壊れた街、未だ災害の傷が癒えぬ荒れ果てた景色。
崩れた家屋と剥き出しのコードやパイプ、それらが構成する廃墟のような世界は
最早それが一つの世界であるかのように、何処か美しくすら見える

そんな、表の町から隔離された裏路地、そこから更に進んだもう一つ裏側の世界
それは最早、もう一つの表側と言うべきかもしれない、かつての大災害から何も復興していない
表向きの「立ち直った日常」とは隔離された別の場所に見えるそれも
立中市の中にある、これもまた目に見える現実

その混沌とした世界を少年が駆け抜けて行く
段差を飛び越え、突き出たパイプを潜り、目の前の高い壁を意図も簡単に飛び越える
...数メートルはあろうかと言う壁を意図も簡単に

そして、そのまま目前に迫る巨大なヒビだらけの半壊した建物に入り込むと
更にスピードを上げ目前に迫ったドアを勢い良く開け、声をあげる

「父さん!今戻ったよ...なんか最近街の中で色々あったみたいだ」

跳ねるように少年が足を動かし少し飛ぶと、まるでバネでも入っているかのように軽快に跳ね上がる
よく見ればその体はもう夏が近いというのに全身を隠すように服で覆われている

「タカヒコ...外ではあまり無茶な動きはするなとあれほど言っただろう」

太陽の光だけで明るさが確保された薄暗い部屋の奥から
少年...タカヒコの父というにはどうにも老い過ぎた老人が姿を見せる
見た目だけで言えばかなり老いた今にも消えそうなほど細い線を持つ外見だが
その動きには年齢が感じられず、妙に機敏なその動きには違和感すら覚える

「外ではあくまで平凡な人間でいなければ、皆に迷惑がかかるのだぞ」

怒りの口調を受けて、タカヒコは一瞬眉をひそめたが
次の瞬間にはぐっと引き締まった表情を見せ、大きく頷く
彼は、この周辺に住む行き場をなくした者達の未来の指導者になる...予定の少年である

そしてその彼と、彼と同じように幼くして一人で生きねばならなくなった子供達を
保護し、この閉鎖された路地裏の更に奥の世界で育て上げているのが「老人」である

「...で、父さん。この間手術してもらった奴等は調子はどうなんだ?」

心配そうな表情を浮かべ、タカヒコが老人に問う
彼等は体や心に傷を負い、ある者は手、ある者は足
視力が無い者もいれば、その全てという最悪の状態の者もいる
災害でそうなった者もいれば、生まれついて...という者もいる。

今から12年も前、タカヒコもその一人であった
まだ大災害も起きていない、今よりも、もう少しましな建物と
もう少しだけ多くの人間がいた小さな施設...というより老人が管理するビルがここには建っていた
...厳密には今もこの場所に建っているのだが、当時の面影は既にない

老人の元には、身寄りの無い子供や行き場を無くした者達が集まり
自由気ままに共同生活を送る、裏の世界にあった一つの楽園。

確かに個々は楽園だが、完全なる世界ではない。偶然生まれた彼等の居場所。
何も解らず捨てられ、身体が不自由な者が多いこの世界の住人達は
その環境の大きな変化に体がついていけずに、多くの住人が死に
生き残っても障害を持つ者はそれを悪化させ、精神面でも更に消えない傷を増やした者も多かった

「この状況、我々の力で...否、貴方達の力に我々が助力する事で変えていきませんか」

楽園の存続は勿論、住民の生命の危機が迫った時
老人の前に現れたのは一人の大男だった。

明らかに異質だったが、妙に物腰の柔らかい身長2mはあろうかと言う大男は
自分を「異星の技術を持つ科学者」と名乗り、次々と住民を救って行った
...その裏に隠された目的を知らぬまま

死の淵を歩く者に現れた、それはまるで神のように
大男とその部下たちは次々と楽園の住人達に新たな体を与え
その殆どが自らに不自由のない、新たな体を手にいれた

「あぁ、でもこの体は...自由という名の足枷が付いている」

誰かが言った、外の世界へ飛び出した者が命を絶ったと聞いた
「バケモノ」と言われたらしい...何故だろう?

彼等は表舞台に戻ることはない...出来なかったのだ
新たに与えられた身体はその能力が高すぎる故に人間社会に混じれば
今までとはまた違う「異質」であり、それを制御出来るほど身体能力も精神も追いつかない
結局、どんなに体が変わってもこの閉鎖された楽園からは出ることが出来ないのだ

「でも欲しい、欲しいよ。自由に動ける、喋れる、そんな体が」

しかし彼等はこの「新しい身体」を欲した
他人が持つ物が羨ましく見える、その感覚と同じように
自分にない物が全て手に入るという誘惑に欲望を抑えきれずに

「見た目は人と同じでも、僕たちは...私たちはバケモノだろうか?..答えなんて知りたくもない」

ある者は生きるため、ある者は自身の夢のため
感情があるからこそ生まれた、本能的な「生きるため」の衝動が
次第に欲となり、彼等は見る見る内に自ら人から外れた物へと変わっていった
まだ幼かったタカヒコも、その時に救われ、そして人から外れた一人である

まだ、亜空戦士もいない時代
誰もが忘れた裏側の世界で、静かに侵略は始まっていた

「地球を手にする第一歩、しかし子供まで...否、命を救った、そして我らに近づいた
そう思えば、何ら不思議な事も、おかしな事もない」

大男、またの名をギーゼン
12年も前に開始されていた人々を使った実験、その悪夢のような所業は
次の世代に受け継がれ、良い所だけが語り継がれ薄れた「力を持つ恐怖」はやがて大きな波乱を生む

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...少しの邂逅
過去の事だろうか、自分以外に記憶すらもなぜか思い出せるように感じていた。
老いた思考が、虚空へ飛びそうになっていた。

今は何をしていたか...そうだ
目前の少年...息子が何かを問いているようだ、答えねば

「あぁ調子は良い、すぐにまた一緒に生活できるぞ...して、タカヒコよ..お前の方は何か変なことはないか?
身体が勝手に動くとか、違和感があるとか」

老人がタカヒコの問に答えると、すぐに自分の質問を投げかける
タカヒコや彼と同じ、または下の年齢の子供たちも同様に改造手術を施されているのだが
どうもその宇宙人、件の大男が先日から消息がわからないと言うのだ

「いや全然問題ない、むしろ調子いいぐらい...何かあったの?」

タカヒコは幼い時の事故で足を失っていたが、大男が施した手術により
人体とほぼ同じ構成を持つ足が再生され、今も見た目は何ら違和感なく付いている。

当時は勿論、今の地球でも考えられない未知の技術を用い再生し、彼に再び地面を走る能力を与えた
しかし、それを維持するには定期的に異星のエネルギーと専用のメンテナンスが必要とされる

その供給源が姿を消したとなれば今後どうなるかは分からない
まだ、それなりの機関の施設や技術があれば何とかなるかもしれないが

大災害の際も彼等はその能力を駆使し、生き残ってきた
この「与えられたパーツ」は彼等にとって無くなれば死に至る必要不可欠なパーツなのだ。

『いつか人間の技術でそのパーツを再生する』

崩れ落ちた建物がまるで入り組んだ迷宮のように立ち並ぶ廃墟の世界で暮らす彼等に
そんな輝かしい物が存在するはずも無く、未来は見えないのだ
例えそんな技術が生まれても、彼等はそれを受ける資格を持っていないのだから。

「いや、大した事ではない...少々息子の身体が気になっただけだよ」

タカヒコに優しく語りかける老人に先程の怒ったような感覚は全く感じられない
むしろ彼に対する愛情と、どこか悲しみを感じさせる表情を見せる

純粋に親代わりとして老人はタカヒコやその仲間達を時に優しく、強く、
必要な時には怒りを見せ何も知らぬまま世に投げ出された彼等を育ててきた

そして、彼等を生かすため...彼等の為に改造手術を続け
異星人と名乗る男たちに協力し、沢山の血の繋がりの無い息子と娘が出来た
しかしそれは、本当に正しかったのかは分からない、ただ精一杯に自分の正義を貫いた。

「...うむ、大したことでは..無いさ。」

もし、この先、異星人との接触が出来なくなれば
彼等に何かが起きないとは言いきれない、メンテナンスは機材があれば行える
しかしその機材にも限界はあるだろう、まして今付いているパーツにも限界はあるはず

様々な不安、危惧される破滅への可能性...胸の中がざわめき
大きな焦りと不安がまるで吹き出すように溢れていた

「あっ...そういえば父さん、この間の夜中の変な音は最近出るって噂の変神様だったみたいだよ
それに何だか異様に巨大なエイリアンみたいな奴が真っ二つにされた...とか変な話だったけど」

新聞をながめながら険しい表情を浮かべる老人にタカヒコが言い放った言葉は
彼の不安をある意味で確信へと導く言葉だった

”この場所”で”エイリアン”が倒された、それは即ち
協力してくれていたエイリアンは死んだと言う事で間違いないだろう
もし生きていたり、別の者が来てくれるとしても時間がかかるだろう

「ほう...そうか、それは大変だ。タカヒコもだが、皆も気を付けるようにちゃんと言っておくのだぞ」

タカヒコに声をかけつつ、老人の脳内は次なる一手をどうするか、という考えが巡る
まず現状は何も起きていない、しかし何かが起きた時
エイリアンがいると解っている以上、彼等を「エイリアンの仲間」として狙う者が現れた時
そして、考えたくはないが子供たちの体に何か異常が起きてしまった時
それを止める優秀な戦力が必要だ

...そんな時、老人の目に新聞に挟まれた広告の一枚が目に留まる
【何でもご依頼受けます・再装填社までご連絡を】
そう書かれた単色印刷の簡単な広告、”何でも”というからには目的に即するかもしれない
老人は藁にも縋る気持ちで、その広告をつかむと、事務所の場所を確認した

「して、タカヒコよ今日は少し出かけてくる。皆を頼んだぞ」

老人が大きな椅子から立ち上がると、出かける準備を始める
表情や物腰は年老いたイメージを感じさせるが
その体は線の細さからは想像もできない程に鍛え上げられたたくましい肉体であり
何もかもがアンバランス、この老人もまた既に人ではないようにしか見えない。

大きなコートを羽織り、その姿は黒尽くめと言った雰囲気
深く被った帽子のおかげで表情も見えず、なにか異様なオーラすら感じさせる

「さて、再装填社...期待に応えてくれるといいが」

まだ肌寒い、春先の朝
老人が外に出るのは何ヶ月ぶりだろうか
指すような光に目がくらみ、視界が戻る頃には外の感触を思い出す

1歩また1歩と歩き始めた先
その足が向かう先にある存在が、大きな因縁と彼等を救った異形の真実を知る存在だとは
老人すらもこの時はまだ知る由も無かった

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「おいおい、これは一体どんなハーレムプレイかな?」

黒い骨のような怪物
人間より小さく、それでいて各部のボリュームはかなりの物
機械とも生物とも付かない「異形」...そんな表現がよく似合う

「いい素材が落ちていたから回収しようと思ったら...とんだご褒美がワラワラ出てくる、実に良いな」

その怪物に囲まれるように、真ん中に立つ一人の男
彼がスッと手を空にかざすと、空中が割れそこから漆黒の空間が現れ
まるで彼自身を食べるように包み込み、その闇が過ぎ去るとその場には
先程とは違う、全身が鎧に覆われたような戦士、重装メイナーが立っている

『...人間?羨ましい?』

『欲しい、人間...それ欲しい』

しかし、その出現に驚いた様子も見せず
何かうわ言にように言葉を放つ黒い異形達
その声はまるで子供のような声で、とても流暢な「人間の言葉」
怪物がそれを放つととてつもない違和感と気持ち悪さを与えてくれる


「俺はお前達の一部が欲しいが...無視されるのは嫌な気分だ」

そう言うと、メイナーの手に握られた2丁のブラスターが軽快に火を噴く
一発、二発...無数の弾丸が確実に命中し、黒い怪物の体を粉砕するが
どういう訳か怪物達はそれすらも意に介さず、辺りを動き、メイナーを囲う
足ある者はそのまま、立ち上がれなくなった者はその場で何かをつぶやきながら

その最中も何発もの銃弾が怪物を貫くのだが
まるでダメージが無いかのように同じ行動を続けている
メイナーに攻撃も仕掛けては来るのだが、その前に大きいダメージを負っているからか
まるで威力がなく、力なく軽く手をぶつけている程度の衝撃である

「何かが..おかしいな、攻撃する意思はあるが規則的すぎる...まるでゲームでもしているかのようだ」

囲んで、後ろに立ったものが攻撃を仕掛ける
ルールが完全に違ってしまっているが、光景だけ見れば「かごめかごめ」に近い
まるで遊んでいるかのように見えるのはそのせいだろうか
しかしその体は弾丸に砕かれている、何かが操っているのか?それとも機械なのか

この動きから感じられることは少ないが、一つだけ解ることがある
この黒い怪物が操られているにしても変身しているにしても
明らかに小さい、そしてこのゲームのような動き、どこか幼稚な口調
...全ての記号ガまだ成長しきっていない者、言わば子供であると示している

「...ま、お遊びと言うのも悪くないな...なぁ、お子様たち」

先程から黒い怪物は打ち抜かれているが
奇怪な声こそあげるが、明確な意志は時折何かを発言する以外は
まるで同じ言葉を繰り返す人形のようで、何も感情を感じられない

周囲を囲んでいる黒い怪物は数にして約十人程
既にそのほとんどが動けなくなりその場にまるでスイッチが切れたように倒れている
姿が元に戻るわけでもなく、消えるわけでもない
即ち、この姿が正常...と言う事なのだろうか...

『ねぇ、それちょうだっガッ...』

最後に残された一人がメイナーによって打ち抜かれ
その両腕が吹き飛ばされる、『アガガッ』とまるで機械が壊れたような異様な声を上げる。

「この脆さ、正に幼き未完成体と言った感じだな、体も脆い...最初は興味深く見えたものだが
これは単なる外敵であって、私の興味の対象ではないな」

その黒い骨のような体は金属のようなものかと思えば
思いのほか軽く弱い、その攻撃も弱々しく、意味を成さない動きも多い
まるで悪ふざけのように周囲を囲んで攻撃するが、それは効果的でも無く
ただ純粋に不快、子供の悪ふざけであり、怒りこそしないが、それを「外敵」と判断させ
目前の弱々しい物の息の根を止める準備をさせるには十分な意味を持っている

『ガッギッ...逃げ、逃げろぉ』

足を破壊されたものが折れた部分から地面に無理やり突き立てて逃げ出そうとする
その声にあわせて未だ息のある僅かな黒い異形が逃げ出そうと動き始めるが
その前方を激しい爆発が襲い、目前の大木を倒し道が塞がれる

メイナーが亜空間より大型の銃を取り出し木を数本打ち倒しその逃げ道を塞いだのだ。
道の先には街がある、そこにに降りられれば何が起きるかは解ったものではない
目的が「人を狙う無意識的な破壊行為」である以上、これは自分の趣味以前に破壊対象になる

「残念だが、お前達の悪ふざけは悪じゃない、それは単なるバカ騒ぎ...来世で反省しろ」

一歩一歩足を進めながら
行き場をなくし動きを止めた黒い怪物たちにメイナーが銃口を向け
そのトリガーを引こうとした...その時

『...タケツミイナコソキデッ!!』

気持ち悪い、そんな表現がよく似合う声が、奇っ怪な言葉を叫びながら突如として響く
そして目前に現れたのは巨大な影、目前の黒い異形とよく似た、しかし数倍も大きくで
そしてなにより強烈で不穏なオーラを放つ異形がメイナーの前に割って入る

が、巨大な異形はメイナーには目もくれず、口であろう部分かヨダレのような液体をたらし
追い詰められていた黒い異形ににじり寄ると
目前の既に虫の息の異形達を何の躊躇もなく食べ始める

「...っ!?何だ?コイツ、仲間ではないな...食っている、いや取り込んでいるのか」

今まで様々なエイリアン、機械、怪物を相手に戦ってきたが
仲間を食う類の敵は初めてである、そして明らかな異質であることも間違いない

目前の自分と同じ存在を食らう巨大な異形
バリバリと音を立てて先程まで動いていた黒い怪物が噛み砕かれる
すると、巨大な異形にパーツが少しづつ追加されて行く

背中から1本生え、更にもう1本、骨が繋がるように伸び
最終的に左右に巨大な爪のような羽にも見える巨大な”何か”が生まれ
先程までいた数十体の黒い怪物は既に跡形もなく”食べられていた”

「目前の異形は敵か」それが一番重要であるのだが
その純粋なまでの衝動によって動く姿に目を奪われ
攻撃するよりも、その存在をより知りたいと言う、衝動がメイナーの頭の中で感情を支配する

「興味深い、この世にはまだまだ知らないバケモノが山ほどいるらしい」

出現させたままの大型ランチャーを軽々と構え、メイナーが目前の異形に銃口を向ける
すると、その気配に気がついたのか異形がメイナーの方へ振り向く
その姿はまるで巨大なカエルと言った風だろうか、特撮番組の怪獣のようにも見える

先程まで騒がしいほどに溢れていた黒い怪物達と同じ素材の体ではあるが
それが構成する形はまるで違う、まさに異形、怪物そのものである

『アッアァァァ...ノモマヤジ?イカハ!』

目前のメイナーを敵と判断したのか激しい雄叫びを上げ
意味の分からない単語の羅列を呟くと
その巨大な口からは生温い突風のような風が激しく溢れ出る

実際のサイズはそこまで巨大と言う訳でもないのだが
その異質すぎるオーラ、そして先程生えた羽が広がっている事で
その姿は実際のそれよりかなり巨大に見える

そして、その巨体からメイナーに向かい羽の先端についた爪が
右から左から、軽快にその見た目には相応しいとは言えない程のスピードで振り下ろされ
更にはその体もまるで感情のままに突進するように激しくぶつけてくるが
あまりに単調なその動きはメイナーに軽々とかわされてしまう

「ふむ..当たらない攻撃は意味のない。極めて無駄な動きだ。
して、共食い。その味は癖になるってのは本当かい?それだけは試せないんでね
...なにせ人には触れるのも嫌なんでね、おっと、そんな話に興味はないか?」

軽口を叩くように質問を投げかけつつ、メイナーはその異形に向かい何度も引き金を引く
異形が放つ爪を軽々とかわし、つま先が地面の砂を蹴り上げると
その砂利を焼くように亜空力のエネルギーがはじけ飛ぶ

通常のブラスターよりも強力な亜空エネルギーの無数の赤紫の帯が
異形を貫く...が、先程までの人間型に比べると格段に固い

「ほう!先程よりは興味の対象になるレベルに達したね」

が、一撃は無駄にはならず各部にはダメージは与えており、少
しづつではあるが、その巨体と硬い装甲に傷を与えるには至っている

『ギィィィッ!?ウツンドッ...ウツンドッ!?』

最初は意にも介さぬように、ただ動く者を追っているようにも見えた異形であったが
その硬い装甲を貫かれると途端に激しい痛みを感じ唸りを上げる

まるでやっとこれが”殺される”かもしれない状況だと気がついたかのように
先程までの激しい動きはなく、異形は弱々しく後方に後退りを始める

まるで獅子舞かのように、先程までとは違い2人の人間が動いているように見える
ちぐはぐな動きはもとより奇怪な姿をより際立たせる。

「愉快な動きだが、それはお前の最後の舞ではないよな?」

明らかに様子のおかしいその動きを絶好の好機と察したメイナーが
一点ににブラスターを構え、先程ダメージを与えた位置に向けて連続で射撃する

金属同士の衝突するような音と同時に、肉の裂けるような生々しい音を立て
青緑の血液が吹き出す、やはり先程の人間型とは何かが違う
機械的な怪物に見えるが明らかに生命的な要素を感じさせるのだ

『ャャャィィッ...ヤチクナゲニッ!』

異形が何かを叫んだと思うと、既にダメージを負い動かなくなった羽を振るい
何とか立ち上がり逃げようとするが、体が動かず何ふり構わず体を振るい動かす

その予想外の動きにメイナーも避け切るには至らず
羽の一撃をストレートに受け、軽く浮かび上がる。

「ぐっ..なんだこいつは、パワーだけは最上級と言ったところか...だがこれで終いだ」

軽く飛ばされた状態のまま、空中で捻るように回転し
異形の羽が届かぬ後頭部であろう部分に着地すると銃口を向ける
流石に異形もこの状況は察知したのかビクっとしたかと思うと動きを止める

トリガーに指がかかり、銃口にはエネルギーが満ち始める
目前の異形が砕け、単なる黒い物体に変わる...そう思われた

しかし、その瞬間を止める存在が突如としてメイナーの背後に現れる

「その子は返して貰うよ...何者か知らないないけどさ」

先程倒した大木をまるでコースのように駆け登る黒い骨のような足
タイヤが付いたまるで骨のロボットのような新たな異形

そのめまぐるしいほどのスピードにはメイナーですらも追いつかず
巨大な異形に銃口を向けた状態のメイナーが背後を取られてしまう

その巨大な右腕はホイール...ナックルかドリルだろうか
構えた瞬間から異様なほどに轟音を立て高速回転している
当たれば無事では済まない威力を持っている事は、見ずとも音だけで十分に把握できる

「今度は何者だ...お前の仲間ならさっきこれに美味しく食べられたようだが?」

軽く「攻撃はしない」という意思表示として手をあげるメイナー
そのままゆっくりと振り返ると、やはり先ほど食われた異形によく似た
しかし、それらよりは明らかに強そうな新たな異形が右腕を構えるように立っている

「違う、僕の目的はそこの僕の兄弟だ」

”僕の兄弟”その言葉にメイナーは非常に興味深い物を感じたが
状況が状況、この状況を打破するには、興味よりも目前の相手を倒す事が重要だ
普通であればどちらも困難だろうが、それはあくまで「普通の人間」に限った話である

「そうか、じゃあ、仲良くさっさと帰んなさいなっ!!」

メイナーがブラスターを持ったまま上げた両腕
その先にあるブラスターの銃口からエネルギーの弾丸が発射されると
その先に開いた亜空の扉出現し弾丸を飲み込み
次の瞬間には2つの異形の目前に亜空の扉が出現し開いたかと思うと、弾丸が現れ、直撃する

「何ッ...ぐがっ!?」

亜空間を通して任意の位置に弾丸を命中させる
本来であればその位置調整は困難だが、メイナーにとってそれは意図も簡単な作業である。

唐突に後部から弾丸を受け吹き飛んだ人型の異形は怪物の方へ勢い良く飛び
怪物は逆に正面から弾丸を受け人型の方へ、そしてメイナーは両名を避けるように上へ飛び上がる
お互いがメイナーの足下を通り過ぎ、猛烈な勢いで激突する...かと思われた

「くそっ、アサコ!シンヤ!掴まれ逃げるぞ!!」

とっさに空中で体を捻った人型の異形が叫び
捻るように回転しながら巨大な異形をつかみ、そのまま折れた大木を利用して足についたローラーで
猛スピードで走り抜ける、巨大な怪物を抱えても尚それを補足するのは難しい程のスピードを出し
まるで黒い嵐が過ぎたかのように駆け抜てゆく

その場に残されたメイナーは、銃を構えるがその姿は既に遠い
当てられないことはないが、逃げる敵を撃つほど飢えてもいない
何より既にその興味は別の思考へと流れ始めている

「予想外だな...しかし、興味はあるが好みのデザインじゃない...それは、別にいいか。
だが、名前は気になるね...あんな名前じゃまるで昭和の子供だ」

先程の人型の異型が叫んだ名前と思われる言葉、まるで人間の名前そのもの
それがあの怪物の名前なのか...では彼等は人間なのか?
何故二人の名前を一つに対して呼びかけたのか

「まずは、そうだな自分で資料を探すのは面倒だ...大首領にやらせ...いや、聞いてみよう」

既に異形に受けたダメージも亜空力が結晶化し回復している
時間制限がないメイナーの場合このまま変神していても良いのだが
如何せん世間の目を気にしないほど、彼も常識がないわけではない
むしろそういった点に関しては一般人以上に己に厳しくルールを決め行動している

「一応大首領にも会いに行くとするか、しかし雑誌を買うだけのはずが飛んだ手間をとらされた
あの黒い怪物の欠片の一つでも見つけられなければ骨折り損と言う奴かな」

周囲を見渡すと銃で撃ち抜いた際に弾け飛んだのであろう
黒い金属のような欠片がいくつか落ちている

娯楽がその欠片を拾い上げると、亜空間の扉を開き
中からガラスのような透明な物で出来たのビンを取り出し
中に欠片を仕舞い、メモ書きに「大首領、調査を頼む」と書くと無造作に放り投げる
便利な物でこれだけで勝手に保管され、とある場所に届くようになっている.

「今回の奴は明らかに異質なのは間違いない、いずれまた会うことにはなるだろうが
倒すべき対象かは、まぁ桃源が決めることだ、それ以外は自由にやらせていただくとしよう」

風に乗り上着の裾がひらりと舞い、先程までの喧騒が嘘のように静かになった公園の奥の荒地
倒れた樹木だけがその様子を残し、また静かな差し日と木陰の世界へと戻ってゆく
残されたのは新たな怪奇、そして未知なる敵か、それとも味方か

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