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アウトゥラが歩いてきた道、人には見えぬ何かが足跡として残されたその道を
少女が二人追いかけ、歩く。

容姿端麗・頭脳明晰。加えて家柄もよくお金持ち。
絵に書いたような退屈な人間が揃う学園「神聖・フォリダム学園」の制服を着た
明らかに気品漂う、普通の人間は永遠に関わることがないタイプの少女が二人、歩き行く。

その目的は作品の排除。そして力の回収。
何故か、風の中、気配の中から「あぁ愛娘に早く会いたい」そんな欲望の声が聞こえたような...


-彼女らの記憶、その中の数カ月前に遡る。

彼女らがもてあました時間。退屈しのぎと言うにはあまりにセンセーショナルな
それでいて、程良く非道徳的な、愛の示し方。

退屈な永遠に飽き、その若さを持て余す彼女らにとって
同姓であるがゆえに達せぬ性行為以上に、何よりも興奮できた行為。
それが人間の改造。いわば人間製傀儡人間の制作であった。

人間が犯してはいけない不可侵の領域、生殖行為以外で人間により人間を作る事
彼女らはそれを望み、契約云々を全て無視しこの世の狭間の力を引き出した
不完全な歪な力により、【完全なる別の人間」を生み出すには至らなかったが
機械的な部品に人間の魂入のようなものを宿すことには成功してしまった。

そこからが彼女らの興奮の高まりであり。
その命あり、意識ある部品たちを安く買い付けた人間を分断した中に埋め込み
まるで自身の理想な玩具でも作り上げるかのように組み上げていった

そうして生まれたのがオートマトン「アウトゥラ」であり、彼女は本来人間であった。
だが、今はもう違う、狂気の美少女たちにより人間は異形へと生まれ変わったのだ。

「...何が起きたのか、私は何なのか...あぁ、あぁ」

歪んだ狭間から生まれた力が人間だった脳を支配し自分を異形へ変えていく
霊と呼ばれるものが、切り離された手足の代わりに付けられたパーツに巡り
いつの間にかそれが「自分の体」と頭は認識する

「いやだ、いやだ、いやだ」

これは言葉か思考か。微かにある人間の感覚が告げる
だが答えはこうだ「それはなんだ」と、頭が言うのだ
あぁ、もう私は何だ、気が狂う事ももはや「それが何なのか理解出来ない」

‐まだ時間は戻らず遡る。

相変わらず体は自分の物じゃないパーツを自分の物だと理解する
目前の女性たちが、2人の見るからに綺麗な顔をした人間たちが
あまりにも下品な...興奮した表情でその異形を愛で上げる

彼女たちは自由、何分全てを持っている。
力が不完全であったとしても、それを機材と人材でいくらでもカバー出来てしまった。

美しい少女二人は、言葉では表現できぬ関係。男と女の関係でありその逆であり
結果としてどちらでもない、その曖昧さに精神が歪になったのだ

「私たちは愛し合えないからね、エレジー」

「そうねレガシー、でも..もう違うじゃないの...これが私たちの愛の結晶だもの」

オートマトンの瞳が左右であらぬ方向にグリグリと動く
その数秒後に「あぁこれはいけないこと」だと理解して目が一点で止まる
全てが曖昧に、すべてが二人の意のままに。狂える少女は異形を生んだ。

「何だか嫌なことを思い出してしまったのよエレジー」

「じゃあ私が慰めてあげようねレガシー」

二人が道をゆく、それはあまりにも違和感がある二人
出来すぎていて気持ちが悪い、君たちはもう人では無いだろうか
だが、それを止められるものも、それを見てやれるものも。残念ながら此処にはいない

そしてあらゆる世界に彼女らを受け入れる場所はもう...ない。
何分彼女等は、歪なまま力をねじ曲げ固め、別の何かを生み出した
亜空間ですら経験したことがない、この上ないほどのアンノウンなのだから。

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『そんな...じゃあ、アウトゥラは元は人間だっていうの!?』

「...そうだった、ハズだが。頭はそうじゃないと...もう解からんのだ」

アウトゥラの口から知らされた事は少ない...というよりは抽象的で理解出来ない
彼女の体を調べた結果、その体の中には何も無い事が解った
体や頭等、人間らしい部分はその中に無数の歯車が重なりあい動き
腕や足は一見古そうに見えるが、チタンやカーボンを使用した
明らかに人間の手で作られた最新鋭のロボットのパーツ達である。

「理解できんな、亜空間でも宇宙人でも...こんな..こんな乱暴な作りでは
お前のような思考し動く人形どころか、玩具にも劣るガラクタの塊にしかならないはずだ」

アウトゥラをスキャニングし、そのデータを見ながらアキは困惑を表情を浮かべる
明らかにありえない、まるで子どもがブロック遊びでロボットを作ったものが
そのまま命を宿して動いている、アウトゥラはそんなレベルで成り立っている

亜空力でも、この中では一番アウトゥラに近い存在であるアンチヴィランに使用された
人間の存在そのものを無限エネルギーに変える宇宙人の技術でもない
何かよく解らない、不可解な力がアウトゥラを人間であるままに異形へと変えてしまっている

「へ〜..これってアレですよね、幽霊とかポルターガイストそんな類の状態ですよね」

出されたデータを見て葉子が率直な感想を述べる
確かに示された数値から導き出せるのは、人の魂で繋がっている
いわばアウトゥラの元となった人間は既に死んでおり
無理やり生かされている残りパーツと機械人形のパーツが
その幽霊を無理やり宿して動いている...そんな状態でしか説明がつかないのだ

「だが、例えそうだとして説明できないものをどう認めろと...」

理解出来ないものを目の当たりにしてアキが頭をかかえる
その存在を認めた、認めないなどどうでもいい事ではあるのだが
それらを差し引いてもアウトゥラは不可解だ。
興味深いが、解のない数式を説いているような感覚に陥る。

『アウトゥラの言う”メアリーの世界”、それが何なのか解れば何か答にならないかな』

理解に苦しむアキと葉子の後ろからアンチヴィランが一つのヒントを投げ込む
アンチヴィランも当然何がなんなのかは理解していない

無意識下にそれはヒントとなったが、アウトゥラが錯覚している『異世界から来た』という事実
それが彼女の体を繋ぎ止め現世ではありえない幽霊に近しい物を実在させているのだとすれば
その解へと、絡んだ要素と数式の樹海は道を示し始めるのかもしれない。

「自分の世界があることを理解しているというのは、亜空間の力を理解していなければ
解っても信じられないものだ、それを理解しているのではない。要は錯覚しているのだとすれば
奴の命を繋ぎとめるのは契約していない亜空力である可能性だって有り得るかもしれない」

アキの思考が巡り、答えを導き出すべく自在に走る
それがたとえ解に行き着いても、その証明を示すことは出来ないが
アウトゥラが恐れる2つの存在が「現世の者」であるならどうとでもなる
それだけのヒントがあれば十二分に戦い、勝つことが出来るというものだ。

「アウトゥラはそのエレジーとレガシーとかいう存在に都合がいいように作られた世界を見せられている
要はメアリーの世界など無い...メアリー、虚構の中の美しい自分の投影に与える名前
それはまるでフェイクだと自分で言っているようなものじゃないか」

アキの思考が更に巡り、声に出された様々なキーワードが点と線でつながる
それは異様であるようで、目線を変えれば現世の理りの中にある事象
未知は未知だが、理解しきれ無いほどではないようだ...少なくとも今はそう感じられる。

「見えてきたぞ、光明が。だがアウトゥラのようなものを実現させたものが現世にいるのだとすれば
それはそれで随分と恐ろしいことだ、相手は相当に狂い咲いた、正しく狂気の花だろうさな」

アキが指さした先にある、アウトゥラの表情が固く引き締まる
彼女は当然知っている、彼女が倒さねばならない存在の驚異と全容を
だが、それは思考段階で止められ、歪んだ世界を見せることで別のものと認識しているはず

だが、その表情は何かを理解しているようで、アキもまたそれを感じた上で彼女へ目線を送ったのだ
彼女は人、未だ人だが既に無残なしに近しい存在である
それを生み出す異形は何か...それは人間であることは間違いないが
そこにまで至ったそれは「既にヒトデナシ」なのは間違いないだろう。

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道を往く影二つ、明るく伸びる日の出と共にそれは来る。
登る朝日の光に伸びた影はまるでその狂った力を示すようにはっきりと映る

エレジーとレガシー。
そう呼ばれている。英霊路 龍子と霊我志 忠子だからエレジーとレガシー。

彼女らは幼い頃から仲の良い、名家の娘であったが
今では「仲が良い」の枠を超えた、互いに唯一無二「愛し合う」関係であり
互いに互いが存在すれば、他の事などどうでもいいととすら感じている。

「何だか凄く力を感じるわレガシー。私のお人形...もう近くにいるみたい」

「ええそうね、感じているわ...こんなにエレジーを寂しがらせるなんて嫉妬してしまいそう」

しっかりと着込んだ制服、丈の長いスカートが風に揺れる
その二人の姿だけ見ればあまりに美しい、高貴で気品ある存在感は
誰もが憧れるような「お嬢様」その物だが、彼女らに取ってそれは使える道具でしか無く
その内にあるのは歪んだ、意識せずに得た世界の狭間に眠る力で狂った欲望だけ

狭間。それは言うまでもなく「亜空」。しかし亜空に祝福されぬ存在は亜空に食われる。
今までとは明らかに違う形で、それは今正に亜空を正しく扱える者達の前に現れようとしている
今までとは違う敵、それはあまりにも純粋な愛と欲望の化身。

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-Episode:02「遺産と哀歌」 ・終、次回へ続く。
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