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一方、後方地点に残るメイナーとイツワリーゼン。

宇宙空間に有りながら内部は荒野と化した宇宙に巡る道内では
2つの強力な力が幾度と無く激突しては離れ、一進一退の攻防を繰り広げていた

対峙するメイナーとイツワリーゼン
特に好敵手として、ある時は仲間として、そして最高の忠誠心を持ち
ある意味では愛し合っていた二人を運命が翻弄する

「全てが姫様を覆い隠せば、それは即ち”それ以上はない”事になる。それこそが最後の可能性」

まるで無理やりぬ動かされたように違和感のある動きで
イツワリーゼンの腕が乱暴に、中に体のことなぞ顧みずに振り下ろされると
手に持った巨大なクナイが空を切りメイナーを狙う

「..うっ..うごけ..動け..私の..」

イツワリーゼンの意思に反して一つ、また一つとクナイが飛ばされる
形こそ彼女の気に入っていた地球土産によく似ているが明らかに巨大で無数に生まれている

まるで意思を持ったかのような動きでかすり、徐々にダメージを与えている...が
その攻撃は僅かな抵抗により威力の軽減と、急所を外した攻撃となっている
「イツワリーゼンはまだ抵抗している」それをメイナーは見逃さなかった

「姫様もまた抗っている...大丈夫、すぐに救い出して差し上げましょう」

露出したイツワリーゼンの頭部、彼女の目を隠す眼帯が禍々しい光を放っている
誰より長くイツワリーゼンと関わって来たメイナーには右目の眼帯の変化は一目瞭然
...だが、しかし、その程度の簡単なトリックが答えという事があるのだろうか

思考の合間にもヒールブラスターからは絶え間なく弾丸が飛ぶ
その弾をイツワリーゼンのクナイが意図も簡単に弾き落とすという一定のリズムで
延々と続く二人のぶつかり合いは継続したままで降着状態となっている

「この動き、全てクナイで受ける理由がある...もしや...まだ万策は尽きていないという事か」

イツワリーゼン自体が囮...あるいは...単なる駒とされたか
いずれにせよ彼女の意思を知るメイナーにとって彼女の今の姿は無残に写り
その怒りを蓄積し、次第に湧き出る程までに押し上げるには十分な物である

だが、「救う事」に怒りは邪魔となる...意識を統一し再び銃口を向けると
思考を巡らす間も静かに間合いを詰め、ゆっくりとイツワリーゼンが迫る
勝負を賭けるとすれば一瞬、懐に忍び込ませた時が唯一の好機

隙を見せたイツワリーゼンの眼帯を破壊すればこの灰色の骨による拘束を解く事位は出来る
...あくまで仮定ではあるが今はこれが目に見える「答え」であるのは間違いない

例え失敗しても近距離であれば別の手もあるはず、たとえ死す共、彼女を救う事は出来るだろう。
考えを終えるか否か、メイナーは大きく手を広げた

「少々痛いですが、私のお姫様だ...我慢出来る強いお人だと信じている」

今まで灰色の骨だけを狙い、砕いていた弾丸が突如イツワの頭部へ向け発射される
その突然の行動にイツワリーゼンがかすれた声で反応する

「止まっておれと...いうのじゃな...まかせておけぇっ!!」

走り出そうとした体を無理やり引き止め、まるでブリキの人形のように硬い動きで
イツワリーゼンは自分の体を押さえつけている

だが、メイナーはその瞳を見つめたまま声にならない叫びを上げる
一心に見つめる瞳を見たイツワリーゼンはその感情を受け取ると迫る弾丸を前に体を固定する
見据えた瞳の奥からは、「大丈夫だ」と言われたようなそんな感覚が流れ込む
その意志...意地に近いそんな気持がイツワの決意を強くさせ、恐怖をも超える。

「次だ、これがかすれば...姫様を救う唯一のチャンスが訪れる!!」

弾丸が軌道を変えイツワの眼帯の部分をえぐるようにかすめる
亜空力を載せた弾丸をメイナーが操作し狙い通りに”かすめ”た

「なっ!?何をしておる...ぬわっ..もう制御できぬぞっ!」

イツワはこのまま「死ぬ事で開放を狙う」それを予想していた
しかしその開放を呼ぶはずの弾丸は目を覆う眼帯の中央部に傷をつけ飛んだ
その意外な動きに気を緩めた隙に再度体は灰色の骨に支配されてしまう

自らの意志に反し、勢いで飛んだ体を立て直したイツワは
クナイを前に構えた...いわばメイナーを刺し、倒す為の形をとり
猛然とメイナーへと攻撃を仕掛けてゆく、乱暴な足音が迫る

...が、しかしそれを意に介さず
メイナーは迫るイツワを大きく手を広げ強く抱きしめ拘束する

「これを待っていた...捕まえたぞイツワリーゼンッ!!」

ガスッ...という鈍く刺さる音が響きメイナーの腹部にクナイが刺さる
それは今までの無数に作られたくないとは違う、彼女が好んで使っていた言わばオリジナル。
そんな彼女を象徴する、地球との絆が今や驚異となり突き刺さる

しかしそれと同時にメイナーが広げた手を振り下ろし、イツワの眼帯をヒールブラスターの持ち手で砕かくと
双方がエネルギーに押させる形で吹き飛ぶ...刹那の後、怒号と砂煙が吹き上がり
静寂の宇宙に通る一本の道の中にそれ以上の静寂、一時の無を運ぶ

「..痛っ..ぐっ..メイナー、大丈夫か!?」

静寂を真っ先に打ち破ったのはイツワリーゼンの声
その体は既に灰色の骨の支配から解き放たれている
灰色の骨が形成した直接洗脳波を送り込む眼帯を破壊された事で
強引にではあるが体の自由を取り戻したのだ

だが、ダメージは深刻であり、灰色の骨が覆い支配していた部分は焼け焦げている
激しい痛みをこらえ、足を引きずりやっとの思いで倒れたメイナーへと駆け寄る

「おい、メイナー、大丈夫か!?おいっ!?しっかりしろ...」

メイナーを抱えあげるとその腹部には叩き折れたクナイが刺さり
装甲も各部が砕け、今にも崩れ落ちそうな状態になっている

亜空の力により体中が黒く染まり患部を覆い砕けるよう割れ、回復しようと試みているが
とてもその作業が追いつく状態ではない...が、しかし

「...おおっ姫様、元に戻られましたか。素晴らしいフォローでした」

イツワリーゼンに抱えあげられたメイナーは何とか口を開き
その体を起こすし、突き刺さったクナイを引き抜くと僅かに亜空結晶が漏れ出す

深く刺さっていたかのように見えたクナイには無数の弾丸の跡が付いている
もろくなったクナイが途中で折れた事で
刺さりこそした物の大きなダメージにまでは発展してなかったのだ

「戦闘中、全ての攻撃をそのクナイで受けて脆くしてくれたおかげで、何とかお助け出来ました」

戦闘の中、飛びそうな意識を振り絞りイツワは自身のクナイに弾丸を当て
メイナーに突き刺さる前に、すぐに折れるような状態にする事に成功していた

あくまで彼女がメイナーを殺すことが無いように選んだ動きであったが
それをメイナー見抜き、二人とも救う為の最後の鍵として利用したのだ

しかし、未だ絶えず亜空力が黒く光り割れ、最低限の回復作業を繰り返している
イツワリーゼンもまた同様に、体中に反動のダメージと闘いの傷が残っている

だが、二人は立ち上がると、互いに肩を貸し合いながら一歩ずつ前へと歩み始める
傷だらけの体は立ち上がり、足を進める度に何処かが砕けその足跡と共に残骸が道に残る

「シュリョーンが先に行っているのだな...急がねば。あの中にはドクゼンがいる」

イツワリーゼンが鋭い眼光を向けライ・ドゥームを見つめる
その表情にあわせるようにメイナーも前を見据え、足を踏み出す

「ええ、しかし本当に心配なのは倒される事より暴走の方だ、
制御がないと言う事は、暴走をそのまま受け入れるということ...終いには死に至る可能性もある」

シュリョーンは初期に生み出された亜空超人である故
その力を長時間形として保ち続けると、独自に進化を始める、それが暴走と呼ばれる

一見すると良い事のように思えるがその進化は変身者を取り込む事でもあり
長時間に及べば変身者はこの世から存在が消え、亜空間に取り込まれてしまう
葉子がそうであったように、次第に「亜空間の生命」となり世界の取り込まれてしまうのだ

その制御装置であったリミッターが今は「解除」されている
その状態で変身を続ければ、シュリョーン、引いては桃源と葉子は二度と元には戻れないかもしれない

先を急ぐ足が、強く一歩また一歩と地面を蹴り始める
その足は次第に速度を上げる、足を踏み込むたび激痛が走るがそれを感じる暇はない
最早限界に近い力を振り絞り、メイナーとイツワリーゼンはシュリョーン援護に向かうのであった

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...激しい砂煙が上がる
ピースリアン地球侵略舞台本拠点「ライ・ドゥーム」の登場口が破壊されたのだ
けたたましくサイレン音が鳴り、警備に当たるエイリアン兵が砂煙の中心に銃を向ける

「侵入者を排除しろ、総員一斉に撃てっ...!?」

...が、時既に遅く
赤紫の霧に包まれた漆黒の刃が彼等を意図も簡単に切り裂く

「「道を急ぐのでな...侵略者である以上、覚悟はしているだろう?」

赤紫に輝く結晶をまといアクドウマルを振るいながらシュリョーンが走り出す
そのマスクや瞳は普段以上に赤く輝き、既に暴走状態に入っている事を示している
本来であれば変身は解除されるはずだが、それとは逆に噴出す霧が
シュリョーンのオーラを何か別の者へと変貌させ始めている

「シュリョーンだ!総員、奴を撃ち殺せ!!」

先程と同じ姿をしたエイリアン兵が無数に出現しシュリョーンに夥しい銃弾を浴びせるが
それは全てアクドウマルに弾かれ、時に避けられ、挙句打ち返される

そのスピード、反応..何もかもが今までとは違うレベルに達している
既にその動きはかつてのシュリョーンではない、完全なる融合が始まっている

「「無駄な抵抗は止めろ...と言って、聞く相手なら苦労はないか」」

無限に現れるかのように湧き出た兵士達は一人、また一人と倒され
最後に残った一人が最早バケモノと化したシュリョーンに向けて銃を向けるや否や
シュリョーンに首をつかまれ壁に叩きつけられる

「「...ドクゼンはどこにいる?答えねば...解るな?」」

本来、正気を失い暴走する筈のタイムオーバー状態となったシュリョーンだが
その意思は安定したまま暴走状態を維持している

否、冷静過ぎるそれは最早、「誰かが変貌した」人が変神した存在ではなく
元よりそれその者が「シュリョーン」なのであるかのように、そこに人の気配はない

噴出していた夥しい霧の中から現れたその体は鎧の上に更に鎧を纏ったかのようにオーラが集中し
それがまるで装甲であるかのように機能している

見た目こそ大きな変化はないが、明らかに「別者」それは恐怖の対象
その禍々しいほどのオーラに押された兵士の首に、鋭い刃が突き立てられている

「ひっ..ドッドッ..ドクゼン..さっ様は..この奥の管制室に..グギャッ」

最後まで聞く必要はないと判断されたかシュリョーンの拳が腹にめり込むと
先ほどまでの喧騒が嘘かのように静まり返った船内がそこにはあった
目的地は...管制室

「「時間が無い...急がねば..」」

普段よりも格段に重く鈍い足音を立てて、シュリョーンが先を急ぐ
しかし長い戦いのダメージは彼を覆い隠す赤紫の霧が覆い隠してしまっている
その体は音に反して重さから開放されたように足が跳ね
まるで瞬間的に移動しているかのように船内を進んで行く。

「「人、有らざるが悪の姿か...貴様を倒すには最適な姿だ。待っていろドクゼン!」」

2つの意志が混ざり合う感覚を振り切るように、シュリョーンがまた走り出す
一瞬でも気を許せばその意志の先にある異形に飲み込まれそうになるが
今のシュリョーンは桃源と葉子の意志により、それを抑え戦い続けている。

そう思っている...だが繋がれた筈の手はいつの間にか一つに、同じ存在になっている
それが進化なのかは解らない、だが、その先にある力がなければこの先に勝利はない。

ライ・ドゥーム船内を駆ける姿、長く続く廊下を壁伝いに進む異形。
最早その姿はシュリョーンと呼ばれた悪道の化身ではなく
同じ姿でありながら、別の気配が漂う魔神というべき存在となっている

「「変わり続けている、もう戻れぬが...この戦いに勝つ事は出来るだろう」」

全てのバランスが異常、しかしその歪んだ線を上手く繋ぎ合わせ
シュリョーンは新たな姿へと変貌を始めている

体を形取る桃源と、精神を形取る葉子の存在その二つが過去最大級に混ざり合い
今、曖昧なまま、混ざり合ったそれは別の何かへと、次のステップを登っているのだ

「「今はこの変貌に頼るしか無い...急がねば、これも意地には限界がある」」

そう呟くと、鈍く金属の重なる音を響かせ
オーラの色が変わり体を守るように覆う、そしてその力でシュリョーンは走り始める
その目には既に<管制室>の文字が写っている

最早、勝てるか?という疑問は無い
暴走状態をも超えたシュリョーン=桃源の脳内には葉子を消さず
自身も死ぬ事は無く、ドクゼンという障害を倒すという欲望か衝動に近い感情だけが浮かび上がっている

その勢いたるや、かつて倒して来た異形と何ら変わりは無く
管制室を警護するエイリアン兵が驚きを表情を見せる間、その瞬間に打ち倒され
振り上げた手はそのまま管制室のドアを軽々と打ち砕く

立ち上る爆炎の向こう、そこには求めていた存在、見慣れた顔の軍服の男が立っている
全ての根源にして、狡猾なる支配者「ドクゼン」の姿が映る

「良くぞここまで、実に悪らしい雰囲気になっているね..そう...シュリョーンだったか」

目前に立つ不快な雰囲気を持つ異形、それこそがドクゼン
以前打ち砕いたはずの体は既に完全に元に戻り、平然とシュリョーンを出迎える

「「全く元通りとは...逞しい生命力だ」」

表情なき顔が、ニヤリを笑ったように見える
シュリョーンを見たドクゼンが浮かべたその表情は
新しい玩具を手に入れた子供のような、だが、反面で無邪気さ故の狂気を感じさせる
亜空という力、強すぎるシュリョーンの力がそれをぶつける相手を見つけたことで表に現れ始めている。

「貴様も随分とまぁ...我々に近づいたようだねぇ」

シュリョーンがアクドウマルを構えると、体を包むオーラが赤く色を変え鋭く伸びる
その姿はシュリョーンでありシュリョーンではない
力を込め構えた体中から絶え間なく赤紫の霧が発生し、その周囲を覆い全てが目前の敵に向かっている

「「覚悟は出来ているな?」」

赤紫の霧を引き裂き、シュリョーンの刃がドクゼンへと一直線に跳ねる
鮮やかな光の先に見えるその未来は希望か破滅か...それら共違う何かか
この戦いの先に、全ての終わりが見えている。

今、金色の足が硬質な床を叩き
刃がその道筋に火花を散らす。その生命燃やす時、それが”今”
最早戻れぬその道は彼を何処へと導くのか

「「これが...これで最後だっ!!」」

張り詰めた空気を切り裂き、伸びた切っ先が虚空を貫きオーラを切り裂く激音が響く
我先にと目前の異形へ伸び進むその姿、正に悪。この世を切り裂く悪の姿がそこにある。

正しき道は行けぬ者、しかし今、未来を守る使命を帯びる者。
ただ一刻、求められた声に応じた悪の、最後の戦いの幕が落とされた。


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-第12話「悪戦」 ・終、次回、最終回へ続く。
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