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通称:ポイントV
火入国の中にある「歴史が退行した」都市だったもの
何の異常が起きたのか、植物が異常な進化を遂げ、異質なまでに緑に溢れ
伸びすぎた草木がまるで全てを覆い尽くすかのようにかつての都市を包み込み
その全てを隠してしまった、切り離された、言わば消失都市。

「どうだね、ハーフヒューマン1号君。君の言う子供達...こんなに立派に育ったではないか
素晴らしいよ、この戦いに特化した姿...実に象徴的だ、正義の元にシュリョーンを殺す、実に良い兵器だ」

太陽の光が届かない、永遠に夜の闇にある都市の中
広大な工場のような施設の中央部にある円形の広場のような場所に
ドクゼン、そして老人と黒いロボットが向かい合い会話している

『何故こんな姿に...これではタカヒコもサナエも、何もかもメチャクチャに混じっている
これでは精神面が不安定だ...何よりこれではまるで怪物その物ではないか!!』

異形へと姿を変えた老人がドクゼンの首に刃を向けたかと思うと
その刹那、老人と同じ姿...分身した体がドクゼンの周囲を囲むように出現し
全方位から無数の刃がその首に突き立てられる

『互いに油断したな...お前を利用しその技術で息子達を救おうと思ったが...
まさか、生き返った二人を材料にするとは!!許す訳には行かぬっ』

タカヒコとサナエは間違いなく「再生」していた
体が復元され、最後に「人間の姿」へ戻せば、ダメージこそ残るものの
以前と同じ状態に戻り、シュリョーンの力を借り洗脳装置も破壊出来る...はずだった

だが、罠が仕掛けられていた。
アサコとシンヤが何故変貌しないまま異形化したのか
同じように異形化改造されたエイリアンが彼等を取り込んでいたという結果を知った
その時に気がついておくべきだったのだ、最初から狙いは異形化した子供達であったと
そして、自分はその混乱で目隠しをされていたのだ...とも。

「生き返っているじゃないか、何か変かね?元々仲も良いようだし幸せだろう彼等は?
人間は良くわからないね、下らない情にすぐ流されて...結果がこれじゃ、愚かとしか言いようがない」

自身の向けられた刃をまるで気にもとめない様子でドクゼンが言葉を続ける
それは人間に対する否定であり、老人への罵倒でもあるように聞こえる。

『貴様等の世界の幸せは随分と歪なようだなっ..この下衆が』

...しかしそれよりも、何よりも、タカヒコとサナエをまるで玩具のように弄び
挙句の果てにはその姿が「幸せだろう」
そう言い放つ目前の存在をいち早く切り裂く、その衝動だけが最早老人の理性を振り切り手を動かす

『...っぬぅぁぁぁ!!』

ガチガチと、怒り震えた切先が、叫びが途切れるか否か一斉に中心に向かい勢い良く突き出される
その中心点に立ったドクゼンの影が崩れ落ちたように見えた
...が、その影が突如霞んだかと思うと、老人とその分身を軽々と吹き飛ばす

「油断は君の方だろうに、ベースが地球の人間じゃ...見えもしないだろうがね」

解らない、「何が起きたのか理解できない」...そう言えば、頭は理解しようと動きはするが
目前で起きること、自身の腕と背中の装備が砕ける場面、無残に砕け落ちる分身
すべての状況が理解できない、繋がらない

今...何が起きた?ドクゼンの手がまるで刃のように鋭く唸り右腕を飛ばした
その胸の前には、何か丸い...エネルギー体のような”何か”が見える

敵の動きを見る間もなく、自身のちぎれた腕が吹き飛ばされると、
次の一撃が腹に突き刺さる、あくまで動きは人間的だが何かが明らかに違う
これは...速さではない、別の場所から突如として出現している...少なくともそう認識できる

『何だ...グッ..これはっ!?』

まるでスローモーションの世界にでも入り込んだかのように
瞬く間に腕の次は足、足の次は胴体と深い一撃が抉り込まれる

既に何も出来ぬまま満身創痍の体、視界が霞む
...しかし、今ここで戦いを止めれば息子達は道具として良いように使われ捨てられるだろう
せめて...せめて、一撃でも与えねば

「まだ生きてるとはッ...おやっ何事かな?」

老人が決死の覚悟で残された最後の分身をドクゼンに差し向けようとした
その瞬間、二人の間に生まれた未知なる力の空間を強烈なエネルギー弾がかき消す
ジリジリと焼けつく感覚は、綺麗に老人を避けドクゼンのエネルギー体を撃ちぬいている

エネルギー体がはじけ飛んだ事で、ドクゼンの動きは止まり、その反動で老人は遥か後方に飛ばされる
二人の間を割いたエネルギー弾、その発射地点に立っているのは他にない
タカヒコとサナエの融合した新たな存在「アンチヴィラン」

銃を構え、体を巡るエネルギーが全身のラインを緑色に光らせる
そして大きな中央部の一つ目が眩く白銀に輝く

「おや、戦闘につられて攻撃してくるとは、いい反応だね。
そうだな...よし、まずはこいつに止めをさしてやってあげなさい」

その声を聞くと、アンチヴィランはゆっくりと、老人に向けて足を進める
既にその意志は存在しないのか...そんな筈はない

『...了解』

目前に崩れ落ちた異形化した老人の前にアンチヴィランが立つと
その手に装備された巨大な銃が老人の頭部に向けられる

この存在は確かに、彼の息子と娘が変貌したものだ
だが、その記憶があるか...と言われれば、間違いなく否だろう

目前に現れた愛する者が無残にミンチにされたと言っても過言ではない
悪夢のような集合体、それに殺される事がこの道を選んだ自分の出来る償いか
老人が意を決しアンチヴィランに顔を向け声を上げる

『お前達をそんな目に合わせたのは私だ、どんな形であれ、その手で殺されるならそれも良かよう』

老人がその死を覚悟した時
アンチヴィランのセンサーには一つの熱源が感知されていた
広場の向こう、壁1枚向こう側...その力はよく知っている

『...父さん、一人で先に逃げるのは無しだ』

聞こえるか聞こえないか、極めて小さな声で目前のロボットが老人に言葉を放つ
それは、老人にとっては希望にも感じられるが、その体でもまだ意識があることは絶望のようでもある

ただ、今出来ることは、彼等を救いこの窮地を挽回するために、出来る限り時間を稼がねばならない
自分の体は動かない...果たしてどうすればいいか思考する

『...生きている..生きているのだな!?待っていろ、今、策を...っ!?』

老人が動かぬ体を震わせ、立ち上がろうとすると
激しい爆発音が後方から鳴り響き、無数の警告音と警備ロボットが爆発し
広場に大きな風穴を開け爆発を巻き起こす

その中心点に、猛然と刀を構えまるで飛ぶかのように駆け抜ける黒い影
その姿は彼等にとっては最後の希望かもしれない

「「ドクゼン!!貴様ぁぁぁっ!!」」

激しい叫びが、まるでそれ自体が刃かのように突き刺さり
駆け抜ける黒い影が立ち構えるエイリアンに向かい飛び上がる

『...来たね桃源!父さん!直ぐ終わる、ここで待ってて』

目覚めた彼にとって、目指すべき敵はただ一人
目前の「父親」に向かっていた銃口を翻し、アンチヴィランは目前のエイリアンに向け構える
父を救い、共に目前の悪を撃つ、その目の先には既に黒と金の影がハッキリと写っていた

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亜空間の扉が開き、シュリョーンが消失都市・武異乱に出現する
その周囲は闇の中、亜空間ほどではないが暗く、そして空気が重い

植物に覆われた世界の内部はエイリアンの研究施設であることが確認されている。
言わばここはエイリアンが創り上げた研究都市、街を覆った植物もその中で生まれ
内部を見せない為に意図的に生み出されたものであった

その内部には、ただ異様に広く大きな工場のような建物が聳える
...見た限り、この建物こそが、この都市の全てと言った風だ

「「まるで夜の世界だな...」」

その入口地点に降り立ったシュリョーンが
巨大な門の前に立つと、軽々と扉を開ける
増加したパワーのおかげで、この程度なら家のドアを開けるのと大差ない感覚を覚える

「「この何処かに、タカヒコとサナエがいる...しかし本当に”生き返る”なんて事があるだろうか」」

亜空間やエイリアン、あらゆる不可思議な現象・存在を見てきたが
既にその生命を終えた...ように見えた二人が簡単に生き返るものだろうか
老人は何か策があるようだったが、そんな技術をエイリアンが利用しないことなどまずありえないだろう

「「まず間違いなく、何らかの罠があるはずだ...急ごう」」

剣を構えると、目前の壁をアクドウマルが円形に切り裂く
通常であれば出来る限り施設は破壊しないように動く事が多いが

今回の場合は、この施設自体がエイリアンに支配されている
元に戻すにしても一度破壊する必要がある...要はこのフィールド全てが破壊対象である
よって容赦はいらない、時間短縮にはもってこいだ

<<警告・侵入者アリ>>

サイレンが激しく唸りを上げ、警備ロボットらしき物も無数に出現するが
これらに構う余裕も、無駄に力を出す理由もない
警報機も、ロボットもまとめて切り裂き、まるでその姿は鬼神の如くシュリョーンは前へ進む

「「待っていろ、今...今、助けに行く」」

幾多の壁を切り裂き、鋭いライトの光が壁の向こうから差し込む
目前に広がっているのは巨大な広場...試験場だろうか
その遥か向こうに、見えたのは余りに予想外な2つの影と見慣れない何かが確認出来た

「「あれは...ドクゼン、依頼主さんもいるな、もう一人は...まさか!?」」

崩れ落ちるように倒れた老人と、それに手を向けるドクゼン
その後ろに見えた黒いロボットのような何か
それを見た瞬間、シュリョーンの頭に何かザラつくような感覚が走る

考えたくはない最悪の展開...だが、その結末に近しい
彼等の感覚が、亜空間の力を通して、桃源と葉子の記憶を介して
激しい怒りの感情と共に沸き上がり、その答えを明確にしてゆく

「「そんな筈はない、生き返るなら2人のはず、だが1人しか影がない」」

言葉は感情を救いたがる物、人ではない物になりつつある自分自身も
まだ感情や考え、結果的に生まれたそれが恐れが人間的であった事は救いに思えた

しかし、それは「信じたくない」という感情の先にあるもの、頭は「アレが救うべきだった物」と判断している
直感というのか、嫌な胸騒ぎが収まらず、それをかき消すように足は広場中央へ駆け出していた

<<警告・侵入者アリ>>

相変わらず警報が鳴り響いているが、どうやらこの広場はその警報の音が切られているらしく
破られた壁の穴から聞こえる警報音が遠くからその知らせを激しく繰り返す

走り出した足は地面を蹴り、その後には砂煙が上がり足は敢然と目標へと突き進む
走る、駆ける、突き抜ける...右手に握られた刀に力が宿り
それに合わせるかのように体中から赤紫の粒子が漆黒の帯と共になびいている

その足音、エネルギーの放出されるジェット噴射のような音を聞いて
ドクゼン、そして既に立つことも出来ない異形化した老人がシュリョーンの方を向く

「「ドクゼンっ!タカヒコとサナエはどうした!!」」

全速力で走るシュリョーンの背中にエネルギーが噴射され
軽々と舞い上がり、ドクゼンに向かい飛びかかるように落下する
その間に両腕には亜空間よりナイフが形成され、握った途端に投げつけ
浮いたアクドウマルを掴むと、猛然と振り下ろす、流れるようなアクションが一瞬で完了された

「挨拶も無しとはねっ...ぬぅ!?...小賢しいっ!」

勢い良くエネルギーを纏って飛び込んでくるナイフ
通常であればドクゼンには通用しない武器なのだが
増幅された力がその常識を覆し、勢い良く激突すると防御の姿勢を打ち砕く

「「油断したなっ!!」」

事態を把握する前にドクゼンの目前には既に刃が迫っている
今までのデータ、そして実際に得た戦闘力とは明らかに違う
確かに油断はしていた...が、まだ驚異になる程ではない

「なに?そうでもないさ...っ!!」

落下の勢いを空気すらも切り裂かんとする刃を
ドクゼンの腕が掴み、刀ごとシュリョーンをはじき飛ばす

不意をつかれたシュリョーンだが、この程度は想定内と言わんばかりに
体制を立て直し、空中で半回転すると刀の柄を土台に背後へ大きく飛び上がる
吹き飛んだアクドウマルは空中で四散し、その粒子はシュリョーンの手に飛び戻ると再構成される

一連の動作の中で確認出来たのは、目前の敵の更に背後に見える影
その姿こそ違うが、確かに感じられる...やはり彼等だと

そしてその黒いロボットのような存在は、自分ではなく、ドクゼンを狙っている
機械的表情から感情は読めないが、自分の動きにあわせ、攻撃態勢を既に取っている
彼等はまだ何らかの形で、違う体の中で生きているのだ

「「隙は作った!今だ、撃てっ!!」」

後方に飛んだシュリョーンが着地すると同時に叫ぶと
ドクゼンの背後に迫った黒いロボットのような戦士が持つ銃が既に十分にエネルギーを充填した状態から
まるで開放されたかのように極太のビームをドクゼンに向けて発射する

『何がそうでもないのか、私達を倒してから説明してもらおうか!』

シュリョーンに完全に意識が行っている状態から
不意に強烈なエネルギー光線の直撃を受けたドクゼンが吹き飛ばされる
声を上げる間もなくはじけ飛び、広場の壁に激突すると激しい砂煙が巻き上がる

『あの程度で死んだとは到底思えない...どう思う?シュリョーン』

巨大な銃を下げながら、その巨体をまるで人間と同じようになめらかに動かし
黒いロボットは着地したシュリョーンへ質問を投げかける

「「次が直ぐ来るだろう...して、君はタカヒコなのか?それともサナエか?」」

目前のロボットのような姿の、そこには確かに彼等の面影こそあるが
明確にどちらかは解らない程、あらゆるオーラが混じったような感覚を与えさせる
これはどちらかが生き返れなかったと言う事なのだろうか

シュリョーンが黒いロボットに近づく、一つ目と機械的な口
シュリョーンより一回りは大きいであろう巨体、装備された火器と車輪のような物
ありとあらゆる要素が、肉体を与えられた骨の異形の完全体、言わば機械の人間と言った印象を与える。

『どちらでもない...解らない。少なくとも言えることは”二人で生き返った”...こんな姿だけどね。
好きなように呼んでくれれば良い、この体自体はアンチヴィランって言うらしいけどね』

シュリョーンの方を向いたその顔は、機械的なままだったが
その口調、雰囲気からは確かにあの時死んだはずのサナエの気配が感じられた
そして、弾き飛ばされたドクぜンの方を見る目はタカヒコから感じた激しい闘争心と同じ
自身が言うように、その体に2人が...否、彼等と共に死んだ兄弟達が混ざり合い
無数の命が一つの者になって宿っているのだろう、そう感じられた。

「「...そうか、守れなかったのだな君達の眠りを」」

シュリョーンと同じ様でいて違う、救いなき姿
それは生き返った等と言う救われる物ではなく、死してなお、死ねなかった者の姿
彼は...彼女は...体をなくし、肉体は死んだが、精神はこの世に縛り付けられてしまったのだ

『いいさ、それにシュリョーンのせいじゃない、倒すべき相手は...あの脳味噌お化け、でしょ?』

砂煙の向こうにシルエットが浮かぶ
流石にダメージはあるだろうが、「倒せた」なんて事は一瞬でも思う事もできない
それほどにドクゼンと言うエイリアンは驚異的な力を宿している。

「「今回だけで構わない、共に闘ってくれるか」」

シュリョーンがアクドウマルを構え、攻撃の姿勢を取る
アンチヴィランもまた、片手には銃を、もう片方にはトンファーのような装備を装着する

『答える必要あるかな、それ...勿論、いつだって喜んで協力するよ』

二人が力を込めると、同時にシュリョーンからは赤紫の粒子と黒い帯が
アンチヴィランからは真っ青な光の粒子が激しく噴出しては消える

そして、その粒子が最大の放出を見せ
足を踏み出すと目前のエイリアンに向け、駆け出す

その足は両者とも一直線、最早戦略などが通用する相手ではない
全力を出来る限り長く、可能な力、その全てをぶつける...総力戦

「「行くぞ...アンチヴィラン!!」」

地面を蹴る足、地面はそのパワーに負け、沈み、ひび割れ
二人が駆け抜ける後にはその存在を示す足跡だけが残される

『私がキャノンで動きを止め隙を作る、止めは任せたよシュリョーン!!』

そういうとアンチヴィランに装備された後部ユニットが展開し
巨大な武装が装備される、そしてそのまま突撃姿勢をとる

『奴が動き出す前に、全てを終わらせる...行け!フルバーストッ!!』

全身の火器が正面方向を捉えエネルギーをチャージし、
勢い良くドクゼンに向け無数の光の帯と赤く発火した弾丸が
まるで交互に逃げ道を塞ぐ雨かのように降り注ぎ、強烈なエネルギー爆発を起こす

『これなら...多少のダメージにはなるはずだ』

最初から倒せる、その可能性は想定していない
これはあくまで足止め、現に巻き上がる爆炎から影が飛び出し
ドクゼンの姿が遥か高くに出現していた、軍服が敗れ、片腕は機能していないように見える

...が、それでもまだ2人で全力でぶつかって五分五分と言ったところだろうか
勝負の流れは次の一撃、シュリョーンの攻撃に掛かっている

『行けぇぇぇぇ!私の...私達の敵を切り裂けシュリョーン!!』

飛び出したドクゼンに向けて駆けるシュリョーンが
まるでその言葉を合図にするかのように高く飛び上がる
空中でドクゼンと激突するかのような状態で、その刃がまるで円を描くように全身を使って振るわれる

「「善を名乗り外道を行う異形っ!我はっ...我等は!お前を破壊するっ!!」」

エネルギーを受けて極端なまでにアクドウマルが伸び
その刃が地面を、そして空を...すべての空間と共にドクゼンの頭部をかすめ、体を叩き切る
しかし、その刃は両断するまでには至らず、半分を切り裂いたところで止まり
ドクゼンの腕がアクドウマルを握ると、体から抜き、そのまま地面へシュリョーンごと叩きつける

「「何っ!?...しまった!?」」

遥か上空、異様に巨大な樹木が覆い隠した天の光が
シュリョーンの刃で切り裂かれ、何年かぶりに武異乱に光を与える
体の上から半分が左右に切り裂かれ、異様な姿となっても直独善が空に浮遊し不気味な笑い声を上げる

「やるじゃないか...ぉぉっ驚いたよ...だが..まだパワーが足りないようだっ!!」

その笑いと、差し込む光に押されるように落下するシュリョーンだったが
その体を、高速で移動する物体が掴み、まるで自分に乗せるようにシュリョーンを動かす

『シュリョーン、奴は異常だ...だが、その異常にも限界はある。次が最後だ!』

彼を救ったのは自身の体を変化させたアンチヴィランであった
ロボット化した体は、各部に装備された車輪が組み合わさり
まるでバイクのような形を形成している

「「その姿は...そうか!..あぁ、これが最後だ一気に決めるぞ」」


アンチヴィランに跨ったシュリョーンが地面に着くと
轟音をあげエンジンを唸らせるアンチヴィランのエネルギーを開放する
そのエネルギー波動がフルスロットル状態へと変貌すると
シュリョーン自信も全身のエネルギーの制御を開放する

二つの力が合わさり、色とりどりの光はまるで虹のように輝き周囲に粒子の霧を作り上げる
そしてそのエネルギーの波に乗り、広場の壁を利用しアンチヴィランが空へ駆け上がる

「「二人のエネルギーを完全に一体にし...全てを叩きつけるぞ」」

駆け上がった車体をエネルギーの帯がまるで道標かのように示し
空中を自在に走る、亜空間のエネルギーをアンチヴィランのエネルギーで固定し
一時的なエネルギーの道を作り上げ、ドクゼンに突撃を仕掛けようというのだ

「まだ来るのかい!!何度やっても同じ事だよっ!」

ドクゼンが突撃する二つの力に向かい、手をかざすと
まるで魔法でも使ったかのようなエネルギー弾が連続で発射され
その全てが直撃するが、シュリョーンとアンチヴィランは突撃を止めず更にスピードを上げる

装甲が飛び、エネルギーに負けシュリョーンのアーマーすらもダメージを追いながら
巨大なエネルギーの塊となった二人がドクゼンに突撃する

「「『貫けっ!!これがっ...最後の一撃だぁぁぁぁぁ!!』」」

猛烈なエネルギーその者となり完全に一体化した三つの命が燃え上がり突撃すると
余裕を見せていたドクゼンのエネルギー弾、そして前方に張られたフィールドバリアすらも砕き貫く

それその物が刃と化した三つの力がドクゼンの力を上回り突き刺さる
胴体には巨大な穴が開き、その穴は激しい熱でドロドロに溶けている

「んなっ...何だとぉぉっ!?...人間..如きが..ここまでの力を発揮するっ..というの..かっ」

激しく火花を上げ、ドクゼンの体が爆散する
今までのエイリアン同様、その全てが炎の中に消え消滅した
...筈だった

「想像を遥かに上回る力だ...だが、お前達は大事な事に気がついていないなぁ!!

しかし、その爆炎の中にその首と上半身の一部が浮遊し、今もなお言葉を放っている
ドクゼンの本体、彼は言わば脳みそさえあれば生きられる脳以外は完全なる機械の体を持っていた
爆発したのは体...まだ勝負はついていない。

「「頭だけでも動けるというのか!?」」

シュリョーンとアンチヴィランはエネルギーの殆どを使い果たし
元のシュリョーンとアンチヴィラン姿に戻り、ドクゼンの健在に驚愕の表情を見せる

『なんて奴だ...くそっエネルギーがもう..』

エネルギー増幅のおかげで、変身解除には至らなかったが
残る力を振り絞っても、エネルギーは既に底を着いている
アクドウマルを亜空間より出現させるが生成追いつかず、折れたような形で出現する
アンチヴィランのエネルギー砲も既に光を失っている

「我々は既に体を捨てたようなものだからね、頭脳さえ残れば後はどうとでもなるのさ」

しかし、いくら生きているとはいえ、既に体はなく
頭部だけがエネルギーフィールドに守られているだけの姿
今なら勝つことも不可能ではない、意を決するとシュリョーンが折れた刀を握り構える

「「頭だけで威勢がいいな...この因縁、ここで断ち切らせてもらうぞ!」」

シュリョーンが飛び上がろうとした瞬間、背後から激しい爆発が起きる
武異乱の施設そのものが、各所から火を上げ、激しく爆発しているのだ
飛び上がろうとしたシュリョーンも爆発に押されその場に踏みとどまる

「流石に分が悪い、今日のところは一旦引かせてもらうっ...っなんだ!?」

その隙を見て、ドクゼンがその場から去ろうとした瞬間
その背後に影が浮かぶ、そこにいたのは砕けた体を無理矢理繋ぎあわせた老人であった

『そう簡単に逃げてもらっては困る...まだ、私の分の怒りを受けてもらわねばな』

老人がドクゼンの残された体を拘束するように強く抱え
そのまま、施設の方へと向きを変える
無理矢理飛行しているのか、ゆらゆらと浮かぶその体からは既にパーツが崩れ落ち初めている

『シュリョーン、そして息子達よ...すまなかった、私は先にコイツと地獄へ行かせてもらう!
...さらばだ、また会おう息子よ...そして亜空間の戦士よ!!』

「貴様ッ..離せ!!離せと言っているのだぁぁぁ己ぇぇぇぇ人間めぇぇぇぇぇっ!!!」

最後にシュリョーンとアンチヴィランに向かい最後の言葉を叫ぶと
ふらふらと、しかしかなりのスピードで爆発の中へと姿を消して往く
その直後に施設は巨大な火柱を上げて燃え上がり、最早その場に留まるのも危険な状態となっている

『父さん...解ったよ、さぁシュリョーン急がないと』

炎の先に、既に人の影はなく全てが燃やし尽くされている
アンチヴィランが再び変形すると、シュリョーンを乗る
そしてシュリョーンがその目前に亜空の扉を開くと、二人は燃え盛る研究施設から脱出するのであった。

『父さん、私はシュリョーン達と戦う...父さんと兄弟達のためにも』

シュリョーンとアンチヴィランが去った後も燃え上がる施設、天に伸びた樹木の壁が燃え上がり
遥か遠くからでも確認出来るほどに燃え上がった施設は一週間燃え続け
その後には何も残らず、ドクゼンすらも焼き尽くし、全てを焼失させた

だが、果たして本当にドクゼンは、死んだのだろうか
ヒーポクリシー星人はいまだ地球に多数潜んでいる
未だ何者かに手引きされ...偽りの正義として

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ドクゼンとの戦いから、一週間が経ち
アンチヴィランはアキの手により完全に改修・修理されその機能を回復していた

『ありがとうお姉さん、前より体が自由に動くよ』

「お姉さんではない、アキさんと呼べ。まぁ私の手にかかればエイリアン共の技術など子どもの遊びよ」

得意気にアキがアンチヴィランの背中を叩きながら高らかに笑う
アンチヴィランもそれに合わせて何やら楽しそうに笑っている
そこに、修理完了の方を受けた桃源が訪れる

「...えーっと...何してんの君達」

あまりの状況に呆れた様子を見せるが
元気な姿のアンチヴィランを見て、安堵の表情を浮かべると
アンチヴィランに手に持っていた花を渡し、横に腰掛ける

「これ、お前の弟と妹にプレゼント。この間は、二人はいなかったから」

「ああっ..うん!ありがとう桃源。でも...この姿で帰って大丈夫かな」

見た目こそ3メートル近い巨体のロボットだが
その中身はタカヒコとサナエが入り交じったまだ10代前半の子供であり
言動と姿にはギャップが有る、二人が混ざった結果、感情面で強く出たのはサナエの方だったらしく
程よく大人しく、妙に可愛らしい言動を見せるのも何か変で妙に親しみやすい

「大丈夫だよ、会えばわかるさ!俺も付いていくしさ...安心しろって
ん〜まぁ何だ...これからはお前が皆なの親代わりなんだ、ビシッと決めようぜ」

桃源が拳をぐっと握り、アンチヴィランの前に差し出すと
アンチヴィランもそれにあわせ拳をぶつけ合う、すると自然に笑いがこみ上げてくる

「困った奴等だなぁ、とても敵の大将に勝って帰ってきた奴等とは思えないぞ」

話を聞いていたアキが、余りに気の抜けた二人に少々呆れ気味で語りかける
確かにドクゼンは死んだ、あの状況から考えればまず間違いないだろう

しかし、まだこの地球には多数のエイリアンが存在し、平和を脅かしている
戦いが終わった訳ではなく、大きな障害が一つ減っただけに過ぎないのだ

「違うよアキさん、倒したのは彼の父親の方、俺達だけじゃ勝てなかったよ」

ドクゼンと共に老人もまた炎の中に消えた
息子達に犯した過ちをを悔み、詫びながら死んで行った彼は
最後の時まで、アンチヴィランや残された子供達の父であり続けたのだろう

「父さん...この体は大事な宝だよね。今度は私が皆を守る!守りぬいてみせる!」

「その意気だ、よ〜し、じゃあそろそろ行くか。皆に会いにさ」

桃源とアンチヴィランが立ち上がり、軽く伸びをすると
アンチヴィランはバイクに変形し桃源がそれに跨る

巨大なバイクはまるで動く武器庫のようだったが、アキの手により通常状態では
各武装は隠され、戦闘時に亜空力を使用して出現するように改良された
エネルギーも亜空力の循環式に変更されており
アンチヴィランは事実上、四人目の亜空戦士となったのである。

「じゃあ、お姉さ...じゃなくて、アキさん。ありがとうございました!またいつか!」

「あぁ、いつでも来るといいさ。いつでもメンテナンスしてやるぞ」

ガレージのシャッターが開き、アキにテールランプでアンチヴィランが返事をすると
快晴の空の元、軽快なスピードでアンチヴィランと桃源は平和になった路地裏の世界
皆が笑いあうHELLからHELLOへと戻った街へと向かうのであった。

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-第8話「亜空の世界(半人間編・後編)」 ・終、次回へ続く。
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