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突然、亜空の世界に召喚されて何時間が過ぎたであろうか
感覚的には2〜3時間は向こうにいたような気がするが
辺りは先程と変わらず夜の闇に包まれていた

シュリョーンの姿のまま本来あるべき世界に戻った桃源であったが
出てきた場所は先程とは違い、荒れ果て、崩れた建物が並ぶ
まるで災害直後がそのままのような街並みが広がっている場所であった。

「「ここは...裏街...だよな?何故こんな場所に」」

背中の紫の羽からは暗闇の中でも解る塗固められたような黒い欠片を放ちながら
見慣れない、荒れた土地に足をおろすと
辺りは静寂に包まれている、しかし何か異質で異様なオーラが感じられた

既に知っている、そんな気配
圧倒的な重みを感じさせるそれは、確かに以前戦った事のある気配である

「「この感じは...明らかに強い、前に戦ったあのバカ力の奴に似てる..いや、同じ?」」

感覚が記憶を呼び起こす、それは以前対峙した強敵「ギーゼン」の感覚である
内蔵された制御システムもまた同様に過去のデータと照合し「ギーゼン」である事を示している

真夜中の、こんな荒れ果てた一角に何の用事があると言うのだろうか
セオリー通りならば、何かしらの研究施設でも作っていると予測もつくが
そこまで侵略を進めているのだろうか?もし、そうであれば驚異なんてレベルの騒ぎではない

「「少し調べてみるか...しかし変神したままでは不味いな」」

亜空間にいたため時間こそリセットされているが制限時間がなくなった訳ではない
シュリョーンの姿でバランスを維持するタイムリミットは刻々と迫っている
一度変身を解除し、元の姿で偵察に当たるのが得策である

シュリョーンが亜空ブレスに手を飾し変身解除を行おうとした
...その時であった

【高濃度エネルギー感知、コード:<シュリョーン>と適合】

小さな円盤のようなものが何も無い空間に突如現れる
すると各所から同じような円盤が無数に姿を表し
シュリョーンを囲うように各所から続々と姿を表す、そしてその存在を何者かに伝えている

「「不味いな、しかしこれほど警戒しているとは...想定以上に地球に潜り込んでいるのか」」

現れた円盤を出現させたアクドウマルで斬り落としながら
幾つかの路地をシュリョーンが猛烈なスピードで駆け抜けていく

幸い円盤は最低限の武装しか持っていないらしく、次々と破壊されている
しかし、その先にいるであろう異形のエイリアンはこうも簡単には倒せるはずも無い
制限時間がある中で、出来る限り迅速に「倒す」または「逃げる」の選択が迫られる

しかしこの状況で「逃げる」を選択してもそれを成し遂げるのは難しい
...と言うよりは殆どの場合がそうであり「倒す」、そしてその先の選択肢「勝利する」を選ばざる終えない
選べなければそれは「死」であり「終わり」なのだから、気を抜く事なぞ有り得てはならない。

「「この状態で死ぬと葉子が一人になってしまうな...そんな理由でもないよりましか」」

妙に高い建物と建物の間を駆け抜け
黒い影が深夜の闇の中を颯爽と駆け抜けてゆく
その目前・背後、更には左右から迫る円盤に対し刃を振るい、ナイフを投げつけ
既に何十幾かを破壊したであろうか、山のような残骸を踏みにじりながら走り続ける

「「これは明らかに誘導されている、どうやら相手も私の到着を待っているようだ」」

先程から円盤は出現する箇所が決まっているかのように一定の道を塞ぎ
行く道を決められているように感じられる

上空から見た限りではこの先には崩れ落ちた商業施設の跡地が見えた
そこに何かがあるというのか、既に近くもう数メートル先、走り抜けた先に答えがある事だけが明らかだ

「「この先か、果たして鬼が出るか蛇が出るか...」」

軽快な足音が静かな深夜の街の響く
人が住んでいないと言われている死んだ街の中には
実際には数多くの人間が潜み、生活している「壊れた楽園」と呼ばれている場所だ、
しかし流石にこの時間ではその住人達の姿もない

周囲を見回しながら、次第に数も減り始めた円盤を破壊し
その残骸を踏みつけながら目前を見ると、少し明るい長い路地の出口が見える

深夜ではあるが該当があるためか妙に明るく写るその向こうへと駆け出すと
一瞬、すっと抜けるように風が走り、まるで旋風を巻き上げるように流れて行く

だだっ広い空間、目前には崩れ落ちた巨大なショッピングモール
HELLOと書かれていたはずの電飾文字は何の因果かOを失いHELLになっている

「「夢も一度崩れれば絶望に、今日の天国は明日の地獄...か」」

確かに見た目は地獄か何か、災害から数日後の倒壊であったため犠牲者は少なかったが
様々な怨念にり混じった空間であることは間違いない

シュリョーンは足を止めると、静かに辺りを見回し
色を失ったように味気ない景色を再度認識し、その中に自分を呼んだ何者かを探している

「「ここに私を呼び込んだと言う事は、その呼び込んだ本人がいるはずだが」」

誰も居ない筈だが、吹き抜ける風が反響して無数の声が響いているかのような錯覚を受ける
歓声のような絶叫のような、人によって変わる風の声が静かなる地獄絵図に
嬉しくない彩りを加え、その空気は変と言うよりは異様と言った方が相応しい

そんな空間に違和感を覚えていると、目前になにか影が見える
地下に続く階段を上り来る、見覚えのある巨大な影
以前倒した”はず”のギーゼン将軍の姿がそこにはあった



「待っていたぞシュリョーン、この間は随分と世話になったなぁ!!」

問答は無用と言う事か、姿を見せたギーゼンは背中に生えた機械触手を
猛烈な勢いで伸ばし、シュリョーンに向けて勢い良く放つ

何やら武器のような物が付いたその触手に捕まれば
その圧倒的パワーと武装による攻撃で一撃で倒される可能性も十分にありえる
しかしシュリョーンは、その触手を見るや、捕まりにでも行くかのように勢い良く突っ込んで行く

「「パワーでは劣るが、それ以外ならば勝機はある...覚悟しろギーゼン!!」」

走り出したシュリョーンの背中に黒い結晶が集まり割れると
紫色の羽が出現し、軽く浮遊すると猛烈な勢いで前方へと加速する

迫っていた触手がそのスピードに対応しきれず、先端がシュリョーンを追い抜き
それに対応しようと戻るアクションを見せるか否か、シュリョーンが空中で回転すると
背中に宿る紫の羽がまるで刃のように機械触手を意図も簡単に切り裂き空中で四散する

「何ぃ!?己ぇぇぇぇ!!!」

予想外の攻撃に不意をつかれたギーゼンが絶叫する
自身の武器である触手を失い、その巨大な体が地響きを立てながらシュリョーンへと走り向かう

「随分とやるようになった、しかしなぁ!!」

吹き飛ばされた触手を拾い上げ、手に持つと触手が姿を変え
巨大な刀のような姿へと変わり、ブンブンと振るいシュリョーンへと猛烈なスピードで迫り来る

「「一撃で決まるとは思えんが...行くぞ!悪道我五・斬馬一刀」」

加速を続けるショリョーンが自身に向かい来るギーゼンに突撃の構えを取ると
赤紫の光がシュリョーンを覆うように包み、エネルギーを放出しながら更にスピードをあげる

「来いシュリョーン!!バラバラにしてくれるわぁぁぁぁ!!!」

エネルギー体となって猛烈な勢いで突撃を仕掛けるシュリョーンを
ギーゼンが全力のパワーで受け止め押し返すように踏ん張り力を込める
パワーはほぼ互角、ぶつかり合ったエネルギーで先程までの静寂が嘘のように激しい激突音が響き渡る

激しい風に煽られて砂が舞い上がり、猛烈なエネルギーのぶつかり合いに
空気がビリビリと音をたてるように感覚に突き刺さってくる

「「ギーゼン!!貴様らの目的は何だ、ここで何をしていた!」」

ギーゼンの身体を多う鎧が亜空力に覆われ倍近いサイズに巨大化したアクドウマルを受け止め
鋭い刃同士がぶつかり合い音を立てながら、互いがそれを押し返すべく強力なパワーで挑み合う
互いの力が風を巻き上げ、一進一退のぶつかり合いが続く

「貴様に答える必要など無いわぁ、貴様はここで死ぬのだぁぁ!!」

叫びと共に更にパワーを加え、シュリョーンが押し返されるように次第に後方へと押され始める
人智を超えた圧倒的なパワーというのはこのバケモノのような事を指すのだろうか
アクドウマルがパワーのぶつかり合いに悲鳴を上げ今まで以上に大きく激音が響き渡る

「「ぬっ...それはヒーポクリシー流の冗談か!?ならばっ..お前を倒して知るまでだ!!」」

背中の羽から円状にエネルギーが放出され
後方に押されたシュリョーンがギーゼンを一気に押し返し、そのまま刃を跳ね上げる
不意に隙を見せたギーゼンに対し、シュリョーンは地面を大きく蹴り込み突撃する

その背中には既に羽はない、先ほどまでそれを構成していた物は
右腕に移動し、アクドウマルを取り込み巨大な刃を構築する

「「亜空力開放!斬馬一刀!!切り裂けぇぇぇぇっ!!!」」

巨大なギーゼンをも遥かに上回る刃がまるで身体の方を振り回しているかのように
地面に叩きつけるように振り落とされる、刃が通り過ぎた後にはえぐれたように焼け跡が尽き
周囲の空気すらも焼くかのようにバチバチッと激しい音を立てている

同心円上に刃が振り落とされるその刹那はまるでスローモーションかのように
シュリョーンの男女混ざり合った声がまるで音波のように重なっては空気を震わせ
同様にギーゼンの雄叫びと構えた刃の残響音も重なり耳障りな不協和音を辺りに放つ

「己ぇぇっ..これほどのパワーを持っているとはぁぁぁ!!!」

巨大な亜空エネルギーの塊と言った方が相応しい刃が
ギーゼンをその手に持った刃ごと叩き割るよう切り裂く
格段に上昇しているそのパワーは最早以前とは比べ物にならない

...しかし、ギーゼンもその刃を自信に突き刺したまま受け止め、押し返そうと更にパワーを上げる
普通の生命体であれば既に致命傷であるはずだが、その気迫は一切衰えを見せない

「「まだ耐えるかっ...ならばこれが最後だっ」」

肥大化したアクドウマルを一瞬引き、両の腕で持ち直し再度力を最大限に引き上げて押し込む
まるで鋼鉄でも切り裂くような感触が次第に下へと下がり落ちる

「ガァァ..こ..の時を待っておったわっ!この生命にかえてもぉ..シュリョーン貴様は殺してくれるぁぁ!!」

ギーゼンもまたそのタイミングを待っていたと言わんばかりに大きくてを広げ
そのままアクドウマルを握ると自身の半身ごとシュリョーンを遥か後方へと吹き飛ばす
見るも無残に姿を変えたギーゼンの、その身体の三割程がシュリョーンと共に吹き飛ぶ

激しく吹き飛ばされたシュリョーンだが、何とか姿勢を整えると
その目前に映ったのは残された機械触手を使い失った半身を補い
尚もシュリョーンへと飛びかからんとするギーゼンの姿であった

「「何という執念か...しかしこちらもそう安々と倒される訳には行かないっ」」

ギーゼンに与えられた衝撃によりアクドウマルは既に半分程度で折れてしまっている
それと同時に一体化していた制御装置でもあるウイングも破損しており
既に時間制限も近い、赤紫の霧が関節という関節から噴出し既に限界が近いことを告げている

「ぐぬぅぅ...まだだ、まだ奴を破壊せねば...我らの理想を叶えねばぁぁ!!」

まるで最後の叫びと言わんばかりにギーゼンがけたたましい雄叫びを上げ飛び上がる
青いような緑色のような血が雨のように降り注ぎ
光りに照らされ、シュリョーンが放つ霧も混じり最早この世とは思えぬ空間を作り出す

「「その力、お前の信念と共に我が刃が...断ち切るっ!」」

赤紫の霧を切り裂くように折れたアクドウマルを円月状に回転させるように構えると
強く刃を構えたシュリョーンが迫るギーゼンにエネルギーの全てを放ち叫ぶ

「「悪道我一・偽善...一刀両断っ!」」

...一閃、黒い影が四散し、シルエットが浮かんだ後に激しい血しぶきが飛ぶシルエットが映る
溢れ出たエネルギーがアクドウマルの動きに合わせ飛び込んで来る異形を両断したのだ

着地したシュリョーンもエネルギー消費著しくその場に崩れ落ちると
赤紫の霧がその体を包むようにより一層噴出し始める

「「勝ったか...しかし不味いな、このままでは」」

ギーゼンの消滅を察知したか、周囲にはまたしても円盤が多数飛来している
今変身を解けばそれらに簡単に撃ち殺されてしまう
が、変身し続けていても暴走状態になることは免れない

「「万策尽きたか...しかし、このまま引き下がるなら暴走してでもっ...ぐっぬ」」

周囲を囲んだ円盤群に折れたアクドウマルを構えるシュリョーン
既に体中に傷が入り、ボロボロの姿だが亜空力により回復も暴走状態に入ったため作動していない
そして、次第に赤紫の霧はその体を覆い新たな鎧を形成しているように見える箇所もある

そしてまるでひび割れるかのように各部に大きな亀裂が入り
それに伴いように激痛がシュリョーンを襲い、立ち上がろうにも力が入らず
すぐに崩れ落ちてしまう、何とか折れた刀を支えに立ち上がるが既にその体に力はない

その様子を見て次第に円盤群は抵抗しないと見て周囲を囲み
攻撃を仕掛ける準備に入る、今の状態では変身していない状態と左程変わりはなく
数発でも当たれば致命傷になりかねない、最早その生命もこれまでか、諦めか覚悟か思考が頭をめぐる

「最後まで...1機でも多く破壊してやるさぁ!!」

既に混声ではない、桃源の声だけがシュリョーンの口から叫びを上げる
暴走状態に入った瞬間から葉子の力とのリンクを強制的に切るように設定している
あくまでも、葉子を守るシステムであり...最後の瞬間が近い事も意味している。

無数の銃口がこちらを向き、その奥に火花が散るのが見える
そして、その火がに放たれようとした...その瞬間であった

「どうしたのじゃ、お前が諦めるとは珍しいのぉ」

無数の巨大なクナイが円盤群を叩き落すように突き刺さるると
軽快な動きの小さな影が、次々と円盤を破壊する

その姿はよく知っている、しかし何故こんな所にいるのだろうか
まるで幻でも見るかのように呆然とその姿を見つめるシュリョーンだったが
この好機を逃すまい、と最後の力を振り絞り、亜空間の扉を開ける

「イツワ、すまない助かった...最後にもう一助け頼めるか」

「解っておる!...が入っていいのか?って気絶するでない!?ええい!どうにでもなれじゃ」

亜空間にまるで落ちるように倒れこむシュリョーンの手を
イツワがしっかりと握ると亜空間の暗闇に二人が消え去る

円盤から見れば突如現れた影に二人が飲み込まれたように見えるかもしれない
流石にエイリアンの技術をもってしても亜空間の探知は不可能であり
突如消えた二人は消滅したと判断され、倒されたギーゼンの回収に動き始める

果たしてギーゼンは本当に倒すことが出来たのであろうか
身体の大部分は夜の闇に消えたままであり、その末路は未だ不明確だ

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少しの間の漆黒の時間
強い力で腕を引っ張られたまま、シュリョーンがその意識を取り戻した頃
その姿は既に桃源の身体へと戻っていた、ここまでの窮地は過去に例がない

「おおっやっと起きたか、説明せずに倒れこむとは失礼な奴じゃ」

あたりを見回すと、既に見慣れた事務所の中であり
目前には命の恩人であるイツワが座っている

「そうか、説明出来なかったんだっけ...ありがとう、今回ばかりはマジで死ぬかと思った」

「私も驚いたぞ、凄い力を感じたから来てみれば死にかけたシュリョーンがいるのじゃからのぉ」

あの時イツワが来なければ死んでいたのだろうか
暴走するとはあの状態より更に一段上の状態
想定すら出来ない何かが起きる、とだけ言われているが、その詳細は未だ分からない
今回は未知の領域への初めて1歩踏み込んだと言っても過言ではないのかも知れない。

「悪いな、命の恩人にはお茶ぐらい...いや食事ぐらい奢らないとな...ってなんだこれ?」

イツワに礼をと立ち上がった桃源だが、その体には各部に何やら機械のようなパーツがついている
まるでイツワの体の皮膚のようだが、張り付けられているだけで
体が同じようになったわけではないようだ

「おおっそれは我が星での治療法じゃ、よく治る...が地球人に効果があるかは解らぬ」

未知なる物質を張り付けられると言うのは中々の恐怖だが
確かに効果はあるらしく、受けたダメージはほとんど無くなっているようだ
元より既に人かは危ういが、こういう形での異文化交流と言うのもあるのかもしれないな、等と考えてしまう
...まぁ、異文化と言うよりは異星間交流というべきかも知れないが。

「ありがとうな、しかし良いのか?俺達に関わったおかげでどんどん故郷が敵になっているようだが...」

イツワの故郷はシュリョーン達が戦っているヒーポクリシー星であり
彼女はその星の若き皇女である。だが、戦い、彼等を正し地球の支配を止めるように願ったのも
他ならぬ彼女自身であり、確認するのも野暮かもしれないが
一応最終確認の意味を込めて、改めて問う

「それを願ったのは私じゃ、覚悟は出来ておる...むしろお主達をより危険に巻き込んだような気がして
私の方が何やら悪い気がしておる位じゃ、しかしギーゼンすらも倒すとは流石に強いのじゃなぁ」

確かにギーゼンは圧倒的なまでに強かった
だが、今日はその力をシュリョーンが上回って、一時的とはいえ強化武装をして2人がかりで戦って
やっと勝てた相手に一人で戦い勝利した、それは強くなっているのか
それともなにか違う形で変質が始まっているのか、自分でも解らない

...果たしてシュリョーンが自分なのか
それすらも解らない、半分は葉子で半分は自分
完璧に混ざり合った結果生まれたあの黒い異形は誰なのか

二度と元に戻れないかもしれないとは何度も思ったが
葉子と永遠に一つで有るならば、それはそれで幸せなことかもしれないと、むしろ嬉しく思った
しかし、暴走すればどうなるのか...今まで倒してきたような欲に溺れた異形になるのだろうか

その体を構成する物質だけでは何故動いているのかすら解らない、人間という名の種族
シュリョーンはその人間から生まれた、地球の異形第1号なのかもしれない
それ即ちイレギュラー、やはり彼は...彼女は倒されるべき悪なのか、その答えは今はまだ出せない

「自分でもよく解らない、でも今戦えるのは俺達だけだから...それに皇女様の依頼じゃ断れないしなぁ
...っと、さて、準備はいいか。じゃあ命の恩人にご飯でも奢りに行きますかね」

軽く出かける準備を済ませた桃源が、イツワに鞄を手渡すと
その背中を押して、外に出かける準備を始める
外に出ると、イツワはまだ見たことも無い、形容するならばそのまま”美少女”が立っている

「お〜この子がイツワちゃんか、私の命も助けてくれてありがとう!私は葉子、よろしくね!」

見た目は桃源達とは違い、明らかに別系統、この星に合わせて言えば異国の顔つき
この少女は誰だろうか?”私の命も助けた”と言う事はシュリョーン?
イツワの頭が軽く混乱するが、桃源が以前話していた「自分一人がシュリョーンではない」という言葉を思い出し
ある程度頭の中で答えに行き着く

「そうか、シュリョーンの力はお主と桃源で一つになっておったのか、そうかそうか!宜しくの葉子とやら」

差し出された手を握ると、イツワはなぜだか懐かしいような感覚を覚えた
まだ自分の周りが平和だった頃、こんな光景を見たような気がした
ニコニコと笑っている男性と、それに応えるように語りかける女性
そして自分...戦い続ける内に忘れていた感覚だろうか、単なる願望の表れだろうか

いつの間にか機械皮膚に覆われた身体は、その平和な時代をすっかり忘れてしまっている
しかしこの目前の少女は自分の姿が分からないはず、本当の自分を見たらどう思うだろうか
今まで感じたことが無かった、不安のようなものが胸に宿った気がした

「ん?どうしたの?何だか不安そうな顔して...せっかくの可愛い顔が台無しだよ〜
機械のないとこだけ見ても整ってるねぇ、流石皇女様。イツワちゃんは相当な美人さんだね!」

葉子の言葉にイツワはまるで何が起きているのか理解出来ずただ驚きの表情を浮かべる
自分の幻惑の力が効かない、と言う状況は前にもあったが、目前の女性は何も装備していない
だが、そんな事実よりもイツワは正体を見ても尚、自分に笑いかけてくる彼女に驚いていた。

「なんと、私の姿がそのまま見えているのか!?幻惑オーラが出ているはずなのじゃが!?」

「私はね、亜空の世界の人間だから。この世界にいるけどこの世界に存在しない
だからこの世界にある全ての者の本当の姿が見えちゃうのだ!」

本当に未知なる存在は自分だと思っていた
ここは自分が生まれた星ではない、異星。遠く離れた場所で自分が異質な存在になっている
そう思っていたが、どうやら随分と想定とは違ったらしい

恐れられる事を何より恐れた、だからこそ騙すことになっても幻惑オーラを放ち
好意的な姿に見せていたが、まさかそれを破るものがこうも沢山いて
しかもその各々が違和感も抱かずそれを受けえ入れるとは

「ふふっ..ふははっお主達は面白いなぁ、そうか私は美人なのか嬉しいぞ
だが葉子よ、そなたも中々の美形じゃ、桃源にはもったいないのぉ」

歩き始めた3人が賑やかに声をあげながら、今日も何だかんだで平和な町へと降りてゆく
激動と激変の間の安息、その町は悪に守られる町、暗くなると活気が生まれ
様々な人が住み、無数の欲望とそれに反するように穏やかな優しさを宿す街
その中では今日も新たな脅威が生まれ、それと同時に新たな絆が生まれ育ってゆく。

それは正しいモノもあれば、当然間違ったモノもあり
どちらも同じスピードで、同じ強さで進歩してゆく、彼等も...又違う者達も。

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-第6話「変神覚醒」 ・終、次回へ続く。
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