遺伝子が踊る、地球上に存在する生命という駒
人間を素に他の生物との歯止めのない融合。

地球意思が別星系の宇宙人の技術を使い生み出した
病める自身の上でも、この先も永遠に生きられる進化生物
...そう、想定されている者、それが「サイセイシシャ」

それは発展であり、来るべき新たな時代に生き残るべき者
男性でも女性でもなく、それは中間点に至るか
性も種も超えて文化の中の名称で言うならば神に近しい個性を
その死と破滅の怒りと、突然の無に対する復讐の中で成熟させる。

それは深化であり、それを求めた者はもう後戻りは出来ない。
それを受け入れる者、即ち早々に地球意思の与えた目的を果たし
自らを捨て、知らず知らずの内に変貌していた者。最早それは何と言うべきか。

これまで人間は総じて地球上での存在をそのままに変貌し、成長してきた。
変わらぬままの地上で、変わる気候に、状況に、平然と生き、対応する事が可能であったが
地球意思にとってはその人間らしさが邪魔だったのだ。

だからこそ、彼等の中にある「人」という、らしさを殺そうと進化を進めた
災害や無数の侵略を呼び逃げ道を塞ぎ、絶望させ
そこに光をもたらすことで、決して首を横に振らない自らの優秀な未来の兵士とする為に。

一見強大な進化、別の生命を取り込む変質は、柔軟性の欠落でもある
そして死との剥離、終わりなき生命を得、強靭な体を得ることで人の中の人は止まる。

人間という種族は自分にとっての駒であることが一番愛しい関係だと
彼であり彼女は考えるのだ。まるで子供のように純粋に。

どうにも大きすぎて、その思考は一本の直線であるが故
それは愚かで、愚かしいモノを食らう悪役には
とても輝いて、それでいて酷く美味そうに見えるのだ。
だからこそ、刃を向けた。例えそれが今生きる世界の全ての根源だとしても。

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カザグルマの両脇に生まれた嵐の固まりは人型を形成し
瞬く間に、砕け、風の欠片はザクロとバタラバを呼び出す。
何処に隠していたのか、その体は既に完全に回復している

...しかし、意識なくうなだれる2人に嘗ての人間らしさは感じられない。
呼吸や僅かな動きすら無い、まるで人形のような体が紐で吊るされているようだ

「本物だとは思うが...話が通じる状態とは思えないよな」

刀を構え、腰を落とし踏み込んだ姿勢のままシュリョーンが問う
力なき2つの体は、本物であることは間違いないようだが
少し叩いて意識が戻る...そんな楽な状態とは程遠い気配を見せる。

奇跡的に中に意識が眠ったままだとすれば、カザグルマさえ倒せば
現状の姿で...ではあるが彼等も救う事が出来るかも知れない

「あれは言うならば大事に育て上げた子の様な者だろう。早々捨てるような真似はすまい」

これまで遭遇してきた2人のサイセイシシャ
どちらも個性豊かで人間らしすぎる程に人間として生きていた
だからこそ、彼等が素材として選ばれたのだろう

言わばその個性含めて地球意思が望んだ者
シュリョーンやメイナーが遭遇した時点が完成形と考えれば
今の時点で彼等を人形同然にする事は、それまでの行いが無意味だったと
自ら証明するような事象であり、早々行うとも思い難いのは事実だ。

「だよなぁ...なら、起こしてやるか」

「それが良い。だが、しかし...そうなるとカザグルマが厄介だ」

サイセイシシャを呼び起こす事が出来れば、余計な戦いは避けられるかもしれない。
それが不可能であったとしても、彼等を地球意思の呪縛から開放する事位は出来るだろう。

幸い、サイセイシシャの戦闘能力はカザグルマに比べてそこまで高くはない
だが、状況としては三対二...救う事を目的として戦うには分が悪い

僅かな思考の合間の隙を突くように
既に傀儡と化した異形の足は地面にしっかりと立ち
今にも操者の思惑をダイレクトの受け、走り出さんとしている

最早、瞬間の後には命を削り合い戦いを始める
そんな張り詰めた空気の渦を、まるでかき乱すような気配が走る

「いい空気感だなぁおい、何なら手伝おうか」

場違いと違和感の充満する空間に光が一瞬突き抜け
違和感に更に違和感を加える声が突如として響く

「ん〜誰かな?何だか知ってる気配だけど気になるナー」

開かれたたままのハッチに息を荒げながら立つ影
背後からでも解る程強い、光の気配。

それはこの戦いにも関与している重要なファクター
今、この世界の正義に帰らんと足掻く者、ファクタルの姿がそこにあった。

「ほう、生きていたとは聞いていたが...随分垢抜けたな」

姿勢を崩さぬまま、視線を動かし背後にある影を確認すると
別に驚く様子も見せず、メイナーが一言告げる
イレギュラーの登場等という自体は毎回の事、驚く必要もないのだろう。

「...ああ、あんたメイナーか。そういうアンタもお似合いの面になったな」

急いで来たと一目で分かる荒い呼吸、それに崩れた姿勢
軽く、正義というには荒い口調で言葉を吐き出しながら
問答無用にファクタルはシュリョーンとメイナーの間に割って入る

急な事態ではあるが、どうやら自分なりの答えは見つかったようだ
敵意は気配からもなく、それどころか肩を並べ戦う姿勢を見せている

「選んだ解が随分とまぁ乱暴だな、正義の味方よ」

真横に並んだ正義は、自らの力の根源の歪みを正す道を選んだ。
それは即ち、自分のそれまでの正義への対立と先に破壊が待つ道。
あくまで形式上ではあるが、その存在としての行動の良し悪しを問う。

「っるせぇ、正義だ悪だよりも...今のこの力は気に入らねぇ」

シュリョーンには漠然とこの行動は予測は出来ていた
以前の戦いの中で、既にこの答えに往き着く兆候は見えていた。
タイミングとしてもこの上ない、実に空気が読めている。さすが正義の味方だと関心する程だ。

その声からも少し前までの迷いは感じられない
結論の良し悪しは終ってから決まる事、そう思える程に回復したという事だろう。

「悪いがこちらも余裕は無さそうでな、足は引っ張るなよ」

「良い子ちゃんな戦い方に合わせられる程、育ちも良くないんでね」

真ん中に割り込んできたファクタルもワンテンポ遅れて戦闘姿勢を取る
それと同時に両腕には巨大なブレードが出現し、周囲に鮮やかな光のオーラを放つ

シュリョーンとメイナーもそれに合わせて力を込めると
赤紫に輝きがファクタルのオーラと結合し、更に強い光へと力を増していく

無数の光、そして赤と紫の闇
激しい力の前に傀儡となった2体の異形が警戒の姿勢を見せる


「ったく...悪役さん方よ。何だか最終回っぽい感じじゃないの」

「こんなに簡単に最終回が来るなら、人間はもっと気楽に笑顔で生きてるよ」

善と悪の力が並び立つ。そんな状況が実現している。
それだけ今のこの世界が置かれている状況は危ういのだ。

だが、同時にその危うさを破壊できるほど強い力である事も変わりはない
さすがのカザグルマであっても、その状況の厄介さは理解できているのか
3人が構え、力を込める間迂闊な動きも一切の隙も見せなかった。

「数が揃っただけじゃネー...行っておいでよガール&オネェ!」

大きく膨れ上がる善と悪の力の融合。
それを見て尚、カザグルマはその無機質な顔を動かすことすら無い。

相手の会話を黙って聞き続けていたかと思うと、急激に体を振るい
大きく横に伸ばしたままの手を一気に覆うように曲げ畳む。
それが合図となり、意識を深く真相に眠らせたままのバタラバとザクロが跳ねるように飛びあがる

「サァサ、僕達の強さを見せてあげましょうネー...光も闇も全部かき消してア・ゲ・ル」

現実と虚構の狭間の部屋、カザグルマの宇宙船内は想像以上に広く
暴れるように跳ね飛んだ2つの体ははるか遠くで跳ね跳ぶ音を響かせ
次第に勢いを増しながら、全方向から撹乱するように爪を、足を響かせて迫り来る。

金属が擦れる音、拳が壁を叩いた音
人間らしい動きではない、操られていて、尚且つ異形の肉体だからこそ許される動き
当然ながら予測は不可能に近く、現れた瞬間を捉え、叩くしか無い
...理想を言えば、可能な限り傷を付けず。現実的には殺さない程度で。

「メイナー、ザクロの相手を任せてもいいか」

「元よりそのつもりだ、奴にはまだ話がある」

短く会話を終えると、シュリョーンは周囲に宿る亜空の力を体に吸収し駆け出す。
動けば関節から漏れ出すほどに、その力は強い
足は一目散に目前中央、傀儡の奏者へと向いている。

「ファクタル、お前はあのバッタちゃんを頼む。強い子だ、少し叩けば自分で帰ってくる」

「んなっ、何で俺がッ...俺はあの風車野郎を」

「あれは一応お前と同じ正義側だろ、あれを斬っていいのは悪役だけだ」

先に駆け出すシュリョーンに対し、声を荒げて迫ったファクタルだったが
自身と同じ地球意思の生んだカザグルマが正義であるとシュリョーンの口から明言されたことで
その存在の歪さを理解し、向く方向を変えると怒りを顕にしながらも迫るバタラバの方へと飛び込んでいく。

「まだ漠然と迷いがあるな、まぁいい...この先どうあれ、正義は正義のままでいろ」

肩を掴まれた時点で、殴りでも切り裂きでもして自分が前に出るだろう
ファクタルはそう言う無謀さを持った危うい正義だと、シュリョーンはよく知っている。

だが、そんな存在が意図も簡単に本来であれば敵である自分の指示を聞き、引き下がったのだ
解を得たとはいえ、まだ迷いはあるのだろう...だが、同時に成長したとも言える
まだ若い、正義としては未熟な存在が今この瞬間に自分で道を選んで譲り開けた道。

悪が歩むには少し上等すぎるが、この役目を全う出来るのはシュリョーンただ一人だと。
漠然と理解は出来ている...正義や、夢、明日も希望もある存在では斬る事は出来ぬ者
圧倒的な光がその背後にいる。本当に斬るべきはカザグルマよりも、もっと先に潜む...光だ。

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