「さて、じゃあ一回降り...何か来るな」 自分以外の存在はいないはずの空に不意に強力な気配を感じる 僅かに下方から...赤い気配、同じ亜空の力を感じる 「あれは、ヒーポクリシーの円盤か」 こちらに向かい飛んでくる飛行物体 緩やかに外周を覆うリング状の物体が回転しているが それがまるで錯覚を誘発するように、本体のスピードは視覚で捉えているよりも早く あっと言う間に視界に飛び込んできたかと思うと、目前まで迫ってきている 真紅に輝く船体、専用のマークには よく見知った名前が刻まれている...メイナーと 既に目の前にまで近づいた円盤がその場で浮遊するように小刻みに上下する ある程度回転すると、外周リングの緩やかな回転は止まり 一見継ぎ目の一つも無いように見える船体が大きく展開する 炸裂するような空気が抜けるような音が漏れ 展開した扉の先には、赤い鎧の戦士が立っていた 刺々しい全身に、まるで死神のようなマスク。 ...随分と変わったがこれが今の重装メイナーである 「強烈な力を感じたから来てみれば...こんな所にシュリョーンではないかッ」 見た目は変わったが中身は変わらずメイナーその者である 既にザクロの件もあって連絡は取り合っていたが、面と向かって出会うのは久方ぶりだ ヒーポクリシーや宇宙の技術だろうか、内包する亜空力は流れ方が違うように感じられる シュリョーン以上にその存在は深化していると言っても過言ではないだろう 「よぉ、随分と変わっちまってまぁ。進化ついでにちょっと殴りこみに付き合わない」 骸骨の口元のようなマスクが少し笑ったように見える まるで悪役を絵に描いたような姿は、この姿の本来の開発者であるアキの目指した 理想に最も近い姿なのかもしれない、シュリョーンとはまた違うベクトルで凶悪だ 「ほう、今の敵というと...あの風車顔か、奴には少しばかり因縁もある ...が、それより何よりもその姿、興味深い。良いだろう、付きあおうではないか」 メイナーの行動理念は極めて明確だ。「直感」それに従う。 その直感でイツワリーゼンを見出し、ドクゼン達を倒す可能性を生み出し 今では宇宙にまで飛び出した、その直感は味方であれば無敵であると感じられる程心強い 「さぁ乗りたまえ。幸いこの船には戦闘用の装備も豊富だ...討ち入りと行こうではないか」 開いた円盤の扉が、つま先にまで近づいてくる そのまま足を起き、前に一歩進むと船内が段々と見えてくる。 明らかに外見以上に中が広い、何か地球には無い技術だろうか 無数にブロックが存在し、操縦席や整備ユニットなどが点在する 一人で扱うには十二分な小型の戦艦とでも言うような設備が中には広がっていた 「狭っ苦しいところだが、頼りになる船だ。今は巡航モードだが変形すればまるで鬼に等しい」 目前に広がる無数の画面 それらは全て実体を持たず、中に浮いたエネルギー体のようなもので構成されている これで狭苦しいというのだから、巨大艦ともなればどうなるというのだろうか。 「こりゃ凄いな、外に出るまもなく勝てそうだ...っとそうそう、場所はここね」 船内に驚きを見せつつも、日本海上に浮かぶ向かうべき拠点の座標を示す どんなに技術が違えども、見える地図の景色は見慣れた地球上の地図である 「なるほど海上か...驚いたろう、我が姫様の与えて下さった専用機だぞ。当然宇宙最強だ」 座標を入力しながら、メイナーは誇らしげに右手を軽く上げ船内をなぞるように振るう 一つの戦いの結果、こう言う形でかつて敵対していた者と友好を結べるというのも良い物だ 世間的に見れば悪が勢力を広げただけかもしれないが 今回もまた、上手い具合に人間を救う形になっているのだ感謝の一つも欲しいところである。 「さて、こんな近場ならば息をする暇もない...準備は出来ているのか」 モニターに映る景色は異様な程の速さで景色を線に変えていく 飛行機なんて生ぬるく感じる程のスピード、正にあっと言う間に到着するだろう 早く問いに答えねば、もうすぐにでも戦いが始まりそうな程 動きだしてしまえば世界は全てが早周りにように動いてしまう 激動の中では瞬きも許されない...だが、問題はない、準備は出来ている。 「当然、俺達の新しい力も思う存分見せてやるよ」 「ほう、それは楽しみだな...ではこのまま一気に突っ込むぞ」 これまで外の気配を全く感じさせなかった船内に 僅かにスピードを感じさせる重圧がのしかかってくる 最早視界は完全なる白の世界 モニター横の立体マップが電子的にポジションを示し自動的の目的地へと向かっている ほんの数秒だろうか。動きを感じた直後、それは訪れた 『目的地へ到達、機体シールド全面へ展開。突撃開始。』 一瞬の衝撃と何かが炸裂した音、衝撃はなく白い世界に色が戻る 目前の世界、数メートル前に貼られたエネルギーフィールドが何かを破壊しながら前に進む 既にブーストは止まり、残る勢いだけで目前の障害物を破壊していく |
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カザグルマの根城、巨大な宇宙戦艦を問答無用で破壊している。 正に殴りこみ、容赦など必要ない...戦いは既に始まっているのだ。 「...本当に殴りこんだな」 「構わんだろ、どうせもう老い先短い敵だ」 破壊を続ける船体。その歩みが段々とスピードを落とし始めた瞬間 シールドの周囲を激しい風が覆い始める、それは瞬く間に白から灰色に 無数に瓦礫を巻き上げながら嵐へと発展し、周囲に分厚い風の壁を作り上げる 風を使う者...カザグルマが現れた証だ。 「早速船では対抗しきれないやり方で来たか」 数秒、メイナーの腕が止まり、再びコントロールパネルを操作し始める すると警告音が鳴り響き【攻撃モードへ移行】とサイレンが鳴り響く 異星の技術でも日本語対応なのか...と漠然と考えている間に、船体が振動し モニターに映る船体モデルが変形する、同様の変化が外でも起きているのだろう 「船での攻撃は無意味だろうが、この嵐に穴を開ける事は可能だ。後は...突っ込むのみ」 嵐の壁の先に敵の本拠地がある、言葉も終わらぬ内にハッチのロックが解除され シュリョーンとメイナーが開いた先の外の世界に飛び出す それに合わせ船からは巨大なネルギーが放たれ、嵐の壁を破壊し始めている 「これから5秒後に放出が終わる、その後に続くぞ」 外に飛び出した2人の足元に亜空間のフィールドが出現し空中での活動を補助する 見えない足場というべきそれは、使用者をまるで空を歩くような姿に見せる 【警告。高エネルギー圧縮砲、放出開始】 目前にはエネルギーの巨大な放出が始まり シールドをそのまま取り込むように前に進み全てを切り裂き伸びていく それら全てのエネルギーは外的な力でかさ増しこそされているが 亜空力をベースにしている、全てが亜空の者と同じ力、即ち一体化が可能である 「いや、もう突っ込める。あれも亜空力なんだろ?」 シュリョーンが言うと、背中にはティポラーが出現し 右手にはマニック左手にも刀が握られている 出現を確認し、手を交差させシュリョーンが力を込めると 全身から亜空力の粒子が吹き出しその力が増大していることを知らせる 「あのレーザーと一緒に突撃する」 「なるほど、背後に隙はあるか?」 「他のやつになら無い...だが、お前さんなら余裕だろうね」 亜空の力に溶け込む、亜空の世界の化身であるシュリョーンならばそれに溶け込める そして彼がいる周囲には僅かな狭間が生まれる、メイナーはそこに入り込みカザグルマの襲撃に備える。 最早人あらざる存在だからこそなせる荒業であろう事は見るまでもない。 「準備は万端かい」 「当然、そう言う割にガラ空きな後ろは任せろ」 エネルギーを放ちながらシュリョーンが跳ねる それにメイナーも続き、主砲から放たれるビームの中へと潜り込んでいく 光の粒子の帯が幾千もに折り重なって生まれる高エネルギーの内部 光の速度で伸びるそれに、シュリョーンが同化し、その波にメイナーが乗る それは正に力その物、シールド帯を抜けたレーザーは固い嵐の壁を猛然と削り取っていく 嵐の壁もまた自然エネルギーの無数の帯であり 亜空の力と地球元来の力が互いに激突し合い そのエネルギーで周囲には青白い光が拡散しけたたましく音を上げ続けている 「流石に敵さんもこれは予想していないようだ、隙に更に隙があるな」 光は雲に逃れ、逆に雲から伸びる雷鳴を吸収する 無数のエネルギーの反発、そしてと吸収が繰り返される中 弾丸と化した二人の戦士の力とスピードは増大し あまりにも想定不可能な進行を更に加速させていく。 その間僅か数十秒、一瞬の静寂の後 壁の向こうに兄弟な光の帯が瞬く間に伸び広がり 局地的な曇天を切り裂くと、その先にあるカザグルマの宇宙船に直撃する すでにシリンダー部分が大きく破壊された船体に 巨大な風穴を開けるかの如く突き抜け、そのままシュリョーンとメイナーを船内へ運び込む 切り裂かれた風が上げる悲鳴のような音 様々な力が鬩ぎ合い、騒がしく海上の小さな戦場を沸き立てる 「...っと、随分と簡単に入り込めたもんだ」 勢いのまま船内に着地したシュリョーンとメイナー その目前に広がっていたのは、だだっ広い部屋に3脚の椅子だけが置いてある 酷くシンプルな部屋だった、見渡す限り壁はあれど機材の類は見えない 「無駄な物は持たないタイプのようだな、加えて敵は最高でも4人と見た」 カザグルマ、ザクロ、バタラバ...これで椅子の数は合う しかし、たったそれだけで何が変わるというのだろうか 人のことを言えた義理ではないが、随分と無謀な戦いのようにも見える 「驚いた?驚いたよね?もう機械イラナイ子だから片付けちゃったのサ」 僅かに空気が震え、声が響く...カザグルマの声。 不意に、聞こえたそれはこれまでの遭遇時と同じ悪ふざけのような口調で彩られ 姿はなくとも嫌でも存在感を放ち続けている、極めて異質、異質その者と言った気配。 「驚きやしないさ、都合よく身辺整理が済んでて有難いね」 シュリョーンが刀を構え、メイナーが腰のホルスターに手を掛ける 外の嵐はこの間に途切れ消え、円盤は安定飛行に戻っている 余計な力を省いたカザグルマの本域の力...まだ知らない領域が迫っている 「じゃあ、悪いけど僕とのオテアワセもよろしくちゃん!」 声が響き風が迫る、それが奴の本体...一瞬の後、刃に衝撃が走る 金属が削れ合う音が響き、目前の景色が歪む 次第に現れる緑色の体、黒い顔...鮮やかな輝きの刃 表情なき異形、まるで道化師のような口調からは想像もつかない力で シュリョーンの刃と互角に押し合い、空気が震える 「足を止めたな阿呆め」 カザグルマの動きを止めたシュリョーンの背後から、鮮やかな半回転でメイナーが回りこみ そのタイミングを待ち望んでいたと言わんばかりにカザグルマの頭部に銃口を向ける そして問答は無用と言わんばかりに 一瞬の暇も与えずその引き金を引き放つ 亜空力の赤紫の光が火花のように散り 巨大な弾丸がその黒い風車の顔を弾き飛ばす...かと思った瞬間 その姿は風と途切れ、その場から消え次の瞬間には後方に出現する。 「マジで風かよ...さすが地球意思の肩入れ物件」 「なに、この程度は予想済み。案外鈍い位だ」 並び構える亜空戦士、その目前には表情のない顔で笑う黒い風車 瞬間の攻防、気を抜けば瞬時に迫る破壊と死 戦いの幕は風と共に弾き飛ばされもう等の昔に落ちている。 「ちょいと分が悪いね、おいでよボクの!ワタシの!お友達!!」 力を抜いて立つカザグルマが手を広げると伸びやかに叫ぶ 再び風が震え、小さな竜巻が何かを形成していく ...人型、そして異形へ その姿はよく知っている、生きていた事を喜ぶべきか嘆くべきかは解らないが。 「ッ...バタラバだと」 「奴は...ザクロか」 2つの異形、バタラバ...そしてザクロ 倒れた2つの存在が再生される、今はまだ力ない姿勢だが 次第に風が生命を吹きこんでいく...再生されている 「さぁさぁ時間だ起きなさいよ〜お友達が来ているのよチャイルドたち」 ふざけた口調は二人を呼び覚まし、嵐は過ぎ去っていく 地面に足をついた二人は、うなだれたままカザグルマの左右に並び立ち カザグルマが手を叩き乾いた音が響くと、瞬時のその体に生気が戻っていく ...しかし言葉はない、意識は失われたままのようだ 「ちょっと君達とフラグ立ち過ぎだったからね、今は意思は寝たままでオ・ネ・ガ・イチャン!」 異形の再生、彼等もまた死すら得るのは難しいのだろうか 利用されるというのであれば、彼等の開放もまた戦う理由になろう ...そう思わなければ、あまりにも救いがない 「趣味が悪いな...お前みたいな奴は斬り甲斐がある」 再び刀を構える、メイナーも続く 異形と異形の向かい合う悪と悪の決戦 それは静かに始まり、徐々に激しさを増していく まるで嵐のように始まり、嵐のように去っていく激動 だが...この激動は長く、まるで終わりがないかのように その力の激突は延々と続いていくのだ...静寂を得るには、勝利を得る他にはない。 --- -Ep:09「旋風の目」 ・終、次回へ続く。 |
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