その体は...我は、既に人間の形をした力の塊。
世界と世界の間に存在する、亜空間に宿る力その物。

それは最早、意識というにはあまりに無機質で掴みどころのない何か。
それでも動き、我を形成し続ける体や思考は...人間だった頃の名残、癖とも言うべきか
本来であれば必要なく、この世の理すらも些細な事でしか無いはずだ。

...だが、どうだろう。全ての事象は関連付けられ
人間であった頃から、今に至るまでの記憶が、その生命の記録として世界に残ってゆく。
出会いと別れの中で、それは無機的なエネルギーから割れその者へと変わって往くのだ。

人間は、人間であるから人という器でしか物事を測れない。
同様に、それぞれの生命体はその器の中でしか己も世界も測れない。
どんな存在であっても、その物差しは自分以上には伸びて行かないのだ。

だが、その力の化身は測りきれる以上を知り得る。
自分の範疇を知り、それをあえて超えた先で、彼は彼であり彼ではない。
同様に彼女でもなく、それに追従する蝶や刀の形をした力の獣でもない。

では...あれはなんだろうか。
深化していく力が生んだそれは...言葉を話し考え動くそれは
全てが目に見えているはずの物なのに、何なのかは解らないままだ。

人類の進化を求めた、暴走する地球の意識が生み出す者が
世界や人を救済し、再生を謳う使者なのであれば
彼はその逆だろうか、破滅を受け入れ、その上で強くなれと、生き続けろとあれは言う。

「進化は自分で起こすもの、誰かに与えられるものではない」

その存在の一端、それに訪れる最後の時が微かに見える
無数に多い重なり、深く淀んだ霧のような世界は
ある意味では希望へ、だが決して楽ではない未来と言う名の空を見せる為に
今正に、晴れ渡ろうとその足を前へ進め続けている。

終わる事のない、戦いの一段落の区切り
その先は今はまだ霞んだまま、その先の晴れに向かうか霧の中に留まるかは
あの者が切り裂いた先、残された者達が歩みを勧めるか否かで決まる。

「道は開いた、後は自分で好きにすればいい。どうしようと知りはしない」

彼はもう往く。

「勝手だ」「余計な事を」

...そう口を開く前に、前に進んでみせよ
一人の正義に全てをなすりつける時代は死に
正義に変わって刃を振るったあの者には、無数の罵声は届かない。

彼は悪役、そんな言葉は褒美にすら聞こえているだろう
よく聞け残された者よ、もう甘えている時間は終わったのだ。

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ザクロとバタラバの切り開き、今正に突き抜けた光の先へと続く扉。
その眩い輝きにシュリョーンの視界は真白に霞み、一瞬全てが消える。

...正確さを失った時間の感覚、どれ位が経ったろうか
一瞬とも、数年とも取れる程に途方も無い間を抜けて
白光から取り戻した視界は、その場所が光の中であると教えてくれる。

「...何かがあるようで...何もない。これが光」

亜空間の力が人間から見れば闇の中にある物だとすれば
この世界はその真逆、まるで全てをかき消すように光り輝いている

だが、本来であれば相反する力
最早、亜空力その者となっているシュリョーンがは存在出来る筈はない
だが、今も尚この場所に自らの存在は確かにある。

無数の光は輝き、その眩さは体に突き刺さるようにすら感じられるが
ダメージを与えるどころか、痛みがある訳でもない。
それだけ地球意思の考えが歪み、光としての強さが失われている。
そう考えれば自然と納得もできてしまう、それほど光は変質してしまっている。

「黒いお兄さんはご無事、私達はどうやらここまでみたいだけど」

不意に聞こえた声に振り向くと、そこにはバタラバとザクロ姿があった。
鍵として覚醒したからか、元の人間の姿に戻っている

鮮やかな光に包まれた姿は、今にも消え去りそうな程に強く輝き
そのまま全ての光を放って消えてしまいそうな程に、2人の色を色濃く飲み込んでいる。

「鍵としての役目が終わったみたい。でも良かった、少しだけど生き返って未練を無くせた」

ザクロに続くようにバタラバもその使命を理解し、告げる。
最早その姿は半分以上が光に呑まれ、今にも完全に消えてしまいそうだ。

目に見えて解る、2人にはもう時間がないと。刹那の先にはもう存在していないと。
光に作り変えられた者達が、光に還る。どうやらそれを2人は理解していたようだ。

「まさか...解っていて協力してくれたのか」

放つ言葉、消え入る姿。もう既に運命を受け入れている。
自分たちの末路を悟った上で力を貸し、その生命を失おうとしている。

まるで光は蝕むように、我が子とも言うべき存在を飲み込む
最早、シュリョーン後からであってもどうにもする事も出来ない。

...だが、その事実をかき消すように、存在を掴もうと手を伸ばす
あまりにも儚い命を前に、手を伸ばさずにはいられなかった

「もう既に死んでたようなもんだよ、限界が来ちゃったんだね」

「それにさ、未練がなくなったからねぇ...いいのよ、これで。それよりアンタは先へ行きなさい」

伸びた手は2人の体に届いている、だがそれを掴む事は出来なかった。
まるで存在がなかったように空を切った腕の先から、彼らが消えて行く。
もう数秒も待つこと無く、次第にその存在が無くなっていくのが解る

掴むことが出来ず通り抜けた二人の間
背を向けたシュリョーンの背中を押すザクロの腕も
微かに感触を感じた後、消え去った。

振り返る目線の先に、微かに消え行く光の粒が舞う
その無数の粒子の先に手を伸ばした時、手の中に何か感触が残っていた。

「...これは」

手の中に残っていたのは小さな球体。
消滅する2人の意識が結晶体となったものだろうか
小さいが純粋で強いエネルギーが感じられる。

「光が、まるで往くべき道を示すようだ」

夢幻のごとく広がる光の世界の中で
それもまた光の力であるにもかかわらず、シュリョーンに力を与えるように
赤く輝き、放つ光はまるで道標のように先を照らす

『どうやら、余計な手順は踏まなくて済みそうね』

光の指し示す先、何もない光の世界に
まるでシュリョーンの為だけに用意されたような一本の道がある
光球が照らし見せる赤い道筋は、遥か遠く、まばゆい光の中に吸い込まれている。

その光の先、そこから強烈な気配を察知し
ティポラーとマニックがシュリョーンの体に融合すると導かれるように歩み始める。

『気を引き締めて行け、相手は何せ神のような者だからな』

手元の刃が声を上げる、その声はどこか楽しそうにも聞こえる。
戦いを純粋に楽しむ、マニックにとって過去最強の敵であり
全く先の読めない存在である地球意思は敵として申し分の無い相手であろう。

ティポラーもまた言葉にこそ出さないが、シュリョーンという存在がここにまで至り
その存在の一部として、地球意思を叩き伏せる未来を欲し、その力を上昇させる。

光の渦が巻き上がり、弾け散る。
ある意味では異質で、同時に美しさすらも感じさせる夢幻の中で、黒い影が舞う。

走り出した足は、進むに連れスピードを上げ、上がりきったその速度は足を地面から遠ざけ
その勢いは背中の羽にも宿ると、そのまま照らされた道なりに体は浮き上がり、飛び抜けていく。

「...妙に静かだ、来るのを待っているとでも言うのか」

光が渦巻く音、駆け抜ける自身の放つ音
それら以外に全てが無。何者の気配も感じられない。
地球意思の思惑通りか否かは解かりはしないが、ただ無が長い道の上で続いている


段々と迫る道の終わり、光の先に何があるのか
言い得ぬ緊張感、この姿に覚醒してからは久しく感じていなかった人間らしい感覚。

かつての感覚を忘れていなかった事に驚きはしたが
それも記憶が呼び起こした誤差のような物なのか意識した直後には消え
再び亜空の力の中に掻き消え、消滅していった。

...思い出すという事は、深化の中にあっては忘れる事。
理解すれば消える、それは全てに同じ。見出すべき勝機であり死の可能性。
だが、もうそれすらも...この黒い異形にとっては些細な事でしか無い。

どうなって行くのであれ、無くなるのが早いか否かの違いであり
無くしてゆく代わりに、異常な迄の存在に至った事で確固たる我を確立した。

「突き抜けるぞ...覚悟はいいか」

輝く光の道に我導剣の切っ先が突き刺さり
空を舞うシュリョーンのその勢いに乗り、長く伸びる道を真っ二つに切り裂く

飛び去る体に風は当たらない、切り裂く感触も得られない
この世界は無に溢れ、埋もれているのだが実感としては感じ無い。

唯一微かに残る光すらも、本来はシュリョーンでは存在できないほどに眩く
絶対的な物として輝いているはずなのだ...

今目に見えているように、光は濁り失いかけている。
そうしてまで、そうなってまで地球意思は何かを求めている。

それがこの争いの発端、そして全ての間違いの始まり。
今その根底にあるあまりににも勝手で、あまりにも虚しい無だけが残った光の中を
まるでその虚しさまで切り裂くように異形が飛ぶ、その姿は更に闇を増し赤紫に輝いていた。

『誰に聞いてるのかしら、私は貴方。貴方は私。永遠に離れられないわ』

『左様、その最後の瞬間までお前と共にある、1人にはしない』

思考の中で、その体は次第にその道の果てへと迫っていく
真白な世界、変わらない景色は感覚を鈍らせるが...確かに進んでいる。

力が体に滾り、猛然と進みゆく中で
人間2人と異形2人の力を混然と融合させたこの体は
一体この地球に巣食うその歪み始めた意志にどれだけ対抗できるのか
それを試してみたいと思わせるほど、彼らの力は研ぎ澄まされていた

誰かの為なんて綺麗事ではない、自分勝手な欲望
それだけで、この境地までたどり着き、今正にその頂点に挑まんとしている。
その存在は既にシュリョーンと言う存在を超え、「変神」と言うべきだろう

「...そうか、それだけ聞ければ十分だ」

4つの意識が赤と紫の光を纏い、更に勢いを増してゆく。
先程まで会話していた意識達は、既に1つの存在へと変質を果たす。
最早それは、地球意思に匹敵する領域の、歪な神。

『気配は既に感じている、待っていろ』

道の終わり、無数の光の飲み込まれる最後の地点に変神が飛び込んでゆく。
その体は今まで以上に亜空の力を強め、赤紫の輝きが舞い気配が棘のように伸び散る

次第に増し、あまりにも強まった亜空力白き無の世界を次第に色づけていく。
今まで飲み込まれていた存在がまるで逆に飲み込み返すように
徐々に...しかし確かに、変神の深化の力が光を上回り始めているのだ。

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