光と闇、同様に闇と光。
それは相反するが故に表裏一体であると、人は言う。

...だが、実際はどうだろうか。
表裏が一体であるのならば、それらは互いに常に存在し均等は保たれているはずだ。

実際、言葉にするならば。
光と影は同一の存在であり、常に両者の中に光も影もあり、表裏なんてものはなく渾然一体。
人として生まれた瞬間から、人は光の中にあり闇に潜り込んでいる。

人とは、この地球の意思の上に生み出された使者であり
愛され、愛していた相思相愛の共生体であるのだろう。

しかしそれは過去の話、今はその声は聞こえない...届かない。
互いに通じ合っていた情愛を見失ったのは人だろうか。

それとも地球が、解っているつもりで何も理解できないまま
ただ愛という形式を、自己満足の中で演じていただけなのか。
それは最早、誰の行動でも窺い知ることも、図ることも出来ない。

だからこそ、それを無理矢理にでも知り得る存在が、求められていたのかもしれない。
それもまた、地球にとっても人にとっても我儘な欲求だが
押し付けることで、否応なしに行わせる事が出来るのだ...そう、君は悪役だもの。

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無数の煙が上がる空の上
海に沈んだカザグルマの宇宙船は、その持ち主の体ごと
彼を作り替えた地球意思の仮初の体の上に落ちてゆく。

彼は自分が宇宙人であると言っていた、だが実際は地球意思の一部
要はサイセイシシャと同じく、元来存在していた存在を改変した何か。
そういう者だったのではないだろうか、切り裂いたからこそ感じられる感触がそう伝えてくる。

漠然と、あの存在の事は何も掴めないままだった
まるで背後に何も感じさせないまま、それこそ風の様に無へと還ったのだ。
彼もまた巻き込まれただけなのかもしれない...まだ何も終わってはいない。

「カザグルマもまた、犠牲の側なのだろうか...嫌なもんだ」

どんなに感情を殺しても、無数の戦いの渦を乗り越えても
斬り殺してきた、異形と言う名の命は妙に目に焼き付いて消えずに残る。

許せない存在も、不可抗力で変貌した物も、自分と同じような者もまた
あらゆる者が生き、消えていった。自分が今生き残っているのは偶然だ。

斬れば斬るほど、最早人間としての器官を持たない筈の体の中から
心臓の鼓動を感じ、必要のない筈の呼吸が不足しているとでも言うように
漠然とした息苦しさを感じさせる...未練か、単なる名残か、それもその内忘れていくのだろう。

「ファクタル...光の中にはどうやって行くかとか、知っているか」

沈みゆくカザグルマの宇宙船から脱出し、メイナーの船に乗り移ったシュリョーンとメイナー
ファクタルも乗り込み、未だ意識は戻らないがザクロとバタラバも救い出すことには成功した

意識を失ったままの2人は、船内の医療用ベットの上で眠っている
相変わらず姿が戻ることはなく、意識や生命反応も薄いが辛うじて生きている。

救える者は救い、あらゆる鍵を得て、全ての用意は整った。
しかし、肝心の扉「光の中」の詳細が見えない...そんな状況の中で
唯一光に近しい存在である、ファクタルに問う

「...ついに正義の味方にでもなる気になったか」

ファクタルが少し驚いたような声を上げる、あまりにも予想外で
同時に突拍子もない質問だった、それは問うた側も当然理解し思っている事ではある
漠然としたその行く末は、最も自分には似合わない場所であることも言うまでもなく明確だ・

「そんな御大層な者にはなれんさ...が、カザグルマが言うには地球意思はそこにいるらしい」

向けられた仮面の表情はどこか以前とは違うように見えた
赤い目は悪の力と言うよりは、もうそれ自身が人間でも何でもない
シュリョーンという存在として、その者の瞳として脳は理解し写している

表情が感じられるのだ、実際には動いていない筈なのだが
その眼は人間のように輝きを変え、口元は動いているように...理解が難しい存在
その悪役を覆う気配は最早、形容しがたい混沌に似た何かと言うべきだった。

無数に感じる気配は、敵意はないが強烈な力を押さえ込んでいる様に感じられて
最早遠く、嘗てのライバルであったシュリョーンはそこには存在していない
ついこの間、戦った時よりも一層に深まった異形としての確率された気配は、何かに似ていた
...よく知っている何か。解っている。漠然と地球意思の持つ気配に似ていると。

「あぁ、そうか...でも俺も気がついたら地球意思の前にいて、体が戻った頃には地上に居たからな
...刹那的に、その間を記憶する暇もない。言ってしまえば解からん」

当然だろう、亜空間であってもその道中というものは極めて曖昧だ
亜空間の中の住人になって初めて、それがどういう物でどうなっていたのか
そういった行程や仕組みを理解出来た、要は根本からして違う

人間の常識や、その範疇にはない物はは想像ででっち上げる事こそ出来ても
明確にその存在を可視化したり、構造や内容を理解出来ないのだ
まぁ、想像できるといってもそれが正解であることなど稀なのだが。

光の中、それも同様に全く理解できない場所なのだ。
場であると人間は理解していないだけなのだろうが、想像すらできない。
結局はそこに行けるのはそこから来た者、若しくは...その世界すらも取り込める存在だけだ。

「お前達は何を無駄に時間を浪費しているのだ。
話は聞かせてもらった、そういう事なら俺達に任せろ...そんな事を言い出しそうな奴らがいるではないか」

二人の会話を操縦する腕は休めぬまま聞き役に徹していたメイナーが
突如として声を上げる、また違う目線から彼なりの答えは既に見えている
そうとでも言うように、二人に対し明確な答えへのヒントを指し示す。


ベットの上に横たわる二人の異形。
そう、ファクタルより以後、現状の変質した光の中を知っている存在

「コイツらはその地球意思とやらの直属の兵、成果を上げれば報告するために帰るのが兵だ。
今はどうだ、行ったまままだ帰っていない...そうだろう」

無数の煙が上がり、激戦を終わりを告げる地点から、少し離れ
加えて遙か上空まで高く舞い上がった船はその動きを止め
手の空いたメイナーもまた、議論の中に加わり、その状況を整理し最善の方向へと導く。

「帰っていない...そりゃ一体どういう事だよ」

漠然とした言葉、現実的な意味合いで帰っていないというのであれば
その根源は同じであるファクタル自身もまだ帰ってはいない存在といえる。
だが帰り方など知らないのだ、理解できない言葉であり、疑問も浮かぶ

「貴様は正義として生み出された兵と言うよりは子だ、最初から帰らせる気はない力だ。
だが、そこで眠る2人は、何か目的を果たして最終的には自分の元へ戻るように用意した兵だ」

我が子、愛すべき力。地球意思が乱れ、変質する以前に彼は生まれた。
だからこそ変質の後新たに再構成されても尚、その存在意義は変わらない。

作り変える事も出来たのだろう、だがあえてそうしなかったのは
崩れゆく理性を理解していて、最後に我が子に希望を託した
...希望的観測をすれば、そう考える結論が一番収まりが良い

「一方通行ではなく、その成長結果を手元に置くか...少なくとも調べ、知るための存在なのは明確だ。
ならば最終的には帰らねばなるまい、当然戻る手段もある...あくまで想定ではあるがね。」

まるで捲し立てるように、ファクタルにその想定される可能性を説明してゆく
確かに、ファクタルの時点とはその目的も存在が持つ思想すらも違うのだ

同様に再生されてはいるが、ファクタルはなんの要素も追加されず
朽ちた姿を新しい力で...彼の中に眠る力を誘発させる形で変貌させただけ
加えて何の思想の植え付けも改竄すらしていない、変わらぬ正義を行使せよと背を押されただけだ。

その後の狂ったような地球意思の言動を見れば
ファクタルに最後の理性や穏やかさを与えて、それを切欠に変貌していったようにも感じられる
最早手遅れとなった自分からの開放こそが、今のファクタルの姿...そうなのかもしれない。

そして、それ以後の存在であるサイセイシシャが兵であるとすれば
光の中へ戻る方法も、彼らの中に眠っているのだろう。

「ここまでの材料が揃えば、まず間違いないだろう...だが一つ、問題がある」

「帰れる可能性はまず無い...だろ」

シュリョーンには元よりその世界に行く資格はない
扉を開き、そこを通って地球意思の元へたどり着いても
その後に残る道はその殆どが破滅につながっている。

勝利しても良くて取り残される程度。
最悪場合は地球意思ごと消滅する結末が待っている。

まず地球意思という存在が倒せるものかも危うく
倒してしまえたとしても、その後残された地球という大きな星にどう影響するのかも解らない

いくら既に壊れかけの惑星だとはいえ、何かしら悪影響は出るだろう
それ程までに相手は強大で、理解不能とでも言えばふさわしい存在なのだ。

「まぁ、それは構わないさ。もうヒーローも帰って来た事だし」

眠ったままのザクロとバタラバの様子を伺う為に
医療用ベットの方へ向かいながらシュリョーンは軽く言い放つ

軽い言葉と同様に何気なく上げた手、その手のひらに赤紫の光が集まると
次の瞬間には光る羽を持つ蛾、ティポラーが既に目の前に現れていた。

『話は聞いていたわ、この子達に力を分けてあげればいいのね』

「あぁ、頼むよ。こき使って悪いねぇ」

ヒラヒラと舞うティポラーが微かに頷いたように感じられる。
表情どころか顔が何処に存在するのかも解らないが
その気配は穏やかで、どこか笑っているようにも見えた。

その姿は、毒々しいほどに鮮やかな色からは想像もつかないほど
艶やかに、輝き続ける光を振りまき、ザクロとバタラバにその力を分け与えていく

「ありゃ、一体...何してんだ」

無数の力が粒子になって降り注ぐ、相手に対し亜空力をエネルギーとして送り込んでいるのだ。
ヒーポクリシー星の最上級の技術を詰め込んだ船とはいえ、そう広くはない室内に
亜空の力が舞い散り、その場にいる存在に全てにエナジーを分け与えている

人間であった頃のシュリョーンにはできる筈もない芸当。
無尽蔵の力、亜空間その物に宿る存在となった今だからこそ使う事の出来る
その力は失われかけた生命の再生、最早次元を超えかけた力だった。

「貴様も感じるはずだ、これは...これが、今のシュリョーンの力だ。よく見ておくと良い」

降り注いだ光は、眠り続ける二人の異形の体に宿ると
常に何かしらの音が聞こえていた船内に数秒間完全な静寂が生まれる。
刹那の無。その後、激しい衝撃が周囲を襲う、静と動のめくるめく転換。
目を逸らせば直ぐにでも消えている、当たり前のように起き、終わる事象。

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