--- それから数十分後、 事務所に戻るにも随分と遠く離れていたため 郊外の馴染みの喫茶店に入り込んだ3人だったが、その空気といえば極めて異質 個性が3つ、あらぬ方向に突き出したような組み合わせである 「でだ、まずお名前ぐらいは聞きたいんだけど...よろしいですかなお姫様?」 道中、その物言いとなぜか漂う高貴なオーラ そして彼女自身が「私は姫じゃ」と宣言した事から 既に呼び名が「お姫様」になっている、初対面でこんなに馴染んでしまうというのも 何だかおかしいような気がするが、なぜかそれはあまり感じない 「おおっそうであったな、私は異星より来た者で名はイツワリーゼンという、イツワでよいぞ」 「あっあぁ、そっち方面で...って、宇宙人なの!?」 あまりに自然に正体をばらされた為か、思わず動揺する桃源 見た目も人間らしく、少々格好は派手だがそんなに変な点はない いわば完璧な擬態というべきか...元々人間と同じような姿なのか? しかし先ほど見えた機械に覆われたような姿の件もある...疑問が頭を走る しかし、桃源の横に座る娯楽は驚いた様子も見せない さも当然といった風に、イツワの方へ目を向けると、コーヒーを口に運び 軽くため息を付いて桃源に軽く言い放つ 「いや、気が付くだろ、あんな場所に人は引っかからんぞ普通」 この状況を改めてみると、混乱しているのは桃源だけかもしれない 妙に偉そうなオーラが2つ桃源に刺さっているように感じられた。 ...イツワと名乗った少女は、娯楽によく似ている気がする 勿論見た目から何から何まで違うが、接した感触が妙に近い 「そうだったのか...全然気づかなんだ...しかし、こんな友好的な宇宙人初めてだなぁ」 桃源があっけらかんと、言い放つ イツワは彼等が亜空戦士であることは知らない それ故彼等があまりに当たり前に「宇宙人と会っている」と言うのが驚きであった 教えられた地球という星の知識では「異星人とのコンタクト経験はない」と記されていた ならば彼等は一体何者なのか、イツワは興味があった。 もしかすると、彼等が力あるならば、母星の行おうとしている愚かな行為を止められるかもしれない 淡よくばそこまで考えて、発展しすぎたと軽く首を振って、その考えを否定する しかし彼等に向けられるイツワの視線は何処か期待に溢れたものであり 必死に隠そうとしているが、それを隠しきれていないと言った風だ 「宇宙人と言っても驚かぬのだな...もしやお主達、既に異星人と会ったことがあるのか!!」 身を乗り出すように目前の二人に大きな瞳を見開いて問いかける 本当に見た目だけなら、至って普通の中学生か高校生ぐらいの少女であり 今までの宇宙人たちとは明らかに違う、しかし桃源は先程見えた彼女の姿が気に掛かっていた 「あぁ確かに見た、と言うか戦っている...というより君も、同じなんだろ?ヒーポクリシー星人...違う?」 直接聞いていいものか、この質問で折角友好的な宇宙人と戦うことになるのではないか? かなりの不安こそあったが、ここで話を進めなければ、まともな異星人との会話はこれが最後かもしれない そう思うと、自然と単語を繋ぐように彼女に答えを求める質問を投げかけていた 「うむ、そうじゃ。私こそヒーポクリシー星第11代皇女イツワリーゼン、一応権力者だ」 帰ってきた答えは驚愕するしか無い内容であった、彼女こそが敵の大将 少なくとも最高権力者の一人であることは間違いなかったのだ その言葉を聴くや娯楽もその状況に思わず不敵な笑みを浮かべている 「あら〜...思ってた以上に凄い人が...その、お姫様が何故こんなところに?」 予想以上の答えを前に、桃源が彼女にさらなる質問を投げかける 皇女クラスの人間が何故地球の、しかも片田舎の木にぶら下がっていたのだろうか ...果たして彼女は本物で、事実を語っているのかも怪しい まして姿すら実際に見えているものが信用出来る物ではない可能性が高い 果たして彼女は信頼に価するのか...それの目的は何かが重要になってくる 「何故と聞くか?そうじゃの、単刀直入に言えば私は強い者を探しだし、我が星の軍隊を倒して欲しいと考えておる 勝手な話だと言うのは分かっている、だが私は力も知識もない...だからその力を得るために逃げてきたのじゃ」 極めて真剣な表情、そこに偽りの類は一切感じられない 間違いなく彼女が語っていることは本当だと言うのは言葉とその表情から明確に伝わってくる 解るのだが、彼女の言葉から得られたに敵の内部が 想像していたよりも遥かに混乱を極めていることに、新たな驚きを感じさせる そんな桃源と娯楽を尻目の、更に言葉は続いていく そしてその言葉は、メイナーとショリョーンである二人には衝撃的な宣言であった 「私と戦ってくれぬか?力を見極め、戦える戦士を探せなばならぬのでの...協力してくれるか」 キッと強い表情を見せるイツワのその表情は確かに今まで戦ってきたエイリアン達のそれに近く 異星人であることが明確に解る者であったが、明らかに違うのは それが「敵意」では無く、正体を見抜いた上での「好意」と「願い」であることが大きく、安心感すら覚えさせる 彼女は二人が亜空戦士であることには気がついてはいないだろう しかし、彼等が力を持つ存在であることを直感的に本能で理解している もしそうでなければ、彼女は今まさに嘘をつき騙しに来ていると考えたほうが良いだろう 「勿論だ...だけど、そんな戦士どこから見つければいいか検討がつかないな?」 白々しいかとは思ったが、あくまで彼女は桃源と娯楽が亜空戦士である事は知らない 明かす必要も感じない...と言うよりまだ流石に完全に信用はできない 今はまだ、その正体を隠しておくべきである、後から判明しても問題ないだろう 「なっ!?何を言っておる!お主達からは何か力を感じっ」 桃源達を仲間にしようと協力を願った筈なのに なぜか話が違う方向に流れ、イツワは焦ったように言葉を押しこむが その更に上に言葉を被せるように娯楽が割って入る 「...ふむ、それならアレはどうだ?毎年恒例の祭りのメインイベント」 娯楽が目前の柱に貼られたポスターを指出す その内容は「市内最強決定戦」と書かれている 確かに過去にこの街にはヒーローが存在していた、そして悪もいた 数々の戦士がいて、それに対応して人々も強くなった...が、あまりに無茶苦茶な風習である 「...俺さ、前から思ってたんだけど、あの大会って物騒じゃない?」 まるで話の流れに飲まれたようにイツワがポスターを眺めると そこにはなにやら求める者が集まっていそうな内容が記載されている 「ほう、...なんじゃ楽しそうじゃの!なるほどのぉ、周辺の強者が集まるわけじゃのぉ」 かつてのヒーロー「ファクタル」が死んでからと言うもの 数々の犯罪に対して恐れをなした市民に対してファクタルの勇気を思い出し これからは自分たちの意志で戦っていこうと言う気持ちを呼び起こしたい ...と言う経緯があるらしいのだが、凶器こそ使えないが公認の喧嘩に近い異種格闘技戦だ 「良いじゃないか、と言うより好都合だ。ここで探そう、良いだろ桃源よ」 「おっ...おお勿論、これほど好都合なことも無いわな」 開催は今日の夕刻から、夜通し行われるが 大体毎年、「黒い悪」によって大体の人間が気絶させられて即終了のイベントである ポスターも今年は黒い影にニヤリと笑ったような大きな赤い口の魔人が描かれている 当然これはシュリョーンの事なのだが 町人たちは今度こそと毎年、彼に勝とうと必死になってトレーニングをしてくるため 年々シュリョーンも相手が大変になってきているのは事実であった 「桃源、ここは騙し通せばいいんだな?後は毎年通りで頼む」 「悪いね、自然に合わせてくれると思ってたけど最高のアシストだわ」 ヒソヒソと離す二人を見て、不思議そうな表情を見せるイツワであったが 運ばれてきた料理を口に運ぶと、その味に感動してしまい すっかり二人のことは頭から消え、猛烈な勢いで食べ進めてゆく 彼女にとってまともな味のする食事というのは「初めて」であった、最早夢中である 「...猛烈な勢いで食べてるが、何か見覚えがあるな」 「あぁ、なんかこう、家の女性陣を思い出す...なんか他人と思えないよなぁ」 豪快な女性が多い再装填社において彼女は非常に馴染むのではないか そんな感触を覚えつつも、夜に向けて、2人と新しい異質な友人の計画がスタートした 未だ完全には信用はできないが、シュリョーンと対峙した時、彼女が見せる反応が何よりの答になるだろう --- |
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辺りも薄暗くなった頃、街頭が道を照らし、道がまるでその物が光っているかのように輝きを放つ いつもならば全てが点灯しているわけではないのだが 祭りの期間中はすべてが点灯し、夜間でも街中は極めて明るい光りに包まれる 闇の世界が光の中に存在する、一年間でも数少ない期間がこの祭りの開催期間中である 本来であればその活動が一般人には知られることのないシュリョーンも この期間中だけは様々な場所に出現するため、祭になると現れる精霊か妖怪ではないかと噂される事もある 「「...姿が見えても驚かれないのは良いことだ」」 普段は誰も近づかない火国点にほど近い不毛地帯を利用して 「市内最強決定戦」の舞台が設営されている すでに桃源はシュリョーンの姿となっているが、火国点から亜空力が溢れ出ている為 力の暴走は起きず、むしろ亜空間内にいる状態と変わらないため、極めて安定している ただし、この一定域からから出てしまえば、通常と同じであり、限定的な制限解除と言える 「「しかし、この姿も...すっかりこの日だけは欠かせない物になっているな」」 先程から通り過ぎる人間がこちらに気がつくと軽くお辞儀をしてきたり 人によっては実にフレンドリーに話しかけてまで来る 興行に来たプロレスラーとでも思われているのかと思ってしまうが 彼等はあくまでシュリョーンの事を「悪」として認めた上で必要だと判断し受け入れている ...とはいえ、それはこの日だけの設定としての話で、普段とは別なのだが 設営を手伝おうかとも頭には宿るのだが、そこまでしてしまうと 流石に素性がバレてしまう可能性もある、一応は王者である立場を利用し 堂々と腕を組んで威圧感で相手を圧倒するのが筋であろうと踏んで、今は木に寄りかかっている 「むっ...お主、中々強そうじゃの。どうじゃ手合わせ願えぬか?」 何をするでも無く、様子を見ていたシュリョーンの真横にいつの間にか 全身が機械に覆われたかのような異質な姿の少女が立っている 一瞬躊躇したが、桃源の記憶の中にこの姿は記憶されている。 そう、イツワを抱えた時に一瞬見えた幻覚の姿その物だ シュリョーンの頭の中で葉子の知識から情報が送り込まれる 解析によれば彼女からは特殊なオーラが出ており、人間の姿では幻覚を見せられていたらしい 要するにこれが彼女の正しい姿、と言う訳だ 「「構わんが、それはあの舞台の上で...宜しいかな?」」 既に準備のほとんど終わった相撲の土俵のような舞台を指さすと その周りには既に腕っ節の強そうなメンツがぞろぞろと数十人ほど揃っている それにシュリョーンとイツワが加わるのだが、当然ながらシュリョーン以外にはイツワは普通の少女に見えている そのため、何かものすごく違和感がある空間になっていることは間違いない 「うむ、解っておる!して、お前が話に聞いているシュリョーンじゃな?」 イツワがシュリョーンの前に立つと、その手には巨大なクナイが握られている 緊迫したシーンのはずなのだが、その根元には値札がぶら下がっており いまいち決まっていない、と言うより面白い光景である 「「仲間を倒し続けていることを恨んでいるのか?...後、それ1500円なのか?」」 意外な安さに驚愕を見せるシュリョーン 気がついて若干焦るイツワだが、これがついているのが正解なのか間違いなのか分からずオロオロしてしまう そしてメイナーが遠くから2人を見ているのだがまだ気がつかれていない 「別に構わんそんな事は...と言うより感謝しておる、奴等は改造され 意思を奪われ戦い続けねばならなかった、お前が倒してくれなければ心では辛さを感じたまま 永遠の時間を傀儡として生きていただろう...彼等の魂の開放を感謝している」 イツワから語られたのはスノッブの正体であった 今までエイリアン全てが自らの意志で侵略行為をしていると思っていたが 実際は黒幕が作り上げた傀儡を使い組織的に侵略活動を行っていたと言うことらしい 「「そうだったのか、しかしそれでは何故、今刃を向ける?...やっぱり、それ私も1個欲しい」 「ええいっもう値段は良いじゃろ!刃を向けるのは我が星での戦友の証という事じゃ! さぁ後は手合わせだけじゃぞ、手加減などいらぬからの!」 クルっとクナイが回転し、鋒がイツワの方を向き、そのまま腰に装着される 一応大会は武器は禁止されているが、今後の戦いでは使うと言うことなのだろう ...ルールを理解していない可能性も存分に考えられるが 「「では、最後の戦いで会いましょう。まず負けないと思いますが、油断なさらぬよう」」 「勿論、怖気付いて逃げるでないぞ。期待はずれでは困るからの」 会話が終わる丁度のタイミングで大きな花火が上がる 「市内最強決定戦」の開始の合図である ...が、すでにシュリョーンの存在が明らかであり、圧倒的であるため 参加者は5人と言ったところだろうか、シュリョーンは決勝の相手であるため、その数人とイツワの戦いだが 人目にはか細い少女であるイツワは非常に浮いていると言える 「「...フィルターを掛けると面白い戦いなのだろうな」」 用意された無駄に豪華な椅子に座りながらシュリョーンが大会の様子を観戦している 【さぁ今年も始まりました最強決定戦、今年は誰が優勝するのかー!!】 高いトーンの実況が、無駄なまでに場を盛り上げる 今回はトーナメントではなく、広い土俵の上で全員が一斉にぶつかり合う形式である ...当初はトーナメントだったのだが、年々参加者が減ったため去年よりこの形式であり 昨年はアキが一人で全員を倒したのだが... 「かかってこい!私が直々に相手してくれようぞ!!」 四方に配置された参加者がスタートの合図とともに一斉に開いてを選び戦いを開始する ...と同時に、イツワがど真ん中に飛び出し 高らかに宣言すると、早速の一撃を加えようとしていた参加者達が一斉にイツワに目を向ける 【おおっと、大穴のイツワ選手!大きく啖呵を切ったー!大丈夫かー!!】 普通の人間から見れば、片側おさげのにTシャツにロングデニムの整った顔の少女であり 参加者全員がそう見えている、その為全員が手を出せずにしばし硬直する 「なんじゃ情けない、ではこちらから行くぞ!!」 イツワが目前にスッと手をかざすと、軽く呼吸を整え 一目散にまずは目前にいた巨漢めがけて飛び上がり、まるで踏み台にするかのように飛びかかる 「ぐぇっ」と声をあげるど台座替わりとなった巨漢の上から更に高く飛び その勢いで遠く前方にいたマスクをかぶった男に強烈な飛び蹴りを食らわせる 【これは予想外、予想外だぁ!イツワ選手さながらTVヒーローのごとく2人を片付けたぞー!!】 ほんの一瞬、細く身軽なその体を生かした攻撃で2人の大男を倒してしまう 残りは3人、既に若干おじけづき、ジリジリと後方へ下がっている、先程までの威勢はない 「骨がないのぉ、次は...そうじゃ、あれを試してみるかの」 ニヤっと不敵な笑いを浮かべると イツワは地面にぐっと足をつき、両の拳を合わせ力を込める すると彼女の周囲を砂煙が多い、白いオーラのようになって拳の周りに巻き上がってくる 「よ〜し!そこのお前、ちょっと痛いぞ、覚悟はよいな!!」 イツワの圧倒的な戦闘力を前にかなり距離をとられている しかし彼女が次に取った攻撃方法は意外な遠距離攻撃だった 「はぁ...っ!!せいっ!!」 巻き上がり拳の周りに浮き上がっていた砂が一瞬野球のボール程度のサイズになったかと思うと イツワはそれを全力で殴り吹き飛ばす 【おーっと!?これはどうした事だぁぁぁ!?イツワ選手が拳を振るっただけでダメージを与えているーっ!?】 形状こそ崩れはしたが無数の砂がまるで弾丸のように遠くで構えていた男に突き刺さる 小粒の砂ではあるが相当な勢いで粒が直撃し、目前の男が悲痛の声をあげ悶え苦しむ そこに更に続けて左手からも同様に一撃が放たれ、止めを刺される 「ぬぅ、両手でやっとか...まだまだじゃの...で、次はどっちじゃ?」 「ひぃ」と声を上げた屈強な2人の男 その表情は最早イツワより可愛らしいと言える状態で、見ている側からすれば悲痛な物でもある しかし彼等もそれなりに腕に自信がある、咄嗟に両名が顔を合わせると大きく頷き 猛烈なスピードで左右からイツワを挟みこむように雄叫びをあげながら仕掛けてくる 「おおっ威勢が良いではないか!左右からか...では、こんなのはどうかの?」 両名がイツワに拳をぶつけようと大きくてを振り上げた瞬間 その中心をイツワが駆け抜け、すれ違いざまに2人の拳をつかみ そのまま回転するように周り、2人を振り回すように体を捻りその勢いで回転する 人間の女性...いや、男性であっても出来ない力任せな大技である 「ぬっ...っだらぁぁぁぁ!!」 そのまま両者を空中で激突させ、はるか遠くへ投げ飛ばし 重なるように2人の大男が倒れこむ 【何ということだ、この大会、大きな嵐が来ております!!イツワ選手勝ち抜きダァ〜!!】 場外...でもあるが、まず立ち上がることが出来ないだろう 最早規格外の強さで5人の出場者をイツワはいとも簡単に片付けて この戦いの勝利者、すなわちシュリョーンへの挑戦権を意図も簡単に獲得してしまった 「これで全部...おや?もう少しいたような気がしたが?シュリョーンよ、人が減ってはいないか?」 戦える相手がいなくなった土俵の上でイツワが疑問を浮かべ、目前のシュリョーンヘ疑問をぶつける 当初、出場者は美少女の参加で数名増えていたのだが、イツワの最初の一撃を見て逃げ出していたのだ 「「逃げましたよ、もの凄い勢いで...後、実況うるさい、彼女と戦う間は黙ってていただこうか」」 座っていた椅子からシュリョーンが立ち上がると ほぼ真横で叫び続けていた実況に指を指し警告を下してから イツワのいる土俵へと足を進め始める 「おおっやっとか、さぁお前の力を見せてくれ!」 迫るシュリョーンに対し、期待の色を高めるイツワ 最早、戦いは始まっていると言っても過言ではない その2人の気迫を前にすれば先に止めるまでもなく実況も喋る事が出来ずにいた 「「ヒーポクリシーの皇女よ、その真意、この戦いで確かめさせてもらおう」」 シュリョーンがイツワの前に立つと、軽く頭を下げる、しかし顔は相手の方を向けている それに習うようにイツワも真似て頭を下げお互いに顔を合わせる形となり その直後、シュリョーンは拳を、イツワは足を勢い良く繰り出しお互いにぶつけ合う ビリビリと気迫のようなものが張り詰める 腕でイツワの足を受ける形となったシュリョーンがそのまま足をつかみ回転させるように投げ飛ばすと イツワも姿勢を崩さずそのまま地面に手をつき、自らをロケットにように押しだし強烈な一撃を放つ 「「ぬっ...流石にいい動きをするじゃないか!」」 「此の程度で根を上げるようでは困るぞ!!」 更に追い打ちをかけるように高く飛び、遥か上空から両膝を下に向け 勢い良く降下する、機械皮膚が鈍く輝きシュリョーンに迫る 「「外した時のことも考えないとはね」」 既に立ち上がり姿勢を立て直していたシュリョーンが迫り来るイツワに向けて軽く飛ぶと 半回転し体を捻りこんだ蹴りをそのままぶつける ギリギリと金属がぶつかるような音が響き、空気が刺さるように張り詰める 想定外の攻撃に吹き飛ばされるイツワであったが そのまま宙返りで着地すると、砂を払い、自らの足に受けたダメージをみて驚きの声をあげる 「おおっ素晴らしいぞ!私の攻撃を跳ね返し、更には一撃与えるとはの」 一撃与えたとはいえまだまだ余裕を見せるイツワ その一撃を与えた部分は赤熱状態となっている、技と技のぶつかり合いで熱が発生しているのだ そしてそのまだ熱い足が大きく踏み込まれると、再度シュリョーンに向けてイツワが飛び込む 強烈な拳と足が幾度となく繰り出され、シュリョーンはそれを既の所で回避する 一見シュリョーンが一方的に押されているような構図となっている しかし実際には、攻撃を受け流し同じタイプの技で反撃されており イツワの全身が次第にダメージを蓄積してゆく、しかし目立った大きな技は何故か使用しない 「先程からなにか手加減をしておるのではないか!?先程から私の技を返してくるばかりじゃぞ」 シュリョーンはイツワの攻撃を的確に返している...が攻撃を返すばかりで 自分から攻撃をまだしていない、まるで動きを見極めるかのようにその攻撃一つ一つを反発させている イツワはその様子見をされているような感覚に業を煮やし 次第に攻撃のスピードを早め、一撃一撃の威力も増している が、それは若干の隙を作り、それに応じて技を返すシュリョーンの攻撃が次第に姿を変え始める 「「解ってはいたが、やはり本気で故郷と戦いたいのだな、その為に来たのだと」」 一瞬の隙をついて、正拳がイツワに直撃するとそのまま後ろに軽く飛ばされる 怯まず前を向くイツワに対し、シュリョーンが再度その真意を問う それは同時に「次が最後の一撃」であることを示しているのをイツワも理解している 「勿論だ、私はもう...無駄な戦いなぞ望まぬ、だから力を貸して欲しいのじゃ」 イツワの心からの叫び、彼女が臨むもの、本当の真意を確信したシュリョーンが イツワに向け強く拳を振り上げると、体制を立て直したイツワもそれを迎え撃つように拳を放つ 激しくぶつかり合った二つの拳から強烈な力のぶつかり合いによる波動が飛び気迫が飛び散る 互いの力が溢れ出すように周囲に風を起こしたかと思うと、一瞬の静寂が訪れる イツワがニッと微笑むとシュリョーンはその手を崩し、イツワの手をとり強く握る イツワもそれに答えるように握り返すといつの間にか彼等の戦いに見入っていた 観客たちからは大きな拍手が巻き起こる、決着こそついていないが熱い友情の握手に 意味もわからぬまま何故か皆が感動していた 「「勿論だとも、共に戦おう皇女よ」」 すべてを悟ったシュリョーンはイツワにともに戦うことを誓う そしてそれを見守っていたメイナーも安堵したように闇の中へ消えてゆく もしものことがあれば即攻撃を加えるために待機していたのだが、その必要はなかったようだ 「「今日から彼女が真の王者だ、街の者よ新たな仲間を愛してやって欲しい!」」 シュリョーンがイツワを抱え揚げると、観客たちが大きな歓声を揚げる 市内最強の存在が認めた新たな最強の戦士にして、この街の新しい住人である彼女を 最も効果的な方法で皆に知らしめ、ここで生きて行けるように印象付けたのだ 「シュリョーンお主...すまぬ、恩に着るぞ」 「「仲間だからな、困ったことがあれば再装填社を尋ねるといい」」 それだけ告げるとシュリョーンは亜空間の狭間へと姿を消し去る 残されたイツワは、その夜、街の仲間達と朝まで騒ぎ明かし親交を深めたと言う 変な人間が集まる立中市にまた新しい”変神”が増えた夜の出来事であった。 --- シュリョーンとイツワの激しい戦いから一夜明けて 再装填社の事務所はまた静かな朝を迎えていた 「ふぁ〜..っと、流石に昨日のダメージが残ってるなぁ..ってイツワ!?」 桃源がいつものように看板を出すために軒先に出ると 入口の前でイツワが崩れ落ちるように眠っている 「おいおい、なんでこんな所で寝てるんだ...取り敢えず中に運ぼう」 予想外の状況に混乱するが、とりあえず中に運び込むと 昨日与えてしまったダメージ跡が痛々しく残っていることに気がつく 「あ〜あ、悪いことしちゃったなぁ...傷薬効くかな?」 事務所のソファにイツワを横たわらせると、傷薬を取り出し傷を拭き 絆創膏や包帯で処置をしておく、人間の姿に見えているから治療はし易いが 果たしてあの機械の皮膚にこれが効果しているのかは分からない、しかし何もしないよりはましだろう 「...ぬっん...ここは?おおっ!お主は...そうじゃ、シュリョーンの中身!」 ガバっと起き上がったイツワから放たれた言葉は桃源にとっては衝撃的であった ”正体が見抜かれている!?” 狼狽えたが...よく考えると彼女の場合ばれていても問題ないか 「なんで...解ったんだ?正体は明かしてないのに」 「何でも何も、私はオーラで解るのじゃ、それに拳から知り合いの感じがした、要は勘じゃけどの」 勢い良く起き上がったからか傷が痛むのか、笑ってみせるが若干辛そうなイツワをなだめて寝かせると 桃源は先程出したばかりの看板を中に入れ、【定休日】の看板を置く その足でアキに連絡を入れ、彼女に的確な治療法がないか手配してもらう段取りを取る 「仲間になったんだ、何でも遠慮なく言ってくれよ...えっと、イツワ..でいいんだよな!」 「勿論!恩に着るぞシュリョーン...仲間とは良いものじゃな!」 軽く体を起こしたイツワが右の手首を握っては閉じ、自らの存在を確認する これは夢ではない、故郷とこの地球を救い、変革する可能性を確かに掴んだのだ その実感がたまらなく嬉しく、今にも飛び跳ねそうな勢いだったが体のダメージでそれは叶わない 「その呼び方は困るな、俺は一人でシュリョーンじゃないんだ。話すと長いんだけど..とりあえず桃源と読んでくれ」 シュリョーンとそのまま呼ばれては色々と不味い、それにシュリョーンは桃源一人の姿ではない ちゃんとここで否定しておかないと彼女の場合ずっと間違い続けそうだ そう判断し、桃源が必死に訂正すると、それもまた嬉しそうにウンウンと聞いている 本当にこの少女があの宇宙人達の星の皇女だと言うのか? それが信じられないほど純粋な彼女の表情、そして瞳は真っ直ぐな物であった 「解っておるぞ桃源、これからよろしく頼む!我らとお前達の未来を共に変えよう」 いつ覚えたのか、親指を立て桃源にかざす それに答えるように桃源も同様に親指を立てる 異星の力、もう一人の亜空戦士が誕生した瞬間であった。 --- -第4話「戦記現わる」 ・終、次回へ続く。 |
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