--- 無数の色の世界をシュリョーンが駆ける それはまるで絵に書いた光景のような未知なる色合い その世界こそが亜空間であり、現世から見えていた「黒」だけの世界は 人間の目にはシャットダウンされた何も無い世界が見えていたに過ぎない 「あの歌は亜空間の中から聴こえたように感じたが...」 遠く聴こえた歌に導かれシュリョーンは亜空間を駆ける 無数の世界の隙間にある亜空間は全てが一つであり 存在しうる世界で唯一「全ての世界に行くことが出来る」 言わば世界を繋ぐ道の役目も果たすが、入り込めば最後自身の存在は 完全に亜空間に存在するための者へと塗り替えられ、条件を満たさねば出ることは出来なくなる 「何処かの世界から聴こえていたのか、まぁ行ってみれば解るだろう」 あくまで条件を満たさねば、である シュリョーンはその例外の一人であり、もう一人のシュリョーンである葉子と 即ち「既に亜空人間であるもの」と契約したことにより 例外的に互いに「どちらの世界でも人間という存在」を確率しており 自由に各世界へ亜空人間として出現できるようになっている 「何が起きるかは判らんが、新しい力を試してみるのも悪くはないか」 まるでチャンネルを切り替えるかのように世界の色が切り替わり シュリョーンの足が一つの世界の前で止まる 鮮やかな色の中に一つだけある白黒の世界、そこに何か気配を感じた 「ここか、声の出ていた世界は。随分とまた独特だこと」 一枚ガラスの壁を隔てるように見えない壁が存在し それを破壊すればその向こうにある世界へと行く事ができる 制限時間はない、が、亜空人間とは言え「死」は存在する人間と変わらない 何かが起きれば人間の時と同様に窮地に陥る、そしてこの世界に今仲間はいない 「怖いなんて、随分前から思わなくなったな...達観してきたか」 桃源一人のシュリョーン、それは即ち力はそのままだが男性の力しか持たない 究極の人間にしてその実は『悪』であるというオリジナルのシュリョーンという存在からは離れたが 姿はそのままに、又違うシュリョーンとなっている 幾多の戦いの中で成長した、とも取る事は出来るが 亜空人間として、ある意味全ての欲や怒りから開放された姿でもあり 最早今までと同じ存在として計るべきではないのだ...が、見る限り変化はない 「せーのっ...でいっ!!」 見えぬ壁をシュリョーンの拳が軽々と砕くと その向こうの白黒の世界は少し色を得たように感じられた しかし、それでも尚十分に色のない、枯れたような味気ない世界だ 人、それ以前に生命的な物は生きられるとは思えない世界 荒廃とも破滅とも違う、元よりこの世界は僅かな色でだけ作られているように見える 足を落とした先、わずかに砂煙が上がる...まるで炭のように黒い こんな所から歌が聞こえてきたというのだから驚きだが それは同時に、これは「罠」だったのではないだろうか...という疑念も生む。 「明らかに異質で、明らかにここだけ違う世界観...本当にここは異世界か?」 |
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確かに世界の壁を砕きはしたが、それ自体が幻惑であった可能性もある あらゆる可能性は長い戦いの中で経験することで経験してきたが さすがに未知の状況下でそれにいずれかに当てはめて行動するのは難しい 辺りを見回してみるが、無駄に広い大地は何かがあるわけでもなく ただ見えるのは目前に小高い丘がある程度 木すらもなく、短い草木...に見える黒い何かが生い茂っている 「敵がいるならいるで、面倒だから早く出てきて欲しいもんだ...時間制限はもう無いけどさ」 独り言を呟きながらシュリョーンが目前に唯一見える目標物である丘を目指し歩み始める 何も無い世界、行く先に何かがあるとは思えないが足は自然に歩み出していた 「...っ?」 数歩、進んだ頃からか次第に黒い構成物たちがざわめきだす 丘に近づけば近づくほど、それは激しくなり、風のような何かの押し出された構成物たちは 一つのまとまりにでもなるかのように集まり始める 「やっぱり何か仕掛けあるわけか、まだ罠と決め付けるのは早いけど」 歩くたび目前の『何か』が形を作る、それは二つの影 人型であることが何となく分かり始めるぐらいだろうか 人間的だが随分と大きい、相手にするなら厄介極まりなさそうだ 『君は...歌を聴いてきたのかい?』 『愚かな侵入者、お前は何者だ』 様子を伺いながらも足を止めず前に進むと 驚いた事に二つの影が交互に質問を投げかけてくる どうやらその片方が歌の主らしい、ならば呼んでいるのはこの影だ 「ああ、あんたの歌を聴いてきたよ。助けを求めているようだから。 そっちの人にとっては邪魔者らしいけどね...どうなんだい?」 既にそれなりの形になった影、それはまるで人形のように綺麗な人間の形をしている しかしその体中は黒い線模様で描かれた奇っ怪な姿をしている 片方は巨大な口と胸に何かマークが、もう片方は両腕が明らかに大きい 呼びかけに応えることもなく、ただ構成され辺りは灰色な世界となり あらゆる黒は二人の体の中に取り込まれたのだろう、なくなっていった 「何もせずに帰らせてくれるなら、そのまま帰るんですが...そういうタイプ?」 答えのない相手に再度質問を投げかける 期待こそしていないが、何事も無く帰れるのならそうれほど楽なことはない だが、「歌」が少々気になるのも確かではある 『気になったんだね僕の歌が、じゃあ君は僕向けだね』 「僕向け?一体それはどういう事だい?」 『力をあげるよ、もっと強くなる力。もっと繋がれる力を。』 右側に佇んだ友好的に感じられる方の影が言葉をつなぐ その言葉を信じるのであれば、力を与えてくれるらしい 『邪魔者は排除する、均等は保たれねばならない』 「こっちは好戦的だな、あんたを倒せばいい...って事かい?」 『生きて帰りたくば、我らを倒せ。それが答えだ!』 声にあわせ世界がざわめく 何か大きな力が、その世界そのものを揺らしているような感覚 佇んだ二つの影が示した言葉を最後に、一つの存在へと融合すると そのざわめきは最高潮に達しシュリョーンを地面へと縛り付ける 導きだされた答えは一つ...その力を超えれば進化、負ければ死。 「理解したよ、じゃあ...一勝負だっ!!」 見知らぬ世界の見知らぬ空白 悪の進化は果たして如何なる方向か、その答えを見るためには 彼自身が生き残る必要がある、命を賭けた戦いは終わらない。 むしろ終わる気配すら見せず、まるで当然かの如くまた始まったのだ。 --- -Episode:01「外者の道筋」 ・終、次回へ続く。 |
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