気配がした、人間が次第に手が付けられない歪な存在へと変わる未来の気配。

この地球という惑星の意識として、どこにでも存在する私が
自分の器を保つ為に、その表面に無数に生み出した生き物の内
本来であればもっと巨大で、知性の低い者達が生きる筈であった世界、それが地上界だ。

そんな世界は予想外の外的要因で思いがけない変貌を遂げた。
今では、想定よりは随分と頭の良い生き物が、勝手に動き勝手に生きている。
自分の理想はといえば叶うどころか、段々と薄汚れている気もして、何だか気分が悪かった。

しかし、そんな事は些細などうでも良い出来事でしか無い。そう思っていた。
正直、自分の器なんて物は自分からは見えない、興味はあまりなかったのだ。
自分を生み出した外の世界が「綺麗でいなさい」と言うから、していただけで。

「でも...このままだと、あの子達は全滅してしまうだろうな」

穴が開いて、爆発して、削り取られて、器の表面は既に壊れかけていた。
彼等は意識である自分と違って、己以外の存在や事象に興味があって、それでいて認めるのを嫌うらしい
加えてとても弱いから、勝手に争い勝手に死んでいく。
だけど変に頭がいいから、その死に際に私の器まで傷つけたり、時には壊す事がある。

さすがにそれは困る、そういう時は色んな方向から手を出して
彼らの数を減らしたり、可能性を破壊して少しづつ様子を見てきた。

感覚が違う自分から見ても妙に長い時間、彼等の世界を踏み込みすぎない程度に管理してきた
自我があり勝手に動く彼等は、ある意味優秀だが、総じて我が強いと理解できたし
変なところが自分と似ているのだろうか、干渉したがる割に本質は自分しか愛さないという所は好きでもあった。

しかし、度々起きる争いだけはどうしても理解できなかった。
次第にこの意識たる自分でも「危険だ」と感じられる程飛躍的に発展し酷くなった。
我の強さが、他を根底では認められない性質が、破壊と相性がいいらしい。

「このままだと私だって影響は出る...少し踏み込まないといけないかもな」

自分の意識で、この星の表面起きる事象の操作は出来る
だが、あまり彼らの意識に引っ張られると、均衡が崩れてしまう。
だから大体、何時も争う両者...というより全てに被害を与えてきた。

そうして難度も破滅と再生を繰り返し続けてきた
今回もそうすればいい、少し進化し過ぎた私の目にも余る者だ
一つ前の生物たちと同じく、そろそろ滅びても良い時期だとも思っていた。
...そうして人間にとっては破滅的な災害を呼び起こしてみた。

「驚いたな、まだ滅びないんだ」

何度か破滅を呼び起こし、滅べ、滅べと呪いながら手を尽くしてみたのだ
...だが、どうだ。アレ等は滅びないのだ。

多少の贔屓、愛着から手加減のような物は無意識下でしたかもしれない
まず自己暗示のように意識して滅びを与えた事自体が初めてだった。
だが、そんな多少の違いで変わる事でもないのだ、何せ「破滅」なのだから、普通なら全滅する。
だが、消えたと思ってもまた現れる...異常にしぶとい

「...あぁ、これは使えるな」

このしぶとさ、異常なまでの忍耐力...というより執念というものか。
アレ等...人間と言う物は使える素材だと、気が付いたのはこの時だった

私の外側の世界を守り、管理し、永遠に続くサイクルを作り上げること
ある意味での理想の手駒、それになり得る存在はいつの間にか生まれていたのだ。

思えば、その考えに至った時から、自分の器がどんな物か見えるようになっていた気がする。
漠然としていた意識が、形を持ち、私はは地球意志だと...認識できたような気がするのだ。
人というものに干渉し過ぎている、それも理解していた、だが止めようもなかった。

「まずは、人間をもっと強くしなくては」

ただし、人間は根源的な精神や考えは意固地なまでに強くても
他の生命体に比べ体は脆弱であり、脆すぎた。
そこで考えついたのが、あらゆる知覚出来る物・者との融合。

昆虫のように強固な鎧や独自の進化過程を持つ個体
植物の適応力、増殖力、吸収・侵食、生存本能を埋め込んだ個体
そして、地球上に存在する火や水など森羅万象あらゆる物を人間と掛けあわせた。
...特に風は好きだった、風との融合体は特に力を入れた。

無数の可能性の中にある最上の組み合わせを
延々と続く有り余る時間の中で繰り返し生み出し進化・発展させてきた。
それが最強の手駒、選ばれた次世代の地球の管理者となり得る存在
それが「サイセイシシャ」私が初めて意識して生み出した生命体だった。

「進化も行き詰ってしまっていた。都合もいい」

正直に言って面白かった、人間はいつの間にか大好きな種族になっていた
しかし、好きだからこそ弱さが憎かった、その両方の感情も膨れ上がっていた
まず、感情という私にあってはならない物が芽生えている時点で異常だと、自分でも解っていた

しかしそれを無視して更に深みにはまってしまう程、未知の刺激があったのだ。
快楽と言うよりも最早義務と感じていたのかもしれない、これもまた人間が使う感情の話なのだが
人間が持つ本来であれば不要である物に縋りつく性質、それを見ている内に知ってしまったのだ

私の中で、段々と感情が増えていった。もう意識ではない、単なる個体になっていると
今でこそ解るが、この時はまだ取り返しが付くと思っていた。

「そろそろ仕上げだ。作るなら根本が強い女性か、それに近いのが良いだろう。男性は1匹、指揮者がいれば十分」

人間は女性が強い、勿論耐える力の面で。精神も肉体も何か間違えたようなしぶとさがある。
男性、これは使いものにならない事が多かった、痛みに耐えられない。弱いのだ。
でもその男性の中でも、女性に近づこうとした物はそれなりに強かった。

だからサイセイシシャと言う軍勢の中に精神も肉体も男性である存在は1人だけだった。
まぁ元より彼らの言葉で言う神のような物になっているわけだから
本来であれば性別なんてものは考えず、与えないのが正しかったのかもしれない
それが解らなくなるほど、更に人間の感覚が染み込んでいたのだ。

「良いね、出来たよ」

結果として、最終的に進化した存在
人間を再構成し、生まれ変わった使者「サイセイシシャ」は完成に至る。

同時に、地球意思も自分にはなかった筈の実感、精神的な充足を得た事で
その外殻、極めて人間に近しい体を得ていた、それは進化であり、大きな変質であった。

それは同時に、永遠に存在が無である、ある種の究極の存在が無ではなくなった
超常的な究極の存在が人間レベルに落ちた、最悪の瞬間でもあったのだ。

「当たり前に見ていた世界を見ている目、つかむ腕、駆ける足。
素晴らしいじゃないか、私は...やっと...得たのだ」

自分という存在を意識すること、個を得ること
意識という無が、無という外殻を認識してその形を作り上げてしまった。

意識した瞬間から、その周辺には真白の世界が広がり始め
目に前に世界は輝き、あらゆる情報を得てゆく。様々な刺激を貪るように取り込んでゆく。

「流石に人間たちのいる場へは行けないし...そうだ、彼らに集めてもらおう」

形を得たが、自ら生み出した真白な世界から動く事の出来ない地球意思に変わり
ありとあらゆる刺激はサイセイシシャが得て、地球意思に伝えていく。

同時に、サイセイシシャが動けば動くほどその因子は地球上に舞い落ち
次第に進化して人間が増殖していく...筈であった。

「何故だ...何故、サイセイシシャは増えて行かない」

サイセイシシャは確かに地上に降り、生命体としてその因子を振りまいてゆく。
だが、全くといっていい程増えて行かない、その動きを阻む者が存在していた。

「...何だあれは」

地球意思が欲望に目がくらみ、夢中になっている間
地上は管理を失い、良くも悪くもあらゆるバランスが崩れていた。

地球意思にとってはあっという間の時間だが、それは人間にとっては途方も無い時間
その間に人間の中に、異常なまでに強い力を持つ者達が無数に生まれていたのだ

「油断した...でも、光の戦士がいるじゃないか」

邪魔者は先に地球を護るために送り込んだ戦士が阻むはずだった
しかし、それは外的要因に封印され舞い戻ってしまった
彼の回復を急がねばならない、焦りと同時に...未知なる感情が芽生え始めていた。

「あの邪魔者達が...憎い、これが人間たちが争う感情」

地球意思には認識できない者の登場。
人間ではなく、異星人や外敵異形というべき存在でもなく
いつの間にか現れ知覚も出来ないままに消えるそれは何か
それを考え、その存在に出しぬかれ続ける度に黒く濁った思考が頭を支配した。

「何か、何か手がかりでもあれば...あぁ消し去りたい」

何日、何年も地球上を探索し続けた、敵を見据えねば収まらぬ怒り。
その怒りが、ある力、強力な異質の気配を感知する。

少し前、地球を攻撃しようとした異星人に対し地球意思が正義の戦士を送り込んだ際
彼らよりも早く現れ、その侵略を阻まれた。その時たしかに力の感覚を掴んだのだ。
異星人が撃退される寸前、あまりに強いそれは突き刺さるように目に焼き付いた。

「見つけた、そうかこんな力が...他にも沢山、邪魔な奴らめ」

自分の知らない、知り得ない別の世界と現世界との間
そこに存在している力の存在、それはあまりにも対局の黒を宿した存在

「ファクタル、彼を倒したのもあの力なのか...あぁ確かに記憶の中にある」

名前も何も解らない、存在すらも知覚出来なかったが
身の内で回復中であった戦士の記憶が教えてくれた
それは、悪だという。力の根源は亜空。

聞いた事もなかった、認めたくもなかったが
それは次第に大きくなり、異星人という外敵を砕く頃には既に無視は出来なくなり始めていた

「何だ、何だというのだ...恐ろしい。不完全だが戦士を送り込んで破壊させよう」

完全な意識の操作も出来ぬまま、戦士...ファクタルは再び地上に戻された
この選択もまた、濁った光が選択した最大級の失敗だとはこの時は気付けぬままに。

丁度、異星の敵が駆逐され、目覚めたファクタルが見上げた空に見えたそれは
なんの色も塗られていない正義に、微かに...だが確かに、誰の物でもない正義を歩む。
そんな未来を見せてしまった、そこからファクタルはある意味で目覚め、地球意思に疑惑を抱いた。

「ファクタル...彼も制御できなくなるというのか」

地球意思にとって、あまりにもイレギュラーな力
自分の兵である正義の戦士すらも、塗り替えてしまったように見えた。
実際は疑心暗鬼の中で目が眩んでいただけなのだが、省みるはずもない。

「潰してやる、あんなもの潰してやる」

人の中にあって人あらざる力が、段々と影響を及ぼし始めている
そして段々と迫ってくるのだ、意識せずとも恐怖心という感情すらも生まれ始めていた

それは既に個を得た地球意思にとっては新しい進化だが
同時に生まれ続ける弱さでもある。

そのまだ恐れを知らなかった精神に、無数の傷をつけた上で
よく浸透し、侵食していくまるで毒のようにの様々な悪意が塗りこまれていく

「破壊だ、あんな奴等は私の兵で破壊してやるんだ」

無が個を得て、最終的に怒りと破壊に走る...最早それは人間と同じ。
地球意思という絶対的な無が、完全に狂ってしまった。
それが現在に至る地球意思の状態である。

それはまるで無限の力を持った子供のようだが、相変わらず根源的には地球そのものであり
最早限界を迎えた外殻以上に、既に破壊しつくされた精神で成り立っている。

無であるからこそ、行えていた世界の運営は
人間に肩入れし過ぎた彼にはもう不可能だ、だからこそ、「外敵」が現れたのだ。

そしてその外敵は、もうすぐそこまで迫っている。
圧倒的なスピードで、自分とは逆の変貌を果たしながら。

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道の終わり、飛び込んだ先には...「無」があった。
厳密に言えば、その場がある以上、無ではないのだが
言葉にするならば、光の世界以上に何もない場所がそこにはあった。

何もない、だが何かが全身に張り付くような
感触こそ無いが水の中に飛び込んだような感覚だけはある。
だが圧力がかかるわけでもなく、ただ纏わり付くように体を覆う感触がある。

『..これは、全て地球意思の気配か』

気がつくと同時に、何もない漠然とした白い世界の中で落ちる感触を覚える。
落ちているのか、それともこの世界が回っているのか、それすらも判断は付けられない。

『我が名はシュリョーン、お前を斬る為に参った』

何度目か落ちる感触のが終わったかと思うと
白い世界が次第に何かの形を描いていく

円形、棒、様々な形が寄り集まり生まれる...それは人型
無数の無の粒子が、段々と目に見える程に動き集まってゆく。

この世界は体その物だとでも言うのだろうか、それは変神よりも大きく
漠然と人型であろうと思われたものが、形容できぬ異形へと変わり始めていた。


「シュリョーンというのかい...怖い子だ」

理解不能、詳細不明。
その点だけは共通している、知覚出来ても、それが何か理解できない。
それは向こうも同じで同様に警戒し、放つ気配はまるで棘のように鋭い。

『貴様には名前はないのか、有るならば答えろ』

地球意思、などという漠然とした者に名前があるとは思えなかった。
...が、何かを斬るのに名前も知らぬままというのは性に合わない。

最早、性に合う合わない等という人間らしさは失いかけているが
人間であった自分という個が、存在を確かめるようにその性にすがる。

「...名前、そんなものはないさ。正義とでも呼べばいいじゃないか、悪役なんだろ?」

無の中に存在する者、最早それは意思ではなく個体。
その個体が正義を名乗ろうというのだ
確かに、ファクタルの力の根源...生みの親であるのならば、正義であっても間違いはない

だが、その行いは正義だろうか...甚だ疑問だ。
だが、疑問であるからこそ、相応しい。十二分に切り捨てる理由がそこに生まれる。
これまでの無数の紐付けされたこの者の行いは怒りとしてこの身に募り
そして今、それを放ち、目前の存在を叩ききる全ての理由、解は揃ったのだ。

もっと解り難い、逃げるような事を言うのだろうと想定していた。
だが、こうも簡単に自分から用意してくれるのだ。こんなに楽な事はない。

『そうか、では正義。一つ聞こう。サイセイシシャを何の為に生み出した』

進化という漠然とした想定の中に生まれたザクロやバタラバ
ファクタルもまたその範疇に含まれる、再改造されたとでも言うべきか

彼等を生み出し、最終的に彼等オリジナルの個体を生贄にして
この場へ何者かを導く気だった...その目的だけは、変神には図る事は出来ない
正義と名乗る目の前の存在に直に問わなければ永遠に解けない答えなのだ。

「まぁ、落ち着きなよ」

一言、軽く言い放つと正義の姿が、突如として目の前に現れる。
そして、そのまま変神を軽く叩く...と言うより押したに近い。

しかし、その軽い一撃が、あまりにも強烈な力を持って跳ね当たり
変神は対面の位置から遙か後方へと飛ばされる。

『...ッ』

何もない、足場も、本来であれば立っている筈の場すら無い
そんな世界の中で変神が跳ね飛ばされ、その何秒か後、数メートル先に止まり...立つ

『そうか、ここが無であるなら..』

一つの確信と目の前で起き始める変調
無数の無が集まり一つの個体へと形を形成してゆく。無から有への変質。
意識や欲望を得た地球意思がついに手にした進化と言う名の退化。

異形という言葉が似合うそれは、どうも本来の姿ではないように見える
幾つもの理想、そして思考。ありとあらゆる物をただ混ぜたよく解らない何かが立っていた。

「人間は可愛いからね、強くしてもっと生きれるようにしてあげたんだよ。
鍵の二人は本当は一個目の命でここに帰ってきて、人間の進化を導く上位の存在になるはずだった」

出来上がった無から生まれし有、正義が言葉を並べ答えを解く。
形に似合わぬ穏やかさすらある声、だがその奥底にある気配が妙に刺々しい。

言葉の間に、巨大な腕を大きく何も無い空にかざす
やけに目立つ赤い目が、その輝きに応じて光る。
するとその先に、ザクロとバタラバ、そしてシュリョーンやメイナーが戦う姿が映る

「君達は何なのか解らないけど、彼等の覚醒には役役だった。だがどうにも人間には限界があった。
感情、想い、あらゆる枷が、死ぬ筈のない彼等を死に追いやってしまったんだよ...」

異様に長い腕、獣のような足、怪物と言うなが相応しいその正義は
まるで悲しみにくれたような表情を見せ、指を動かし感情を動きで表現し続けている。

「だから、君達にも倒されちゃうし、ここに帰るための命も使ってしまって、今じゃもう存在もしない」

表情や動き以上に、口調からその考えは伝わってくる。
心底がっかりした、そんな口調だ...明らかに上位の者が下位の者に向ける目

人間の進化、そんな言葉すらも自分が絶対的な存在で
弱い人間を救い、喜んでいたようにしか見えない、悲しみの感情も自分に向かっての物だろう。

「未練を果たさせる」、それを対価に異形と化したザクロやバタラバも同様。
可哀想だからと助けたように見えて、結局の所は最終的には利用するつもりだったのだろう。
死んだからといって悲しむふりだけして、最後に吐き出た言葉はあまりにもあっさりとしている。
今はもうその評定も、自身にあふれた嫌らしい笑みを浮べている。

巨大な意思にとって、実験道具の一つが壊れた程度の事なのだろう。
大した事ではない、言葉の裏に感じる感情の色はそう告げている。
まるで遊び、玩具よりも扱いの悪い非道...敵対するには十分な苛立は与えてくれる。

『良い気でいるようだが...人間の進化は人間自身が決めるべき事』

目的も、その存在も十分に理解できた、これ以上の問答は必要ない。
変神が我導剣を目前に構え、これまで以上に強く亜空力を込める。
姿を隠していたティポラーもその背に姿を表し、無数の亜空の粒子を放ち更に力を増す。

...距離はある、しかしこの場所は無なのだとすれば
それを利用すればいい、放たれた粒子を全て刀身に宿し
シュリョーンの叫びが音のない世界に木霊し、無数の力が炸裂する。

『光と闇は常に共に、そして無は皆に平等だ』

まだ刃も届かないであろう距離から刃を放つ変神。
当たる筈もない、その無謀とも思える一撃が
次の瞬間には正義の目の前に伸び、変神の体も同様に現れると
地球意思の巨大な腕を叩き切り、亜空力は勢いを失わぬまま遙か後方へ突き抜ける

「おおっ凄いじゃないか、もうこの場を使いこなすなんて」

跳ね飛んだ腕が宙を舞い、地球意思の表情が一瞬驚きの感情を見せる。
自らと同様の動きで、更に強い力を叩きこんできたのだ
もとより予測不可能な存在であっても、まさかこれ程とまでは想定してはいなかった。

『俺もアンタと既に似たような物でね』

無、即ちなにもないことを指す。
距離もなければ、不可能もない...そこに攻撃という有を与える事で、一撃存在させる
何も無い世界には何かを生み出すことが出来る
...理解してしまえば、当たり前の事をするだけ、簡単だ。

「そうでなくては、彼らの犠牲も浮かばれないよね」

感覚を理解する間にも、異形の正義、その両腕から光弾が放たれる
反するエネルギー、当たればダメージは大きい
...だが一直線に立向かい、切り捨て、叩き落としてゆく。

解るのだ、この感覚が。次にどう飛び、何が迫っているのかを教えてくれている。
無を理解する、この世の理から外れた存在であれば
扱う力が違うだけで当たり前に行なっている事。それはそう、亜空間でも同様だ。

『お前が...お前だけが、絶対とは限らない』

巻き上がった真っ白な粒子の爆炎の中からシュリョーンが飛ぶ
舞い上がった粒子と亜空の赤紫に煌めく光が混ざり渦を巻く。

「...お前は何だ」

一瞬の炸裂、相反する力が混ざり反発した衝撃に乗り変神が飛ぶ。
巨大な異形よりも遥かに高く、亜空の翼が飛び抜ける。
黒い姿は高く跳ね、宙を舞いそのまま半回転したかと思うと、その正面に我導剣が煌めく

『正義の天敵さ』

羽、刃、そして戦士の声が重なる
今出来うる最高の高さまで跳ね上がったその体が無の世界の空を叩き蹴り
異形に向け一直線に飛び込むと、高く構えた刃はその巨体を切り裂かんと更に光を増幅させる。

「一閃...亜空斬りッ」

地球意思の巨体を無の世界ごと亜空の力が叩き斬る。
刹那の静寂の後、世界が一瞬歪み
バリバリと、何かが割れるように、無数に切り貼りされたような巨体が真っ二つに砕け散る。

その背後、見える限りでは最上部、そして地面に至るまで
切り裂いた世界の狭間がまるで吸い付くように付き、再生していく。

無数、地球意思を構成していた欠片はその活動を終えると無へと飲み込まれるが
仕留めたとは到底思えない、仮初の姿を切り捨てただけだ。

「異常だ、その力は...邪魔な奴」

再生した無の先に刃を向けたシュリョーンの背後が突如爆発を起こし
その爆炎の向こう、無数の人影がゆらめき、直後に融合し一つの影へと変質する。

先程と変わらない赤い瞳が輝いている。
やはり体は仮初、無数にある意識は幾らでも再生し蘇り立ち上がる・

巻き上がる白煙の中に同化するように瞳が踊る。
そしてその中から腕が伸び、そのいやに長い指が光を宿し始める

『どんな力でも関係ない、来い』

一瞬、光が顔面に向け飛び込んでくる。
それを避けると、直後には背後で爆発が起き、それが攻撃であると理解させてくれる。

刃を使うのであれば、弾丸で対応する...解りやすい、だがそれだけ進化が早い
どこまでも進化する者に、どこまでも適応し圧倒するまでこれは続くだろう。
今にも次を狙う瞳が、無数の白い世界の何処かから見ている。

『お前と同様に、俺にも見えている』

一瞬の思考の隙、あえて見せた間を待っていたように光弾が飛ぶ。
眼の前に迫る光弾を体を回転する動作の中で回避し
更に腰に腕を伸ばし、正面へ構えられたリボルバーが目前の輝く瞳に向けられる

躊躇はなく、その次の瞬間には弾丸が飛ぶ
無の世界に響く異質な気配の出す轟音を切り裂くように、異星の力を宿す弾丸が跳ね
光弾の雨を潜りぬけ...輝く結晶、その瞳を撃ちぬく。

「ガッ...ッ」

僅かな声が響き、遙か遠方の人影が吹き飛ぶ
瞳だけじゃない、頭部が吹き飛んだ...が、相変わらず生々しい音すらもない

地球意思のその体は無機物なのか、有機物なのかも解らない
それどころか、死んだのかも解らない...あまりにも曖昧だ
だが、そう安々と死ねる程、手軽な存在ではない、それだけは確かだ。

『悪いがこっちは1人じゃないんでな...まぁ、この程度では終わってないだろうが」

白煙の中に、既に人影はない。
このまま死んでいるとは思えない、加えてまだ問わねばならない事も多々ある。
死んでいたとしても、起き上がって口を開いてもらわねばならない

『こんな簡単なことで腐っても地球の意識が死ぬはずはないよな』

まるで煽るように言い放った軽口の音も途切れぬまま、歩み始めた瞬間
無の世界全体が激しく揺れ始める、それは地震とも崩壊とも違う
まるで外から乱暴に振り回したような、全方向から攻めこんでくる揺れ。

『飛んだところで無意味だとは思うが』

背の背中の羽が揺れ、変が見の体を浮かび上がらせる。
だが体を飛ばしても、相変わらず揺れに襲われたまま
次第に、巻上がっていた煙も吹き飛んだ無の結晶も全てが飲まれゆく

この世界の事は当然だが何も知りはしない
理解できる範疇にない、だが...迫る脅威、問題が起きている事位は理解も出来る

今その体に起きている世界の異変、確かにダメージを与えているという確信と
この先に更に強烈な、正義の足掻きがあると...そう伝えるようだった。

『次が最後だろう、さぁ行こう亜空の軍勢よ』

変神が自らの中に眠る無数の力に呼びかける。
ついには融合し完全に溶け合った変神へと深化を果たしたが
意識し、彼等と共にあると感じることで再び出会うことが出来る。

そう、彼は個で有り、同時に総。
亜空の意識の集合体、変神。

『無論だ』『ええ、喜んで』

2つの声が答えると、揺れる世界の中心で刃を構える
変神の胸、亜空の力を宿した宝玉に全ての輝きが集まり始める。

この世界は今、歪み、更なる変質を起こし始めている。
この揺れが収まれば、先程までの正義が違う形で姿を見せるだろう。
それまでに、相反する力を全て叩きこむ必要がある

刃を構え、背に伸びる羽が輝く。変神を包む夢幻の光。
赤と紫、そしてそれを包み込むように緑色のエネルギーが無の世界に色を付け始める。

それはまるで世界の終わりか、それとも再生への息吹なのか
深化の果て、光とも闇とも、全てと戦い取り込んで来たその戦士は
この異質な光の果てで、今、全ての力を解き放ちさらなる深化へと足を踏み出す。

『さぁ、最後の力比べだ...亜空砲ッ』

変神の呼び起こした無数の力が夥しい光の渦となり胸に宿ると
そのオクに宿る亜空宝玉が力を統合、そして増幅し放出する。

『うぉぉぉぉぉぉぉぉッ』

戦士は叫びを上げ、無は有へ変わり始める
無と有、過去と未来、善と悪。

その全身から放つ亜空の光が、弾dなんと白い世界を染め
一つの時が終わり、次へ進むための戦いが、今幕を開ける。

最早、それは異なる力の根源の激突。
変神の向かう先は光でも闇でもなく、只々我の先へ
炸裂する光の帯の中で、進みゆくその存在が放つ光がこの濁った光を書き換えてゆくのだ。

対抗するように正義も、地球意思もまた蘇り襲い来る
果たして勝利と言う言葉で片付けていいのか、それは解らない。
だが、最後の瞬間に立つその者が、誰よりも何よりも強く光を放つのだろう。

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-Ep:12「深化する者」 ・終、次回へ続く。
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