女王と呼ばれる存在は、いつの時代も国民に愛され、敬われる愛すべき象徴
しかし、その存在も国民から選ばれた、と言うことは同じ生命体でしか無い
心が弱い者、傲慢な者、無能な者...そして、可能性を秘めた者。
時にそういった、「イレギュラーとなり得る」存在も生まれる事は珍しくない

同じ存在であるからこそ愛されるが、同じ存在であるからこそ些細なことで攻撃の対象となる
それは人間でも異星人であっても変わらない、”知的”生命である故の宿命か、性か。

ヒーポクリシー星人にもそれは存在し、皆から愛される素晴らしい指導者である
が、この星の場合は歪んだ環境と、何より彼女が若すぎた事が
その先に続く、力による支配と侵略の歴史を産んでしまったのかもしれない...

「もうすぐ地球に付きますぞ、イツワリーゼン様」

小型の宇宙船の船内、それに見合わぬ大きく飾り付けられた玉座に
銀色の鎧のようなものを全身に付けた小さな...女の子だろうか?人物が座っている

その横に立った細長い機械とコードの集合体のような何かが
自分は生命体であると言わんばかりに、声を発し、座る少女に声をかけている

「言われずとも分かっておる、思っていたよりもずっと綺麗な星なのじゃな...地球だったか」

意識はあれど心ここにあらず、そんな言葉がよく似合う
退屈な長い旅、銀色の剥き出しの機械に覆われたこの船は
いくら上流階級のための特注船とはいえ、楽しい事などあるはずも無い

イツワリーゼンと呼ばれた少女は目前の巨大な窓から地球を臨む
何か興味を惹かれたのか、高くそびえた玉座から駆け下りると
窓に手をつき、既に目前に迫った大きく輝く地球と対峙する

「鮮やかな色、こんな色が無数に生まれた星ならば、きっと人々も感情豊かなのじゃろうな」

自身の星では見たことが無いような鮮やかな青色
表面は緑や茶色、白い部分もある、目移りするように眺める内に
最初は虚ろだった表情も、その姿見に見合った輝いた瞳と生き生きとした動き、反応を見せる

「...あの中には、世界を変えるものは、可能性はいるだろうか」

呟くように小さな声で、イツワリーゼンが何かを言った気がした
しかし、彼女のお付きである機械のような者はあまりそういう事に敏感ではないらしく
先程からイツワリーゼンの方は見ているが特に何をするわけでもなく
顔に見える位置がなにかニコニコと笑っているように見えるだけだ

退屈な日常を送る彼女にとって、初めて異星を訪ねたと言う、奇跡に近い状況と
その綺麗な星に魅了され、その中にいるであろう人々にイツワリーゼンは想像力を働かせる

「あれは何じゃろうか?小さな緑の...土地?陸地から切り離されて小さい...?」

今まで見てきた星は既にヒーポクリシー軍が支配した荒れ果てた星たち
地球のように大きくないものがほとんどであったが、美しくて見入るなんてことはなく
ただ純粋にその状況を見てイツワリーゼンは「何かが違う」と感じていた

「...この綺麗な青も、私が出向くことでまた消されてしまうか?」

彼女がその星に降り立つと言うことは「支配の準備が出来た」と言うことである
その星の生命体とコンタクトを取り、表向きは友好であるフリをして
内部に入り込み、操り、そのまま一気に支配してしまう

彼女はいつもそれを止めようとしても、巨大な力の前には傀儡になるしか無く
目の前で苦しみ、時に死にゆく者を見て涙が止まらなくなったこともあった
もうそんなものは見たくない、そんな気持ちが常に心を支配している

「可能性が、私を...世界を変える可能性があるのは、きっとあの小さな場所じゃ」

過去を含め様々な出来事が思い出されるが、
そんな彼女の目に唐突に入り込んで興味を引いたのは
ちょうど少し上の見えていた「日本」だった
小さく、全てから切り離されたその姿が何故か自分と同じように見えたのかもしれない

「私自身が変わらねば、何も変わらない...私の手で救うのじゃ。
決めた、あの中から未来を、ともに戦う仲間を見つける...んむ、あやつなら振り切れば行けるじゃろうて」

自分だけが地球に降り立ち、先に危機を知らせ、ヒーポクリシーに対向できる者を見つければ良い
そう思ったのはホンの数日前、地球に向けて出発した頃に夢で見た、お伽話のようなアイディアだった

しかしそれでもなにも出来ないよりはいい、動かない弱虫な自分は何より嫌いだと
彼女はなんども頭の中で、不安とそれが間違いではないかと言う葛藤に活を入れ
自分を奮い立たせて覚悟を決めてきた。
そして、今日の正に今その計画を進めようとしていた...まずは「脱走」、シンプルな計画だ

「よし...今なら、全速力なら行ける!」

手をぽんと叩くようなアクションを見せると
くるっと振り返り、イツワリーゼンはまるで風のように異様なまでのスピードで駆け出す
目指すは...「小型分離艇」

彼女もまた鍛え上げられた戦士である、それゆえの足が早く
小さく軽い体は音もなく行動出来する事に長けている、地球的に言えば忍者のようだ
動きの遅いお付きが”気がつくこと無く”目的地に向かうことなど容易かった

「上手く行った、このまま一気に地球まで降り立つのじゃ」

狭い艦内を瞬く間に走りぬけ
小さな一人用の脱出艇に操縦桿を握る
流石に警報が鳴り始め、モニターにはお付きが写され何かを叫んでいる
よく分からない顔をしているが、多分青ざめたように見える

「悪いとは思っておる、じゃが...我が星の行い、それはもっと悪い事。私自身が止めねばならぬ、許せ」

だが彼女が立ち止まる理由などそこには無かった、聞こえるはずもない詫びの言葉をつぶやくと
ゲートを開けるスイッチが押される、小さな円盤型の分離艇は
猛スピードで宇宙へ飛び出し、そのまま前もって入力されていた目的地
目前の地球、その中にある日本のど真ん中を狙ってスピードを上げ進んで行くのであった。

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分割国家・日本内、火入国・立中市。
少し暖かくなり始めた冬の終りは、この立中市が生まれた季節。
広い市内はその全てが「生誕祭」と呼ばれる祭りで沸き立ち
楽しいことならば何でもありの数週間を過ごすそんな季節だ

今日もまだ朝の8時を回った頃だというのに
昨夜から騒ぎ続けている祭ばやしやなにか騒がしい声が
町外れの「再装填社」の事務所にまで微かに聞こえていた

「この時期は依頼なんて無いよな...暇でいいわな」

麗らかな、それでいて芯に少し鋭い寒さを暗示させる風が窓から入り込み
椅子の上でグデッとダラけた形をとる桃源が誰にでも無く呟く
皆が笑い続け、腹筋をその笑い声と呼吸で鍛え上げる忍耐と幸せのお祭りの間は
普段から陰気な依頼が多いこの事務所に人が来ることなどまずありえないのだ

「葉子もこの間のシュリョーンスーツの改良でエネルギー使っちゃって出てこれないしなぁ」

先日の蜘蛛型やギーゼンとの戦いに備えて葉子や亜空の獣は材料集めや打ち合わせに奔走し
本来出る必要のない現世にまで出現して動き回っていたため、
現世と亜空間をつなぐエネルギーも消費された影響か、一時的に繋がりが薄れ呼び出すことが出来ない

それどころか著しくエネルギーを消費したため、本当に困った時のために温存している分以外は
下手に連絡すら取れないレベルであり、半ば強制的な充電期間を設けているのだ。

「変身もできないし、今宇宙人共が来たら不味いけど...まぁボスは倒したし大丈夫だろう」

最低限というのは「1回の変身が出来る程度」言わば1時間分のエネルギー量だけを残している
今回に限ってはメイナーも同じであり、何かが起きれば危険ではあるが
亜空の獣や葉子、アキから見ても前回戦い、深手を負わせた「ギーゼン」がボスであろうという判断から
しばしは安全であろう、と言う事で一時的に充電期間を設けることとなったのだ

「おー?モモちゃんなんかウルサイなー?外、なんか変ぞ?」

桃源の言葉を聞いてか聞かずか、机の上で毛糸のボールで遊び転げていたヨービーが
急に外の微かな喧騒に耳をすまし始める
ヘンテコな日本語をつぶやきながら、太鼓の音に合わせて体を動かしたりしている
やはり獣だけあって人より数段耳はいいらしい

「気になるなら行ってみるか?どうせ暇だし...屋台とかそういうの位あるだろ、多分」

ビクっと驚いたようにヨービーが桃源の方に勢い良く振り向く
ヨービーが理解したのはあくまで「楽しいことがある」程度であるが
彼(彼女かもしれないが)はまだこの世界のことをよく知らないが、そういう事を見分けるのは上手い
ある意味、桃源や葉子によく似ていて
二人に引き寄せられて運命を共にする事になったというのも頷ける部分がある

「オーオー!行くゾ!よく知らないけど楽しいソレ!」

明らかにテンションが上がったヨービーを尻目に
桃源が軽く出かける準備をすると、その前にと誰かに連絡を入れている
何もたまにしか外に出ないのはヨービーだけとは限らない
そう、”彼”も呼び出し、たまに太陽光に当てないといけない存在だ

「やっぱ出ないか...あっ娯楽ちゃん?祭りに行くから今すぐ来いよ、たまの休みだし」

留守番電話の機械音声の後、ピーと言う音が鳴り
録音体勢に入り、桃源が要件を言い終えると、突如通話ボタンが押された音がする
大体いつもこうだ、ある意味究極の相手確認方法と言える、用心な事だ

「あえて人が多い処に行くのか?なにか興味深いものでもあるのか問いたいところだが」

予想通りの返事が帰ってくるが、この場合間違いなく「来てくれる」パターンである
長い付き合いと言うものは人の天邪鬼すらも用意に判別を可能にさせる
悪なら尚更...と言うのは今回は通用しないかもしれないが、似たような物で案外解るのである

「まぁその状況を楽しめって奴よ、火国点なら人もいないだろうから...1時間後に集合な」

返事が来るか来ないか、電話を早々に切る。切らねば話している間に1時間過ぎてしまう
全てのことは円滑に早々に...上手く行く時ぐらいはそれを実現したいものである。

大体、彼等はいつもこんな調子だ。
たまには普通の一日を見せてみるのもいいかもしれない
...そう思ったのだが、そうも行かないのが悪役軍団の性なのか

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陽が高い時間ともなれば太陽が随分と近くなり始め、冬の空気など何の事かとでも言いたげな春の陽気
相変わらず火国点はその異様な雰囲気で実際より肌寒く感じさせる

一度、亜空への扉は閉じはしたが、未だに亜空力が集まりやすく時折開いてしまうため
定期的に亜空の力を操ることが出来るものが様子を見に来る必要がある
今日はそのついでに、待ち合わせの場所にここが選ばれたというわけだ

「...なんだ?亜空力がいつもより強いな、周りの騒がしさに煽られたのか?」

亜空ブレスから光の板のようなものが出現し数値を示している
このディスプレイもまた亜空力を応用したシステムであり
亜空間とつながりが薄い今日は使えない...はずなのだが、火国点に入ってからは使用できている

「なぁなぁ桃ちゃんサー、ココすげーお腹すくナー?」

「ヨービーも感じてるのか...また扉が出来ちゃってるのかねぇ」

ジジッと音を立てるセンサー類、その数値は通常より0が1個多く明らかに異常
しかし繋がりが薄い現状ではこのレベルの数値でやっと変身が可能になるレベルであり
今日なにか起きればこの場の力を借りることになるのは間違いないだろう

「まぁ、今日1日は利用出来るかもなぁ...師匠もいないし、1日様子見だな」

桃源の瞳は先程から赤・青・緑とあらゆる色に変化している、体異常を示す証だ
濃度の濃い亜空力は生身で浴び続ければ何かしら体に悪影響を与える
桃源もシュリョーンの変神するようになってから、全身に「人間ではありない」異常が起きている
彼自身の体を次第に亜空が侵食していると言っても過言ではないだろう

「ちょっと浴びすぎたか、まだそっちに行くには時期が早い」

亜空ブレスからディスプレイが浮いて割れるように消滅すると
軽く一息つくように桃源が腰を叩き、伸びをして歩き出す

「桃ちゃんさっきからオメメがいろんな色ダナー」

「怖いか?でも変身してる間はお前もこれになってるんだぞ〜」

桃源と葉子とヨービーは変身している間はシュリョーンの媒介となっている
言わば現世と亜空を繋ぐ橋の役目をしている、シュリョーンの引き金というべき存在だ

ただ装着するメイナーとは違い、亜空の世界の住人と融合する、しかも命の数だけ見れば3つも重なりあう
その結果として近い将来”何か”に変わっていくそんな可能性だったあり得るのだ
シュリョーンは未だ危険なバランスで成り立っている

「ン〜?よく解からんゾー?」

「まぁ解らんだろうねぇ...ってお前凄い伸びるんだな、胴長...ネコ?兎?なんなんだろうなコイツは」

桃源がヨービーを持ち上げると胴体が伸びる、バランス的にはネコのそれに近いが
耳は長く、模様はオレンジ、何より人語をしゃべる上に亜空世界の動物は生物とは限らない
その為ヨービーは「未知なる何か」と称するのがふさわしい、そしてそんな二人に影が段々と迫る

「...急に呼びだすとは愚かな...って何をやっているお前ら」

ヨービーと戯れる桃源の目の前に娯楽が現れる
約束の時間丁度といったところだろうか、流石に暖かくなってきたためか服装はライトなものだが
ちょっと外に出るには随分としっかりしており、今日もまた完璧を体現している。
その雰囲気たるや、変神しなくても十分に戦えるのではないかと思わせるほどだ

「何って、飼い主と飼い謎生物とのふれあいじゃぁねぇですかい旦那」

声がした方に同時に振り向く一人と一匹
付き合いが長いからなのか、どことなく顔が似てきている気がするが、雰囲気の問題だろう
別に見たこともないような動物がいることには驚くことはないが
娯楽もまた火国点の様子がおかしいことに気がついたようで、塀の向こうに目を向けている

「別に何をして待っていても構わんが...何やら此処は威圧感があるな、さっさと離れるべきだ」

重装システムは装着者には影響しないのだが、亜空間に触れていることは間違いない
娯楽もまたそのこの場の持つ感覚の異質さに気がついているのだろう
桃源の変化にも気がついたのか、その場を離れるように提案すると手をサッと振り
動くように合図する動きを見せる、彼なりに心配している事は間違いない

「あいよ、さっさと行きましょうかねぇ...むぅイカン、焦点が合わん」

先程から桃源は亜空力の影響で半変神状態に近しい状態となっているためか
本来、葉子が入り込む分、要は体の半分が異常に機能している
そんな状態でよろけながらも娯楽、ヨービーと共に喧騒の中へ向かうのであった

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一方、所変わって遥か上空、地球を覆う大気圏
1機の宇宙船が今にも地球の中に入り込もうと必死に頑張っていた

巨大戦艦から脱走したイツワリーゼンの乗る宇宙船だ
操縦は出来る上にオートモードこそあるが、脱出用の機体であり
立派な耐熱性能など持ち合わせていないため実に過酷な状況となっている

「ぐぬぬぬぬ...熱い...体が既に真っ赤ではないかぁ」

彼女の全身を覆う鎧のような鋼鉄の皮膚が熱を受けて真っ赤になっている
ヒーポクリシー星人は如何なる環境にも耐えられる強靭な肉体を持つが
感覚が無いわけではなく苦痛はあるが死ににくいだけに過ぎない

強靭すぎるためか宇宙空間や現在のように大気圏突入すらも可能であるが
感覚の感じ方は人間に極めて近く、今の状況は純粋に「辛い」

「「大気圏脱出まで後5秒」」

電子音声がイツワリーゼンに嬉しい報告を告げるが
その音声も何処か歪んだように聞こえる、機体も想定外の事態なのか
既にボロボロであり、この層を抜け出た後、重力のある大地で果たして飛行可能かは分からない

イツワはひたすら頭を巡らせたが、何故経験不足の少女である彼女には知識がなく
その考えに結論が出ることなく意識が飛びかけるのを抑える、それが精一杯であった

「きっとなるようになるのじゃ...う〜己ぇ!さっさと抜けぬかぁ!!」

最早気合だけと言った感じの強烈な叫びと共に操縦桿が前に倒され
一気に宇宙船がスピードをあげると、何か圧力から抜け出たように
吐出されるように機体が飛び出し、強烈な負荷と共にまだ遠い地面へ猛烈な勢いで落ち始める

危険数値を示すランプが点滅し、安心する暇もなく、更なる窮地がイツワを襲うが
彼女にとってその窮地すらも未知なる冒険の、知らない世界への壁であり
何故かワクワクしている自分がいるのが鏡を見るように見え、解るのだ

「このような所で死にはせぬ!目指すは...あの力あふれる地点...ソーサー分離じゃ!」

最早制御不能の機体から、小さな移動用ソーサーが分離する
その距離既に地表が数千メートルと迫っているだろうか、思った以上に引き寄せられている
即座に脱出しなければそのまま彼女の命も終わるだろう...が、そうは行かない

脱出用とはいえ、着陸先の移動・探索を想定しているため、通常の小型艇と同じく
移動攻撃用の小型ソーサーに更に分離が可能になっているのだ

「...おっ!おおっ!!思っていたより良い空気じゃのぉ」

ソーサーが起動したことにより、その身を地球の外気に晒したイツワリーゼンは
先程までの高熱状態から一気に冷やされ、その影響で大気中の水分が蒸発し
まるで彼女を包み込むように霧状の水蒸気が全身から吹き出ている

しかし本人はそれを気にする様子もなく、目前に広がる地球の景色と
吸い込んだ空気の思っていたより澄んだ美味しさに感嘆の声をあげる

「綺麗な景色じゃ...しかし先程から何か強烈な力を感じる...あの島の中心辺りだったかの?」

当初は落ちてしまう予定では無かったため
もっと高い位置からしっかり確認した上で降下する予定だったが
何分、予想外のアクシデントに襲われたため、既に地表が随分と近く
目星を付けていた「力を感じる一点」は気配から察知せねばならなかった

しかし、その地点んは周辺に草木一本も無かったため
探すのも容易だろうと判断したイツワは意気揚々とソーサーを操る
一般兵用のため、少々小さいがイツワ自信もまだ幼く体が小さいため扱いには困らない
しかし、高所用に作られていないためかどんどん下降している事に彼女は中々気がつかない

「さて、さっさとあの地点に向かうのじゃ...じゃって、あれ?なんじゃ?」

次第に足元にあったはずの木が自分の目の前に迫っている
気がついた時既に遅し、ソーサーは大木にぶつかり、激し音を立てながら落下し
イツワも木に引っかかってしまった

「あっくっ...いっ痛っ...なかなか上手くいかないものじゃな〜」

半分泣きかけたような声をあげると
丁度その大木の横を通り過ぎる人間に声をかけようとするが
流石にいきなり見られても不味いと、一旦踏みとどまり
瞳を閉じグッと念を唱えるように力を込める

「おっと..いかんいかん、これをしておかないと上手くいく計画もダメになってしまう...っと!」

すると全身から淡い緑の光が漏れ出し
周囲に爆発的な勢いで広がったかと思うと即座に消える
これはイツワリーゼンが生まれ持っている「順応幻惑」の力であり
降り立った惑星の生命体に対し、自身の姿が最も「友好的」な姿に見えるようにする効果がある
ヒーポクリシー星でも数百年に一人、しかも王家の血を持つもの日しか現れない能力である。

地球の場合は彼女の年齢に合わせた言わば「美少女」の姿といったところか
イツワ自身がその姿を確認すると、独特なそのラインに驚き少しその場で身を整えから
何度か咳払いをして声を確認する...問題はないようだ

「うむ、これで大丈夫じゃろうて...お〜いそこの者よ〜!!」

彼女が声をかけた先にいたのは、存分に祭りを堪能した桃源達であった
突如数メートル上の大木から声をかけられ、驚いた様子で上を見上げると
何故か少女が釣る下がっていると言う異様な光景が目に入る

「えっ..あっ...え〜!?おいおい、お嬢さん大丈夫か!」

驚いたまま声をかけた桃源が高く手を伸ばすと
ギリギリ届くか届かないかの距離、イツワも手を伸ばしそれに応える
ずるっと落ちるように引っ張られたイツワをそのまま抱えると、それを娯楽が支えるように押さえ
二人を安定させて、なんとか姿勢を保つ、どうやら怪我はないようだ

「まるで空から落ちてきたようだな...興味深いが、見た目より随分重いな」

お姫様抱っこのような形になったイツワだが、地球の文化とは違うため別に意識することもなく
普通に状況を受け入れ、「おおっ」と驚いたように軽く声を上げる

手を掴んだままの桃源が、頭についた葉っぱを取ろうとすると
瞬間彼女の姿が何故か一瞬、機械に覆われた異質なものに見える

「...ん?まだ目がいかれてるのか?」

驚きこそしたが、人の顔を見て厳しい表情をするわけにも行かず
とっさに顔を作ると、先程までの目の不調だろうと判断し、軽く顔を横に振り意識を整え
落ちてきた少女に声を掛ける

「大丈夫?なんであんな高いところで吊るさてたんだ?」

あまりに異質な状況の場合、エイリアンの仕業の可能性もある
桃源と娯楽は彼女の次の言葉に息を飲んだが
彼女から出た言葉は想像以上に簡易なものであった

「...解らぬ!それに私は重くなぞない!」

キッパリと言い切った言葉に、何故か納得してしまう
そして何故か妙に威圧感と言うか、敬わねばならない感じが漂う
不思議な存在感があるが、正体不明のミステリアスな感じもある
整った顔つきもあってか、その存在感は高貴なオーラを漂わせている

「して、お前達。ここは何という場所でお前達が何者かが知りたい」

突然の言葉、その範囲の広すぎる疑問と
言葉以上に偉そうな言動、それに負けない品格あるオーラ
彼女は一体何者なのか、いつものように面倒事がつきまとうのだが
今回の場合、いつもと違って戦わない分、安心は出来るが面倒な状況かもしれない

「...桃源よ、これは俗にいうフラグと言う奴ではないのか?何フラグかは解らんが」

そしてなにより今回困っているのは
その状況を更にかき回すことの出来る仲間が存在し
更にはそれ以前に異世界の生物であるヨービーまでいる事なのだが
今の異様な状況下に置いて、彼等は桃源にとってとても心強い味方である事は間違いなかった
...欲をいえば葉子がいてくれた方がいい、とは思っても口には出せないのだが。

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Re:Top/NEXT