「...おや、そんな機能あったかな」

開いてゆく門を軽く見上げ、そのまま視線を下ろす
陽の高い時間でもその陽射の殆どが高く伸びた樹木に遮られ
いくら明るさはましたと云えど、やはり薄暗いと感じさせる邸宅
その大きな門の開いた先、玄関へ続く道を遮るように人影が見える

「珍しく人だというから出てきてみれば...なんだ、矜持か。丁度良かった」

「おや、珍しい。庭仕事というには渋い格好...丁度いいって何よ」

どうやら彼女は室内にはおらず、庭で何かしらの作業をしていたようだ
珍しく作業着に身を包み、首にはゴーグルがぶら下がっている

傍から見れば課題の実験に取り組む高校生と言った風である
相変わらず見た目は17〜8歳といったところで、とても還暦近い年齢とは思えない

「お前の刀さ。亜空人間なんて珍しい体だもっと強烈なのも使えるはずだ」

「いや、貴方もだろうに。しかし何を急に...この間、変神した体を調べてたけどその関係か何かか」

亜空人間、桃源矜持は現在ではそう呼ばれる存在になっている
その半身である葉子と同様に、様々な世界...広く知られる言い方をすれば
パラレルワールドという幾多にある世界と世界の間にある空間「亜空間」
そこに取り込まれた上で、どんな形であれ戻ってこられた人間だけが亜空人間と呼ばれる

加えて桃源矜持という存在は、現在では葉子と自由自在に分離融合が出来
更には亜空間の存在であるティポラーとマニックという2つの意志も融合している
いよいよ持って本格的に人間の形をした異形そのものといえる。

「ふむ、今お前の中には面白いモノが宿っていることが解ってな」

亜空人間となった桃源矜持にはかつてのような変身の制限はない
...と言うより、人間の姿が変身した姿というべき状態であり
彼は既にシュリョーンその物になっている、姿が大きく変わったのもその為だが
それを構成する物の中には、それまでの戦いで出会い、受け継いできたものも蓄積されている

「あぁティポラーとかマニックか、流石に解るか...力の色が濃いもんな」

ティポラーとマニック、シュリョーンに力を与えるため試練の場を設け
それを乗り越えた事を期に新たに契約された亜獣の中でも上位種の存在である

「何を言ってる、背中の羽はティポラーその者だぞ。見れば解る。
で、マニックの方は攻撃の際力を増加しているようだ...というより溢れ出ていると言うべきか」

深化、そして深黒。
漠然とその力をなんの意識もせずに使っていたが、当然管理しきれていなかったようだ

それを見抜き、その力をより良く管理し運用させよう
...そういう考えがアキにはあるようだ。

考えてみれば彼等との戦いで今の姿に覚醒したのだ、切っ掛けすらも彼等なのだろう
変化の根源であるのならば、それを扱いこなし、よりよい関係が作れるのは望ましい

「だとさ。ティポラーもマニックも何で黙ってるんだ」

『..お前たちの言語を知らないからだ、この体を通さねばこれも単なる音と言う認識になるだろう』

投げかけた言葉に答えるように不意にアキの手元から声が響く
彼女の手に握られたシュリョーンと同じ色をした金の顔を持つ物体
声はそこから聞こえている...金色の獣の顔、その口が動き発声している。
ノイズを被せたような声は、マニックの声だった。

「おや、そっちに鞍替えかい?」

『そういう訳でもない、お前から出る力を通じてこの体から声を出しているのだ。便利な物だな』

仮初の体...と言うよりは、刃のない刀とでも言うべきか
アキが手に掴んだそれは、まるで生きているように自在に体を揺らし
手足もないのに何故かその気配は生命的に感じられる。

「これは我導剣と言ってな、お前の中のコイツの擬似的な体になる。
同時に求めた形の刃を形成する刃でもある...試してみるか?」

言葉ではそう言うが、実際は「試してみせろと」と言う意味であろう
既に我導剣は桃源の眼の前に翳され、それに応えるように
それを受け取る腕もまた異形の者へと姿を変えている

アキの手に合わせた大きさであった我道剣は、シュリョーンの手に移ると
その持ち主に対応するのかのようにその腕に合わせた巨大な姿に変化していた
確かな重み、こちらを向いた魔獣の顔は表情こそ変わらないが笑っているように感じられる

『成程、お前の求める力...振り切る力、刀か。良いぞ。』

魔獣...マニックの口がガチャガチャと金属音を立てながら上下する
たとえ仮初の体であっても、喋る際に口は動くらしい
こうして見ると中々可愛らしいが、実際は化物甲冑というべき巨大魔神なのだから恐ろしい話だ
まぁ、異形時代の姿もそれが本来の彼の姿なのかは定かではないのだが。

漠然と思考を巡らせる中、周囲の気配は一瞬歪む。
亜空間の力が、刃を形成するその瞬間開放され、溢れ出る。
漠然とした不安感を煽るような、重苦しい気配だが慣れれば案外心地も良い

「そう刀がいい。それ以外は馴染みがなくてね。』

会話の間には既にその顔の上から鮮やかな光の刀身が伸び始める。
鈍く透き通り、光を放つ刀身、亜空力の輝きは真緑に光り嫌に目に残る。
暗闇の中でも最もよく見える色がそのまま反映され、そのものを主張する。

エネルギーを強制的に固めたような物で、半透明の刃は実体を持つ。
出現と同時に重みも増し、刀としての色を濃く主張してくる。

「うむ、見事。また一つ私の最強の兵として強くなったなシュリョーンよ!」

「言う割に悪事を働かせないけどな。まっ、丁度戦う相手も復活したし、最高に良いプレゼントだよ」

今の今まで、礎邸を尋ねた理由を完全に失念していたが
本来はアキにファクタルの復活、そして何か新たな脅威が迫っている
その事実を伝え、何かしらの対策を練らねばならないのである

「戦う相手...何だ、また宇宙人でも出たか」

「いや、惜しい。ファクタルが復活した。で、奴によると何かトンでもない脅威が迫ってるらしい」

桃源の口から本来の目的とも言える話題が発せられる。
元の人間の姿に戻り、服の乱れを直しながら発せられたその言葉は
これまでの経緯、状況が解る人間からすれば、まずありえない言葉の数々である。

「...今、何と言った。ファクタルだと?」

ファクタル、つい数時間前に目の前に存在し、戦った相手の名前である。
かつて火入国、延いては日本全体の平和を守りぬいた存在であり
ヒーポクリシー星人の侵攻に対してもその命と引換に大きなダメージを与えた存在である

彼の活躍がなければドクゼンの計画は早期に結実し人類は作り変えられていただろう。
異星人と同化した異形の生物へと変貌していた可能性もある、要は破滅していた。
シュリョーンやメイナーはその後を受け継ぎはしたが、ファクタル無しには勝利は有り得なかった
それはまず間違いのない事実であり、シュリョーンの深化の発端も遠回しではあるが彼である。

「生きている筈がないだろ、奴はあの身勝手宇宙人の戦艦の爆発に巻き込まれている。
例え生きていたとしても二度と変身どころか、日常生活を送るのも困難な筈だ」

流石のアキも多少は驚いたのだろうか、それもその筈
彼女の言葉にあるように、ヒーポクリシーの宇宙魔城とも言うべき巨大戦艦
更には無数の大型艦諸共ファクタルはその身を犠牲に全てを巻き込み自爆に近い形で爆散している。

どう頑張っても生きている筈がないのだ...だからこそ、本来有り得ない悪が
その意志を次いで動き、悪だからこそ奴らを破滅に追い込めた。
正義の代わりにその果たすべき役目を行ったのだ、まず信じられないとしか言いようが無い

「俺も驚いたさ、幽霊でも出たか...ってね、でもまぁ姿も変わってたし
同じように俺だって死んで生き返ったようなもんだ、何が起きてても不思議はない。」

「まぁ、確かにそうだが...このタイミング、お前も戻ってきた。何か起きる予兆か」

理解はするが納得はできない、アキはそんな表情を浮かべながらも
自分達の異常性と同等の者が存在するのであれば、それはそれで興味深いとも考えていた
確かにファクタルは脅威ではあるが、同時に良きライバルとも言える存在である事実は否定出来ない

何時かは決着をつけるべき存在だが、その何時かはそんなには近くはない
加えて新たな脅威が迫るとあえて警告までしてくれているのだ、敵意すら今の時点ではないのかもしれない

だとすれば問題は、漠然とした表現である「トンでもない脅威」の方だ
それは何だ...余りにも掴み所が無い、今の時点では想像すらも難しい。

「ファクタルもそれが何なのかまでは掴んでいないらしい、また侵略者か...他の何かか..
まぁ、頼りになるアキちゃんの事だ、色んなルートで調べてくれるかなぁ...とね」

なんともはやと言った風に両手を上げると、桃源は手に持ったままの我導剣を構える
今の桃源は人間の姿の化けている状態である、人間の見た目でも
巨大な姿を維持したままの我道剣を容易に扱うことができる。

振り上げられた刃をまるで疑問を断ち切るように、一直線に刃を振り下ろす。
亜空力の欠片が宙を舞い、輝きの後に切り裂かれた風が悲鳴を上げる。

何のことはない、既にわかっている「答えは今はない」のだ
考えるよりも前に、すべき事は幾らでもある、考えは動いた先に得たもので纏めれば良い。

「またしても問題は山積みということか、いいだろう。色々と調査しておこう」

流れ飛び、舞い散る粒子を目で追いながら
アキもまた、自分の考えをまとめ、まずは自身の作品の威力に満足した表情を浮かべる。

「自画自賛だが、良い刀だ...で、大物なのであれば網を貼れば何かしらの掴めるだろう。
勿論、矜持。お前もしっかり足で調べるんだぞ、あと葉子にもよろしくな」

不敵と言う言葉がよく似合う、見た目相応な少し邪悪な笑み。
退屈な平和よりは、漠然としたものであっても慌ただしい中にいる方がいい
この行いは正義に当たるのかもしれないが、それは全てが終わってから決まること。

何より悪を行うには人や世界は不可欠だ、その為には力を振るうことも必要であろう
アキの頭の中である程度の結論は既に出ている、そして既に行動は開始されたも同然だ

「あいよ、じゃあ今日はとりあえず帰るとするよ。また何かあったら教えてくれい
...おおっ、そうだ。改めてありがとう。この剣のおかげでまた深化できそうだ」

アキの目前に我導剣...マニックの顔が現れカタカタと揺れる。
マニックもまた、アキに感謝の意を示すように穏やかで何処か愛らしい気配を感じさせる。

「ああ、何だそんな事か。何、大した事じゃない。何より刃はお前が作ったんだろうに。
トンでもない何かとやらをそれで一刀両断して私に見せろ、それでお返しとしといてやる。」

「お安いご用で御座いますよ。んじゃ、また。」

軽口を叩くように、会話を続けながら、その背中は遠ざかっていく。
庭を出て、門をくぐり、陽も傾き始めた闇を濃く宿す道をいつものように往く。
何も変わらない、当たり前にある景色。今は何事も無く平和を見せる。

「...脅威よりも、変わり続けるお前の方が心配なんだがな」

既に声の届かない、はるか遠くのその姿に本音が漏れる。
深化とは、人ではなくなっていく事だ。既に桃源も葉子も混ざり合い
どちらでもあり、どちらでもない。あれはシュリョーンになってしまっている。

「私の理想は間違ってはいない、だが...彼らにとっては...」

少しづつ、たしかに違和感に近い変化は生まれているように感じられる
死者たる正義の復活、迫る見えぬ脅威...また戦う時が来ている
その悪夢のような未来に立ち向かうには、さらなる深化は必要不可欠だ。

「ならば、せめて同じ様に夢幻の時間を生きる私はお前を見守り、助け続けるよ」

脅威、幾つもが宿るそれは恐怖と言うよりは疲れに近い。
勝つことは出来ても、何も残らないかもしれない...だが往くのだ
それしか出来る事も、やるべき事もないのだから。
いつか来る終わりのために、彼らは自分を満たす戦いを欲しているのかもしれない

幾つもの線の上、次の点に向かい桃源も、アキも互いの方向へ向き直すと
それぞれが新たな舞台にむけて動き始めていた。
世界の果てに、深化の果てに、彼らの行く末を求めて。

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ひとまずは帰路につく桃源
その腰にはコンパクトなサイズに縮小された我導剣がぶら下がる。
刃の部分は小さくなると同時に消えている、実に便利な機能といえよう。

「んで、マニちゃん。この状態でも喋れたりする」

『無論、いつでもお前の武器になるぞ』

一度意識したからなのか、体を得たからなのか
マニックはもう当然のように人語を話している。
...以前から話しているように感じていたが、それはどうやらシュリョーンの姿であったから。
要は自動翻訳されていた...と言う事らしい。

「何かいいねぇ、あのデカい姿より可愛くて良いや」

傍から見れば独り言である以上、あまり迂闊には会話は出来ないが
何より強制的とはいえ一心同、これから共に戦う仲間でもある
色々と知っておいても損はないだろう

「...そういえばティポラーの方は随分静かだけど」

『ふむ。奴は後付、呼ばねば来んよ。媒介であるお前さんから離れれば力が弱まる以上は近くにいるだろうが』

「へぇ、成程ね。でお二人さんは媒介を通さないと現世では行動できず言葉も喋れないと」

『左様、私も手足があれば単独行動も可能だが...まぁ見ての通りだ』

事務所へ戻る道、幸いなことに人影はなく会話は随分と弾んだ
こんな事なら携帯電話型にでもなってくれれば...とも思いはしたが
マニック程の力がある存在ならば、刀に宿って力を貸してくれる方が心強い
多少の交流の面倒さなど、なんの問題とも感じられない。

「何はともあれよろしく...っと。早速力を借りる事になりそうだ」

不意に、体中に巡る亜空力が感覚を刺激する
気配を感じたのだ...異形、強力な力を持つ何かの気配を。
全身が方向を伝える、その目先に影が見える。

普段通りの大通り、何も変わらない景色に見慣れない人影
目線の席にある違和感は、目の中に映る映像だけでなく
気配が、そして体内の力が頭に直接語りかけるように教えてくれる

『...地球人とは思えぬな』

人影のない、車すら通らない道の真中にまるで風に乗るかのように
軽やかに浮遊する人影が見える、それは人の形はしているが
明らかに何かがおかしい、そのシルエット...何よりもその顔面が違和感を強調する

「顔が...何だ、風車..?」

黒い風車、地球にある物で喩えるならばそれが適している
その存在の顔は正に風車の形をしているのだ。

仮面ではない、本来ならば目や鼻があるべき位置が風車状になっている
首も長く、全身が包帯巻のように見える...だが、それもなにか違う素材であるようにも感じられる
全てが異質、人形をしていることが逆に変だと思う程に。

「おや、人間さんじゃん?近づかないように人避けの風を吹かせたのにー」

風車が桃源の存在に気がつくと驚いた様子で声を上げる
何を言ったか理解できる...という事は地球語を理解し話せるようだが
そうであってもそれが有効的な存在であるかは解るはずもない

相手の言葉が途切れる間も無く、その周囲は亜空力に溢れ
その姿は桃源矜持からシュリョーンへと切り替わり、相手を牽制する

「そこのカザグルマ、言葉が通じるにならば聞け。
まず俺が人間かは今の姿を見てアンタなりの判断で決めてもらえるとありがたい。
だが、そんな事よりお前の目的を聞こうか。次第によっては対応を変えざる得ない」

風車の赤い目に見える部分が驚いたようなアクションを見せる
目の前の人間が明らかに違う何かに突然入れ替わったのだ、当然の反応といえるだろう
言葉と同様にリアクション...考えも人間に近いようだ。

「まぁ!地球人って凄い!僕は...カザグルマっていうの?じゃあそう呼んでくれればいいよ」

軽い声、まるで風が吹いているような、そんな印象を受ける。
同時に敵意も感じない、だが良い気配も全くといっていいほど与えない、無だ。

馬鹿にされているのか、元よりこれが礼儀正しいと捉える存在なのか、判断はつかないが
善意も悪意も感じない者に対すると言うことは一番厄介であることは間違いない

「出来れば争いは避けたいのだが...その意思はあるのか」

半分の会話は成り立ち、残り半分は成り立っていない
大事な箇所だけがぼかされたままでは埒があかない、それを打破するために問いは続く。


「戦う意志ぃ?よく解んない〜...けどその剣凄いね」

答えと共にカザグルマの姿が消え、次の瞬間には目の前に現れまた消える。
その動きには常に風が付き纏い、その存在の気配をかき消す

目前から消えたカザグルマは次の瞬間には少し距離をおいた地点に現れ
軽く手を上下させるとそれに風が追従し鋭い輝きが実体となって跳ね飛んでくる
それはまるで...斬撃、攻撃されている。

「ちっ...悪ふざけでも度が過ぎれば痛い目を見るぞッ」

既の所で一閃を避け、そのまま襲い来るもう一撃を我導剣で受け返す
気配もなく、予想もできない攻撃ではあるが、今のシュリョーンならば回避も容易だ。

問題はその存在の理解できない内面だ。
極めて近い距離で顔をあわせても、やはりそれは地球の人間とは明らかに違う
声は体全体から出ているように感じられ、まるで思考を読ませる要素がない

「戦う意志があるのならッ」

無数の風の刃を叩き伏せ、飛んでくる方向へとシュリョーンが跳ねる
姿は捉えられずとも、攻撃が自分を狙う以上その地点に敵はいる
こちらの動きの隙を読んでくるのであれば、それは同時に反撃のチャンスでもある

幾多の風の刃を叩き、シュリョーンに次に生まれる隙
その地点を狙い、向きを変えると我道剣をその何もない空間に叩きこむ

「んんん!?凄いね、何で僕についてこれるの」

刃の落ちる先、その寸前まで何もなかった場にカザグルマの姿があった。
我道剣の切っ先が風をまとったカザグルマの強固な腕と激突している

正体不明の存在、その刃のような腕と我導剣に宿るエネルギーが削れあい悲鳴を上げる
一瞬の力と力の衝突、そこからすらも相手の感覚は伝わることはない
カザグルマがまるで逃げるように腕を解き、後方にはね飛ぶ。

「ノンノン、痛いのは嫌よ。僕はね呼ばれたのさ!終わらせろって!誰かにねぇ」

軽い言葉とは裏腹にその力は強い
会話の最中も変わらず風がシュリョーンに襲いかかり動きを制限している
そう何度も同じ戦術が効く相手とも思えない、勝負を決めるのであれば一瞬が重要になる。

油断ならないとはま正に今の状況を指すのだろうが、それ以上に戦う意志が上回る
今ここでこの存在を止めねば将来的に何かを起こす。
それを確信させるだけの言葉、何より不可解で異質な邪悪を感じる。

「マニック、少し無茶するが文句は言うなよ」

言葉を終える間もなく、我道剣を構え周囲の風を切り裂くと
そのままシュリョーンはカザグルマの方へ飛び込み我導剣をその顔めがけて投げつける。

『なるほど手荒だ...だが私も単なる刀ではないんでなッ』

カザグルマを護る風をマニックが一直線に切り裂き飛び込む
その工法でシュリョーンが構え深く踏み込み力を込める。
無謀な突撃...そう見えるが策はある。

「こりゃマズイ、消えさせてもら...あれ!?」

カザグルマの目前に迫るマニック、その姿は瞬く間に巨大化する
本来の姿の開放、異形としてのマニックの腕が逃げようとするカザグルマの足を掴み
そのままシュリョーンが構える広報へと勢い良く投げ、そのまま地面に突き刺さる。」

『さぁ往け、シュリョーンッ』

奇声を上げカザグルマが異様なスピードで迫る
既にその拳には亜空力を宿し、攻撃の準備は整っている

「加減はしてやる...多分なッ」

飛び込む異形の体をそのまま打ち返すように体勢を崩した体目掛け一撃を叩きこむ
強烈な炸裂音が鳴り響き、亜空力がカザグルマの体を突き抜ける

キッと風が切れる音が鳴ったかと思うとカザグルマは後方へ弾き飛ばされ
激しい激突音を背に、着地...というより刃部分で地面に刺さった我導剣が
その身を立て直しシュリョーンの手に舞い戻ってくる。

『今のは悪くなかったぞ、腕を上げたな』

「油断するな、確かに当たったが...まだまだ余裕そうだ」

吹き飛んだカザグルマは反対車線の壁に激突したようだが
その場に叩きつけられた姿勢ではあっても、ダメージがあるようには見えない
どこにあるのかもわからない口から咳き込んだような音だけが聞こえる

「ゲフッ...グフッ...ゲェ〜痛っいなぁ」

真似事だろうかそれとも呼吸器はあるのだろうか
...今は余計なことは考える暇はない、しかし感じるのだ「今は倒せない」と
そしてその結論が次にはこう言う「かつために相手を知れ」と

「見かけにによらず随分頑丈だな」

だが倒せるのであれば、この時で全てを終わりにしたい
容赦をする余裕も理由もない、そう思考が告げる間も無く
足はカザグルマの方へ向かい、突き放った刃がエネルギーの帯を纏いカザグルマに勢い良く伸びる
その刃は自分が一瞬でも持った不信感を叩き切るように鋭く突き抜けていく

「わぁアレは流石にヤバイんちゃう!?地球のヒーローつおい。こりゃ逃げるが勝ちかな!」

...が、しかし。向かい来るシュリョーンに歳ほど異常に強力な風が襲い掛かる
その勢いは足を止めるには十分、それ以上に鋭いそれは全身の装甲に傷を与える程鋭い

白く濁る風の刃の中で逃げの言葉を耳が受け取った次の刹那、風は吹き抜け
既にカザグルマの姿は消え、存在していた地点には舞い上がる砂埃だけが残されている。

「...どうやら、手加減されていたようだな」

最初の一撃といい、その動きは早いという次元ではない。テレポートでもしたかのように一瞬で起き
起きたと認識した頃にはもう遅い、恐ろしい程の力...だが仕掛けてくるようで、既で止めているような
まるで遊んでいるという表現が相応しい。言動と同じで理解が難しい。

攻めこんできてはいるがあと一歩を踏み込んではこないような、そんな感覚を受ける
ただ、一つ解るのは「瞬時に倒されても不思議ではない」その力。

『シュリョーン、奴の気配はもうない。加えてどうやらあの者...』

「宇宙人...とも違うのかもしれない。今までの敵とは次元が違う」

既に太陽は落ち、闇の世界に踏み込んだ街並み。
不気味なほどに人がいない一帯は次第に喧騒を取り戻していく。

全てがまだ謎の中で、解る事はただ一つ。
圧倒的な脅威は既に存在し、敵対という言葉以前の脅威として迫っている。
それは自然災害と同じ部類、避けることは不可能だろう。

人間の姿に戻った桃源は、再び帰路に付き
今は一度の静寂を取り戻しているが...嵐はその前の静けさすらも用意せぬまま
既に彼らを巻き込んで激しく渦を巻いている。

「カザグルマ...何をする気なのか...」

ファクタルの復活、終わりの時、そして来訪者カザグルマ
新たな戦いの予兆としては余りにも無数の点が鮮やかに配置され
もう既にそれらを繋ぐ線が引かれ始めているように思える

『案ずるな、どんな相手でも我らが付いている』

「そうだな、次は悪役の怖さを教えてやるとしよう」

それはすべてが終わりに繋がる線引きなのか
今はまだ何も解らないまま、動乱が再び幕を開けようとしている
新たな風は何を運び何を壊すのか、その先にある答えは今はまだ見えない。

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-Ep:01「黒い嵐」 ・終、次回へ続く。
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