エイリアンと言っても、全てが悪い奴か...と言われれば、実はそうでもない 言うまでもなくイツワリーゼンのような共に戦う仲間がいたかと思えば シュリョーン達に助けを求める、そんなエイリアンも存在する。 勿論、戦いになる事の方が多い。...と言うよりほとんどだが その戦いも時に、非常にフザけた戦いである事がある ...星には星の文化がある、それが地球から見れば極めて馬鹿げた事なだけで 実に対する相手は大真面目であることが多いのだが、実に面白く見えたり、狂って見える時もある 「文化が違う」ただ、それだけの事かもしれないが、宇宙は広いと実感させてくれるのだ 「...何、書いてるの?」 パソコンの画面に向かう桃源の顔の真横に 突然、葉子の顔が寄せられ、画面の内容を目で追いかける 「いや、ちょっとレポートを...って葉子かっ?」 彼女はいつも神出鬼没、呼び出すこともあるが その殆どは彼女の自由な意志で出現しており 亜空力次第では出現時間もある程度はコントロール出来る 「たまにはシャバの空気が吸いとうございましてな、後ねぇ...お腹がすいているぞ私は」 容姿端麗、人柄もよく、日本受けする外国美人 そんな葉子だが、彼女は幼くして親をなくしているためか ただ単にセンスが無いからか料理の腕はからっきしである 「ねぇねぇお父さんさー...そろそろお昼ごはんにしないかえー」 亜空間に暮らす葉子は、向こうの世界では食事を取らない ...と言っても、それらしい行動はするのだが、味気ない物が多いらしく 外の世界に出てくると、いつも何かしら「食事」に絡んで行動することが多い 元から非常に良く食べるのだが、亜空人間と化してからはそれが更に増長し 最早、「これで稼げる」レベルに大食漢となっている 「あんまり食べ過ぎると太るよ〜それはそれで可愛いだろうけどさぁ」 「バカいうんじゃありませんよ!私の胃は亜空間だよ!」 「...なんか聞いたことある、その決めゼリフのようなもの」 ”彼女はずっとここにいた” そんな空気..気配すら、この部屋には漂っている 当たり前が当たり前ではなくなってしまった二人にとっては 普通の会話ですらも、何か特別な感覚を覚えさせるが それを相変わらず当たり前の物としてキャッチボールのように投げ合う 彼等は変わらない、人間でない事など最初から壁にはならなかった 「んでさ、亜空間凄いんだよ〜なんかテレビで見たヒーローとかいるのね普通に」 「ええっマジで!?...あのあれ?手からミサイル連射するのとか、ゴリラと戦う奴とか!?」 用意された無数の料理の中から、葉子が真っ先に山のように盛られた麺を選ぶ 葉子は外国生まれだからか、ただ単に味が好きなのか 桃源の作るを麺類の料理を見ると人が変わる...何であっても変わっている気もするが そのまま猛烈な勢いで食べ始め、そして、その勢いで会話も続く 見た目は冷淡さすら感じさせる鋭い瞳が印象的だが その言動は実に幼いというか豪快というべきか、元来持つ元気さが滲み出ているようだ 「ちゃうちゃう、あの仮○ライダーとかウル○ラマンとか有名な方だって」 「...!?今なんかピー音聞こえなかった?」 「いんや?あちきは食べるのに夢中でしたからのぉ」 桃源が葉子のために料理を作るその後ろで聞こえた声は テレビでよく見る”自主規制後”に処理済みで聞こえたのだが どうも勘違いだったらしい、相変わらず葉子は更に盛られた料理に向かい猛威を振るっている その光景は、まるで嵐。 しかし、皿から一滴のスープもこぼさず、口の周りも綺麗なまま 開いた皿は最低限の汚れだけを残す...無駄がなく綺麗である 「...あっ、珈琲切れてた。食べ終わったら買いに行こう」 「え〜無いの〜...いや、待って、今なんと?」 「食べ終わったら、買・い・に・行・こ・う...と申しました」 相変わらず食事の手は一切止めてはいないが 桃源の方を見た葉子の瞳は随分とキラキラと輝いている 様々な物がある亜空間だが、彼女が最もしたい事である 「桃源と何処かに出かける」「桃源と遊ぶ」等々の事は 桃源自身が亜空間にいられないため、どう頑張っても叶える事が出来ない おかげで、現世にいる間はちょっとした事でも彼の後をついてまわる癖がついてしまっている程である 「そいつぁ素晴らしいね、まさに夢のようだ...家のお父さんよく解ってるよ、嫁のツボを!タコツボ!」 「タコなの!?まぁ良いけど、食べ終わったら皿持ってくるんだよ」 「アイサー!...で、矜持くんは食べない系?」 元気よく右手を振り上げた葉子の長い髪が揺れ 目前の料理は殆ど食べ尽くされて初めて、一味足りないことに気がつくと みるみる内に表情が沈み、食事の手も極端に遅くなる 「いや、まて早とちりだ!まだ一皿あるんよ、葉子が好きな奴が...ホントに、感情豊かになったねぇ」 その様子を予期していたのかそうでもないのか 湯気の上がる大きな皿を運びながら、開いた手を葉子の頭に乗せる。 その手を掴んだ彼女の目前に、懐かしい思い出が形になって湯気を上げていた 「あっ...これは確か、私が初めてこの家に着た時の...」 「そうそう、何となく作りたくなった...しかし、よく食べたねぇ」 ポフポフと頭の上で手が上下し、彼女の髪を少しだけ乱すと 桃源は向かいの席に着き、そのまま伸ばされた手がグラスを掴み掲げる その姿を見て、葉子も持っていたグラスを掲げると、軽くぶつけ合う 「まぁ、たまにはゆっくりしないと...乾杯だ。で、味はどうかね?」 「ん〜...おおっ前より美味しい、でも懐かしい気がする」 葉子にとってそれは、桃源と初めて会った時に食べさせて貰った食事の思い出 彼女にとって唯一の家族である桃源が、”夫であり親でもある”と用意してくれた 彼女にとっては人生の中でもかなり大きな割合を占める思い出の味 食べる内に何か懐かしいような、切ないような気がして 葉子の目には少し涙が浮かんでいた 「...おっ、食べて泣いてくれるなんて、作り甲斐があるねぇ」 「だって...だって、これは反則だと思うなぁ」 「お父さんは嬉しいぞ〜...でもまぁ、元気そうで何よりだ」 葉子の表情はコロコロ変わる、まるで幼い少女のように さっきまで沈んでいたその表情は既に満面の笑みに変わり 相変わらず元気...と言うよりは豪快なレベルで食事を楽しんでいる 「で、こっちも葉子も積もる話はあるだろうから、食べながら話そうか」 「あっ、そうだね!えっとね...亜空の獣ちゃんが最近夏毛に変わって...」 少し熱くなり始めた昼下がりの一幕 会話が弾み、二人の食事が最高潮に盛り上がりを見せるころ また違う場所では、この慌ただしさとは違う しかしながら、悪意の薄い...ある意味で愉快な事件が起きていた事を 彼等はもう少しだけ後になって知る事になる... --- 「...で、お前達は何をしに地球に来たというのだ、このモヤシ宇宙人め」 思わず変神してしまった、と言うべきか 変貌した体は鎧に包まれ、手に持たれた二丁の銃は 何の迷いも無く目前の4匹のエイリアンに向いている 「おっおい..ちょ、ちょっっと!待って欲しい我々は友好的なカフィー星人さ!!」 自分で”友好的な”等と言う奴は大体が友好的ではない、99%は下衆野郎 その考えは世間的にも間違っていないだろう、珍しい事だ だが、武器も持たず、細く長い体を持ちヘラヘラとした彼らはどうにも緩い 今までの相手、ヒーポクリシー星人とはどうも雰囲気からして違うようだ 「...随分と興味深い...が、信用に値する行為を示して欲しい所だな」 軽快な音を立てて銃から弾丸を放つためのアクションが進む 怪しい動きを見せようものなら一撃で仕留める用意はある 「イヤー!!ちょっと待って!!マジ、マジ撃たないでって、ちょっと地球名物を頂きに来ただけよ!!」 目前のエイリアン、カフィー星人は体を震わせ裏返った声で助けを求める 雰囲気だけで言えばこれは明らかに「敵ではない類」 人間であればこのまま見過ごすところだが、その姿は人間の世界には適さない 言うならば随分グロテスクな、可愛げこそあるが...長くは見ていたくないタイプだ 「ほう、姿も変えずに大胆不敵な...その行動を明確に証明できる証拠は?」 そう言いながらも4匹のエイリアンの内一番前にいた1匹の額には銃口が張り付き そのすぐ後ろにいる3匹にも直ぐ様に弾丸を打ち込めるようもう片方の手はしっかりと銃を構えている 最早エイリアンは慣れた相手であり、対処も戦い方も確立している以上 偶然にもこの男の前に現れてしまった、そんな彼等は相手が悪かったとしか言いようがない 「ヒッ!?ありましぇん!!けど見逃して欲しいですッ!!」 異様なまでにコミカルな動き、悪ふざけとしか思えない口調 全てがおちょくっているかの様に見えるが、どうも至って真面目らしい ここで始末して、残りは研究材料にしても良いのだが、流石にそれも可哀想か..とは思う 「...んお?メイナー?何をしておるのかの?」 緊迫しているのかそうでもないのか分からない空気の少し下 背の低い影がひょっこり顔を見せ、メイナーに語りかけたのはイツワリーゼンだった 近くにメイナー気配を感じ、何事かと来たようだがその状況の彼女は興味を示したようだ 「んなっ!?これはこれはお姫様...っと、貴様等今逃げようとしたな?」 突然の登場に流石のメイナーも驚きの表情を見せる その隙をついてカフィー星人がその手から逃れようとしたが残念ながら未遂に終わる 「アッ...アババ..おっ、お助けくだせぇお嬢さん」 一瞬の怒りを浴びて、完全に腰が抜けているカフィー先人が最後の希望とばかりに 現れたイツワに助けを求めると、状況をつかめないイツワがカフィー星人に近づいてゆく 軽い足取りはまるで宙に浮いているかのようだが、その実、気配は一切感じさせない 「なるほどの、要するに此奴等が現れて随分怪しいと言うわけじゃ...じゃろう?」 「そういう訳です...何かお考えがあるようですが?」 姿勢は一つも崩さずにメイナーがイツワの問に答えると カフィー星人の周囲をぐるぐると回って観察していたイツワが足を止めてひとつの提案を持ちかける 「このタイプの宇宙人は我が星の者ではない、ほっといても良さそうじゃが...監視するのはどうかの?」 「監視...なるほど、帰るまで我々が側に付き添うと?」 「我々?私だけでも良いが...付きおうてくれるのか?嬉しいのう!」 最早、中を向けた開いてを置いてけぼりにする勢いで二人の会話が加速する 恐ろしいことに此の二人に一瞬の隙もなく 四人もの大人数であるはずのカフィー星人は子供以下の非力な存在でしか無い 彼らに「NO」の答えは当然のようになく、地獄の観光旅行は始まったのであった。 --- 空から来る者、そんな物は俺はお断りだ。 たとえ美少女であっても、既に家には美少女がいるし 猫だの犬だのなんてのは、画像で見るぐらいが一番良い。 エイリアンなんてのは論外だ、論外すぎて相手の話を聞く前に切ってしまいそうになる 「...まぁ、相手は切って欲しくて降りてきてる節もあるけどさ、ドMかしらね〜 ドM〜ドマゾ〜アンタの〇〇をお晒しってな〜♪」 最近のエイリアン増加に伴い、事務所に備え付けたエイリアン警報機 それがけたたましく「ウォォォォン」と暴走でもしたかのように鳴ったのは五分前 葉子が歩いて五分の距離のスーパーに出かけた間だ この甘美すぎる時間に、下品な警報が割って入ったのである 考えなくとも、その男の怒りは怒髪天である 「ここら辺かな?お〜お〜落ちて来よるわ〜...タイムリミットは10分、オーケー?」 『了解-タイムカウント開始。亜空力空間..開放。武器転送開始。』 桃源の腕に埋め込まれた亜空ブレスから機械的な女性の声が響く 本来使わなくていいはずのシステム「ナビゲーター」 2つの魂を持つことで、ある意味で完全体である「シュリョーン」には搭載されていない物 戦闘補助システムであり、生身で戦うためには不可欠なシステムである 『武器転送完了。亜空サムライブレイド[アクドウマル]-亜空ブラスター』 声にあわせ、手を軽く前に出すと、その手の中に一本の刀と小銃が転送される その場面はまるで絵に書いたような違和感、現実ではない感触 黒い闇が割れ、その中から物体が出現する光景は、美しくもあり気持ちが悪い 「亜空力の反応を狙うなら、亜空力のバランスを調整すれば出現位置は制限出来る 俺たちを踊らせているつもりが、自分対達が良いように遊ばれているとは気がつくまい。ねぇキカイコちゃん」 『...No.77、キカイコでの登録はございません。』 「ツレないのねぇ、まぁそういう実直なところ好きだけどぉ..で、フィールドは学校か」 亜空の扉を開き通り抜けた先 休日故に人のいない学校...小学校だろうか 辺に高い建物もなく、時間的にも人はいないだろうが この時間の戦いで最も気を付けるべきは「人に見つからないこと」 エイリアンの存在こそヒーポクリシー星人の体の良い侵略行為により随分とメジャーに成ったが 相変わらず奴等も、そして自分たちも「異端」であることに代わりはない あまり話題になっては面倒なのだ...が、それは建前 『カウントリミット9分、タイプ[スノッブ]2機着陸確認』 広い校庭のど真ん中に、最早見慣れたドームのついたロボットが降りてくる 4本の触手のような腕と、クリアードームの奥にいる「教科書に書いてあるような外見のエイリアン」 末端の兵士が乗っているらしいが、善良かつ友好的なエイリアンが使うものには一切見えない 「はいはい。葉子が帰ってくるまでに〜♪奴等の脳髄ぶちまけようぜ〜♪」 桃源がなにやら良く分からない歌を即興で作り、歌いながら 軽いステップで、目前の一番生理的に嫌なタイプの大きさの巨大ロボットに 何の躊躇もなく銃口を向け、まるで狙いも定めずに幾度もトリガーを引き放つ 「知ってるか、人間が一番嫌悪感を感じるのは10メートル位の自分と同じ存在だって。 何が言いたいかって言えば、お前達の外見はちょっと気持ち悪すぎるって事。」 ガシュン!っとエネルギーが収束し弾丸に宿ると音の速さで放たれる そのアクションはまるで遊んで玩具の銃を乱射するかのように その一撃一撃の衝撃ではねた腕がそのままトリガーを引いて暴れまわる 『初弾命中。命中初弾のみ。』 一撃が命中、直撃を受けたスノッブタイプは仰け反るように倒れるが 後ろに迫るもう1機が桃源の存在に気がつき触手を伸ばしてくる 「弾丸ってのはさぁ〜♪無理矢理にでも当てればいいんだってさ。キカイコちゃん後おまかせ〜」 『了解。亜空の扉、開放。弾丸誘導...目標、スノッブ×2』 No.77の音声が終わるか否か、周囲に張り巡らされた無数の亜空の扉が開き あらぬ方向へ飛んだ弾丸が吸い込まれると別の扉から勢い良く飛び出す その弾丸が向かう先は、言うまでもなく伸びる触手、そしてその本体 「アッ...イィィギャァァァァャャャャヤヤ!!?」 1発、2発、幾つ放ったろうか、数十発はあるであろう弾丸が 最初に聞こえた叫びのようなものはエネルギーの雨にかき消され ダス、ダスッ..と鋼鉄の雨が終わることなくスノッブタイプへと降り注ぐ 触手がちぎれ飛び、機械の体は貫かれ、小さな爆発と僅かな呻きが木霊すると グチャグチャと醜い音を立てて、機械然としている割には嫌な汁気の多い「何か」が出来上がってゆく 「刀いらなかったか?全然興奮しないわねぇ〜...ん〜で、キカイコちゃん今何分目?」 『No.77です。タイムリミット残り5分。』 桃源が彼方を投げ捨てると、地面に落ちる前に亜空間が開き、飲み込まれる ブラスターは手に持たれたままだが、エネルギー残量は既に少ない 既に泡状になり消滅を初めているエイリアンを見ると、残された機械パーツを 亜空間の餌にするために亜空間を開く...が、No.77が異常を探知し警告を示す 『エイリアン消滅確認1...警告。エイリアン2、生命反応微弱ながらアリ』 No.77の警告に怯えたかのようにスノッブの残骸から 人間よりも明らかに小さいエイリアンが脱出用であろうソーサーに乗り飛び出し 猛スピードであらぬ方向へとジェット噴射で駆け抜けてゆく 「あーしまったー...なんてな。そうでないとな、デイトナ〜♪ さぁさ素直に故郷に帰りなさい...あぁ、そっか帰れないか、これから体なくなるからね〜」 相変わらず意味の分からない歌を歌いながら 飛び去るエイリアンに残されたエネルギーを充填しブラスターの弾丸に乗せ放つ まばゆい光弾は残されたすべてのエネルギーを纏って一直線に飛びエイリアンに命中する ...が、満身創痍故の意地か根性か、どうにもその足が止まる様子はない 最早機械だけが勝手に飛んでいるのかもしれないが エイリアンの泡になりかけた死体が近隣の家に落ちようものならトラウマどころの話ではない 『直撃ですが、致命傷に至らず。この場合狙うべきは頭では?ヘタクソ!』 「...うるさいキカイコ!直撃はしたじゃない、奴の生命力が異常なだけじゃない!」 自分の左腕と会話していると人間というのも随分面白いが それが追っているのが小さいエイリアンと言うのもまたなにか滑稽である。 よく考えるとエイリアンって何だよ、映画化よ...と、桃源はふと思ったが そんな言葉の意味を考える暇もなく、小刻みに揺れ、震えながら街の方へと飛んで行ったエイリアンを 桃源は駆け足で追い駆けてゆくのであった 『亜空の扉の使用をオススメします、残りリミット3分』 人の思考と言うのは、大体便利な物から忘れる 亜空の扉を使えばすぐ追いつくのだが、その存在を忘れて走っているのである --- ⇒後半へ |
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