物事に必ず終わりがある...と人間は確信し生きている。 終わりがあるから、それに向かい生きていくことが出来る。 それ即ち破滅こそが人間の糧となるとも取れる、穏やかな歪。 様々な試練の果てに、この世界の人間は試され、壊され、減らされていった。 しかし彼らは消え去ることはなく、生き続ける者達は何度も立ち上がる まるで当たり前に立って、また歩み出す姿は外側から見れば余りにも恐ろしく 同様に、余りにも興味深い...そうしてまた新たな脅威が迫るのだ。 それでも人は前に進んでいく 何かに背中を押されるように、前に進むために力まで与えられて 知らず知らずに進化を果たし、進んでいく...いつか来る終わりに向かって。 --- 乾いた風、その強い勢威に巻き上げられた砂が 向かい合う2つの影をなぞり、それを守る硬い鎧に当たっては落ち音を立てる 片側には銀色の体に赤いラインの人間のような何か そしてそれに対するように黒い体に金のラインを描くもう一つの何か 互いに、一目で解る程に相いれぬ、反する色の輝きを見せる。 「お前...ファクタル、なのか」 黒い影から言葉が漏れる。口調に反してザラついた音が混じったような声 どうやらそれは、人と同じ枠にはあっても何かが違う者のようだ 「おうよ、その通りだシュリョーン。どうやら俺もまだ利用価値があるんだとよ」 互いに向かい合い、構えたまま 僅かにも動かず、まるでその者を纏う気配が探り合うようだ。 空気だけが蠢く、刺さるような感触 無駄に広く感じられた崩れかけの廃倉庫が今では妙に狭く感じられる 風の音、巻き上げられた砂は相変わらず両者の体に当たり音を奏で 崩れた壁の向こうに見える世界では草木が舞い上がり静けさを辛うじて遠ざける 彼等がいる世界は間違い無く現実、実感があり生命という残り時間を消費している その法則が彼等にも適応されているのかは解らない、だがその場の時間は動き続けている その実感がある以上、この対峙はいつか終わりを告げるだろう...確信できる事はそれ位だ。 緩やかな風が、一瞬何かの気配を感じ足早に流れる 一瞬の間、全ての活動が同時に止まる静寂 それは目に見えた瞬間にはもう過去にある、見えない速さで起きる事象。 シンとした音が一瞬耳の奥に突き抜ける それは静寂を告げたのではなく、何かが突き抜けた音 一瞬の指の動き、対峙する二人の周囲に何かが輝いた 少なくともそう、目は認識し伝え自分はそうと理解している 「オ〜ウ、面白い力があるんだな」 だが追いつかない、既に目の前の金と銀、黒と赤の色が激しく交差している 既に聞こえる音はギリギリと鋭い刃がその身を削りあう音へと変化していた 「何故刃を向ける...それ以前にその姿、随分と此方側寄りだな」 シュリョーンと呼ばれた黒い異形が問いかける その間も刃は変わらず最大の力で叩き合い、削れた刀身は悲鳴をあげ続けている 「俺にも解かんねぇよ...だが何かが迫っているんだろうさ、何にせよ出来るとはただ一つッ」 対するファクタルと呼ばれた銀の異形は両の手首から生えた刃で対抗する 扱う武器ですら対局であるように見える、だがその力は互角であると直感的に理解できる。 押しもしなければ引きもしない、強烈なエネルギーのぶつかり合いはその場でとどまり続けている。 一瞬でも気を抜けばどちらかが切り裂かれる刺激がそのまま体に伝わるように 空気から、その場すべての要素から圧倒的な力を感じさせる。 「俺を倒すと?それも良いが...今のこの世をよく見た方がいい』 削りあう刃と刃、その刃先が一瞬力に押され離れると 緑色に輝くシュリョーンの刃がファクタルの両腕を振り上げる 勢いのまま踏み込んだ足は刃を高く振りぬきエネルギー放出する すると斬撃が軌道を描きさながらエネルギー波の鎌鼬となりファクタルを襲う 「ぐッ...んだこれ!?ざけんなッ」 その身を切りさ感と飛び込んでくるエネルギー波をかすめ そのまま広報へはね飛んだファクタルに追い打ちをかけるように無数に迫るエネルギー刃の嵐 だがその力は互角、ファクタルは距離を生かしその一つ一つの動きを見極めると その手に宿る刃を軽々と振るい、迫る一撃を弾き、また一撃を叩き落としていく 一進一退、永遠に続くとも思える戦い... 「正義と悪はどちらかが滅ぶまで争い合う...などと、言う訳じゃないだろう」 開いた間合い、シュリョーンは既に攻撃の姿勢を解き、ファクタルの方に向いている。 戦う理由を掴み切れない、シュリョーンの問はそんな疑問を感じさせる 正義と悪、それは一目で見れば理解できる、だが闘う姿勢は明らかに正義の側が持っているように見える 「当然だ、何時かは滅ぶまで争うあう...が、今は違う。俺だって何も知らないんだ。」 払いのけた勢いで地に足を付けたファクタルから発せられた言葉は予想外というべきものであり その言葉と同時に張り詰めた何か突き刺さるような気配は既に消えている 「姿は変われど、中身は変わらんようだな」 軽く息をつくような動きを見せると シュリョーンも刀を下ろし、ファクタルの方へと歩み、手を差し出す 「そりゃアンタもだろ...一つ、確かめたい事があって来たんだよ」 差し出された手に捕まり立ち上がるとファクタルが続ける この先に繋がれる言葉が、新たな騒乱のきっかけになる事は間違いない。 可能であれば聞かずに済ませたい、しかしそれも叶わぬ事なのは考えずとも理解はできる 一瞬の思考、それは緊張感と不安、それと同時に何故か感情を昂らせる感覚もある 「アンタの言う悪ってなんだ、それを教えてくれ」 発せられた質問、それは何かを伝える前に確かめたのであろうか 悪に対し悪とは何かを問う、この世の全てに理由を求めるのは正義の悪い癖か。 ファクタルは自身が不在の間に起きた出来事を知っているのか それは解らないが、先に姿を変え進化したであろう宿敵に問おうというのだ |
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「唐突だな..まぁ、我道を往くことだ。その道を遮るものは神でも斬る」 それが十分な答えかは解らない、だがこれは間違いなく答えだ。 シュリョーンの真意であり、彼自身を示す言葉である。 「ならばシュリョーン、アンタに伝えよう。この世界はその内、強制的に終わりに導かれる」 シュリョーンの言葉を受け、ファクタルは確かめるように頷くと言葉を放つ。 それは警告なのだろうか、意味を理解するよりも前に違和感を覚える 導かれる...一体誰に、何の目的で引き起こされるというのだろうか 「一体どういう事だ、終わり...だと」 あまりにも極端な、言うならば破滅の言葉 それを正義の使者であるはずのファクタルが意図も簡単に言い放つのだ ...だが、その言葉、表情からそれが事実であるというのは間違い無いと解る。 だからこそ、尚更違和感がある深まっていく。 「俺も詳しくは解からん、だが俺を再び呼び起こした何かがそう言っている」 あまりにも漠然とした不明瞭な予言。ファクタルもまたシュリョーンと同様に理解はしていないようだ。 だからこそ、最も近く、最も遠き存在であるシュリョーンに 警告として、そして共に戦う可能性もあると判断し伝えたのであろう 「正義の味方が悪の身を心配とは、余程の事だな」 「ありがたいだろ?オマエさんの事は嫌いじゃないんでね」 言葉の裏には「共通の敵」の姿が宿っている。 互いに認識し倒さねばならない者が...迫っている。それは何か、知らねばならない。 「じゃあな」 先ほどまで相対していた二人が同じ敵を認識し立ち上がる 共に往く訳では無い、あくまで己の道の上で敵と対する決意であろうか 一瞬、互いの姿を確認したかと思うと、逆の方向へと歩き、そして一瞬の後消える 「あぁ。動きが鈍っていたぞ、次までには取り戻しておけ」 善と悪、その枠では収まらない何かが迫っている 漠然としかし明らかに強大な何かが目に見えぬまま潜み迫っている。 「うるせぇ、今日は本気のほの字も出してねぇよ」 善と悪が対峙し、その脅威を察知した時にはもう遅いといってもいいだろう 既に見ている...そう、今も見ているのだ...遥か彼方で。 彼らの隠し切れない力を、赤い瞳で見つめている。 「...何か地球人って凄いんだな」 その姿はまるで風車のような顔、何か違和感のあるシュッと伸びた体 ...彼もまた何かを告げるものなのか、今は解らない。 何もかもが不明確な中で、運命は再び動き始めている。 それは破滅への呼び声か、全ての終わりへ導く修正へのカウントダウンか それを止める術は、これから始まる戦いの中でつかみ、そして描かれて往く。 ここに始まり、ここで終わる。 変神と呼ばれた戦士が再びその舞台へ上がった。 --- 「終わりに導く」とは、一体何を意味するのだろうか。 それ以前に死んだ筈のファクタルがさも当たり前に現れ その姿形を変えてまで自らに警告をして来た、相当な事なのだろう。 そしてそのファクタル自身の再生の経緯もまた疑問として頭に残り続けている。 激しい対峙の夜明けを抜けて、穏やかに輝く昼間。 先ほどまでの強烈な違和感を与える二つの異形の対峙 それがまるで夢か幻かでもあったように、当たり前の毎日を過ごす道を歩き 平穏な街の中を歩く桃源矜持の頭の中は未だ違和感の中にある。 「そうだな...アキさんの所に行くべきか、困った時は年寄りに限る」 家路へと急ぐ足は言葉を終えるか否か方向転換し、真逆方向へ向かう 穏やかな日差しが無数の帯を伸ばす空の先には未だに異質な影が残る。 戦いの傷跡とも言うべき黒い柱。世界の景色は変わらないようで変わっている。 「また宇宙人か...それとも別の何かか、はたまたファクタルか、知らないだけで俺自身か」 彼は悪である。だが悪という解釈も無限に存在する。 彼の解釈では我道を往くこと、その為に迫る壁であれば例え正しくとも砕く者 ...そうであると判断している、それを教えたのが彼の師とも言える礎アキである 確かに時と場合によっては彼は世界の敵である場合もあるだろう。 しかし理由なく、まして無意識に世界の破滅なんて物を求めるような悪役ではない。 そんな立派な悪らしい悪は、もっと平穏で皆が元気だった遠い時代に死んだのだ 「んな馬鹿な、それなら破滅なんて面倒な手順は取らないしなぁ」 冗談交じりに色々と考えてはみるものの、答えなんて物が到底出る訳もない。 それを起こす者が何かも、何が起きるのかも、要因も何もかも見えないに等しい それ以前にあの言葉自体が事実なのかと疑わしい部分もある 例えこの世界にいるヒーローの言葉だとしても...だ。 あまりにも突然に、突拍子もなすぎる言葉では実感しきれないのが実際の所 「何でも疑っていいのは悪役の特権だよなぁ...っと、もうそろそろか」 方向を変え向かった先、礎邸。 街の外れにある人気のないような薄暗い屋敷だが、ここにアキが住んでいる。 ...と言ってもヒーポクリシー星人との戦い以降は 彼女の中でも感覚が変わったのか、周囲は綺麗に整えられ 手入れされた外壁はかつての印象をかき消す程に変貌し、少しの光も感じさせる。 訪れるのは久しぶりだが、アキに会うのは数日ぶりといったところだろうか 門の前に差し掛かると、何故か自然とその扉が開いた。 --- ⇒後半へ |
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