赤紫の輝きと、圧倒的な白い光。
混ざり合う事のないその2つの意志が互いを削り合い
一瞬の後、激しい爆音を上げて弾け飛ぶ
僅かな静寂、互いに逆の方向に弾き飛ばされる光と影。

「...随分とパワーアップしたもんだ」」

割れるガラスのように大地に叩き付けられ、もたれ掛かるように倒れたシュリョーンが
砕け散った地表を巻き上げながら、無理矢理に立ち上がる

「何だありゃ...次くらえば死ぬなぁ、おい」

その対の位置でファクタルも同様に立ち上がる
砕けた世界の欠片が、その体からバラバラと落ちる

絵の具をぶち撒けたように無数の色のダメージが両者の体の各所に広がる
特にファクタルの両腕は刃が崩れ、真っ黒に焼け焦げている
だが、未だ動く、問題もない、致命傷には至らない。

その力は互角...否、互角程度で現状は収まっているというべきか
双方にまだ完全な力は出していない、何処まで上がり続けるかも解らないままだ。

無言のまま立ち上がった光と影。
体から無数の欠片が落ちきると、再び体を構える。
戦う意志があることを示すと同時に、更に力が強まっていく。

対峙する白と黒、交わらぬ金と銀
視線と気配が交差し、互いの真意を探る

「何を迷っている、その力があれば今の一撃でお前は勝てた」

ファクタルの一撃、過去知る限りではそれは最大級の攻撃であり
更にその身を捨てる程の一撃...しかし、それでも尚迷いがあった。

最後の一押し、炸裂させるべき力が不完全なまま弾け飛んだのだ。
完全に決まっていれば、シュリョーンであってもそのまま倒されていただろう。

迷いは見えていた、だからこそあえて真向から受けた。
しかしシュリョーンどころか、その力を支えていたマニックにすらダメージは少ない
想像以上に、その力に対する迷い...不信感に近い何かがあるというのだろうか。

「俺は正義だ、そのつもりだ...だが俺の力は、この源は違うんだ」

焼け焦げた腕を再び構える、刃こそボロボロに崩れかけているが
その腕は振り上げた衝撃で張り付いた焦げは剥がれ、元の色を取り戻す

それはまるで倒れることなき光
言葉では諦めたように語りはしても、その精神、魂には光が確かにある。
現に立ち上がり未だ抗う姿勢を見せている、不屈こそ正義の形であろう。

「やはり、お前の力とカザグルマの力は似ている...知っているのか奴等を」」

対峙したシュリョーンの口から出た言葉「カザグルマ」
多分地球意思の言う戦士を選ぶ戦い、その中の、選ばれた一人なのだろう。
無数の戦士のビジョンの中に似た影があったような気もする

「あぁ、彼は俺の力の源と同じ地球意思がどこからか呼んだ使者だ、だがそれ以上は知らない」

互いに距離を保ったまま、この世界に起きている事象だけは
次第に、確実に、始点と終点が段々と近づいている。

カザグルマ自身が地球意思の送り込んだものであるとすれば
この世界はすなわち自ら死を望んでいるということなのか

「地球意思、その力の根源だったか。その者が、それを望むというのか」

驚きはない、だが違和感はある
亜空間が無関係でありながら地球人に力を貸すのと同様に
地球自身が自分の内にある物を否定するというのも不思議な事ではない。

人間に近しいというより人間以上の感情と思考、力を持っている彼らが
思考の結果に手に負えないと判断すれば、人間やその文明を破壊する事もあるだろう
最終的に巣食うそれが病巣であるならば、それを切り取ることは人間だってする、自然な事だ。

だが、その方法が随分と回りくどい
まるで遊んでいるかのよう...地球意思の思考など知る由もないが
悪ふざけのような理由で帰る家を破壊されても困る
何せこの体は地球が無くなろうが死ぬ事はないのだ
何にでもなれる、とは言え結局は人間が素。帰る場所を勝ち取る筋合いもある。

「そういう事に...なるよな。んで、その尖兵が俺なんだろうな」

生かされている、そう考えれば解りやすい。
地球を破滅に導くのだ、この正義の力で。

...果たしてそれでいいのか?
力の根源であり、愛すべき存在ではある
だが、それが間違った時、矯正する事すら出来ない正義で良いのか
あの時から考え続けている、力を否定すれば正義を、正義を否定すれば力を
どちらに転んでも結局は存在が揺らいでしまう、故に迷う。

だが、どうだろう。生まれた時から自分自身がファクタルであったのであれば、何もかもを否定する事になる
だが自分は元は人間であった、今も尚、半分は単なる人間だ
抗うことも...勿論出来る、それを制御するような物はこの体にはない
簡単な話だ、力も正義も否定すればいい...それだけ、なのだが...

「まさか従う気か?今までのお前の正義の否定でもあるんだぞ」

「当然従う気はない...だが、どうして良いかも解らない」

相手としては大きすぎる存在、加えて力の根源、地球そのものに等しいそれは
何もかもを投げ捨て抗ったとして、倒すことが出来るのかすらも曖昧だ
仮に倒してしまえば地球が滅ぶのであれば、結末は同じであり
今の文明が滅ぶだけであったものが、更に悪化して地球自体が滅ぶ可能性もある。

では、どうするか。
それは現状では答えが出せないのだ、だからこそ今は従っている
...というより、赴くままに活動している、要は答も無いまま道筋を迷っているのだ

「一つだけ聞こう、その力...地球意思を救いたいか」

既に構えは崩れ、互いに向かい合うような形で対話は続く
シュリョーンの問は、迷いその物。この答えはこの先どうするかを意味する。

「全て救えるなら救いたいさ、昔のように...昔以上に」

過去想い、その輝かしさの永遠を願うのも、欲望の証拠だろうか。
既に真っ当な、万人が言う正義に戻れるとは思っていない。だが、それでも縋り付きたい
仮面を被ってでも一度決めた自分の正義を貫いてみたい、漠然とそう思っていた

輝かしい過去が、自分を無理やり生かしたのだとすれば
それは地球意思など関係なく、自分自身の意志で願う純粋な欲望
それが正義なのだとすれば、自分はまだ戦える、そう思えた。

「それで良い。もう一度全ての力を使って俺と戦え、我道を見せよファクタル」

再びシュリョーンが我導剣を構える
その刃先には先程よりも強く、より深い力を宿した赤紫の光が宿る
背中の羽も同様に無数の粒子を放つと空間をさらに色濃く染める

最早それは過去の同一の存在とは明らかに違う
同じように力に怯え、それでいて未来を見据え抗い続けた者。

その姿が目前にはあるのだ、そしてその全身全霊で教え示そうとしている
目的に悩むことよりも、倒すべき相手も、未来も、世界も全てを投げ放ち
最終的に勝ち取るべきは己の存在、自分の成すべき己の正義を示すことだと

「正義よ、その身で受けろ」

天にかざした刃は無数の色を放ち、力をその刀身に宿していく。
本来の姿よりも数倍に巨大化し、どこまでも伸びる刃に容赦などと言う物は気配すらない。

相変わらずこちらに向いた赤い目はまるで突き刺すように光り、こちらを捉える・
直感的に体が理解している、今ここで迷えば死ぬ...勝たねば未来はないと。

「俺の中の全ての光よ。今だけで、これが最後でもいい、力を貸せ...奴に全部叩きこむッ」

我道、シュリョーンが常に見据えていたもの...己とは何か。
我に返ったようにファクタルも天に手をかざすと圧倒的なほどに眩い光が両腕に集まり
無数に色のエネルギーは激しさを増し、最終的に全て混ざり合い白色の光へと昇華する。

まるで光が自分の元へ帰ってきたように、あまりにも大きい力だが軽い。
その腕に集まる限界まで膨れ上がったエネルギーと共に腕を正面で十字に組み力を込める

ファクトバスター。その最大にして最強の技は
一度使えば体やその周囲にある全エネルギーを消費する。
既に先程のエネルギーシュートで消費した体では限界を超えてしまっている

...だが、全身に回るその力は体中にライン上に宿り
その力の根源をまるで沸き立たせるように全身を光り輝かせる
それは最早、地球意思から与えられた力とは違う、ファクタルという存在が生み出した力

その生命を焼き尽くすかのように燃える炎が力となる。
後の事など関係はない、今この一撃にすべてを掛ける
そう覚悟した自分で選んだ正義が与えた覚醒の火、まさしく渾身の一撃

「「うぉぉぉぉぉぉぉッ」」

光と闇、最も遠くそして最も近い。
その相反する力が同様の覚悟と力を最大にまで溜め込み構える。

重なる声、エネルギーの渦の中で激しさを増す2つの輝き
それは最早、善や悪で縛る存在ではない。
ただ偶然に人間という枠を外れ、戦う運命を与えられた者達の持てる全てを宿した光。

あまりにも巨大に膨れ上がった力が拮抗し、フィールドの各所が砕け
渦に巻かれるように無数の輝きが宙に舞い世界を現実から更に遠ざけてゆく。

「切り裂け...亜空斬ッ」

「砕けよ、ファクトバスタァァッ」

地を砕き世界を割る一撃。
刃の先から全てを切り裂く斬撃が跳ね、光の腕からすべてのまばゆさが衝撃となる打ち込まれる。
赤紫の光の斬撃と白銀の衝撃砲。
圧倒的な衝撃と衝撃の乱暴な激突は極彩色の光の世界を瞬く間に消し飛ばす


激しい衝撃が体を襲った。圧倒的な光が視界を覆い尽くしていった。
叫びと共に轟音の濁流に飲まれ、その後に空白が訪れる。何もない白い景色。

それはまるで夢のように、静と動の僅かな時
先程までの全ては夢想の中にあったのではないか...そうとすら思わせる

だが、一つだけ実感があった。
体に流れる力、その質が変わった、確かに熱を感じる。
与えられ、使われるだけじゃない自分の正義が確かに感じられるのだ

「...これが、俺の正義」

仮面越しに開いた瞼の先には青空が見える
既に夜は明け、朝焼けがその体を光り輝かせるように照らす

屋根が抜けた後、廃墟の瓦礫の中に叩きこまれたように落ちた体。
結局、最後の一撃の後自分がどうなったのかは解らない。

視界の先に見える腕は、エネルギーを確かに使いきった筈だがまだ銀の姿を維持している。
光に飲まれ、そのまま今に至っている...見える限りでは、シュリョーンの姿も確認はできない。

「体は動くか...なら、まだ戦える」

ファクタルは立ち上がると、砂が煙のように巻き上がる廃墟の中を歩き始める。
既に敵意も、異質な気配も何も感じられない...また偶然生き残れたらしい。

一つだけ、確信できることは、自分の中に揺るぎない正義を得た事。
何も変わらない状況の中で、確かに自分の正義を確信した
その足取りは昨日までとは違う、新たな正義を踏みしめるような強い決意が宿っている。

この先どうすべきか、それはまだ不明確だ
だが、諦めるばかりではない...この力で、自ら切り開く。
そう、正義として。この世界に再びファクタルとして立ち、往くのだ。

―――

『どうやら上手くいったようね』

朝の輝きの中、遙か空に黒い影が舞う。

「こんなもんだろ...だがまぁ、こっちもギリギリだったよ」

シュリョーンもまたファクタルの一撃に対抗し輝きの中に飲まれた
その各部は酷くダメージを負っているが
ティポラーの補助で何とか、軽度のダメージで済んでいる。

死なない存在ではあるが、異形となってもダメージは受けるのだ。
当然痛いものは痛い、辛いことも面倒な事もある。

だが、途方も無い永遠を無理矢理に押し付けられると
そういう物や厄介事も、妙に大切なような気がして悪くないとも思えるのだ。
人間離れしたようで、逆に人間臭くなっているのかしれない

『強かったわね、彼。でも私達はもっと強い。挑むんでしょ、地球意思に。』

明かされたこの戦いの元凶、それもまた途方も無いものである
勝ち負けで何とかなる者なのかも解らない、だが戦うべき相手であることは間違いない。

だとすれば、出来る事は「途方も無い者」を倒せる存在になる。それだけだ。

「当然、どういう形であれ正義の根源ならば立ちはだかる悪が必要だろう?」

『あら...そうね、でもこの世界では悪が勝つわ、私が勝たせるもの。』

「俺達で勝つ...だな。なに大した敵じゃない、何せ正義を示せてないんだ」

人の形をした何か、シュリョーンという個体、それはこの世界の悪役。
光があれば影がある。光がぶれ、霞めば当然影が増し、霞めば飲まれるのだ。

『そうね、見せてやりましょう私達の力を。私もマニックも常に貴方達と共にあるわ』

使命でも運命でもない、自ら決め戦い往く者。
無限の力、無限の時間与えられた力の先に、何が待つのか。
彼が生きる未来は結局どうなるかなんて、誰にも解りはしない。

だからこそ、その足は我道を進み続ける。
その戦いは、永遠に終わることはない...と言っても、人間が図り知る限りではあるが。
見極めしその刃の切っ先に、既に狙いは定まっている。
次の相手はこの世界に宿る生命根源の意思、相手は巨大だが不足はない。


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-Ep:07「鮮やかな闇」 ・終、次回へ続く。
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