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麗らかな初夏の空、梅雨も開けるか開けないか
過ごしやすくはあるのだが、流石に少々暑くなってきている
夏が来れば、今年も最早後半戦...意識をすればするほど時間は早く過ぎてゆく

「で、貴様等はわざわざ地球まで何を食べに来たのか、明確かつ簡潔に答えよ、制限時間20秒」

不思議な一行、その数6名
娯楽とイツワ、そしてコートを着込んだ妙に背の高い4人

イツワは幻惑オーラの効果で一般人には美麗なお嬢さんに見えているが
そんな物はないカフィー星人達はそのヒョロ長い体を着込むことで隠している
明らかに怪しいが、よく考えれば彼らがどうなろうと知った事ではない、適当である

「20!?ちょいと短すぎやしませんか!?」

黄色い体のエイリアンが明らかに青ざめているのが解る
その視線から送られているのは明確な殺気。
地球人は大変怖い生物である、彼らは今、正にそれを学んでいる
勿論、最悪の形で。学んだ事は下手すると命と共に忘却の彼方に消えそうだ

「知ってるか?地球に暮らす人間は人間以外の死に興味を持たないことが多い...試してみるか?」

至って自然に、珍しく軽い笑顔すら浮かべ、娯楽が語りかけるる言葉は
最早、何か意味の分からない呪文のように聞こえ、若干視界が歪んだような気がした
まさか単なる観光でこんな事になるとは、無法地帯の惑星とは聞いていなかった
カフィー星人なりの常識が崩れていく、いささかおかしい常識ではあるが。

「...して、何を求めて地球に来たのかの?」

その様子を気にする事もなく、4人の怪しげなコート男にイツワが問いかける
彼女にすらも恐れを感じているのか、言葉が飛んでくる度に”ビクッ”と驚きの動きを見せる
相変わらず声も裏返り、本来どんな声と性格なのかは読めない、おかげで信用されない、悪循環である

「ふぁい!?えっえええっとででですねぇぇぇ、その地球人は液体でエネルギーを得るというのでですななな」

最早、焦りと緊張と死への恐怖で一回の発言に同じ単語が無数に出現する
何を言っているのか解らないレベルだが、大体の目的は把握出来た

その目的こそ至って簡単、観光と彼らが興味深いという「飲料」を与えればいいらしい
やろうと思えば5分で済む話だ、面倒事はすぐ終えたい、今帰りたい気もしている

「帰りましょうか姫様、そこで缶ジュースでも買って」

思わず提案こそしてみるが、それで満足するようにも思えないのは解っている
帰った振りをして戻られても却って困るのもまた事実、面倒極まりない
だが、なぜだろうか妙に「面白い」そして「興味を引いている」、予想外だ

「そうもいかんじゃろうて、きっと目的の物があるはずじゃ、聞いてみようぞ」

するとイツワが、怯え続けている4人のカフィー星人にトコトコと歩み寄り
なにやら聞いたことも無いような言語で会話をしている

こういう所を見ると彼女も地球人でない事が浮き彫りになる
...いや、よく考えると姿も地球人とはかけ離れているのだが

「そういえば、奴等日本語で話しているのは手前の奴一人だけだな...何か有るのか?」

思考の中、一瞬目が合った一人を鋭く睨みつけると相変わらず怯えている
当たり前といえば当たり前か、数分前までこの腕で殺されかけていたのだ

...考えが変われば今、瞬間的に奴等を単なる肉塊に変えることも出来る
だが、それをするほど人の話を聞く耳を持ち合わせていないわけではない
まぁ、奴等は人ではないだが。善意などではなく後味が悪いという理由で話を聞いている訳だ

「むむっ解ったかもしれぬ!桃源の家で飲んだあの黒い...何と言ったか...おお、そうじゃ」

黒い液体、飲料、答えは簡単...と思ったが案外沢山ある
○プシか、コ○・コー○か...案外、黒酢とか?バルサミコ酢かもしれない
大穴でイカスミという線も捨てがたいが、いかんせん難しい

「何を考えておる?答えは簡単コー...おごっ」

解っている、解っているさ、答えは簡単それは豆から作られる
しかし答えを言ってしまえばこんな絶好の「面白い機会」を逃す事になる

いつの間にかその頭に浮かんでいるのは「興味を満たす」事に飢えた獣のような影
そして自分の抑えきれぬ欲望にどこか怯えている自分を見てウットリとするもう一人の自分の姿
もう、よく分からないが、何が言いたいかといえば「答えは禁句」だ

「ここで終わってはつまらないでしょうお姫様、よろしおすな?」

「おっ...おす?まぁ娯楽が言うなら私はそれに付き合うぞなもし!」

そういったイツワの顔は今までになく何処か無邪気なようでいて邪悪さを宿した
ヒーポクリシー星人の血を感じさせる表情であった
ただ娯楽の方もそれに関して負けていない、要は此の二人、天性のサディストである

この状況が楽しくて仕方がない、実に悪役としては合格点、世間的には最悪な部類の
それはもう、出来る事なら関わりたくない、命が幾つあっても足りない組み合わせなのだ

「あの〜...お二方...」

あまりにも怪しげなオーラを出し、不敵な笑い声を上げる二人に
明らかな不安感を覚えたカフィー星人一行が声をかけるが特に聞く耳は持ってもらえない
彼らは良い鴨でしかない、しかもその鴨が4匹揃いも揃ってネギ付きの美味しく頂かれる材料でしか無い

「さぁ、行こうかー...色々調べないとな黒い飲料」

「そうじゃのー調べない事には始まらんからのーインリョー」

愉快に歩き出す娯楽と、それに伴いカフィー星人を後から押し進めるイツワ
その動きに無駄はなく、カフィー星人は地面を擦るように前えと進んでいく
嫌な予感しかしない、「むしろ僕たちが帰りたくなってきた」そう言いたいが言おうものなら蜂の巣だろう

「...あっ、あのそれ語尾ですか、飲料」

取り敢えず出来ることは現場の雰囲気に合わせること
それはある意味地球に流儀、文化に繋がる部分もある
カフィー星人は意図せずそれを学んだのであった

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「...あっ、お久しぶり!」

風がオレンジ色の髪の毛を揺らした先
機械のような風貌の、しかし可愛らしい少女と
よく知った顔の青年と、全く知らない4人のエイリアンが何やら楽しそうにしている

「おや...桃源の嫁が何故ここに?」

「ちょいと里帰りってとこかな、今は珈琲の豆を買いに来たのだけれど...」

彼女には気配と言うものがない、と言うより存在感はあるのだが
一瞬目をそらせばその存在は消え、全てを忘れてしまいそうになる
確か前に聞いた...現世にいられる対価に彼女は「人の記憶に残らない」と

「おっお主は...えっと...見たことはあるような気がするのじゃが...」

「忘れちゃったよね?私は桃源矜持君の奥さん、葉子っていうんだよイツワちゃん」

急に名を呼ばれた事にも驚いたが、イツワは葉子の姿に
何故か安心感を覚えて、先程の邪悪なものとは違う笑顔を浮かべていた

間違いなく覚えている、忘れるはずもない強烈な記憶として残っている。
大きなエネルギーのような、暖かい何かを感じるが、それが何かは良く解らない
だが解る、彼女が「葉子」と言う存在である事が

「忘れなどするか、また会ったのぉ葉子よ」

「へぇ〜覚えてられるんだね!顔覚えてる?」

「勿論じゃ!桃源には勿体無い美形だと思ったからのぉ」

葉子の制限はあくまで「人間」にとどめられている
地球の人ではないイツワには多少は影響するようだが、どうも完全には効果しないらしい

「あはは、言うねぇ...で、後ろの...黄色い何かは...何ぞ?」

通りの古いビルの1階部分、そこのシャッターを開けた場所に
ドラム缶などを使って簡単につくたれた机と椅子
そして散乱する無数の缶、紙パックもあるだろうか

そしてイスの上にはまるで酔でもしたかのように
何かうわ言のような言霊を吐き出しながらグッタリとした四人のエイリアンが座っている
力なく、最早心ここにあらずと言った感じであろうか

「...おっお助け...」

その内の一人が、室内をのぞき込んだ葉子に助けを求めてを伸ばしてくる
ホラーにも近いその姿に、流石にこういう状況に慣れている葉子も少し声が出てしまう

「うわっ...えー...ちょっとお二人さんあの...なんか黄色い皆さんに何を!?」

「何をって...説明すると長くなるぞ」

「まぁ要はアレじゃ、地球名物を自分達で勝手にバカスカ摂取しまくったんじゃな」

事は約1時間ほど前、結局この4人の風体では人前に出られないと判断した2人は
ちょうど資材を隠すのに借り受けていた古びた店舗の中に彼等を招待し
そこに道中かき集めた様々な飲料を次々と投入し、彼等も次々と飲み干していったのだ

「凄かったのじゃぞ、もう未知なる快楽だーとかエクスタシーだーとか...よく解らんが」

2人が言うには、この宇宙人は地球の飲み物に興味津々
そこで2人が思いつく限り「美味しくない」または「怖くて飲めない」物を与えたらしいのだ
それだけでもなかなか酷い気はするのだが
どうやら本当は求めているものがあったらしい、「黒い飲料」なのだそうだが...

「ふ〜ん、で、このメッコ何?ルート?...少林寺?何で拳法?なんか珍しいのが一杯だね!
...ってそうじゃなくて、目的の物をあげて帰ってもらわないと困るんじゃないかなぁ」

宇宙人がいると言う事実が知れれば、既にヒーポクリシー星人が話題になり
何かと宇宙人には敏感である今の情勢では色々と危険である事は間違いない
この後どうすればいいのか...やはり目的の物に出会わせるしか無いのかもしれない

「あぁそれなら答えは解っている、ちょっと遊んでいただけだ」

「そうじゃ、答えは...おおっ丁度良い、その手に持ってる奴じゃ」

イツワが指さした先、葉子が持っているのは商店街の珈琲店で買った豆である
たしかにこれを淹れれば黒い飲料にはなるが、果たしてそれが正解なのか
...どうにもヒントが少なく、少々不安を覚えていた

「ほんとにこれ、正解?なんか流れを聞いてると違うものなんじゃ...」

大体、こういう展開のセオリーとして「正解として与えた物」が
実は「凶悪化するフラグアイテム」であり、結果として最悪の事態になる
そんなパターンが多い、架空の話でも現実でもよくある事...ましてこんな世界である
なぜだか数年振りに嫌な予感が葉子に募る、こんな事は自分が一回死んだ時以来だ

「...随分色々貰って..グゥフッ..礼を...」

3人がワタワタと変なアクションをしながらどうするか思考を進めていると
カフィー星人の内、日本語をしゃべれる一人がなんとか頭を上げ消えそうな日本語で
何と礼を行ってくるではないか、間違いない、彼等は善良な宇宙人だったのだだろう。

「自分たちの限界を知らずに飲むからだ、半分以上黒くも無かったろうに」

「我々の星は食料が少なくてね...ゴフッ..出されたものは綺麗に平らげる習性が染み付いているのだよ」

そういうとカフィー星人は自分の故郷が食糧危機に陥り
過去に既に消滅した星であること、そして彼等はその生き残りの4人であること
残りの人生を様々な星を回って過ごすと決めたことを情緒たっぷりに語る

「元々平和な星では無かった、愛着も無かったが無くなると寂しいものさ
カフィー星は、豆を煎った飲料その名もそのままカフィーがとても美味しいことで有名でね
地球にはその味に近しいものがあると聞いて、観光がてらによってみたってわけさ」

どうやら、求めていた物というのは失った故郷の味だったらしい
地球と同じ文化が他の星にもあるというのは、驚きと同時に感動を覚えさせてくれるが
それまでの行いに少々良心が痛むのもまた事実

「なるほどな...まぁ、なんだ。おちょくってすまなかったな、答え候補がひとつある用意してやるから待っ..!?」

カフィー星人の娯楽が手を差し出すか否か、爆発音が2階辺りから響いてくる
何かが激突したような激しい衝撃と音、そこに砂埃が天井から落ち
まるで絵に書いたような「ぼろ屋敷」と言った感じで、風情すら感じさせる姿を見せる。

ぐったりとしていたカフィー星人達も何事かとその体を勢い良く跳ね上げるが
状況が飲み込めず辺りをキョロキョロと見回している

「何事!?地球のお祭りかなんかかい!?是非参加したいね!」

「馬鹿を言うな、お祭りでビルを破壊するのは...まぁ2〜3個思い当たるか」

ガラスが割れ、ガチャガチャと何かがその欠片ごと歩いているのが解る
こんな状況で、空から来る物が怪我もなく歩けるハズが無い...人間ならば
要するに、上にいるのは人間じゃないと言う事になる

「またエイリアンか...流石に5人も面倒だ」

やれやれとため息混じりに呟くと、音に驚きイツワと葉子も室内へと入ってくる
その状況は、口では言い表せないほど、何とも言えない違和感に溢れているが
妙に面白く見える、飛び起きた姿勢のままの4匹のコミカルな怪物と
それに呆れ返る青年、そして室内は絵に書いたようなボロ屋敷

「何か面白いねイツワちゃん」

「そうじゃのう、何かこう...いい具合に振り回されてる感があるのう」

ある意味では壮絶な状況ではあるのだが、何処か間の抜けた感覚が漂う室内
上の階で蠢く何かはもはや無視されているが、今も下階に迫っている。

普通であれば恐怖におののくか、驚きのまま立ち尽くすところだろうが
階段を使い今にも降りてくるその招かれざる、楽しい時を破壊するその者は
全く意に介されておらず、既に正体もある程度予測されてしまっている。

降りてきた場所とそこにいた存在が最悪だった。
破滅の使者になれるはずだったそれはまだそれに気がつかずすべてを破壊できると思っている
...相手が弱く、倒すことに出来る都合のいい存在ならばの話だが、まぁ儚い夢に終わるだろう。


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走る走る、駆け抜ける
一応若い部類に入るが、全速力なんて何年ぶりだろうか
体力はある方だが流石に息が上がる

「...う〜..野郎どこ行きやがった」

『エイリアン反応1、近くにいます』

「おっマジか!どれどれ...そこの草群?」

エイリアンの反応を示す赤い点が半透明のエネルギービジョンに映し出される
本当に近く、歩いて数秒。
直ぐそこにある草群から反応は出ていた、場所的にはアンチヴィラン達のいる裏街に近い

「隠れてねーで出ておいで〜、でないと脳みそほじくるぞ〜」

出てくる意思があっても出たくなくなるような呼び掛けに、草群の一つがガサガサと揺れる
底めがけて桃源が、落ちていた石を投げると
それを避けたのか、何か可愛いような気持ち悪いような生き物が現れる

「何事っ!?...しまった、見られたか!」

「うわっ出た..って、これ違うな!?...あぁでも、これもエイリアンだよな?」

飛び出したエイリアンをNo.77が解析する
既に遭遇しているエイリアンの場合、その名称とデータを即座に転送する
このシステム自体はシュリョーンの頭部アーマーにも内蔵されており、影ながら活躍している

『エイリアン反応あり、タイプ[ギーゼン]とエネルギー波一致。』

「へ〜..ええっ!?ギーゼン!?あの何度倒しても死なない...このチンマイのが!?」

『間違いありません、波長、オーラ周波、エイリアンタイプ等完全に一致。』

なにか言いたげな表情でコチラをじっと見つめてくる半透明の怪物
怪物と言ってもサイズが桃源の膝辺りまでしかなく、小さい
しかし口は大きく、鋭い牙がある

「...バカそうな表情だけは、面影があるかも」

「ふざけたことを言うな!貴様...何者だ!」

「いや、俺はお前のこと知ってるっぽいけど...次回が無い、お前もついてこい!来りゃ解るさ」

追っているエイリアンを完全に見失う訳にも行かず
現れたギーゼンらしき何かを抱え上げると、桃源は再び走り始める

「おいこれ、ふざけるな...おのれ!噛み殺してっ...」

『亜空間フィールド発動。残念でしたね。』

大きく口を開いたギーゼンの周囲を赤紫の半透明のフィールドが包み
まるで縛り上げられたかのように動きが取れなくなる

「亜空間フィールド」物質や捉えた不可思議生物を捕らるための亜空力の網のようなもの
目標を傷つけず、それでいて動けないように亜空力でホールドすることが可能となっている

「おのれぇ!!貴様一体なんなのだぁぁ」

小脇に抱えられたちょっとアホっぽい表情のエイリアンが叫びを上げる
が、それは完全に無視して、桃源はもう一人のエイリアンが飛んで行った先へと足早にかけてゆく

「アンタ達から見れば悪者ってとこ。...キカイコ!場所の特定はまだなのか!!」

『No.77です...特定完了、地点:立中第1番地・閃姫商店跡地2階。』

電子音が腕から漏れ、様々な情報が分析され一つの答えを導き出す
No.77の導き出した答えはこの場所から少し離れた商店街らしい。

「了解だ...って結構遠いな...キカイコ!自転車かバイクかなんか転送しろ」

『差し出がましいようですが...亜空の扉を使用されないのには理由が?』

「...あっ、その手があったか」

急に息が上がりきったような感触がして、桃源が抱えていた荷物を落とすと
亜空フィールドに包まれたギーゼンもまた地面に落ちる
結構な衝撃が与えられて、ギーゼンが「グエッ」と声を上げる

「そうかそうか、じゃあ目的地まだ遠いし亜空の扉を開いてくださいまし」

『了解、目標地点までの最短ルート...確認。扉、開きます。』

黒く、それでいて光のない違和感のある扉型の何か
ギーゼンが身動きがとれないまま見たのは、確かにあの時と同じ
シュリョーンに自身の体の殆どを斬り飛ばされた時と同じ、黒と赤と紫の鮮やかに暗い世界

僅かな時間、その空間の住人となった彼が見たのは
果たして何だったのだろうか、エイリアンにしてみれば、地球人が宇宙人であり
それが持つ未知は彼等にとっては驚異であることは間違いない

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「で、どうするんです?上から何か降りてくるようですが」

長らく足音と、天井が衝撃で揺れ砂を落とす音だけが響いていた部屋
その沈黙を破ったのはカフィー星人だった

「どうするもこうするも、敵であれば排除するまでだが」

そういうと、娯楽がカフィー星人に不敵な笑みを見せる
こういう事は慣れないもので、思わず4人ともが「ヒッ」と驚きと恐怖の声を上げてしまう
この恐怖の音というのはどんな星も共通らしく、ヒーポクリシーのエイリアン共も
最後の瞬間にこの短い叫びを上げることが多い、しゃっくりのような音だ

「お前達にはもう何もせんさ...するのは、アチラさんの方っ...とね」

階段を降りてくる足音、その先に見えたのは見慣れた感すらあるエイリアン
小さいが、生理的に嫌なサイズ。
大きかろうが小さかろうが、奴等は随分と人間に嫌悪感を与える

そんな姿が少し見えるとほぼ同時に、倒れていた足のない椅子を階段の方に向けて蹴り上げると
勢い良く飛んだソレは空中で分解し無数のトゲトゲしい残骸となって振りかかる

「グェェェッ!!?」

その小さい体に降り注いだ無数の木辺、予想だにしない硬質な雨が
勢い良く数本体に刺さり、それ以外も無数の傷を負わせる
それを見たカフィー星人が再び小さく声を上げるが、そんな事は気にしない

「何だ、大した装甲も無いのか...既に誰かと戦った後とはねぇ」

「誰かって...アキさんと矜持君以外は全員ここにいるような...」

「アキなら朝家に行ったが3日は起きる気配なぞ無かったぞい」

目と鼻の先で瀕死の状態となったエイリアン
彼等はだいたい中型のロボットに乗って現れるのだが、それは既に失っている
即ち、既にこれを一度打ち倒したものがいる、会話の先に導かれるはただ一人

「お話中悪いんだけど、エイリアン見なかった?」

会話を続ける3人の丁度、間に突如黒い壁のような物が現れたかと思うと
背後には桃源が立っている、その脇には見たこともない生き物を抱えている

「あっ矜持君!お買い物すんだよ〜...あっそれとエイリアンならあそこと、ここにカフィー星人さんも」

「...え?なんか関係ない宇宙人増えてない!?」

状況の飲み込めない桃源があたりを見回すと、誇りっぽい室内に置かれた机を囲むように
カフィー星人と呼ばれた四人の黄色いエイリアン
その先には木辺が刺さり、既に動く気力もなくなったと言った感じの先程倒しそこねたエイリアンが
そして自分の脇には亜空フィールドに覆われた、随分情けない姿のギーゼンもいる
更にいえば、イツワも宇宙人である...大変宇宙っぽい空間である

「して、桃源その脇に居るのは...おや?見覚えがあるような?」

「おおっそのお姿はイツワリーゼン様!!私ですギーゼンです!どうかお助けください!!」

桃源の小脇に抱えられたエイリアンにイツワが気がつき話しかけると
まるで水を得た魚のようにギーゼンが目を輝かせしゃべり始める
かつての威厳は一切なく、何か...いうならばキモカワイイ感じである

「道中でとっ捕まえたんだけど...やっぱり知り合いだよな?」

「知り合いも何も此奴は将軍、トップクラスの戦士じゃったが...情けない姿じゃのぉ
この姿ではもはや戦えまい、助けるわけにもいかん、今は私はコッチ側なのじゃ」

そういうとイツワが葉子の手をとり、もう片方の手で桃源の手をとると
ブラブラと振り回し、楽しそうに笑顔を浮かべる
無邪気だが、その行動はギーゼンにとっては嘘のような出来事であり、衝撃的だ

「何という事だ...しかしこの体ではなぁ...イツワさま、目をお覚ましください!!」

「何を?寝ぼけておるのはお前じゃろうて!お前達のバカみたいな侵略には呆れ返っておったのじゃ
良いか、この星は面白い生物がいっぱい居る、それを殺して侵略しようなど...話にもならぬ!」

イツワがギーゼンを包まれたフィールドごと脇から奪い抱え上げると
強く上下に振り回しながら、自分の意思を強く語りあげる
その目は鋭く、戦士としての強さがにじみ出ているように感じられた

「その目、本心で言っておられるのですな...うむ、では一つ提案があります」

「なんじゃ!変な事を言ってみろ、私が直々にその生命を終わらせる事となるぞ」

呆気に取られたように見守る3人とエイリアン4匹を尻目に
イツワが自分よりも小さいサイズのエイリアンに向かいクナイを突きつける
本来であれば屈強な戦士と少女なのだが、ギーゼンに過去の面影はあれど威厳はない

「私も、姫様にお供させて頂けないでしょうか...もはやこの体、戻っても殺されるのみ
ならば姫様が見た、この地球の素晴らしい世界とやらを見てみたいのです」

「ほう!それは面白い...良いかの?桃源よ!」

「俺は別に構わないけど?ただ、何を仕出かすか解らないから安全が確認できるまでは
そのフィールドの中にいてもらう、良いな?これはお願いじゃなくて命令だから」

イツワと会話をする流れでヒョイとギーゼンの首根っこをつかみ持ち上げると
目線をあわせて厳しい表情で命令を下す
最早そこにかつての敵と味方はなく、完全なる上下関係が生まれた瞬間である

「んで、そこの4人...カフィー星人さんは何しにいらしたんで?」

「地球にコーヒーを飲みに来たんだって!優雅だよねぇ」

「おおっそれだ珈琲!ずっと解らなかった単語!答えは解っていたのですね!!」

先程までグッタリとしていたカフィー星人が勢い良く机を叩くように押上立ち上がる
その表情は歓喜その物である、そんなに珍しいのだろうか珈琲と言うのは

「大体把握しました、じゃあ家で飲んで行けば良いんじゃない?全員で帰るか!」

「おお...良いねぇたまにはあの事務所に行くのも興味深いことがありそうだ」

「何とそんなに凄いところなのですか!楽しみだなぁ」

ワイワイと3人の地球人+4人のカフィー星人に2人のヒーポクリシー星人という
今までになく大人数となった一団が店舗跡地を出てく
その背後で最後の力を振り絞った下級エイリアンが立ち上がり飛びかからんと勢い良くはねる

「ギィィグェェェェッ!!!!!」

...が、その声は一瞬と続かない
唸りのような叫びのような声は上がり、一度だけ発音されると
次の瞬間2本のナイフと、1発の銃弾に打ち抜かれ、単なる肉の塊へと変貌する

「アッ...?ガッガッ!?」

勢い良く飛び込んできたナイフは胸をえぐり、弾丸が頭部を貫く
その勢いに押され壁に激突すると青緑色の血が壁一面に広がる
亜空ナイフと亜空ブラスターの弾丸、言うまでもなく桃源と娯楽の放ったもの

「なんかこう、ワンパターンよね」

「...いや、今回は変神してないから新パターンだ」

中に伸ばされた手、それまるで柔軟体操でもしていたかのようでしか無い
確かのその数秒前。片方の男の、その手には武器があり、投げつけていたはず
振り返りすらしていない、微かに分かるのはもう片方の男が握った銃はまだあって、煙を吹いている

”二人の男がそれをやった”

死にかけの生物の最も強い決死の一撃を
まるで日常の何気ない動作の一部のように葬り去った、圧倒的な力による屈服

「...コイツら...本当地球人か?あの非力なはずの..!?」

その姿を見たギーゼンは驚愕し、小さく声を上げると
自分に確認するかのように、その力を言葉にして飲み込む
「人間は弱く、支配出来る生き物」ついこの間までそう信じて疑わなかった

しかし、決して「簡単に支配できる」など思うことは段々と思えなくなっていた
抵抗するもの、話の通じないもの、想像以上に嫌な形で進化していない
そしてその中で、極めて「異質」な者が立ち塞がる事までしてくるのだ

段々と抱き始めていた疑念、その考えは今目前で起きた出来事により不動となり
あまりの状況に、恐怖とも興奮とも違う何かが体を震わせていた

「この人達、滅茶苦茶ですよね。でもまぁしばらく一緒にいると楽しくなってきますよ」

驚愕の表情を見せていただろうか、自分と同じ地球人ではないもの
会話を聞くにカフィー星人と言うのだろうか、その内の一人が声をかけてくる
こんなふうに別の星の生命体と何気ない会話をするのも初めてかもしれない

「...あぁ、そういうものか。解りたくな...いや、少し興味はあるかもしれないな」

本当ならすぐ殺すことも出来たはず
あの時石を投げずに、先程のようにナイフを狙って投げられていれば死んでいただろう
しかし、それをしなかったのは何故だろうか?解らない、地球人と言うものは何なのか

「生かされた...と言うことか。拾った命、自分を省みるのに使うのもまたいいか」

ぶつぶつと思考が独り言として外に漏れ
ギーゼンを抱える桃源の耳にも当然のように聞こえてくる

訳の分からない宇宙人、しかも可愛げの無いオッサン声
あまり気持ちのいいものではない、桃源はギーゼンを抱えている手を動かし
そのまま目前に掲げると、座った目で言い放つ

「...あのさ、人の脇腹付近でその面白い顔で真面目なこと言うの止めて」

「おおっスマナイな...って面白い顔とは何事だ!...!?いかんペースに乗せられたか」

思わず返答しまうが、その行動すらも違和感を覚える
力を、体を無くしたときに志や戦士としての誇りすらも落としてしまったのだろうか
なぜだか今まで感じた事の無い、何ともいえない感情が生まれているのも解る

「後..お前、一応敵の手の内にいるの忘れるなよ。まぁ精々アキさんに好き放題されるといいさ」

言葉の意味はよく解らなかったが、何やら嫌な予感がした
これから起きるであろう出来事は、命こそ残ったのは救いだが
自分にとっては地獄の日々...なのだろうか、未来は辿り着いてみなければ解らないものだ。

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優雅な一時、午後の少しだけ冷たい風が夏を忘れさせる
再装填社の事務所も、涼やかな風が流れ
どこかのんびりとした空気が...流れていれば良いのだが

「...どーすんだろうね、このエイリアンズ」

「どうしようね?それ以前に8.5人ともなると流石に狭いね」

一応複数人が暮らすことを前提として作られている事務所だが
流石に人間3人、宇宙人5.5人ともなると非常に狭苦しくなる

ワイワイと会話を賑やかに繰り広げながら、カップを片手に楽しそうにしているが
半分が人間らしい姿ではないため、物凄く異質なオーラが漂っている

「ああっ、スマナイ桃源さん。私達は目的の物が味わえたから、少し観光をして帰る事にするよ」

「おっ、別に気にしなくてもいいのに。また何かあったら寄ってくれよ、助けに行くからさ」

桃源が手を差し出すと、一瞬カフィー星人は不思議そうな様子を見せたが
何かを思い出したように、その手を掴み、握手を交わす
地球語、しかも日本語を話せる上に社交的な部分もある、かなり勉強して地球へ来たのだろう

「ああっそうだ、桃源さん...この星は近々何か惑星規模で何かをする予定があるのですか?
例えば環境改善の為に何らかのエネルギーを掃射するとか..そういう感じの?」

「いや?聞いたことも無い。それに、そんな技術はまだこの星にはないはず...何かあったのか?」

「視認はできないような処理がされていましたが、この星の周囲にはなにか星を覆い隠すような
圧倒的な大きさのフレームのような物が張り巡らされていました、機能はしていない..というより建造中のようでしたが」

カフィー星人がその去り際に残した言葉は、予想外なものであった
”地球が何かに覆われている”言葉だけでは意味が分からない程に途方もない事実

だが、ヒーポクリシー星人が日常に徐々に潜み始めていること
人間たちはどこかで「嘘だ」「また怪しい宗教家何かだ」と思い笑い飛ばしている
現状では「自称」の「友好的な善良な宇宙人ピースリアン」が実際に異星人であり
見えないところで着々とその計画を進めていること...解ってはいたが相手は想像以上に手が速いらしい

「ほ〜それは興味深い話だな、で、これがカフィー星人か。ほれこれは土産だ持っていけ」

入口付近で会話をしていたカフィー星人達と桃源の前に突如として現れたのはアキだった
彼女は日常的に亜空の扉を使っているため神出鬼没である
幾つかの都市伝説や幽霊の類は、彼女が間違って開けた扉から不意に出た瞬間を写した物もあるらしい

「おおっこれは!先程の珈琲と言う物の原料ではないですか!!」

そんな彼女がカフィー星人に渡した紙袋の中には無数のコーヒー豆が入っていた
ギーゼンを捕えたという話を受けて、葉子が連絡していたのだが
基本、疲れきっていると言うか、あまりやる気が無い彼女がこんなに早く到着するのは珍しい

「家に余っていたものですまないが、まぁ地球土産だと思ってくれい。
...って帰るのか、じゃあ今会ったばかりだが、またな〜」

扉を出たカフィー星人達が、自身の宇宙飛行用の船を呼び出すと
一緒んその影で空が暗くなるが、すぐに透明化して元の明るさが戻ってくる
なんだかんだ行って宇宙人と出会うと言うのは不可思議に溢れていると再確認し、
少し胸が高鳴るも、一応敵である奴等もいることを思い出し、桃源が頭を振る

「あっそうだ、桃源さん!これ地球を覆っていた何かの映像とデータです。お役に立てばいいのですが」

「おおっありがとう!これからの戦いに役立つよ!」

「いえいえ、しかし戦いとは?この星は...危険なのですか!?」

船から伸びた階段に足をかけ、先に3人は船に戻ると
残された日本語をしゃべれるカフィー星人が桃源に問う

するとそれに答えるように、桃源の姿が黒い何かに包まれ
その中からまるで宇宙人のような別の何かが出現しそれに答える

「「この星には悪い宇宙人がいる、何分正義の味方がいないのでな。私達が戦っているのだ!」」

「ああっあなたは...頑張ってください!またいつか会いましょう!」

高く手を伸ばし、声をあげながら手を振るその姿を見て
階段を登りながらも浮遊を始めた船からカフィー星人は言い得ぬ何かを感じ
この星にある、未知なる力、そして楽しさを感じ、なんども頭をペコペコと下げながら手を振り返す

次第に遠くなっていくその姿が、点のようになるまで見つめ続けながら
シュリョーンの変身が解除されると、そのには桃源と葉子そしてアキが立っている

「なんだか良く解らんが、何かまた成長したようだな君らバカ夫婦は」

「バカは余計ですよー...あっそうだ、アキさんも飲んでいきます珈琲?」

まだ、日が落ちてこない夏の夕方
相変わらず賑やかな事務所には、普通ではなくなってしまった人間たちと
志を共にする仲間であるお姫様、そして元敵の今や面白エイリアンが一人
何やら前以上に「凄く不可思議」なメンバーにはなったが、相変わらず変わらないメンバーが揃っている

「地球を覆っている...か、どうも、大きい戦いが迫っていそうだねぇこりゃ」

与えられたのは、驚異が既に根深く潜んでいる事実
そしてそれらが何であるか、解るかもしれない僅かなデータ
新たな友情の先には大きな戦いの影が潜んでいたのかもしれない

しかし、今は、そんな事を一刻忘れて
変わり始めた私の世界を、ただ少しだけ楽しむ事にしたいと思う。

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-第9話「再装填者」 ・終、次回へ続く。
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