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「亜空転送、バスターユニット...打ち砕けっ!!」

葉子が足を踏み出したころ、メイナーとイツワリーゼンは
「鳥籠」の機能を停止させるべく、その力を解き放つ

「メイナー、後はこれを破壊すれば全ての機能が停止するはずじゃ...あとは任せっ...なんじゃ」

巨大な黒い壁、英知を与えると言う巨大な石版「モノリス」をイメージさせる
その大きさは100mは越える、巨大な建造物が壁として立ちはだかっている

「これはこれは、随分とまぁ...姫様、他人任せはいけません手伝っていただきますよ」

メイナーがイツワの宣言を遮るように手を貸すよう要請する
目前の壁は二人で挑んでも破壊できるか危ういほどに巨大なのだ

様式にこだわるヒーポクリシーの残した最後の大仕掛け
鳥籠により地球人類を行動不能にし自らの僕とした上で
死に逝った同胞をその中に宿らせる事で転生させる
それがドクゼンの最大にして最悪の「地球侵略」のシナリオだったのだ

「しかしどうも理屈が解らない...この石の壁というのか、石版は何だというのでしょう」

メイナーが不思議そうに石版に一辺に触れると
微かに赤黒い光が流れるように走り回るその巨大な建造物
これはヒーポクリシー星に残された使う事は許されないテクノロジー

「これは、我が故郷ヒーポクリシー星で産まれた高エネルギー生命体
...壁のようじゃが、生きているのだ..古代よりずっと我等が死んだ後に宿る物
この壁自体が生きておる、意志集合体と言うべき物...といえば解りやすいじゃろうて」

壁に手を当てると、バスターユニットの一撃でわずかに砕けた破片を拾い上げ
イツワがその存在に付いて語る、それはヒーポクリシーのある意味で全てであり
彼らにとってこの壁が特別な物であることを意味している

「死した魂は融合した意志集合体...なるほど、それは解き放たねば、窮屈でさぞ辛いでしょう」

「そうじゃな、高度な文明を誇ったヒーポクリシーの技術を永遠に残す為...等と言うて残されておるが、
この壁に取り込まれた何百、何千と...数え切れぬ意思は今正に叫んでおる、助けてくれ...と
じゃが、ドクゼンは奴等が「体を求めている」と解釈しておったのだ、そして地球人をその器に選んだ
...と言う事らしい、私もギーゼンの中身を見るまでは知らなかったがの」

イツワリーゼンが語るヒーポクリシーの技術の結晶
聳え立った壁、100mはあろう壁その物が死した魂たちの入れ物であり
意志集合体と呼ばれるある意味では進化し、また別の意味では歩みを止めたヒーポクリシー星人である事

エネルギーを放ち、幾千年の星の記憶を持つ...彼等が求めるのは仲間
飢え続ける混ざり合えない物たちの、寂しさから産まれた隙間を埋める為の新たな犠牲
彼だを求める永遠に終わらぬ渇きを解消する為
ドクゼンは地球人全てをこの壁に宿る魂の入れ物とし、新しいヒーポクリシー星人を作ろうとしていたのだ

「正に偽善だったという訳か...中身の奴等はそんな事求めてはいないと」

メイナーが亜空間より重火器を呼び出し、更に背後には支援機の影も現れる
両腕が黒い影に包まれ、それが割れると巨大な銃が握られ
背中には本来シュリョーンが使う亜空キャノンも装備されている

「意志集合体...いや、我が星の民だった者たちよ。もうすぐ開放してやれるからの、待っておれ」

イツワの叫びを聞き入れるとメイナーは力を込めて握られた銃を構え照準を合わせる
現状メイナーの出せる最大の火力だが、この自由意志を破壊できるかは定かではない
だが、彼の動きの不安の色は無い、なぜならば...

「亜空の力は思念が強いければ強いほど威力が上がる、そう正に今我が思念は最上級に強い!」

静かに、しかし激しい意思がトリガーを引き、高速でエネルギーが走る
鮮やかな光が巨大な弾になって自由意志と呼ばれた壁に激突する
1発また1発と、そのエネルギーが尽き果てるま出と言わんばかりにメイナーの銃が唸りをあげる

「私も負けてはおれぬ!メイナーこのデカブツ使わせてもらうぞ!!」」

灰色の骨がイツワの全身を覆い、そしてその背後に更にフルブラストメイナードが合体する
強力な力が全体に走ると、メイナーと同様にイツワもその力全てを叩き込みトリガーを引く

「「うぉぉぉぉぉっ!!」」

二つの叫びがシンクロし激しくこだまする
静寂の宇宙が一瞬激しき喧騒と怒号に支配され、さながら祭りの様相を見せると
巨大な壁にバリッバリバリッと無数の亀裂入り始める

そして、その割れた隙間から無数の人影のような赤い光が溢れ出す、封じられた死した魂達が
壁と言う現世に繋ぎとめる枷を外され飛び出し、消滅する

いくつもの閃光が壁に直撃し破壊を促進する
...が全域に亀裂は入れど、まだ破壊には至らない
巨大な壁は数千の意思によって守られ、未だ形を保っているのだ

「さぁ、総仕上げですよお姫様!貴方の手で決めるのですっ!!」

最大級のエネルギーを放ち続けるメイナーが
まるで「お前の出番だ」と言わんばかりにイツワリーゼンに目をやる

すると、イツワリーゼンはそれを待っていたかのように装備を全て外し、クナイを握ると
猛スピードで壁に向けて駆け出す
メイナーが放った光の帯を追い越し、まるで光の道を走り抜けるように
鮮やかに銀色の光が突き抜ける...そして壁が目前に迫るとイツワリーゼンが叫ぶ

「うぉぉぉッ!!悪道我総・魂一刀両断!!」

鋭い刃が赤紫の光を放ち銀色のイツワに体に反射して光り輝く
亀裂に沿って砕け、かすかな繋がりだけで折り重なり張り付いていた壁は砕け散り
無数の魂は光の中に消滅する、かすかに人の声のような物が聞こえている

「ヒーポクリシーの姫たるイツワリーゼンが諸君等に命じる...さらばだ、先に逝って待っておれ」

イツワリーゼンに出来る最大限の彼等への礼
ざわざわと数え切れぬ魂たちが宇宙の闇に昇華してゆく

それはまるで輝くオーロラのように見えたが
美しいと感じる反面で悲しみを感じさせる闇に輝く星のようでもある

その輝きの中でイツワリーゼンの言葉に答えるかのように
微かに聞こえた声達はただ静かに、振り返ることもなく消えていった

「...やりましたね、だが技名がいただけない。まるでどこかの首領のようだ」

「前にシュリョーンと戦った時の技の真似じゃ!やはり戦いの決着は我等全員の勝利でなくてはならぬからのぉ!」

「もうすっかり私達の仲間...姫様が悪道ってのも..まぁ良いか、さぁ姫様に悪い事教えた奴を助けに行きましょう」

まばゆい光の散りが雪のように降り注ぐ
鈍く光っていた鳥籠は機能を停止し、ドクゼンの野望は悪道の名の元砕かれ
イツワリーゼンとメイナーはまだ僅かに遠い最後の舞台へと足を進め始めた

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黒い色いに身を包んだまま、葉子はただ足を進める
人間の体とはこんなに重かったか、涙とはこんなに顔に張り付いたか
考えれば考えるほど、自分がなぜ人に戻ったか頭が理解を拒絶する

「...とりあえずは、ここを出なきゃ」

折れたアクドウマルを杖のように使い力の入らぬ足を1歩1歩進める
周囲の壁は崩れ、上を見上げれば宇宙空間が広がっている
随分昔、まだ普通の人間だった頃、夜空を見上げるのは夫婦の日課だった

「見える、星が見える...私は人間に戻ったんだ」

じっと手のひらを見ると、変化した手は金の鎧と黒い手のひら
その奥に自分自身の体の感触が確かにある、数年ぶりに感じた感覚

その感覚と、頭に宿る感情がぐちゃぐちゃに混ざり合うと
涙がまたこぼれそうになるのをグッと堪えて立ち上がりまた足を踏み出す

徐々に黒い影が鎧を包んで体を回復させる
シュリョーンのスーツの本来の持ち主である葉子が使う事で
その能力が飛躍的に上昇し回復も通常よりも早く機能している

「前より回復が早い、それに亜空人間と時と同じ能力も使える..?」

葉子が目に力を入れると目前にある壁の向こう側が見える
軽くジャンプしても、まだ感覚もエネルギーも戻らないにも関わらず
あまりにも軽く舞い上がり、そのまま飛べてしまいそうな気すらしてくる

これらの能力は全て「亜空人間」だから持っていたはず、しかし今もまだ使えている
それは即ち自分はまだ「亜空人間」だとでも言うのだろうか
だが、確かに今ある感覚は人間時代のそれと同じで全ての色も感触も解る

「能力..メリットはそのまま、じゃあデメリットも...いや、それはむしろ良い事か」

現実から目を逸らすため、今は彼の事を少しでも頭から遠ざけるため
葉子は考えなくても良い事に出来る限り頭を集中させている

亜空人間のデメリット、それは不老不死である事
一度死ぬ事で亜空人間になった瞬間から時が動かない、即ち何があっても死なない
こんな事は葉子は何百回も聞き、理解していたが今はその基本を考えて
少しでも気を紛らわせなくてはいけない

「あぁ、矜持君もまた...同じに...」

頭がおかしくなりそうな感覚が襲ってくる
結局考えを逸らしても至る場所は同じで、思い出してしまう
前を向かねばならない、考えの結論が見えた気がする

「私にとって、貴方がいる現世を守って..いや..貴方が全てだった」

葉子が亜空人間になってから、永遠の暗闇の世界でも生きていられたのは
桃源が彼女を呼び出し、共に生きていてくれたから
他の誰もが自分を忘れても、彼だけは、なぜか覚えていてくれたから
亜空世界のルールすら破って共に生きてくれた...今度は私がその番だ

「矜持君も、こんな風に思って、こんなに悲しい衝動に襲われながら戦ってたんだ」

幾多の戦いで亜空の世界と繋がりを深めたシュリョーンのスーツは限界を迎えている
変身する度、亜空世界の暗闇の中にある悲しみや絶望に頭を支配される
それが極端な怒りのパワーや衝動的行動を呼び起こし力を与えていた、それは今も変わらない
表向きの回復こそするが、深く与えられた傷も失った機能も最早戻らないのだ

「でも..もう...もう良いんだよ、あっちなら少しは休めるかな」

それは自分に語りかけたようにも聞こえる言葉。
カツカツと折れた刀が地面に当たる
既に杖ではなく、ただ手に持っているだけだが強く握られたその刀が
葉子にとっては経験していない、見るだけだった戦いの歴史を物語る

「..!?あそこが出口か、なんて言えば良いだろう...誰も私の記憶が無いのに」

彼女は...亜空人間となった物は、一時的に現世に復活しても
その間に触れ合った人間の記憶に残らない、なぜか桃源を除いて。
それ即ち、今の子の世界に彼女を覚えている物はいない

足が重くなる、偽者だと思われる可能性だってある
何よりまた人間として足を踏み出さねばならない
人間だったころ支えてくれた大事な存在は闇の彼方に消えた

「呼べば会える」...それは自分と変わらない

そう思っても、人間ではなかった自分が感じ続けていた
常に背中について回った寂しさや悲しさ、2つの世界の壁を感じさせる

「...やっぱり無理だよ、私は二人で一つに慣れすぎちゃった」

弱音、決して吐くまいと喉の奥で砕き続けた自分の弱さ、我侭
人間に戻ったからだろうか、その感情が抑えられない
暗闇の世界は暗かったけれど、一人ではなかった...人とはこんなに孤独なのか
自身が忘れられた世界、そこに感じる虚無感が前に進む事を躊躇させる

「葉子、大丈夫だ...記憶はこれから作れる、皆直ぐに君を記憶してくれる」

後頭部からまるで意識が抜けるように、桃源の声が聞こえる
幻...それは微かに聞こえた風の音だったかも知れない

だが、なぜか力が宿ったような気がした
確かに背中に、その存在が感じられる...いつでも二人で一つだと。

「ああ、そうか...そうだ、いつも隣にいるんだった、ねぇ変神さん」

ポンっと背中を押されたようによろつき、体制を立て直すと
シュリョーンとなった葉子は先程より強い足取りで歩き始める

「そう、そうだよ、もっと強く歩かなきゃ。俺は強い女の子が好きなんだから」

歩き始めたシュリョーンの背中を見つめる、まるで幽霊のような黒い影
それはさっきまで彼女と、仲間と、偶然とはいえ地球を守ったシュリョーンのように見えた
その表情はマスクの上でも何か笑ったような穏やかな表情を浮かべる

「また私が変神になるんだ、ちゃんと彼が見守ってくれているんだ」

忘れていた使命、果たしてそんな大それた者だったか
だが、その足は強く踏み込まれ...今はただ足を進める、新しい記憶を作る為に。

「今度は私がこの世界で生きていく、ちゃんと覚えているよ私も」

元々世界の事など、どうでもよかった彼女が始めて守ろうとした彼が
今度は私を救い、人間に戻してくれた、それはお返しと言うにはあまりに大事で
考えただけで悲しいけれど、必死に涙を堪え続けている、それが彼女の決意なのだ

「ありがとう矜持君...私がんばる、皆と戦い続けてゆくよ」

微かな宇宙の光が見える
崩れ落ちそうなゲートを抜けると、その目前には相変わらず鳥籠に囲まれてはいるが
あまりにも青く美しい、帰る場所である地球が広がっている
ほんの数年見なかっただけのその星が、葉子にはとても愛しく輝いて見える

そして、その少し目前に三つの砂煙が上がっている
まだ小さい、まだ「知られていない」でも葉子は良く知っている三人の仲間

「あれは...メイナーとイツワちゃん、手前はアンチヴィランちゃんの...。なんて声をかけたら良いかな
..はじめまして..でいいのかな?最初が大事だよね、多分」

黒い鎧を纏ったもう一人のシュリョーン
彼女は誰にも覚えられない亜空の住人...だった

今この瞬間から、彼女のリセットされた新しい世界が始まる
それは愛が叶えた物か、それとも何かが起こした必然だったのか...少なくとも彼女の表情は明るい

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傷ついたメイナーとイツワリーゼンがライ・ドゥームにたどり着こうとした頃
はるか前方、目指すライ・ドゥームより爆音が鳴り響いた

ガラスの割れるような音と何かが破裂した音
そして何とも言い難い、絶叫のようなものが響き再び静寂に包まれる

「...決着が付いた、そう見るべきかな」

メイナーが亜空ウイングの上に乗ったまま
まるで、もう全部終わったかのような軽い口調で呟く
何やら既に結果が見えている、そんな風にすら感じさせる

「自信があるようじゃのう、まぁシュリョーンなら負ける事はなじゃろうけども」

イツワリーゼンもそれとほぼ変わらず、メイナードの上に乗り軽い口調で答える
まるで何もかもから解き放たれた、そうとでも言わんばかりの穏やかな表情は
彼女本来の特有の愛らしさすら感じさせる。

なぜ彼等はこうも落ち着いているのか
それは目に見えて明らかだったから、と言うべきか
先ほどの爆発音の先に描かれた砂煙の放物線は黒い欠片を撒き散らしていた
あれはまさしくシュリョーンの一撃...それ以外はありえない

「何かこう、遅れてきたヒーローってカッコイイと思ったのですがねぇ」

何かエネルギーが回転するような音を上げ二つの飛行ユニットが低空で飛ぶ
メイナーもイツワリーゼンもすでにボロボロになってはいるが
彼等の足取りは軽い、何せ今日は勝利と開放を得たから...そうに違いない

「私なら変えられるじゃろうか...我が故郷の未来を」

イツワリーゼンが輝く瞳で遥か遠くをを見つめ問う
メイナーの方を向くわけではないが、それは確かに彼に対しての問い
そして、その答えは決まっている、後を押してくれと願うような問い。

「姫様良い時代を作るでしょうね、何ならお手伝しましょうか?私は常にあなたにお仕えしたい所存ですがね」

この戦いで何かが変わったか?
そう問われれば、世間では「悪」である彼等にとって
今日の勝利は世界の誰も知らない事、何の変化も無い一日
変わったことなど何も無い、見えぬ世界の勝利の日である。

だが、桃源にとっては願い、葉子にとっては未来
娯楽にとっては信頼、イツワリーゼンには開放を与える...ではなく深め叶えた
決して無駄にはならない、彼等なりの救いが与えられたのではないだろうか

「それも良いのぉ、娯楽ならいい仕事をしてくれるじゃろうて...っと、そろそろ着くぞ、メイナー」

「良い所だったんですが...口説き落とすのは又の機会にしましょう、おっシュリョーンが見えますね」

成層圏を越えた上、地球を覆う巨大な鳥籠の上
軽快な足取りが新たな未来へと近づいてゆく
新たな悪の軌跡が描かれる未来、それはもうすぐ先に既に見えているのかも知れない。

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