【信じるものは救われるのです】
【我々はあなた達地球人たちと初めて友好を結んだ友だ】

そんな危なっかしい見出しが踊る新聞が未だかつてあったであろうか
宗教組織に特化した物ではあったろうが、全部がというのならば間違いなく『NO』だろう

いくらジリ貧でも新聞ぐらいは...まぁ勝手に入れられているのだが、毎日読む
しかし、この人生で様々な紙面構成を見てきたが、ここまで驚いたのは初めてだ

色んな付き合いでいろんな人に助けられている悪役が言うのも何だが
こんなに...何と言うか、宗教臭い事を書いていいものか?

【ピースリアン降臨!友好的宇宙人は星人か?それとも聖人か!】

終いには思いっきり寒いギャグまで踊るようにデカデカと書かれている
まず何故、降り立つのが日本なのか怪しんで欲しいものなのだが
少なくとも今、紙面の文字を追うその目の主は、彼等をよく知っている

「これは...思いっきり予想外の侵略だよな?」

「うむ、私もまさかそんな方法で来るとは予想外じゃった」

爽やかな朝、珍しくメガネをかけて新聞を見る桃源と
出された朝食と珈琲を戸惑いながら1個1個確認して食べるイツワ
傍から見れば若い男と可憐な少女の穏やかな食事シーンなのだが
桃源の目には彼女が機械が張り付いたような体のトンでもなく特徴的な存在に見えている

「おおっこれは美味しいな、シュリョーンよお前が作ったのかの?」

「ええ、お口に合ったようで何よりですが...その体って機械なの?あとその名で呼んじゃダメって言ってるのに」

「あっスマンの、つい癖じゃ...して桃源よ、私の幻覚オーラが効いておらんのか!?」

新聞をおろした後に見えるその表情、明らかに得意げでメガネが輝いて見える。
桃源かけているメガネは亜空間フィルターメガネである
これをかけることでイツワの幻覚オーラを遮断することで本来の姿を見ることができる
また老眼鏡機能もあり、目の酷使で目が微妙に残念なことになっている桃源には最適なアイテムである

「これかけてると見えるのよ、外すと普通の人間にしか見えないけどね〜...イツワがかけると面白いかもよ」

「これを通してお前を見ればいいのか?どれどれ...ぬおっシュリョーンではないか!」

普段はエイリアンなど、人間に化けることができる「人あらざるもの」を見分ける道具なのだが
割とエイリアン共が正攻法で攻めて来ていたため使用していなかった

...が、既に仲間であるとはいえイツワがその能力を使っている以上
新たなエイリアンが擬態能力を使う可能性が高いため、アキの研究室の奥底から引っ張り出してきたのだ

「で、イツワ様はこれからどうするんだい?行く場所がないなら適当に部屋使ってもいいけど?」

再装填社の事務所は元々大きな倉庫を改装したものであり
その際にアキの趣味で部屋を多めに作ったせいで結構な「空の部屋」がある
葉子や娯楽、アキの使う部屋を差し引いても2〜3室といったところだろうか

「ふ〜む...ありがたいが、もう少しこの街を見てから決めたいのう」

虚空を眺め、少し考えるとイツワは残った珈琲を飲み干し
足早に立ち上がると、事務所内を一周して、まるで頭にその映像を刻み込むように観察し
一通り済むと、桃源に借りた鞄に自分の道具を全てしまい、出て行く準備を始める

「何だもう行っちゃうのか?追っ手とか来ないんだろうな?居場所分からないと助けらんないぞ〜」

「問題ないわい、追っ手なぞ私の手にかかれば赤子も同然よの...世話になった、例を言うぞ」

それだけ言うと、事務所のドアを開けイツワは様々な「変」が埋めく愉快な世界
今は悪に守られている立中という名のひとつの世界に飛び込んで行くのであった

残されたのはドアベルのチリンッと鳴った軽快な音と
かすかに残った朝の匂いだけ、また訪れた静寂に桃源は少しの寂しさを覚えるのであった

「...おっ、驚異の女占い師?数々の死亡事件を予言...胡散くせぇ新聞だなぁ」

ズルッと座ったソファーにそのまま寝るような姿勢になった桃源が見つけたその記事
この時はまだ、桃源自身、この記事が自身にどれほど関わるかなぞ知りもしなかった
しかし、またしても彼にしか解決出来ない問題が起き始めているのだ

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火入国・左右市、立中の隣の市であり、日本有数の研究都市でもある。
様々な研究機関がある日本という国の数々な技術の発祥地であり
現在の分裂した国内の勢力分布において、火入国には欠かせないエネルギー源である

そんな左右市のとある施設からけたたましい警報音が鳴り響いている
看板には「バイオエネルギー研究機関」と書かれている。

その施設に何者かが侵入し、警備員や技術者達を次々と手にかけている
尋常ではない状況、それは考えるまでもなくエイリアンの仕業であることは間違いないだろう
出現した赤いその姿は...形容するならば人形をしたカニの化物と言ったところだろうか

その巨大な右腕が一人の研究者を持ち上げ、ギリギリと締め上げ、何か言葉を投げかけている
相手に対し何かを問い詰めるにしては乱暴な、荒々しいやり口だ

「この施設はバイオ系ね?エネルギー培養炉は何処?さっさと言いなさいな」

怪物らしい、人間とは似ても似つかない突き刺さるような声
研究員はその声に怯え上がり、息も絶え絶えになりながら培養炉への道を指さす
既に目的地は目前...だが、流石に暴れ方が悪かったのか
外からはかすかにパトカーのサイレン音が聞こえている

「あら、もうなの?仕事が早いって嫌ね...」

カニの化物が研究員を目前の窓に投げつけ、叩き割ると
そのままその後を追うように外に飛び出し、夜の闇に姿を消す
左右市や周辺の都市ではここ数カ月そんな怪事件が相次いでいた

「この周辺も潮時か、次は...隣の立中にでも行こうかしら」

暗闇の中から異形が次に目を付けたのは
既に悪が存在する領域、一つの世界に悪は一つ。争いは避けられない

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すっかり寒さも無くなった春の陽気
桃源は依頼を受けて立中市にある発電所まで訪れていた
とは言っても街中にあるため、何か特別な印象があるわけではない

「いや、まぁいつ見ても鉄塔と言うのは大きいもんだ」

日本という国が分裂してからというもの
何かと問題が起きやすいため各地域に必ず電力を作る施設が作られ
食物などもある程度その地域ごとで生産し循環出来るような環境を作るため
様々な活動が行われている。

...しかし3年ではまだそれも不完全であり
やっと電力施設が各地域で建造されはじめている程度なのが現状である

「今回は何が起きるのやら...出来れば面倒は嫌なんだけどねぇ」

立中にまだ問題は起きていない、まだ「今は」であるが
今回の依頼は明確、要はここを「守れ」ばいい
ここ数週間で続発しているエネルギー施設を狙った襲撃事件に備えての事だそうだが
この話が警察に行かないというのが実に末期的である

「まぁ..一人で十分な大きさだよな、人もいないし」

発電所、と言っても急ごしらえの狭く小さい管理室に
これまた急ごしらえで立てた割には大きなタワーがあるだけの簡易的なものだが
立中市の半分程度の電力はここで作り出されている

「前から気になってたんだけど、残り半分ぐらいはどこから来てるんだ?」

掲示板に張り出された記述を見て桃源がふと思うが
その実は、今までの電力供給ラインが小さくなっただけでなくなっておらず
相変わらず日本は完全に分裂していないことを国民があまり知らないだけである

「で、ずっとここにいる訳にもいかないしな...亜空の扉を設置していこう」

桃源が肩に乗せたヨービーに合図を送ると
狭い室内の仕様から赤紫のラインが走り、丸い扉のようなものを構成する
各部に幾何学模様が入ったそれは、次第に黒く色を変え始めている

「亜空の扉、定着せよ」

桃源がその扉に向かい声をあげると
一瞬激しい光を発し、その後、出現していた扉が姿を消す
この作業を行うことで、一定の期間この場所に亜空間を開き
違う場所から、扉のある任意の場所へ来る事が出来るようになるのだ

「ホイホイなー...ピッタリシロ〜」

続いてヨービーが呪文のような何か変な言葉を唱えると、辺りに光が散り
今目に見えて出現していた扉が完全に定着され姿を消す、亜空の力は常人には見えないのだ。

亜空の扉は半亜空人間である桃源が定着させるより、亜空間の生物が行った方が定着率がいい
その実、半永久的にその扉をその場所に定着させることが出来るとまで言われている

これにより、立中市には人には見えない亜空の扉が既に無数に出来上がっている
本来であれば数は少なくすべきであるのだが
エイリアンなどが現状では亜空力も含めた高エネルギーに引きつけられている以上
立中内に止め、最速でシュリョーンやメイナーが打ち倒すためには必要なのである

「よし、これでいい...しかし今回は外から現れてるのか、立中以外にも宇宙人が...?」

「ワカランナー...ア?」

あたりを見回しても何ら変化はない平和な春の午後
こんな場所を狙うのだろうか...まず電気が好物なことにも驚きだが
何分情報が足りない現状であり、それを打破しなくてはならない

「まぁいいや、とりあえず情報を集めながら夜を待とう」

そう言って背を向け歩き出すと、少し強い風に吹かれて
どこからとも無く、桜の花びらが舞う
どんな場所でも、同様に花は咲く、それは同様に戦いの場に成り得てしまう事も示している。

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甲玉ウラという占い師がいる
ここ数週間テレビ番組に引っ張りだこで出演している自称「預言者」である

続発するエネルギー施設襲撃を言い当てており
その的中率から話題を集め、短期間でその姿を見ない日はない、言わば時の人となっている

「占い師か、偶然とはいえここまで完璧だと怪しいな」

情報を求め動き始めた桃源もこの占い師には真っ先に辿り着いた
しかし決定的な証拠はない、その上そんな人物にあくまで一般人である桃源は近寄れるはずも無い
仕方なく彼女の過去の流れを洗うことにしたのであった

「テレビに出ているのは見たことがあるが、まさか預言者とはなぁ
...エネルギー施設関連以外には、いくつかの自然災害も言い当てているのか」

世界的に災害の影響により事件や事故は多くなってはいるが
相変わらず日本は他よりは平和であるため、この一連の事件は連日大きく報道されている
そこに怪しい預言者が登場し見事に答えを言い当てるのだ、目立って当然というべきか

「アキさんは予知夢とか見れるんだよなぁ、おかげで嘘とも言い切れない
しかし、多少他も当てているとはいえ、この事件の関連が明らかに多いのは変だ」

この預言者、見た目が中々美人ではあるが、そのおかげで普通以上に怪しく感じられる。
エイリアンがらみの事件に慣れているせいか、どうしても関連する臭がする
まるで犬のようだが、いい加減エイリアン慣れしている以上、下手な資料よりこの鼻は確かだ

事務所の机に資料を並べ、頭の中を巡らせる桃源であったが
決定的な証拠になるものがない以上、これ以上なにかアクションを取ることは出来ない
取りあえずは現れるというカニのような怪物に動きがあるまでは動けない...

「町に入り込んでくれれば...っと、噂をすればって奴か!?」

亜空ブレスについた警告センサーが激しく回転する
張り巡らせた亜空の扉と扉の間にあるラインにエイリアンが入り込むと
このセンサーが反応して知らせてくれるのだ

「しかし、亜空力については敵も知ってるはず...イツワの言っていた侵略者
...あの、胡散臭い名前の...ピースリアンとは違うのか?」

誰が答えるわけでもないが、机の上で丸まっていたヨービーが頭に疑問符を浮かべたような表情を見せる
桃源が何かを言うときは大体ヨービーが聞いているが、意味は解っておらず
いつも意味不明な返答が来ることが多い

「まぁいいやとりあえずは、行くぞヨービー...変身だ」

警告音とともに中央ダイヤルが回転していた亜空ブレスの全てのパーツが伸び
ヨービーが開いた亜空間の向こうへと飛び込むと
そこから伸びた無数の暗闇が桃源を包み込む
更に亜空間からもう一つの影が重なり、一つになりひび割れ、影が全て割るとシュリョーンが現れる

「「よし、行くぞ...場所は..やはり発電所の周辺か」」

亜空の扉を開くと、いくつかの紫色のラインが道を示す
その道を行けば僅か数秒間で別の扉の向こうへとデル事が出来るのだ

「「時間は約1時間、可能な限り早い決着を狙おう」」

開いた扉の向こうに待ち受けるのは
果たして如何なる存在か、未知なる敵は扉を抜けた直ぐ向こうに既にいる

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巨大な腕、爪のような腕がふるい落とされ
頑丈な発電施設の扉を意図も簡単に切り裂く

巨大な上半身を持ったその異形の怪物は
機械が並んだ室内を見て、歓喜の表情を浮かべる
この異形は電気を好み、無限に「食べる」事が出来るらしい

「さぁ、さぁさぁ!いただきま〜す!!」

解りやすい怪物の声をしている、甲高く耳障りな声だ。
その姿はお世辞にもカッコいいなんて事はない
まして可愛らしいとも程遠い、まさに異形という言葉がふさわしい

「「食事前に悪いが、そのご馳走は皆の物だ、独り占めは簡便願おうか」」

赤いカニのような化物の首筋にゾワゾワと這いずるような感触と
鋭い刃物が当たる独特な緊張感が走る
亜空の扉を抜けて、その姿を発見したシュリョーンが背後に迫っていたのだ

「なっ...誰だおまっ!?」

驚いたように声を上げ、背後のシュリョーンに目を向ける異形の者
その表情は人間のそれとは明らかに違うが、一つだけ解ることがある
それは明らかに「焦り」が見え、「驚愕」している

「「目前のご馳走に目が眩んだのは良いが...隙だらけだな」」

そう言うか否か、刃が猛烈な勢いで引かれ、
その勢いで異形の者の右肩から青緑色の血が吹き出し、絶叫する

「いぎぁっゃゃゃゃッッっ!!?ん”なぁんなのよアンダァッ!?」

まるでサイレン音かのような高い声、だが、先ほどまでの明らかな怪物の声とは違う
人の声...女性の声のように聞こえるその叫び声は違和感すら感じさせる
エイリアンがこんなに人らしい声を出したことは過去には一度も無いのだ

「「その声は...お前人間なのか!?」」

跳ねるように痛みに暴れる異形の姿が、かすかに人の姿と重なって見える
流石に容姿までは判断出来るレベルではないが
どうやら本当に人が変身しているらしい、そんなタイプまでいるとは驚きだが
ではその変身能力は「誰が」、そして「何のために」与えているのだろうか

疑問は尽きないが、今は目前にいる異形の”人間”を打ち倒し
その正体や力をどう得たのかを確かめることが先決だ

「ギギッ...んっぐっ...正体を見られるわけにはいかないのよ」

ダメージを負った腕をかばうような姿勢で立ち上がった異形は
既に先程までの不安定な姿ではなく、元の姿へと戻っている

「「話を聞かせてもらおうか...!」」

その正体を探るためシュリョーンが手を伸ばした刹那
目前にいたはずの異形の姿がこつ然と消える

次の瞬間、シュリョーンに背後から空間が歪んだように
何かが激突しシュリョーンにダメージを与える

「「ぐっ...なんだっ!?これがお前の能力か」」

かと思うと、後ろのドアが蹴り開けられたように吹き飛び、風が吹き抜けてゆく
まるで空気にでもなったかのように一瞬にしてシュリョーンの後ろに立っている
その予想外の能力に不意をつかれ、膝をつき崩れたシュリョーンに向かい
異形の手から無数の光弾が放たれる

「よく分からない奴、このまま死ね!!」

瞬時に移動し上下左右、360度すべての位置から飛んでくる光弾
数発は避けることが出来たが、流石にシュリョーンを持ってしても直撃は避けられない

「「...己!?しかし光弾の根源を断てばっ...亜空ナイフ!」」

光弾の合間を裂くように亜空ナイフが飛ぶ
放たれた光弾を貫き、若干威力こそ落ちたものの
逃げようとした異形にナイフが深々と突き刺さり、またしても絶叫を上げる

「何ッ!?...アガッ!?...ギィィィあんた何なのヨォォォ!!!?」

腹部に刺さったナイフを無理矢理抜き、噴出す奇怪な色の血液意にも介さず
姿を消したまま異形は当たりの機会に向け光弾を放つと、爆発を起こし
その火に隠れるように逃げ去っていったが、その派手な色の血液は道しるべのように残されている

一方シュリョーンは激しい爆発に巻き込まれ、屋外に吹き飛ばされるも
煙の中に浮かぶ透明な"何かの姿"が確かに見えたのを確認する

幸い光弾の威力もダメージを負っていたからか高くはなく
爆発に巻き込まれても変身解除するまでにも至らなかった事は救いだったと言えるだろう

「「逃がした...が、血の跡。そして煙の中ではその姿は”浮かびあがって”いた」」

窓からは炸裂時の軽い爆発により煙が濛々と湧き出てはいるが
発電施設への爆発の影響は少なく、敵の能力を推測することも出来た

が、仕留め損ねた事実は変わらない
シュリョーンの存在を知らなかった事からもエイリアンでありながら
ピースリアンとの関係は薄いとも考えられる...次の出現場所の予測は困難になってしまった

「「出現さえさせれば...姿を映しだすことは容易、エネルギーを餌に炙り出すか」」

発電所の入り口に貼られた地図に目をやったシュリョーンは
その位置関係を確認すると、確かめるように呟き
再び亜空の扉に飛び込むのであった...

---

亜空の扉を抜け、事務所に戻った桃源がふとつけたテレビの画面を見て
80%の可能性があった疑念が100%の事実であったことを知る
この騒動を言い当て続けた自称「預言者」である「甲光ウラ」が失踪したと言うのだ

「やっぱりか...あの口調、一瞬姿がぼやけた時の感じ...どうみても女だった」

失踪した、即ち、あの後ダメージを負いながらも戻っていない
どこかで生き絶えたか...或いは回復のためにエネルギーを狙って見境なく動いているのか
どちらにせよ面が割れている以上素顔では大きく動けない
逆にエイリアン状態でも目立ちすぎて動けない...が、姿を消すことができる

そこから導き出される答えは一つ
生きているならば間違いなく「もう一度エネルギー施設を襲いに来る」
それだけは確かであろう、問題は何処に現れるかに集約される。

「しかし人間ってのは単純だね、そう思わないか作り屋さん?」

ドアの呼び鈴が鳴ると、見知らぬ男が立っている
手には大量の手紙と、ダラリと緩んだた皮のベルトが見える
こんな知り合いはいただろうか?...依頼者かもしれないが

「お客さん?悪いね、既に依頼が入ってて...数日待てるならいいけど」

「...依頼じゃないさ、お手紙だ」

手紙、至って普通の封筒...何も書かれていない
開けてみるが、なかには新聞記事がいくつか
そしてメモ紙のようなものが入っている...”悪の戦士をご招待!”と書かれている

「おい、これは...って、いないし...お約束すぎだろ」

人が突然消えるぐらいは割とよくある事である
ある時を境にこの町はそんな世界になっていた
まるで怪物になる適正がある者だけを隔離しているように
だからアイツが宇宙人でなくても、少なくとも此処にくるような人間は驚きもしないだろう

「んで、内容は...あの預言者の記事か、随分とまぁ良い扱い受けてんだな」

記事には「神の子降臨」「この世を救う存在」等と随分と誇張した表現と
それに対しての絶賛の声、更にはそれに便乗した商品など
数々の「輝かしい」情報が描かれた記事が詰め込まれていた

よく見ればメモ書きの字は固いような幼いような、そして慣れていない感じがする
...もしやと裏面を見れば、案の定、「手土産じゃ」と書かれている
どうやら騒動を察知していたらしく、色んなところで見つけた記事を送ってくれたようだが
ほんの2日間で...既に馴染んでいるのだろうか、恐ろしい順応能力だ

「なるほど、さっきの郵便屋はイツワの幻術と言うわけか...本人は今どこにいるんだろうな」

その頃イツワはある人物と出会い、また別の騒動に巻き込まれるのだが
それはまた別の話、今回はあくまで「預言者」という名の歪んだ正義に集中しよう。

「まぁいいや、有り難い...おかげでこの預言者様の動きを推測できそうだ」

イツワからの切り抜きを並べて生まれる法則性
預言者が行ったことが実際に起きているが、防げてはいない
行動範囲は火入国に限られ、しかも立中と隣の左右市、井睡市だけ

極めて狭くそれでいて大きすぎない規模の被害で、目立った事件ではないが
現在の日本において各都市の生命線たるエネルギー施設を狙うと言う点は
注目を集めやすく、身近である以上市民の反応も得やすい

更には”自身の手は血反吐で汚れない”と言う点と
この預言者の正体があの蟹のような異形であれば”食糧確保”が出来る
自作自演でお腹も膨らむ、破壊目的の動機としてはこの上ない条件だろう。

一連の事件は同一犯と想定されるが、何らかの影響により”襲った者の姿は見られていない”
そこから導き出せるのは当然、あの異形が持つ「姿を消す能力」

深く考えずとも預言者と異形の2つは解りやすく繋がっている、疑うこともなく
あの異形の正体は「甲光ウラ」で間違いないだろう

「自分の名を上げるためにメディアに騙されやすい人間の心理を利用した...って感じか
自作自演でここまで上手くやればもう随分と満足だろ、そろそろ潮時を教えてやらないとな」

大体の情報は出揃った、問題は次なる出現場所だ
既に一度遭遇している立中の発電施設をもう一度襲うとは考えにくい
しかし敵がいると解った相手がまず向かうであろうと予測が容易であり
既に敵が待ち構えている可能性の高い別の市の施設を狙うとも考えにくい

「次の予言は町の中、そして未知なるエネルギーが狙われる...か
発電所以外の大きなエネルギーがある場所...まてよ、まさか亜空力を!?」

立中市は宇宙人に目をつけらるほど天然物の亜空の扉が無数にあり
当然ながらその扉から力も溢れている、火黒点を中心に各所にポイントがあり
新たに桃源たちの手で作られた人工の亜空の扉も無数に存在している

それらに気がついて、狙いを定めたのだとすれば違和感はない、しかし亜空力は「人を選ぶ」
異形の者であり、亜空の世界を知らない者が使えばどうなるかは分からない代物でもある

「亜空力が狙いならば、ほおっておいても自滅する可能性も高いが...
周辺の被害を避けるには..やはり倒すしか無いか」

早速、亜空ブレスからモニターを出現させると
ここ数日間で最も亜空力の濃度が高いポイントを割り出す
その場所は、タイミングの悪いことに商店街のど真ん中
上手く惹きつけてその場から引き離しつつ戦うことが最重要課題となる

「場合によってはシュリョーンのエネルギーで惹きつけるしか無いかもな」

人が多い場所で姿を見られるのは問題だが
敵が時間を選んでくれるわけでもない...が現れる時間を操作すること位はできる
要は"エネルギーが多い時間"を夜に無理やり設定してしまえばいい

シュリョーンがその場でエネルギーを開放すればそれ自体は簡単である
...が、それまでに出現されても当然アウトとなる、作戦は慎重さを要求される

「お山の大将...とは違うが、何かこう虚しくないのかねぇ、完全な自作自演じゃないか。
でも、本当に倒すべきはそれを行える力を与えてる奴...と考えれば可哀想な奴なのかもな」

正しい善行も一度間違えば偽善となり、悪もまた同様である
その事は桃源もよく知っている、数々の歪みを見続けることで
そして自身も大事な物を奪われたことで痛感している。

彼女は世間的には「正義」、と言うよりは「善人」だ
しかし実際は自身の予言を自身で引き起こしているに過ぎない

欲に溺れ力を間違った方法で使い
自分を正当化することは果たして正義だろうか
それでも人に愛されれば正しいのか?

「それが俺が倒すべき、間違ったモノ...それが偽善か」

日の光も若干陰りを見せ始めた昼下がり
桃源は椅子から立ち上がると、並べられた資料を軽く片付け
来るべき戦いの為の準備を始めるのであった。

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空がオレンジ色に染まる夕暮れ、太陽が眠りにつき始める時間
帰る人や買い物をする人、この町は賑やかである
運良く火入国は災害の被害が比較的に少なく、有能なリーダーや住民が多かったことで
日本が分裂してもなお、即座に自らで立ち上がり復興したため
他に比べ回復も早く、極めて速いスピードで過去以上に発展しているのだ

「いつ歩いてもいい雰囲気だよなぁ...おっ今日は結構店が開いてるな」

面倒事を解決しているからか、それとも関係ないところで愛想がいいからか
桃源はこの町の人間とは非常に仲がいい...顔が広いと言うべきか
何か困った事があるとすぐ事務所に人が来るのも
商店街の人間が「再装填社」なら何とかするだろうと教えているからと言う部分も大きい

「おっ桃源ちゃん、今日は嫁さんはいねぇのかい?」

「あぁ今日は一人だよ、あっそうだ、今日の夜は例の予言によると危ないらしいぜぇ、出歩くなよ〜」

普通に歩けば声をかけられる、それを利用して人々に
「今日の夜は危険」であることを頭に植えつけておかねばならない
都合よく”例の予言”があるおかげで話は早い

「あれマジなのかい?それ不味いな、桃源ちゃんも気おつけねぇと」

「なぁに、俺はほら最近話題の金色の変神さんが知り合いだから、いざとなったら来てもらうさ」

シュリョーンはその出現頻度の高さから流石に隠れきることも出来ず
町では「金色の変神」と呼ばれて親しまれている、都市伝説か妖怪のようなものだと思われているらしい

今までこの町を守ることも含め戦っていただけに流石に有名になりつつある
その名前の由来は街に現れる変な輩を倒してくれる謎の存在だから
...変態を倒す神様を略して「変神」なのだそうだ

「じゃあ、他のみんなにも外に出ないように言っといてな〜」

軽い調子で桃源は町のはずれまで歩いてゆくと
亜空の扉を開き、無数に張り巡らされた亜空間への扉を幾つか繋ぎ合わせる
流石に長時間、街中で戦うのはリスクが大きすぎると判断したためだが

この扉にエネルギーを乗せれば広範囲に亜空力のエネルギー波を感じさせることができる
そして既に予言としてある程度場所が指定されている
奴が戦った時に感じた亜空力の味を知ったのであれば...まず間違いなく網にかかるだろう

「んじゃ、後は力を開放するだけか...後..2時間ってところか」

辺りはすっかり夜の闇が包んでいる
シュリョーンが本来あるべき世界、悪が最も得意とする景色
この暗闇に、眼が痛い程に赤い異形は果たして現れるのだろうか?

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