暗い...漆黒の闇の中
光を失うとはこういう事だろうか

さっきまで、確かに私の目に世界は見えていた
確かに俺の影はそこにあって、目前に景色が広がっていた
それが今では真っ黒だ

『僕は誰だろう...アタシは何者だったっけ』

思い出せない、頭が痛い...だけど頭とはどこだったか
それすらも思い出せない、今考えた言葉はどういう意味だったろう?
考えれば考えるほど、私が失われて行く、僕が消えていく、俺が何か解らなくなる。
感じた事を、頭の中の誰かが言った...「アナタは今死んだ」..と。

『そうか、死んだんだ...でも、死ぬってなんだろう』

その言葉の意味が解らないと、頭の中で発せられた瞬間から
次第に体が溶けるような感覚を覚える
暗闇の中に体があったかも確認できないが、溶けている、体感的には

『どうしてしまったんだろう、死ぬ、それは嫌だ...意味は解らないけど、寂しい言葉』

今の言葉は発言なのだろうか、意味を持たない空間に何かが木霊したような感覚はあった
そして、その音の先に、微かに白い点が見える
出口だろうか、それとも今見えている世界がおかしくなってきているのか
解らない、でも..もう興味もない...放っておいて欲しい

「エネルギー増幅安定、アンチヴィラン覚醒準備完了」

突然聞こえた何か、音、声、それは懐かしい物
そうか私は、あの時怪物になって...黒い戦士の手の中でその生命を終えた
...違う、あの戦士に体を切られて自分を取り戻して...あれ?

『なんで、知らない記憶があるんだろう...アナタは知ってる、僕は知ってる?私は...俺?』

様々な記憶が交錯する、昨日、一昨日、数ヶ月前、生まれた時
帰る場所がなくなった時、足を無くした時、人に馬鹿にされた日、あの大災害の日
良い思い出なんて無かった...けど、兄妹がいた、本物じゃないけど

でも私はどっち?僕は誰...あの子の顔、私の顔、俺の顔

「アンチヴィランのバイオレベルが安定しません、このままでは起動は無理です」

段々白い点が近づいてくる、頭はずっと混乱している
けたたましいサイレンの音、「警告」とだけ言い放つ機械音声
「一体何だ」頭の考えがその言葉で収束すると、無数の白い点に包まれ、私は感覚を取り戻す

そして、私が生きていた世界に帰る目前で
...気がついてしまった、自分が何であったか
それは、それは...気がついてはいけなかったかもしれない、あぁ、もう私達は戻れない

「...起きちゃダメっ!...あっ、あぁ...遅かった...」

叫び、飛び起きた黒い人型の何か、呼吸するような動きは人間的だが明らかに人ではない
機械的なベットから上半身だけを起こしたその姿は、見る限りはロボットのようである

「死んでも、こんな形で利用されるの?...頭が痛い、気持ち悪い...」

目前のガラス張り窓の向こうに白衣を着た人間が見える
何やら喜んでいるようだが、こちらは随分と気分が悪い
異様は吐き気に口に手を当てるが、そこで初めて違和感を覚える

「口が...ない?それにこの手は何だ!?体も、足も...まず私は何だ!?」

覚えている記憶...サナエ、タカヒコ...私はどっちだ
化け物の姿とも違う...変化しているんじゃない、これが自分の体
目をやった先に、ガラスに映った自分の顔が見える

それはまるで一つ目の怪物
四角い頭に刺々しいマスクのような口...人とは程遠い
それは、間違いなく「バケモノ」の姿

それを認識した途端、また気持ち悪さが襲ってくる
頭が自分を拒否する感触、しかし何かを吐き出す事はできない
最早吐き出す器官も、それを蓄える臓器も人間足り得た何もかもが、その体にはないのだ

「あっ...あっ...うわぁぁぁぁぁっ!!!」

自分がどうなったかを理解した一つ目の巨人が立ち上がり
猛スピードで目前に張り巡るガラス窓へと向かう
そしてその窓を容易く砕くと、絶叫と共に怯える目前の人間の首をつ掴み持ち上げる

『警告、アンチヴィラン暴走』

機械音声が聞こえる、叫びと機材が爆発する音に混じりそれはまるで音楽のようですらある。
もう一人が巨人に銃を向けるが、それを見もせずに蹴り飛ばし気絶させ
先に目前に倒れ込んでいた白衣の人間を持ち上げると問い詰める

「誰が...私達の眠りを妨げた...」

首を締められて息も絶え絶えな白衣の人間が必死にある一点を指さす
その先にはモニターに映るエイリアンの姿が見える

知っている...コイツは兄弟達を改造した奴らによく似ている

「またお前達...またっお前達かぁぁぁぁぁっ!!」

雄叫びを上げ、持ち上げたままの人間をモニターに投げつけるように叩きつけると
人間の姿だったそれが、エイリアンの姿へと変わっている

「っ!?その姿は...人間のふりをして、私に何をさせようとしていた!!」

無数の機械が火花を上げ砕け散りもはや残骸と化し
廃墟の一室と言った風な施設の一室はまるで混沌の様相を見せる

黒い巨人の力は圧倒的であり、そこいた人に化けたエイリアンを
まるで脱いだ服でも放り投げるかのように軽々と投げ
置かれた装置を次々と破壊してゆく、まるで自分を顧みない戦い方は
破滅的にも見えるが、それと同時に何か強い生命力も感じさせる

「私は...私はっ..どうなった、彼に救われたはずだ、何故なんだ、くそっ!!」

混乱した頭、右側と左側が、上と下が、まるで反発するようにジリジリと別の痛みを発する
その頭に残る記憶は、「最後に自分を救ってくれた者」の影
そう、確かに一度死んだ筈なのだ、しかし、その「死」すらも許されず引き戻されてしまった

目前のモニターには「ANTI‐VILLAIN」という文字が表示されている
それが自分の名前なのだろうか、
確か今投げ飛ばしたエイリアンも警告音もそんな事を言っていたような気がする。

「怪人...いや、悪を嫌う物...か、皮肉のつもりか」

煙が上がり、激しい炎が辺りを包む
その揺らめく影に映し出されたアンチヴィランは、自身の運命に立ち尽くす
...しかし、最早戻れぬ身。その心には一つの結論が宿っていた

「シュリョーンと共に戦おう、しかし...その前にやる事がある」

与えられた機械の体、最早人には二度と戻れぬこの体
しかし、それは死から舞い戻った地獄の力を持つ体
漲る力の行先を最初に向けるべきは...復讐あるのみ

「あくまで機械として、奴らに従い、チャンスを見計らって全滅させる。これは...私達の復讐だ」

幾つかの意思を感じる、体の中にタカヒコとサナエ
そしてバケモノと化したアサコとシンヤを操り仲間を喰らっていたエイリアンに殺された
沢山の自分と同じだった物達の意志が宿っているような、不思議な感覚がある

復讐は無意味だと解っている
しかし頭で解っても、体の震えは収まらない、奪われた未来は帰らない

「往こう、皆一緒だ...今はただ本能が向く方へ」

アンチヴィランが歩みを始めると、まるでそれを待っていたかのように火が燃え移り
施設が紅蓮の炎の中に包まれてゆく

アンチヴィランの黒い体が炎に照らされてギラギラと輝くと
そこに生まれた影には幾つものかつて「人間だった」子供達の姿が映ったように見えた...

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日本の各地で宇宙開発の要として開発が始まった軌道エレベーター
その開発は突如として地球にコンタクトを取ってきたヒーポクリシー星人により
より明確な技術と安全性を得て、異様とも言えるスピードで完成され始めていた

それと同時に、彼等は独自に各国に黒い金属でおおわれたタワーの建造を始めた
極短期間に、軌道エレベーターをまるで隠れ蓑にするかのように同時に、無数に
そのタワーの存在は人間は知る由もない、ステルス迷彩に近しい技術で隠されたタワーであり
人々が知り得るのは軌道エレベーターが建造中である事実のみだ。

建造された軌道エレベーターとタワーはエネルギービームで繋がり更にその間を繋ぎ
まるで鉄格子でも作るかのようにお互いを繋げ、次々と建造してゆく。
よく言えば世界をつなぐレール、悪く言えば地球を覆う黒い鳥籠のようだ

人の目からも見える空の上、気付かぬ内にそれは生まれている、
知らず知らずの内に、地球には「何か」の準備が始められている。

「待った甲斐があったねぇ、何の疑いも持たない、人間はと・て・もいい奴らだ、とてもね」

人、そして彼等は星すらも自らの物として改造しようと言うのだろうか
今より13年も前から、彼等の計画は少しずつ進み、今に至って最早取り返しがつかなくなり始めていた

「後は、日本にあるエネルギーが気がかりだね、それにシュリョーンとか言う奴。
他にも世界中にいる自己犠牲が大好きな”正義の味方”も厄介だね。奴らを根こそぎ殺さねばね」

日本上空を飛ぶ巨大円盤【ライ・ドゥーム】の内部、そのメインルーム中央
趣味の悪い玉座に腰掛けた異形が、巨大な2つのモニターに映し出された地球を楽しげに眺めている

片方は何も見えず、もう片方は黒い格子に覆われている
それを見て、異形...ドクゼンは笑う...彼等の計画が動き出している。

「さて、新たなスノッブタイプは出来上がったかね...どうなんだ?」

ドクゼンがモニターを切り替えると、爆炎を上げる研究施設が映し出される
一瞬驚いたような動きを見せるが、ドクゼンの機械的な口がニヤリと歪む
まるでこれを望んでいたかのように、彼の笑いがまた絶え間なく響き渡る

「いやいや、素晴らしいね。完成したようだ...早速回収に向かおうではないか」

巨大な円盤が唐突に真横に高速で飛び去る
その姿はまさにテレビで見る胡散臭いUFOの飛び方そのもの

向かう先は火入国、しかし立中ではなく少し離れた場所
武異乱地域という、災害により文明を失った地域
そんな遠く、未開の地に作られた今は炎を上げ爆発するその施設へと飛び去ってゆく

そしてアンチヴィランもまた、彼等が現れるのを虎視眈々と待ち構えている
シュリョーンとの戦いで知った彼等の本当の目的、死すらも許されない外道的行為
その怒りを、命に変えても全て叩きつけ、例え死すれども、その復讐を果たすために...

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遥か彼方でアンチヴィランがその怒りを燃やし、目覚めた頃
まだ、その存在の誕生を知らない桃源は
老人から与えられた情報を元に、アキと共にシュリョーンスーツの改良に取り掛かっていた。

「何とか、変身の時間を伸ばすことは...出来ないのか?」

亜空間、外からは漆黒の世界に見えるこの世界は
その世界の主、亜空の獣に選ばれた物にだけ正しい姿を見せる

今、シュリョーンが立っている広く、工具や機械に溢れた部屋は、その亜空間の中にある。
元来シュリョーンはこの世界の存在であるため
現実世界とは違い、この中では時間制限が無く、改良や修理には亜空間が利用される

「...まぁ、不可能ではない。が、亜空力の循環を少なくする、即ちパワーが落ちる
現状では時間が伸びるだけで、与え得られる結果は同じだ」

会話をしつつ、アキが各部の装甲を開き内部機械を細かく点検しながら
現状で出来る最善の改良をシュリョーンに加えてゆく

時折、ダメージ跡を見ては厳しい表情を見せながら何か呪文のような言葉を唱え
亜空力を結集させて砕けた装甲や傷を消す
まるで魔法でも使うかのような作業に桃源はただ身を任せるしかない状態である

「して、今日は声が普通だな...と言う事は、葉子もそこら辺にいるということか」

シュリョーンの混声、現実世界における戦いで放つ声は男性でも女性でも無い
男女が同時に放ち混ざりあった声なのだが
これは現世にシュリョーンを出現させるため、葉子を媒介にしてスーツを召喚し
そのまま亜空人間である葉子と融合しどちらの世界にも属さない状態になることで
一時的に現世に定着させている為に起きている現象である。

その融合の限界時間こそがシュリョーンの活動出来る一時間である
よってシュリョーンは桃源と葉子がいなければ成り立たない
しかし、亜空間においてはスーツの召喚の必要がないため一人でも変神が可能になるのだ

「葉子なら足りないパーツを持って合流すると...葉子も今回の件は収まりがつかないってさ」

エイリアンにより持ち去られたタカヒコとサナエの体
彼等はまだ何らかの方法で生きられると言う、老人が残した言葉
そして与えられた、彼等が運ばれた場所...忘れられた街「武異乱」

「あっいたいた、探してたパーツ見つけてきましたよ矜持君」

黙々と作業を続ける二人に、明るい声が遠くから聞こえてくる
そして突如何も無かった空間に扉が現れると、中から葉子が出現する
シュリョーンと彼女が並ぶ、そんな光景はこの世界だからこそお目にかかれる物である。

「おや、噂をすれば何とやら...アキさん、これを使えば何とかならないか?」

葉子の手の中にあるもの、それはエイリアン達が使用している「エネルギー結晶」であった
エイリアンが人間を改造する施設の器材に使用していた
あらゆるエネルギーを増幅し、各機関へ伝達する性質を持った結晶体

サナエが持ったまま体ごと持ち去られていたが、残されたもう1基の改造施設からメイナーが回収し
そのまま亜空間の倉庫へと保管されていたのだ

「ほう...確かに、これを使えば稼働時間を延長したままパワーダウンもしない
しかし、反動は大きいぞ?本来無い物を無理矢理に増幅するに過ぎないのだからな」

そう言いながらも、アキはシュリョーンの背後に周り、エネルギー結晶を軽く砕き
シュリョーンの亜空コンバーターのサブユニットに装着する
長い付き合いの彼等の場合、提案してきた時点で「やる」であって、答えは聞くまでも無い

「これで何時間...いや何分位の時間延長になるんだ?」

コンバーターが展開しているため一時的にスーツの機能がダウンし
全く動けない状態で、桃源がアキに問う

「そうだな、エネルギーを増幅させると言っても上手く使って4〜50分、余裕を見れば20分程度だろう」

その会話を聴いて、葉子が驚いた表情を見せる
シュリョーンにとって、活動時間が伸びることは大幅な戦闘力の上昇につながる

「凄い..凄いですよ!それだけ伸びれば十分...これで助けられるね!」

「ああ、それだけあれば十分戦い抜ける、早速助けに行かないとな」

エネルギーが循環し動けるようになったシュリョーンが立ち上がると
それに抱きつくように葉子が飛びつく、するとその体がシュリョーンの中に溶け込んで行く

「これまた、すごい力だこと...敵の作った物でパワーアップするとは皮肉なもんだ」

「自分の首を締めたんですよ。さぁ...私達を怒らせるとどうなるか、見せてやりましょう」

バリバリと黒い結晶が2つの体を飲み込むと、見慣れたシルエットが一度全く別の姿を形成し
即座にまるで再構成でもするかのように形を描き
一瞬輝いたかと思うと漆黒の影が砕け、中からシュリョーンが出現する

その周囲には今までには無かった亜空力が具現化したのオーラのような物が充ち溢れ
今まで以上の強いエネルギーを感じさせる

「良いか、現世での制限時間は1時間半、それ以上は今までと同じく...いや、それ以上に暴走の危険がある
移動はギリギリまで亜空間を通り、もし危険な時も亜空間に逃げ込め、最悪の事態は回避出来る」

湧き出た亜空力の力で風が巻き起こり、後ろにまとめていたアキの髪が解け大きくなびく
その一本一本に亜空力が反応し、赤紫色の光がまるで霧のように広がっていく
アキにとっては安心感すら覚えるその光が、自分の理想の形となって、立っている

彼女にとってシュリョーン、そして桃源と葉子は宝であると言っても過言ではない
その宝が、無理をしようというのだ、過剰な心配を隠しきれない

「「安心してくれ、解っている。無事に二人を救出したらその後の事は頼みます」」

ガラスが割れたような音と共にシュリョーンが一瞬にしてその場から消える
移動能力も一時的に力が増加している、そのうえで亜空間の中に入るため
通常のシュリョーンとは比べ物にならない力が発揮されている。

去り際の風に髪がなびくと、はじけ飛んだ亜空力の微粒子を手に乗せ
残されたアキは何処か寂しそうに解けた髪を結い直し、自宅へと戻る準備を始める

彼等が負けることなど無いと、そう信じている。自身の作った装備にも自信はある
だが、もし...彼等を失った時、自分はまた一人になるのだろうか
漠然とした不安感が、彼女の心に宿ったが、その感情を忘れる掻き消す方法も彼女はその長い人生で学んでいる

「こんな気持は、初めてかもしれないな...しっかり頑張れよ、バカ夫婦め」

アキにはこれからまだ一仕事残っている
先日の改造された子供達の黒い体の構成物の解析データから
彼等の体を変貌状態から元の人間の姿に戻す方法を発見はしたが、
その効果を彼等の体に打ち出す装置まだ出来ていないのだ

言わば制御装置と言ったところだろうか、それがあれば
体こそ元には戻らないが、洗脳されること無く、人間の姿で生きることが出来る
根本の解決にはならないが、何もしないよりは幾分かマシになるだろう

「こういう時、老けない体は良いな。なにせ化粧も要らない、しかも疲れ知らずだ
...が、まぁ、たまには休みたい気持もなくはないな。」

最近はアキもエイリアンの進行に対応するために新たな道具・装備を連続で生産しており
不眠不休でその力を酷使し続けている、不老不死とはいえ流石に精神的に落ち込む時もある

「戻ったら、桃源の奴に山盛り飯を作らせて食わせてもらおう、後どっか行こう、温泉に行こう温泉に
...ん!?今すごいババくさくないか!?」

誰が答えるわけでもない、だだっ広い空間からアキが荷物を引きずり何か独り言を言いつつ出てゆく
するとその空間もまた漆黒の世界へと帰ってゆく、亜空間には少し早い平穏が訪れたのかもしれない
これから現世で起きる大きな騒動とは程遠く、嫌になるほどの静寂と闇がその場を支配していた。

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Re:Top/NEXT