「どうした、自分が正義かどうかも解らないって顔だが」 異形が砕け巻き上げた砂埃の向こう。 シルエットのそれは、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。 背中に輝く羽、手に同じように煌く刃 かつて戦った時とは明らかに違う姿 以前よりも、明確に人間らしさを見せるその口調 眠りの中で進化した自分とは違う 激戦の中であらゆる物を取り込んだ、記録その物のような姿 しかし根本は変わっていない、あまりにも目に残るその輪郭 シュリョーン、それが奴の名。この世界の...自分にとっての対となる悪役。 「そういう悪役さんの方が、悪としてのポジションがブレてんじゃないの」 死を経ても、なお一層強く輝き続ける銀。 それはまるで光のように輝く、この世界の正義の光。 再び地上に立つ姿は、人々にとっては希望となり得る者だろう。 以前と変わらぬままの威勢の良さ、まるで時がたった事を感じさせない。 変わったといえばその外見が大きく変貌している事位か。 姿はその精神を写す鏡...とも言うが 今現在の目前のそれは精神で言うならば目隠しされているような、定まらなさがある。 まるであの日のまま帰ったきたような変わらぬ力の色。 だが、目の前の正義から放たれる気配が言うのだ、「先が見えない」と 今正にその自分にある正義に迷っているのだとで言うように、歪なのだ。 「お陰様でな。もう一度戦う時が来たようだ」 善と悪は常に対として存在する それが例え正義と悪役、仮面を被った演者同士であったとしても それは運命であり、常につきまとい、終わること無く続く。 「...悪いが、今は気分じゃないね」 迫る黒い影に向かい、ファクタルは構えてみせる 言葉とは裏腹に、逃れられないと理解しているのだろうか その体には力を宿し、今にも衝撃が飛び散るかと思うほど、激しく満ちている。 踏み込んだ地面が軋み、悲鳴を上げ 左手がゆっくりと力を込めてシュリョーンに伸ばされる 指先まで宿った力が陽炎の様にゆらめき、その姿を歪ませる 「逃げ道はない事は理解しているようだな」 上に逃げればティポラーが封じ、正面に逃げれば自分で対応する それ以外のルートは商店街の店舗で全て塞がれている 幾ら迷いがあるとはいえ、正義の味方が市民の住処を破壊するはずもない 「横道に逃げ込むってのは無し?」 「可能だと思うのか?」 「...まぁ無理でしょうねぇ」 軽い口調とは裏腹にシュリョーンの刃はファクタルの顔面に向けられている その足が前に歩みを進める度、漠然と過去に感じた事のある 体を這いずるような緊張感が走る、それも前よりもずっと強く、鋭い。 「おいおい...お前と戦ってる場合じゃないんだけど...」 ...目前のそれは何になったというのだ 以前とは明らかに違う、人間の気配を感じない これが、戦いの中でしか得られなかった進化なのだろうか 目前の景色が歪む、自分が弱いわけでは決して無い 迷いが無いといえば嘘になる、だが、臆する程落ちぶれてもいない。そのつもりだ。 意識を集中し、目前に迫る黒い姿を捉え構える...が、視界が歪んでいる。 「...何だ..景色が」 かすかに動いた脚が地面を削り音を上げる 足元が定まらない...足だけじゃなく全身が強い力に抑えこまれ感覚を奪っていく。 歪む世界、寂れた商店街の色が、無数の光に飲まれ奇抜に輝く 『不思議でしょう...この中なら邪魔者は入らないの』 シュリョーンとは違う声が響く その背後から聞こえる...羽、背中の羽から声が聞こえている。 やけに穏やかな女性の声、あれも過去にはなかった力だ 電子音のような音、バリバリと何かが割れるような音 それに合わせ不可思議な多色の光の粉が逃れる間もなく空間を形成していく まるでそれは巨大な繭のようだ、明らかに元居た場所よりも広い。 『私のフィールドよ、逃げられても困るし...本気になったら周りが危ないものね』 ティポラーの放つ鱗粉によるフィールドは、空間を捻じ曲げ 簡易的に亜空間のフィールドを形成する それすなわちこの世ではない場所に、都合の良いバトルフィールドを作り上げること 通常であれば多用する事はない能力だが、今回に限っては不可欠な力とも言える 「ここならば、横道どころか隠れる場所すら無いな」 無数の光の玉が高速で駆け巡る様 虹色のスペクトルが折れ曲がり突き抜けていく世界 ここは光に支配されているのだろうか。異質が支配している。 そんな閉鎖されたフィールドの中に、光と闇だけが対峙しているのだ。 |
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「どうやら、お前の要望に答える他無いみたいだな」 構えた姿勢のままのファクタルの表情に余裕が見える それは目の前の現象に驚いたから...という訳でもないだろう 覚悟、それとも復活というべきか、微かにその濁る光に輝きが戻ったように見える 「そうだ、それで良い。さぁ悪を倒してみせろ正義の味方よ」 シュリョーンの右手に宿る我導剣・マニックの口が大きく開く 緑色に輝く刃を吐き出したそれは、まるで力その物を象徴するように赤紫に輝くオーラを放つ。 軽く飛び上がってシュリョーンが落ちるように力を乗せ振り下ろした刃は 乱暴な程にストレートにファクタルへと迫る、直撃までは数秒とは無い 「我導剣...一閃ッ」 落ちる勢いで巻き起こる風の怒号がその声を更に強烈に色付ける 螺旋を描く光の帯、その中心に刃があり、それはまるで巨大なドリルのように この短距離でその力をどう生んだのかすら、考えさせる暇を与えてはくれない 「もう、どうにでもなれッ...ファクトバァァストッ」 迫るシュリョーンに向けファクタルが手をかざす 胸に光る赤い結晶が激しく光を上げると 巨大なエネルギー光球が形成される、翳された手と手の間に生まれたそれは 激しい電流の波を腕の間で滞留させながらそのままシュリョーンに向かい飛ぶ 光の速射破壊砲とでも言うべきか 体全てを武器に出来るよう改造されたと言っても過言ではない 正義を行うために進化し続けた結果がこの体である。 本来であれは放ち、相手に撃ち込むべきその一撃を 今は抱え込んだままシュリョーンに迎い突撃する。 威力こそ高いがそれは捨て身とも言える一撃。 最初から決着をつける覚悟がなければ負ける、そんな事は考えずとも理解できていた。 「そのまま来い、ファクタル」 「てめぇ...シュリョーンッ」 激しい意地と意地、まるで嵐が突き抜けたような異音が響く。 2つの波動、叫び、夢幻の空間に無数の力が生まれ激突する。 ⇒後半へ |
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