-企業社長、幹部クラスが揃って失踪
裏にあるのは犯罪か、社長室より行方不明の青少年を保護-

見出しが踊る、映像が沸く
あの後どうやらバタラバは関わった人間すべてを始末したらしい

怒り...と言うよりは何か強烈な使命感だろうか
復讐と言う目的とは外れた、あの少女の瞳には揺るぎない正義すら感じた
正義と言うのは碇の中から生まれる、彼女はその前段階とでも言うべきか。

悪の対となるならば、カザグルマの軍勢もまた正義である
今後彼らが世界に、人々に愛される存在になりえるても不思議ではない。

余りにもカザグルマの行動が不可解である事、人間が改造され生まれた異形が存在している事
その2点を危険視し、先んじて手を出しているに過ぎない
当然ながら悪はこちらであり、彼らはどちらかと言えば善。正義側にいる。

ただし、その理由が不明瞭である事実は変わらない、現時点では彼らは正義だ
...で、あるのならば何故、彼女やメイナーの遭遇したザクロは
その命を別のものに作り変えてまで正義を行うのか

異形であることは人として死んだことを意味する。自らを捨て生まれ変わるのだ。
そんな死の上に成り立つ正義、破滅があって初めて生まれる正義
最後には何も残らないそれは、少しでも崩れれば途端に悪と何ら代わりはない変貌を遂げる。

明言はできないが、現時点では彼らは極めて危ういのだ
どうとでもなり、英雄になれもするし悪夢も引き起こせる。

だからこそ、悪役としてできる事はその振り幅の大きい力を均等に分散させる程度であり
そのためには彼らに手を貸すこともあれば、牙をむくこともある
...真っ当に悪らしい行動ができる、それだけは収穫か。

「解からんねぇ、どうにも目的がさ...まぁバタラバはいい子だったよ」

新聞を机に投げ出すと、窓を開け日差しを取り込む
あれから数十時間、日を跨ぎ、次の朝が訪れていた。

漠然とした情報しかないカザグルマとその仲間
バタラバの印象、その動きから言えることは「悪い奴じゃない」それだけだった。
印象だけは思わず口から溢れるほどだが、、それ以上の言葉は思い浮かばない。

『正義の定義は曖昧だからな、命を奪った時点でそれは正義ではないと否定する者もいる』

立てかけられた我道剣から声が響く。凶悪な鬼の口元が言葉に合わせて金属音を上げる。
刀を収納したマニックは雑然として室内で、さも当たり前にように会話を行う。
予想よりははるかに違和感なく馴染んでいるのは、既にこの場所も亜空間の様なものだからだろうか。

「命を奪ったといっても、ありゃ異星人に改造されたバケモンだろ、もう人間じゃねぇって」

バタラバたちを拉致監禁していた集団には異形も当然のように紛れ込んでいた。
元は児童買春やら虐待趣味やら、そういった表には出せない趣向を持つ犯罪者の集まりだったようだが
大災害の混乱に乗じて忍び込んだ異星人が力を貸していたらしい。

数時間前に遭遇した人間から変貌した異形も
人間に寄生して生まれた、不定形の宇宙生物と人間のハイブリットだった。

知性は低いが故、自らも宿主に対しても欲望を強化する性質があるらしく
下衆どもと上手く組んで大災害の中で行き場を失った子供を捕まえてはその欲望を発散し
それを繰り返す間に、その強烈な気配、臭いに擦り寄ってくるように集団化していったらしい。

当然生身の人間も多数いただろう、だが、それが同じ人間かと問われれば否であろう。
救いようのない下衆、外道。それらを刈り取ることが出来るのは
ルールや法を無視した悪の仕事であり、相手としては最適と言えた。

『お前は例えそれが普通に人間であっても、外道であれば斬れるのか』

人、と一言で言うが、それも地球人であり宇宙人だ
異形も母星に帰れば一般人であるかも知れない

それは同じ地球人であったも同様。
同じ生態系でも同じ思考とは限らない。人間は総じて狂っている。
狂っているからこそ正義と悪に分かれ、皆が違う思想を持つ。

違うからこそ、相対する敵は侵略をやめることはない。
争って解り逢えれば良い。だが、戦っても分かり合えないなら、斬る他には無い
斬らねば次に斬られるのは自分だ、こう言えるからこそ悪でいる事を選んだのだ。

「当然、もう何回も斬っている。迷うのは悪の仕事じゃない」

正義である者には人は理由がなければ斬れない。
正義は人の味方であり無条件に彼らの盾になり刃になるのだ。
その刃を守る対象に向けることなど無い。

世界が、人々が許した対象、要は全体に対する悪が彼らの攻撃対象であり
私欲や、ルールを破って自らの意志で勝手に敵を設定してそれを抹消できない。
逮捕云々の現実的な話を抜きにしても尚、正義がそれをすればもう正義ではないのだ

正義のための犠牲なんて物を出した時点でそれはもう正義ではなく単なる人である
だからこそ正義の味方は若く、向こう見ずで純粋でよくも悪くも大馬鹿が理想とされる。
何時の時代も正義の味方というのは、誰かのために自分の手足に紐を括りつけた操り人形のようなものだ。

均等がとれた世界であれば、その操り人形は絶対の存在になれる。
少し前まではそうだった...だが、今はもうそんなバランスの良い世界は崩れてしまった。

だからこそ、悪役を名乗る者が、奴等が出来ないことをする。
彼らには責任もないが保証もない。守られる側からすれば正義の次に都合が良かった。

放置された彼らは好きな道を作り、世界の均等を保つために悪事を働くものもいれば
正義の行えない深い闇をえぐり続ける悪もいる、実に色鮮やかなものへと変わった。

本来ではそれは見えない、見えてはいけないものなのだが
崩れた世界ではそれもまた際立つのが現実だ、シュリョーンもその一つであり
マニックが思う以上に、既に様々な壁や汚泥や悪夢を超えて今に至っている。

『そうか。その時が来たら俺を使え、今は俺もシュリョーンの一部なのだから』

「おう...ありがとうよ、まぁそんな時が来ないのが一番だけどなぁ」

人在らざる者が人を守る価値は何か。
そう問われれば理由は無いと答えるしか無いだろう。
存在価値を求めるか、明日を得るためか、言葉にならいくらでも出来るのだが。

漠然とある終わりは、勝ち続けなければ必ず訪れる筈の「死」だけであったが
今となってはそれすらも無い、では、この悪が求める未来は何か...
そんな問答の答えを知る由もなく、終わりへと向かう足音は彼を巻き込んで近づいていた。

目の前の敵の更に先に、もっと深い闇がある。
人間も、それを利用する頭の悪い異星人も、そんな些細な事と吐き捨てられるほど
もう戻れぬ渦の中、その目の先にそれはいる。まだ見えない大きな何かが。

-――


「ザクロちゃんは最後の鍵を開けることが出来たみたい〜...でぇ、バタちゃんはどう?」

「自分では解からんちんって感じ、でももう今生に未練はないって状態よ」

かつては瀬戸内海と呼ばれていた海の上
サイセイシシャ達は巨大な宇宙艇を根城に密かに活動していた。

数々の機材、怪しく光る液体、絵に描いたような研究室の中で
椅子に馬乗りになり、せわしなく脚をがたつかせるバタラバの姿があった

「復讐とか、全部終われば...鍵ってのが開くと思ったんだけどねぇ」

その背後には未だ眠ったままのザクロ、モニターの前にはカザグルマの姿がある
たった3人の軍団、これだけで彼らは世界を変えようとしている

「そっかー解からんか〜でもまぁ、嫌な奴を全滅させれて良かった良かった。
僕のあげた力はどうだい?虫なんてワシャ〜とした物選ぶからボカァビックリしたがねぇ」

「えっ良いじゃん虫、カッコイイし強いし。昔からよく捕まえて遊んでたんよ」

サイセイシシャは自ら望んでカザグルマに強化改造を施された、いわば協力者である。
バタラバはあの日から以前の記憶が相変わらず戻らないまま
漠然と残る復讐心だけで手を貸していたが、それが解消されてもまだカザグルマに協力している。

帰る場所が解らない、というのも当然あるのだが
今の状況に妙な安心感と、漠然と使命感も感じているのかもしれない。
次のステップへ進むことが、妙に心を高揚させてくれる。

「へ〜地球人は愉快だなぁ。まぁ好きに動いてゆっくり頑張ればOKよ」

サイセイシシャとしてはバタラバの能力は異常な程に高かった
適応力、力の応用、そして進化のスピード。何もかもが期待以上。

当初は、偶然異星人の反応を追って観察していた集団の中にいた被害者だった。
だが、絶望的な局面でなお出来る限り自分だけの力で這い上がり続けた点に
惹かれていたことは間違いない、助け舟を出して彼女を誘う理由としては十分だった。

差し伸べた腕は思惑通り握られ、想像以上に簡単に協力者となってくれた。
そして思っていた以上にその力を使いこなしている、元からそういう存在であったかのように。

「後は最後の鍵を開けることが出来れば、バタちゃんは生きていけるよ。これからもね。」

カザグルマの思惑、それは未だ霧の中に隠されている
ザクロやバタラバも「選ばれた」という言葉でしか説明はされていない。

だが、両者とも今の自分より明日の自分を選んだだけでその先の未来は不明確で構わなかった。
だからこそ理由を聞こうとも思わなかったのだ、それは今も変わらない。

「ふ〜む...最後の鍵ねぇ...あ〜何となく解ったかも」

ガタガタと音を立てていた椅子が動きを止めると
バタラバは勢い良く立ち上がり、少し考えるような素振りを見せる

「なにか気づいたのなら、直ぐに動くと良し。今一秒の間にも時は過去になっていくのじゃぞ!」

「ジジィの小言かよ〜...でもそうだよね。じゃあ、ちょっくら鍵あけに行ってくるわ」

声が終わるか否か、バタラバの足が円形の転送装置に向かう。
その中央部に立つと体が風のような転送エネルギーの帯に包まれる。

目を閉じ彼女が願い、導き出した目的地を認識すると無数の風の帯が
彼女体を護り、同時に巻き上げ願う場所まで運ぶ。場所は火入国・立中市。
彼女が人間としては最後に暮らしていた場所、嫌な思い出ばかりがある場所。

...だったのだが、先日やっといい思い出が出来た
その思い出を作ったくれた人間にもう一度会うことが
鍵を開ける大きな要因になるのではないか、バタラバはそう考えていた

「あの時助けてくれたシュリョーン、もう一度あの人と会えば...何か解る気がする」

一瞬、嵐の中に取り残されたような、無数の風の壁の中の光景が目の前に広がり
刹那に風が飛び散ると、既に人影のない街の片隅に立っていた。

「いやぁ、豪華な移動方法だよねぇ」

慣れはしないが、この移動方法も中々爽快でいい
人じゃないなら人では出来ないことをやるべきだ、バタラバは悲劇の中に居たからこそ楽天家になれた。

日差しが強い、既に夏も過ぎたが未だに暑さが残っている
だが気温は感じても暑いとか寒いとかそういう感覚は既に薄くなっている
人間の姿形に戻ってはいても既にこの体はもう人間の理から外れているのだろう。
自分の体だからこそ、漠然とそういう類の理解はできていた。

「さて...と。何処に行けばいいんだ。名刺ぐらい貰えばよかったな」

広い世界にポツリと一人
異質な力を持ってはいるが、結局は人間サイズの枠に収まるのだ
変身して変わるのは身体能力と見た目と感覚位だろうか。
昆虫の感覚を使えば多少捗るかもしれないが、それ以前にヒントとなる材料が少なすぎる

「まっ、とりあえず暴れてもしょうがないし、そこら辺の人に聞くかぁ」

見上げた太陽が瞳の中に無数に映る
一瞬、目が融合し体内に宿る虫と同じ目線で世界を見せる
今までと同じ世界、今までと同じ姿。しかし、一つだけ違う自分の中身が妙に心地が良い

軽くスキップでもするように歩き始めた少女の姿は
旗から見ればのどかな光景だが、それが世界を終わりに導く者ともなり得る
この世界に送り込まれた使者であるとは、誰も知らない。だからこそ感じられる平穏がそこにはあった。

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Re:Top/NEXT