物事の終わりは、ある日突然現れ 昨日までの「当たり前」に終止符を打ってゆく。 それが訪れるまでは、それが何であり、どんな事態が襲い来るのか どんな超人であっても、それが神の類や悪魔であったとしても 必ず自分に訪れる何らかの終わりが、どんな事象であるか解らない。 だが、その終わりに向かう事は出来る。 訪れる事象に自分から向かう、そしてそれを打ち砕く事も不可能ではない 何が起こるか解らずとも、事が起こる以上元凶が居て 当然その終わりという概念も存在する以上、排除も出来るのだ。 だが、それを人間で行えた者は僅かしか存在しない 加えてそれを可能に出来た人間は、英雄と知られ讃えられる事もなく 苦しみ生き続けるか無残に死にゆく運命を背負うことになる。 本当の救済というのは、あまりにも大きすぎて人の目には見えないのだ。 終わりというのは、その存在の消滅も意味している。 根源からすれば、それは救いを与えていると、そう考えている場合も多い。 与えられた己の終わり。安息と、ある意味での許しの中で全てを無に帰す。 それは確かに救いかもしれない。だが、強制されるべきではない。 ...そう考える者達が、終わりを排除してゆく。 平穏も、許しも、人間という概念すらも。平然と捨てる人間は既に異形なのかもしれない。 だからこそ彼らは悪を名乗り、終わること無き悪夢に身を投じてゆく。 無数に与え続けられる試練は、極めて面倒で、途方もなく永い。 だが、彼らは止まることはない、目前の脅威を打ち砕いてゆく ただ己の存在を、己の道を見据え、より先に征くために。 --- 「じゃあ、行ってくる。どれ位かかるか解らんがぁ...悪いが、留守は頼む」 僅かな穏やかな時間は過ぎ、軽い後片付けを済ませると 特に何の準備をするわけでもなく、足は玄関へと向かう いつの間にかその足には靴が履かれていて、既に準備もできている。 服も、髪型も何もかもが、用意されたものを投影する。 シュリョーンと言う存在に人間、桃源矜持の姿が写っているだけであり それは思った形に変わり、どんな服装、姿ですらも簡単に変わる 彼が彼であると理解している人以外には、もうそれは何なのか解らない 人間の形をした異形、それがシュリョーンである。 形こそ完全に悪役に辿り着いたわけだが、相変わらず正義は帰らない 戻っているが、居るべきポジションには帰らない...と言うべきか。 次の時代の正義は、目の前にも知る範囲にも芽吹き始めてはいるのだが その間を繋ぎ、今を守る正義は進化に迷い続けている その反面、悪役だけは順調に何か異質な方向への深化を止めることはなかった。 その「正義の再生」も含めて、少しやるべき事がある。 ほんの少しの留守だが、今回は何時もよりは少し長くなりそうだ。 「行くって、何処に...」 椅子から立ち上がり、自分の前を通りすぎていった人影に 真っ白な少女は声をかける、驚いたような声は感情が戻りつつある証拠 無くした色は戻らずとも、内面は戻りつつある。 感情から来た反応で思わず軽く腰を上げ、その衝撃で机が揺れる 何か言い得ぬ事象に向かい、足を進めるそれを...止めなければいけない そう思わせる何か、不安のような感情が頭に過っていた。 「何処って、そりゃ...カザグルマと話を。その後で黒幕も倒さないとな」 言葉に答え、振り返ったその表情は異形の仮面の影が重なって見える 人間らしい、私の知る限りでは表と裏の要素がハッキリとしていた人間が この短期間ですっかり異形、というよりシュリョーンその者に変わっている 最初は驚いたが、彼のそれまでの戦いや歴史を知れば知るほど 今の状況は自然で。自ら望んで至った姿である事は理解できた ...しかし今回はどうだろう、自らの意志であることは間違いない だが、このまま行けば死に急ぐようなものだ、あまりにも規模が大きすぎる。 「そんな事言って、場所は...それに、辿り着いたって勝てる相手かどうかも..」 その全容こそ掴み始めてはいるものの、この一連の事象に関してはまだ情報が白紙に近い だが、彼はもう何かを掴んでいるのだろうか 確かに現物、彼らが送り込む異形と戦ってはいるが、それは尖兵に過ぎないだろう 記憶から取り出したそれは、あまりに大きくて「表現できなかった」のだ 例え異形を超えた異形、死ぬ事も出来ない存在であっても 少なくとも人という形に収まった、目の前の友人が一人で何とか出来る相手ではない ...たとえ勝てたとしても、生きていたとして、無事で済むとは思えない。 「大丈夫だよ。見当はついてるさ...まぁ大体だけど。問題ない」 不意に視界が隠れ、少しの安堵感と共に目に光が戻る 伸びた腕が、頭を軽くなでたのだ。 「子供扱いだ」少し思ったが、逸る心は落ち着いた。 背丈の差はそんなには無いとは思うのだが、目前のその存在からすれば 私は兄妹か、もっと離れた娘のような感覚を覚えるのかもしれない もしかすると、そんな人間的な感覚からはもう離れた考えの中にいるのかも知れないが 手の中から受け取った感覚の中には、穏やかな感情が確かにあった。 「数日...もうちょっと長くは留守にするかな。 部屋は自由に使って良い、店も興味があれば開ければいい。」 解っているのだろう、そう簡単には事が済まないと。 だが、その言葉にも不安や、先行きが見えない感はなく 寧ろその逆に、見えているからこそわずかに開いてしまう間をどうすべきか考え その僅かな時間を私に委ねた、そう感じられた。 「アウトゥラなら上手くやれるよ。ただ、あんまり考えこむなよ、無理せず出来る範囲でいい」 隣を通りすぎていく、その体にある気配は幾つもの人間の影 彼は死に往くわけではない、死ぬ事すら許されていないのだから。 では、もし本来であれば死する状態に至ったら、彼はどうなってしまうのだろう。 ただ、漠然と思うのだ。行かないで欲しいと。 だが、止めることも出来ない...ならば出来ることは一つ。 「解った。ここは守るから、直ぐ帰ってくるんだぞ」 「おう、よろしく頼む。じゃ後は頼むぜ、未来のヒーロー」 この場所の主が戻るまで、私が此処を守ろう。 これが今、私にも出来ること、何も変わらないよう守り続けよう。 当たり前に扉を開けて出ていく、その背中にもう一度声を投げかけたが 本当に、少し近場に出かけるだけのような、言葉とも取れない返事が戻ってきただけ。 それがとても、とても長い「ほんの数日」の始まりだとは思わなかった ...と、そう言えば嘘になるのだろうか。 解っていた、だからこそこの時私はこの場所から皆を守るヒーローになろうと思ったのだ。 --- 温い空気の壁を抜ければ、その先には突き刺すような鋭い冷気が待っている 遙か天空、大気が巡る。宇宙に近い場所。 地上とは違う世界の中に、黒い人影がまるでその世界とは関係が無いとでも言うように ありとあらゆる障害を無視して、まるで画面上の地図をなぞる様に一点を探る。 アウトゥラの教えてくれた地球上にあるという敵が待つ場所を。 |
||
「主に日本にだけ現れる。という事は日本周辺を覆うように亜空の力を振りまけば良い」 影の主、シュリョーンの眼が光る。 歪な姿に変わり果てた日本列島の中心点から広がる国「火入国」 様々な異形に襲われるこの土地に何かがあるとシュリョーンは判断したのだ。 背中の羽、ティポラーが激しくその内部に眠り力を発する 緑色の輝きから、外に向かえば向かうほどその色は赤紫に変化していく 今や完全に亜空の世界の住人であるシュリョーンの体は 無数に放った粒子一つ一つからの情報を得、把握していく。 日本、そして周辺の海上...まるで覆い隠すように光は降り注ぎ、浸透する。 まるで箱庭に手を伸ばすように、粒子が伸びた先に感覚が宿っていく この光は異形にしか見えることはない、これが見えるという事はそれは人ではない証。 反応を示せば示す程、シュリョーンにとっては好都合だが この世界は知らぬ間に無数に、それも各地に無意識的な異形が多く生まれているようだ 『集中して、何だか問題のある子が一杯いるようだわ』 「心配ありがとう...だが、求める力の色は覚えている」 異質な気配がひしめき合う地上をまるで水のように粒子が浸透し その表面に宿る全ての記号、気配を得てゆく。 無数に影の中に幾つかの強い力とその流れ 4点の異様な力の集中点と、それ等から更に力が伸びていく地点がある 日本海上、少し離れた地点に異様な気配がある。 「見つけた...地上ではなく海上か」 『地上にある集中点も気になるところね、今知覚するわ』 ティポラーと瞳を結合することで、その眼が保つ力を一時的に借り受ける。 知覚はその名の通り、粒子を放ち把握した世界を見ることが出来る力。 見える世界は随分と騒がしいが、確かに強い光があった箇所にそれはあった。 海上に浮かぶそれはカザグルマの根城とでも言うべきか 飛空艇のような姿をしているが上部に大きな筒のような物がついている。 宇宙船なのだろう、明らかに地球の技術では作れない姿形をしている。 「まるで巨大なレーザー砲か何かだな、あんな物が浮くのか」 『まだ常識の範疇で語れるフリをするのね』 「感覚はまだ人間臭くてね。しかしまぁ、また答えに近づいたよ」 黒幕であろう「地球意思」それがこの星の何処かにいるのだとすれば 無数の神が存在し、全ての物に...それが無機物であっても存在として認め それと共存できる、この国に眠っているのは間違い無いだろう 現に己の力ですらも、様々な偶然を装って 強制的に何者かに進化に導かれたのではないか...そうとすら感じる 進化させた「人間以上の何か」が、この世界に地球意思の思い描く理想を解き放つ その引き金を引くトリガーが必要なのだとすれば、この一連の事件も線でつながって行く様に思える。 「風...カザグルマのあの力、超常現象の域に近い。バタラバや話に聞くザクロも同様だ 植物を媒介にした人間同士の融合、昆虫の要素を組み込んだ人間..」 あまりに当たり前に突き抜け続ける風は最早音すらも感じさせない 人間であれば存在できない空間、そこに彼はいる。 『粒子に飲まれた世界、きっと貴方ならよく似合う舞台よ』 様々な音が絡み、無数に入り組んだ結果生まれる無音 人間の常識の範疇にはない空間、地球上と宇宙の間に近い場所 そんな場所であっても、既にシュリョーンは何ら問題なく存在できるのだ 「目立つばかりでどうかねぇ...だけどまぁ、取り敢えずこれが一旦の区切りにはなると思う」 彼は地球上にいる存在から生まれはしたが 既にその殆どが亜空間に種属する者になり変わっている だからこそ、火入国にはイレギュラーを排除するために問題が起き続けていたのかもしれない 『我等はお前と共にある。人間の継ぎ接ぎであるお前は見ていて危なっかしいからな』 手に光が宿り、我導剣...マニックが言葉を帰す 言葉に合わせて動く顎は金属音を上げ、妙に楽しそうに響く 『私達は貴方達と4つ分の力で真黒した存在、一心同体よ』 この先にある戦い、それは最早想像もつかない カザグルマならば倒すことは出来るだろう。だがその後ろ 地球意思などという大それた存在は想定するにも難しい ただ、勝てない相手ではないだろう。 倒してしまえば地球はどうなるだろうか...とも、考えはするのだが それが存在する限り、どちらにしろ人間は異形にされるか、或いは消されるか。 どうせやるならば徹底的に、悪だからこそ出来る救済もあるというものだ。 見渡した世界、それはこれから戦う相手の世界 それをどうするのも自分の事だ、自由なのだろうが 自らが生み出した存在に対する責任を放棄して逃げるような真似もどうにも許しがたい 何より、永遠に続くような時間をこれから生き続けなければならないのだ 街も、帰る家も、ある程度の年数は残っていてもらわないと困る 戦う理由なんてものはそれ位で、その目的を果たすには地球意思を倒さねばならない どんな敵であっても、それ位の問題でしか無い。 ――- ⇒後半へ |
||
Re:Top/NEXT | ||