか』

シュリョーンの刃を掴んだテュポラーの巨大な腕がその内から溢れる力に押され
その体を構成する全てのパーツがバラバラに砕け散りそうな程に震え、弾けんと光を放っている

吹き飛ばされまいと、テュポラーがそのエネルギーごとシュリョーンを後方へ弾き飛ばそうと
刃ごとシュリョーンを高く持ち上げた瞬間、輝きは最高潮まで高まりを見せる

「全亜空力開放、断...絶ッ!!」

天に掲げられた腕から光が始めると
シュリョーンがその全身の力をテュポラーに向け振り下ろす
無数の金属のような皮膚を切り裂き、真っ赤に溶けた金属片が周囲を紅く染める
その体には一直線、新たなシュリョーンの必殺の剣の太刀筋が刻まれている

『ぐうぉぉぉ...ぬぅ..想像以上だ、シュリョーン。我々の試練をこうも簡単に乗り越えるとは』

膝を付き、全身から火花を散らしながらテュポラーがシュリョーンに語りかける
彼らが与えた「戦い」という名の「試練」
その真意とはなんであったのか、それは変貌した姿を見れば明らかである

「この進化を、お前達が自分の命で引き出してくれた...そうなんだな」

変貌したシュリョーンの力、それを引き出したのは紛れもなくテュポラーとマニックである
シュリョーンの今までのすべての力、装備を使い戦う事で
その全ての能力を引き出した...結果その姿は完全に亜空力を制御し
人間としてではなく、亜空の世界の物として...真の姿として覚醒した

『引き出した..確かにそうだが、少し表現は違う。我々はお前ともう一つの命の写鏡。
今こそ実体を持っているが、その本質は亜空間にある力そのものだ、なぁマニックよ』

テュポラーが声をかけると、先ほど確かに爆散したはずのマニックが
砕けたパーツもそのままに浮遊し、テュポラーに寄り添うよう浮遊している

『そう、我らはシュリョーンの写鏡...お前達の今までの力そのものだったのだ』

テュポラーとマニック、その存在その物がシュリョーンの『今までの』力が具現化した存在であり
与えられた「試練」はその自分を打ち砕くための物
いわばこの白色の世界で起きた出来事は自分との戦いであった、という事になる。

「そうだったのか、しかしこの姿...それにこの胸にエネルギー体は一体何だ?」

変貌した姿、それは今までのシュリョーンではあるが、明らかに違う存在
全身に力が巡り、着込むのではなく、自身の体そのものが変貌した
言わばシュリョーンという装備が自分の体になった、今までとは違う変貌。

『人間ではないお前達に、進化の時が来ていたその力と体はその進化のきっかけだ』

『そしてそのエネルギー体はこれまでの力である、我らが入り込むことで完成する』

言葉を言い終わるか否か、テュポラーとマニックは赤と紫
互いにそれぞれの色の粒子となってエネルギー体へと吸収されてゆく

「進化の...時、か。そろそろ帰る時間が来たって事なんだろうな」

テュポラーとマニックがエネルギー帯へ完全に吸収されると
激しくエネルギー体がうねり、無数の力が回転し混ざっていく感覚を覚える

進化する、変貌しさらなる能力を得る事...そして成長する事
だが、この進化はまだ最終段階にたどり着いた状態でしか無い
シュリョーンの頭に過る、最後の過程を何処からか聞こえたマニックの声が明確にする。

『現世へ帰りなさい、そしてもう一つの命..葉子と再び共に、変わるのです』

もう一つの命、もう一人のシュリョーン。
葉子が揃わねばシュリョーンは完成されない
そして、今、この時にシュリョーンが進化を始めるた、それは即ち
現世に何らかの異変が起こっていることを示している。

「言われなくても行くさ、そろそろ帰らないとメインイベントに遅れちまう」

いつの間にか白色の世界に戻ったその舞台の先に
今まではなかった道が伸びている。
その先に現世への道があると、胸に宿る新たな力が示している

シュリョーンが駆ける、新たな姿を持って。
戻る世界に新たな脅威が迫っている...再び戦いは始まる。

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-Episode:03「真なる覚醒」 ・終、次回へ続く。
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