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空を貫く漆黒の柱
それはあまりに大きく、圧倒的な存在であることは言うまでもない。

様々な機械が蠢くそれは、まるで螺旋を覆い隠した硝子の塔
その先にあるのは、地球を狙う「友好的な侵略者」の本拠地というべき
過去最大級の円盤型の宇宙船、それが無数の黒いラインの全てが重なる地点
即ち日本上空の一点にまるで侵略の第一歩と言わんばかりにその姿を表している

柱や鳥籠のラインと同じく通常はその巨大な影はヒーポクリシーの技術により
ステルス状態となって隠れているが、日本の軌道エレベーターのシステムが壊されたことで
日本側を基点として伸びる鳥籠の柱は姿が見えるようになっている
それはまるで地球を覆い隠すように、膨大な数の巨大な柱が空を走っている

「...で、奴らはタワーを支配したようだが。そろそろ此処へ来るという事かな?」

分り易いほどに「独裁者」を絵に書いたように巨大な玉座に偉そうにもたれ掛かるドクゼンが
部下のエイリアンの一人に軽く声をかけると「ハイ」と機械的な声が帰ってくる。

まるで興味はないとでも言うかのように、気怠い動きで手を上げる。
形だけの部下への労いといったところだろうか

「たったの3人...4人になったのだったか?まぁどうでもいいが、そんな少数で何が出来るというのかね...」

確かにその力は予想外に高かった、それは紛れもない事実である
しかし一人が強いからと言って結局「多対少」ではその力は埋もれるばかり
劇的な力で起きる一騎当千の活躍も永遠とは続かないのは宇宙でも常識であり
ドクゼンにとってシュリョーン達は問題の中に含まれてはいない

「まぁ、消しておいたほうが楽ではあるだろうけど...スノッブ部隊を出せるだけ送り込んでおいてくれるかな?」

伸ばされたままの手が軽く何かを払いのけるような動きを見せる
それは案に「奴らを始末しろ」と言う指令であることは間違いない

『了解、現状活動可能なスノッブ及びスパイダースノッブタイプ、機動兵器群、配備開始』

映し出さ有れる画面に無数に広がっていた赤い点が一点に集中し始める
目標点は日本周辺の鳥籠のライン
軌道エレベーターの到達地点を狙うかのように数十...数百、それ以上の数が並び
一点が真っ赤に染まる、それは極端なほどの対策だが、
現状攻撃的な驚異は彼等だけである以上当たり前とも言える行動かもしれない

「彼ら、力と動きの予想外さだけは本当に驚異的だからね。予測できない存在には徹底的な攻撃...基本だね」

ドクゼンの機械的な顔が笑ったように見える
無機質な存在である筈のそれは、言葉とその性格のせいか妙に人間的に見える
だからこそ、人間の心理を理解し「友好的に」回り道をしても確実な「支配」を狙った
そう考えれば今までの動きも理解できる部分はあるのかも知れない

「さぁ、さっさと倒しておくれよ僕の駒達」

無数の「駒」が創り上げる圧倒という解りやすいタクティクス
赤く染まった画面の上をなぞるそれは、まるで子供が夢中になってゲームに興じるように
実に楽しそうに、そして当たり前に勝てるという余裕を持つ故の緊迫感の無さが漂っている

彼の誤算、それはまさにその「緩み」
長い年月が創り上げた無意識化の安心感は、彼を次第に蝕んでゆく
悪という名の病巣、それは思っているよりもずっと恐ろしく鋭い。

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軌道エレベーターを降りた先
そこに待っていたのは、安心感を与えてくれる二人の姿だった。

桃源が足を降ろすと、まるで待ちくたびれたとでも言いたそうに歩み寄る二人
その周囲はまるで何か爆弾でも爆発したかのようにそこら中に煙が上がっている

「おう、お二人さん!地球は青かったよ...ってこれから二人も行くんだけどさ」

「いや、そんな事はどうでもいい...で、どうなんだ状況は」

桃源の悪ふざけを軽く流しメイナーがエレベーター内部へと入り込む
大きく開いた扉を潜ると、アンチヴィランが妙な姿勢で座るというよりは括りつけられている
これを見るだけでも「無事に掌握した」と判断するには十分だと言えるだろう

「おっ..なんじゃ?何やら面白い事になっておるなぁ」

イツワもメイナーに続きエレベーター内部に入ると
やはりアンチヴィランの姿が目に入る、彼女が見てもやはり妙な体勢らしい

「皆酷いな〜..でも、まぁもう少しの辛抱か、桃源、早く上に戻ろう!
なんというか...いくら生身の体じゃなくても、感覚の中にある記憶が辛いって言ってる気がする」

アンチヴィランの体には人間のような感覚はない
故に異様な姿勢で変形しても問題なく起動する事が出来る

それは利点であると同時に、アンチヴィランにとって「人でなくなったこと」を実感させる
しかし、人であった頃の感覚が脳にはあるため
感じるはずのない感覚が、どこかで作用している違和感も覚えて気分が悪い

「大丈夫、もう上昇準備に入ってるよ。もうちょっとの辛抱だからな」

最後にエレベーターの中に戻ってきた桃源がアンチヴィランの頭に手を置く
何か懐かしい感触、安心感に似ているのだろうか
忘れた感覚が、頭の上にだけ生きているようで、感じていた不安のような物は消えていた

「おおっ、そうだ首領よ、これを預っている。何だか知らんが大首領からの贈り物だ、大事にしろよ。」

アンチヴィランから離れ席につこうとした桃源に、メイナーが薔薇の花を差し出す
花弁部分だけのそれは生々しさを感じさせるが明らかに作り物であり
同時のこの世のものではない事を明確にするかのように、深く暗い黒色をしている

「これは...ありがとう。レディーから花を貰うとはね。もう売約済みなんだけど、俺」

冗談を飛ばしながら、桃源は受け取った薔薇型の結晶を
自身の腕に植え付けられた亜空ブレスのスロットに装着する
するとまるで開花するように薔薇の花が開き亜空ブレスの中へと消えてゆく

その様子を見たイツワとアンチヴィランは、まるで手品を見ている子供のように
一瞬美しく開いた華に喝采をあげる、ちょっとした余興...という訳でもないのだが

「お前も罪作りな男だ、まぁ悪役らしいといえば褒め言葉になるのかも知れないが」

娯楽が思わず笑いながら賛辞を送る
先程までのアキの感情の動きを見るに、彼女は本当に彼の事を
そしてそれと全く同じ感情で彼と共にある葉子も愛している
要は彼女は欲張りなのだ、その事に気がつくと、どうしても何かおかしく笑ってしまう

「なんじゃ、そんなに面白かったのか?ほれ桃源よもう1回やってみせるのだ」

「いやいや、あれ手品じゃないから...お前達これから最後の戦いなんだぞ、解ってる!?」

席についた3人と、括りつけられた一人がなにやら和やかな程に落ち着きを見せる
最早、彼等に「明日を恐れる」そんな弱さは存在しない。

今日死ねども、必ず己の目的を果たす。それが彼ら悪の運命。
それを果たす事は怖い事ではなく、自らの行きた証を刻む当たり前の行動なのだ

「話を逸らしてしまったかな?まぁいい、では皆行くとしよう...これが最後だろ、派手に行こうじゃないか」

娯楽がパンと手を叩くと、皆が一斉に頷き、桃源がエレベーターを上昇させる支持を出す
巨大な軌道エレベーターが果てしない空へ向けて高速で上がり始める

「俺達は死ぬ事はあっても負けない、この戦いの先に敗北という未来はない」

桃源の左腕の亜空ブレスがギラリと光をあげる
そこに宿された新たな力は、彼の時間を最後の時へと進める鍵であり
この戦いを正しき道へと導く道標でもあるかのように、淡く光を放っていた

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娯楽と別れ別行動に入ったアキは、掌握した軌道エレベーターのデータを元に
地球上の各地建造された軌道エレベーター掌握の為の作業を開始していた

「亜空の扉を使い、地上側の制御装置を掌握すれば少なくとも『降りてくる』敵はいなくなる。
勿論逆に『上がる』ことも出来なくなる...」

亜空戦士を全員宇宙に送り込んでしまえば
必然的に下の世界の守りは手薄になってしまう
世界中に「正義の味方」は存在しているが、そのスタンス次第では
下手すると奴らに手を貸す可能性もある、そうなっては今以上に危険だ

そう考えた時、何をすべきか、それは簡単「根源を絶つ」事だ
上から送り込まれてくるエイリアンを降りれないようにしてしまえば
これ以上の敵の出現はなくなる、そして現在、地上に既に潜んでいるエイリアンも
地上から宇宙に上がる事は出来なくなる

即ち、相手側には地上の「報道されない驚異」の情報は得られなくなる
最低でも今以上の驚異は訪れななくなるという訳だ

「後は上で奴らが全てを終わらせれば、目に見える驚異は去る事になる。
残念ながらもう作られてしまった鳥籠を壊す事は...直ぐには出来んだろうがな」

煙立つ荒れ果てた大地に降り立ったアキの目前には
嫌な静けさを放つ巨大な柱が聳えている
掌握していない状態で外からは内部コンピューターへの接触は難しいが
ここだけは彼女の豪快さが大きな武器となる

足が高く振り上げられると、その足は黒い結晶に覆われる
それはまるでシュリョーンの変貌と同じように漆黒が包みこみガラスのように砕け散る様

肥大した足が猛烈な勢いを持って目前の壁に迫ると
激しい雷のような閃光が回し蹴りの容量で振り出された足先を包みこみ炸裂する
極太の柱が遥か上空に届くほど激しい衝撃を受け小刻みに揺れ、轟音が鳴り響く

一瞬の出来事はまるで現世の事象ではないかのように違和感のある激しい力を見せるが
蹴り込まれた一点に残された砕け散った残骸がそれが現実であると証明してくれる

アキの変貌した足が貫いた先、幾重の装甲に守られている筈のタワーの内部コンピューターが
まるで最初からそこに姿を見せていたかのように露出している

「必殺・ボルトハンマー...久しぶりだから加減が効かんな。下手に壊してもまずいし全身変化はやめておくか」

振り下ろされたアキの足は、銀色に黒い機械の鎧をまとったような姿となり
スカートは黒く変色し、下半身だけがまるでシュリョーンと同じ様に異形へと変貌している

パラパラと落ちる黒い結晶が地面に落ち消えるか否か
アキが手に持ったデバイスを軌道エレベーターのシステム内部に接続すると
赤紫の光が柱の無数のラインに流れこんでいく、それはまるで水を吸い上げる樹木のように
本来有り得ぬはずの別物のエネルギーが巨大な柱を犯してゆく

「こんなに巨大で激しい力を秘めた柱が、私の従順な僕になって使われるなんて最高の光景、そう思わないか?」

彼女に肩にいつの間にか乗っていたパンダのような生き物に
興奮したような口調でアキが語りかけると
そのパンダはまるで呆れたような口調で一言「アキ、落ち着け下品だぞ」と言い放ち
次の目的地点へ向けての亜空の扉を開く準備を始める

「...この戦いが終わったらパダナン、お前じゃなくてもっと可愛気のある亜獣を見つける事にするよ」

あまりに冷たい反応に、流石に面白く無かったのか
次への扉が開くまでの少しの空白を、アキはパダナンの耳を掴み軽く持ち上げると
彼女に対して嫌味のような、注意のような、何ともいえない会話を投げかけ続けている

すると流石にウザったくなったのか、パダナンが一瞬で姿を変え
褐色の肌の長身の女性の姿へと変わる、本来の亜空の世界での姿へと一時的に戻ったのだ

「貴方のようなメチャクチャなババァを扱いきれるのは私ぐらいなもんですよ、ねぇアキちゃん」

作業の邪魔とでも言いたげに、掴まれたままの耳から手をはがすと
そのまま首根っこをつかんで持ち上げてしまう
彼女は見た目は人間だが「異様に大きく」そして「手足が人間と違う」
アキをしてもその力は互角か少し勝る程度、彼女もまた異様に強い

「...お前っ今ババァって言ったな、後でお仕置き決定...まっ、一生こき使ってやるから覚悟しろよ」

アキが言い終わるか否か、タイミングよく次への扉が開かれる
アキが先に入り、パダナンがそれに続くと、その背中を押しながら笑顔を浮かべる

亜空間は暗く広い、誰かと会話するなんて事は難しい世界
その退屈から引っ張り出してくれた存在だからこそ、力を貸す
「一生こき使われる」というのも、永遠の怠屈と競べればどうという事はない

「さぁ、次に急ぎましょう...ん?ねぇアキ、私達って死なないから一生ってどこで区切るの?」

閉じかけた亜空の扉の隙間から
解ける事のない謎が少しだけ聞こえる、戦いは今も進んでいるが
永遠の時間を持つ者にとって、その時間はほんの一瞬なのかも知れない

「さぁな、死んだと思った時でいいんじゃないか?それが来ればの話だが」

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軌道エレベーターが地球の少し上成層圏を抜けた宇宙と呼べる場所に上がるまで
それは、本当に短く。ほんの数十分といった時間であった。

今やそこは宇宙の中、鳥籠を形成するラインの中で酸素や重力こそあるが
今までとは違う、別のフィールドである事は間違いない

地上を離れたという距離間隔は時間が短く殆ど無かったが
重力があり空気がある、元より洗脳した人間をここに連れ込むのが目的の場所なのだろう。

不可思議な驚異を多数相手にして来たが、人間向きに作られているというのは何か違和感もある
エイリアンの様々な技術が使われているらしい軌道エレベーターの技術は吸い出したデータを見ても
なんとなく「そうなんだろう」という曖昧な解釈しか桃源には出来なかったが
感じられるのは、嫌な気持ち悪さと無理やり与えられた重力の感覚が与える重みだけ。

「で、この山どうする?全員で片付けちゃう?」

関係ない考えに頭を巡らすまま、辺りを囲んだ見慣れたブサイクなエイリアン達に目をやる
その数は簡単に表現すれば「山」または「景色を覆い隠すほど」、「アホみたいに」も良いかも知れない

スノッブタイプやスパイダースノッブ、それ以外にもソーサーに載った簡易武装のエイリアンまで
最早出来る戦力を総動員したというべき量であるが
広いとは言えあくまで限界のある鳥籠ラインの中では逆に「殺してくれ」とでも言っているようにも見える

「最早やけくそって感じだね、桃源」

アンチヴィランが攻撃を仕掛けてくる異形を穴だらけに打ち抜き
軽く振り払うと呆れ気味に言い放つ

「我が星の問題ながら呆れ返る愚かさじゃわい」

銀色の少女が駆け抜け、走り投げ異形の頭部に突き刺さったクナイを引き抜き
後方に飛び上がると無数のエナジーの結晶の刃で異形を切り裂く

自らの星の犯した過ちを彼女は許す事はないだろう、最早それは同郷の者ではない
目前にあるのは倒すべき愚かな異形

「倒さねば先には進めまい、さっさとお前も変神しろ足を引っ張るな」

軌道エレベーターの構造の不思議に考え立ち止まった桃源に飛びかからんとする異形
それを守るように、メイナーが位置も簡単に飛び込んだ五匹の異形の四肢を砕き頭を撃ち、抜き跳ね飛ばす

あまりにペースを乱さない、と言うより明らかに状況に合わない桃源に
若干の嫌味も込めてメイナーが言い放つ「さっさと変神しろ」...と

「おおっ悪い...葉子さん、お時間ですよ」

並び立った心強い仲間達は、最早戦う意志を隠す事もしない
何故と聞かれれば、それは当たり前のように答えるだろう「邪魔だから」と

命を奪うことが悪ならば、彼らは明確に悪だろう
しかしそれが間接的に地球を守っているとすれば、地上の人々はそれを知った途端
彼らを安っぽい「英雄」に変えるだろう、だがそんな事を望んでいる訳ではない

では、彼らは何を求め戦うか
その答えも当たり前のようにその手の中にある「歪んだ正義は悪が倒す」ただそれだけ

その先にある「静かに寝たい」と言う感情も確かにある、
悪役なんてのはその日暮らしぐらいが丁度いい、静かに眠れれば満足だ
我を通し示す、そして穏やかな眠りに帰る、それが目的だ。

「ずっと見ていたよ、矜持くん。これが最後...全力で行きましょう」

桃源の隣に鮮やかな髪色の女性が現われると
そのまま二人が重なるように黒い影に飲み込まれ一つの影を形成する
それは、いつもよりも深く、そしてその中に激しい赤と紫の禍を含む

それは明らかに違う「変貌」
最後を飾るには鮮やかで、そして何かが消えて行くような淡い闇

「「変神シュリョーン、参る」」

3人の戦士の背後に現れた黒と金の戦士
その出現と同時に戦士達が猛然と周囲を囲う異形達へ攻撃を仕掛ける

多対少
現実的に言えば明らかに不利だろう
しかし後悔するのはどちらか、それは眼に見えている結末だろう

ヒーポクリシーの計算はいつもどこか詰めが甘い、彼等を最後まで「侮っていた」からだろうか
それとも、あくまで「大将自身が決着をつけたい」と思っているからだろうか

「「我が力、今日は制限なしだ」」

答えが前者ならば、その侮りは命取りだろう
後者であったならば...侮らなかった事は素晴らしいかも知れない
だが、予測し切れ無かった事実に結局は後悔する事になるだろう
弱点と初音に克服するためにある、それが例え「命が代償」だとしても。

「「さぁ、これが最後だ」」

シュリョーンが目前のスノッブを真っ二つに切り裂くと目標に向かい道を切り開きながら走り始める
それに続くように仲間達が後に続く
最後の戦い、その火蓋が切って落とされた...誰も知らない宇宙の上で。


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-第11話「鳥籠の地球」 ・終、次回へ続く。
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