地球の地表から、遥か上空に広がる暗闇の世界
無限の世界、宇宙に浮かぶ巨大な円盤状の戦艦のような物
立中市に現れる謎の宇宙人、侵略者達は殆どが
この宇宙船から地球上、火入国の立中市に落とされて出現する。

「ドクゼンよ、あの黒い...何と言ったか、あの厄介なのぁどうするんだ!?」

荒々しい声という表現がピッタリな落ち着かない声が響く
無数に触手を生やした「いかにも宇宙人」といった感じの
屈強なエイリアンが、鋭い目付きで目先の玉座へを睨みつける

「...シュリョーンと言うらしいが、相手にするまでも無いだろう」

影に隠れて見えない玉座の主は興味が無いと言ったふうな口調で
目前のエイリアンに目も向けず言葉を返す
その手先には小さな液晶なようなものが出現しており、何かを読んでいるようだ

「フザケるんじゃァねェぞ!?俺の大事な部下がもう10人以上死んでるんだ
俺ぁもう黙っちゃいらねぇ、直々に出向いてっ...」

大声で怒鳴り散らす目前のエイリアンに向け
ドクぜンと呼ばれた玉座に座るエイリアンが手をスッと差し出す
指を揃えていた状態から人差し指をピンと伸ばし拳銃のような形を作る

「止めておいた方が良い、君の部下のデータによると彼等はホンの数分で処分されてしまっている
それなりの力があるようだ、ギーゼン君が行っても...死にはしないだろうが、かなりのダメージを負うだろうね」

一瞬怒りの表情を見せるが、ギーゼンと呼ばれたエイリアンも思い当たる節があるらしく
グッと拳を握り、「エエイッ」といかにもな声を上げ地面を蹴る

「だがな、何か手はねぇのかよ!?この星を侵略するにはアイツは邪魔な存在だろうがよ」

眼下の地球の光で明るく照らされた司令室のような場所
大きなアクションを見せながらドクゼンに食って掛かるギーゼンであったが
軽々と言葉は回避され、段々とギーゼンにより強い怒りの感情が見え始める

すると、それを待っていたかのように
ドクゼンは玉座から立ち上がり、ギーゼンの目前へ一瞬の内に出現する
その顔は機械の集合体のような禍々しく、露出した脳みそがカバーで保護されている
機械然としているのに、生々しさが漂うようなグロテスクな姿
見慣れたギーゼンであっても、球に現れたその姿に、動揺を見せる

「次の手はもう既に、もうちょっと情報が欲しいからね...理解してくれるかギーゼン?」

口調こそ静かだが、何か圧倒的な圧迫を感じさせる一声
ドクゼンは一瞬反論の意を見せるが、それが無意味と悟ると
荒らげた肩を落としながらドクゼンに問う

「しょうがねぇ...で、今回は何をする気なんだよ?」

ため息混じりにギーゼンが疑問をそのまま口にする
先程までの怒りは既に感じられない、すっかり気が抜けているようだ

「今回はね、スノッブを大量に送り込んでみた...多数に弱ければこれで終わるだろう」

カツカツと靴音を立てて玉座へと戻るドクゼンを見ながら
なるほど、といった表情を見せたギーゼンだったが
その次の瞬間、言葉を完全に理解しまたその怒りの表情を見せ叫びを上げる

「おい!大量に送ってダメだったらどうすんだ、おおっまた仲間たちが...」

「いいじゃないか、その犠牲で脅威が潰れれば申し分ない。邪魔者が入ると騙せないからね」

「ええいっ勝手なことを、ワシも降りるぞ...この手で奴等を倒してくれるわ!!」

大きな足音を立ててギーゼンが部屋を後にする
ギーゼンの言葉では表現出来ない叫びが響き渡る、その声は巨大で遠くからでもよく聞こえる
会話の最中ドクゼンはずっとそれが煩わしく、この突然の申し出に驚きはしたが
共に消えてくれれば好都合と、密かに笑を浮かべていた

「...おや、随分と部下想いなのですね、止めませんがお怪我をなされぬようにね」

その表情は邪悪そのものを形にした様な物であったが
このドクゼンに近い未来、人間は騙されそれが窮地とも知らぬままに
彼の思うがままに侵略を開始されるとは、この時まだ思いもしていない
...がそれはまだ未来の話である。

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「...電話か、はて、電話はどこだったか?」

よくある機械的なメロディーが断続的に繰り返される
どうやら厄介な依頼が舞い込んだらしい、いつも唐突な連絡だが
不思議とその感覚は不審と言うよりは高揚感を与える

しかしながらその肝心要の電話が見当たらない
中々鳴らない物を管理するのはどうにも面倒だ

「この場合面倒ではない...か、どちらかといえば存在を忘れていた」

薄く光るパソコンの周りで、手の届く場所にある籠をあさる
けたたましい音と震えで鳴り響く携帯電話を手に取ると
通話ボタンを押す前に少しばかり身構えた

「はて、こういうときの最初の挨拶はなんだったか
...ボンジュール?グーテンターク?ウォーアイニー..モナムール..」

その答えは簡単だが、残念なのは電話の向こうは麗しの女性からではない
【桃源矜持】と表示された画面と番号が断続的にチカチカと表示される
画面の光に反射してメガネが白く光る

「やはり...出るべきか、しかし身支度は整って...いやいや、これは電話だ問題ない」

まるで自分に確認するように独り言を言いながら
電話の通話ボタンを押す、すると電話口から「あっ、出た」と聞き覚えのある声がする

時間は朝9時、普通の人間なら動き始めるか否か
電話の時間としてはギリギリ失礼ではない時間、準備し時間を待っての電話だろう

「...と、言うことは緊急ではないのか」

考えていたことがそのまま電話の向こうに伝わる
当然ながら電話の向こうの桃源にはまったく意味は解らない状態であるが
電話をかけている以上、その言葉でも何となく会話はつながる

「そうそう、緊急じゃない...って何がだ、もうちょっと..こう出だしに相応しい言葉があるだろうに」

若干ため息混じりに電話の向こうから声がするが、いつも通り怒っている風では無い
最早扱いに慣れられたか...否、よく考えたら電話の向こうの人物には怒られたことは...そう無いか
確かあっても2回程だったはずだ、間違いない

電話口からは言葉がつづいている
どうにも最近ここ周辺で、またもエイリアンが何かをしているらしい
しかし私自身が出向くようなことは珍しいな、本来であればシュリョーン一人で十分だろう

疑問が頭を巡り始めると、その結果を聞き出すまで我慢が出来ない
今すぐ答えが欲しい、ならば言われるまでも無く聞けばよいのだ

「データによるとスノッブの新型も出てきて...」

「メイナーが必要になるとは珍しい、何事か早く言いなさい」

「...あぁそう?シュリョーンスーツ葉子に貸しちゃったから...その、無いん..だよねぇ」

何やら先程から言葉の調子がいつもより数音ほど弱いと思えば
どうも言い辛いことがあった様だが、その程度のことはどうでも良い

問題はそれが興味深い相手なのかが重要だ、スノッブというのは以前相手したことがある
既に知っている物は少々相手にするのは億劫だ...が、「新型」とは興味深い

「その新型とやら、既にデータ位はあるのだろう?...そうだな、どんな形だ」

この世に存在する「物」は全て形の美しさが重要だ
結局、人間なんて生き物は見た目が全てだ、だが「美しい」は形が優れていることではない
その者に適しているか、最良の姿であるかが重要だ。

機能を求めるならばゴチャゴチャとした機械が
大量破壊が目的ならば沢山の小型機を使ったり、破壊兵器を飛ばすのもまた面白いだろうが
...さて、今回は何が来るのか、心臓が微かに鼓動を早め心を子供に戻してしまうような感覚を覚える

「おっ文句言われなかった。えっと...新型はどう見ても蜘蛛だったねありゃ」

何と蜘蛛、昆虫のようで居て独自の蜘蛛と言う世界を持つ孤高の生き物、蜘蛛
それを宇宙人が使用していることも興味深い、しかし何より実に美しいモチーフだ
敵ながら賞賛に値する選択だ、これでデザインさえ良ければ文句はない
これほど”破壊”が楽しみなターゲットも珍しい、全身の関節がゾクゾクと悲鳴をあげるような歓喜に包まれる

「ほうほう...うむ、良いだろう、素晴らしいよシュリョーン!
...ど、私はうすれば良いのだ、残念ながら外にでるには少々時間がかかる、全力は尽くすが...ね」

普段ならば退屈な24時間、秒で言えば86400秒をただ無味乾燥な味の無いものとして噛み締める
そんなまっ白な一日と言うカンバスに自らの命を使って色を塗る作業が出来るのであれば
これほどまでにスリリングで、これ程までにエモーショナルな行為は他に無い

「あ〜そうだな、まぁ今日か明日にでも事務所に来てくれれば、まだ半確認ぐらいだし」

電話の向こうからはこれ幸いと言わんばかりの時間を与える指示が聞こえている
麻痺した日常感覚を忘れるように足は自然に動き、電話の最中に既にある程度の準備は出来ていた

しかしながら、身だしなみも完璧が要求される
この我が力たるベルトはいくら愛でても愛で足りない程だが如何せんデザインは残念極まりない

これをよこした耳の長いレディー、我等が「大首領」は人にしては実に均等にとれた美麗なレディーであったが
どうもセンスが足りないと常々思うのだ、これに合わせるとコーディネイトは実に難しい

「よかろう、では今日中にそちらに出向こう...0時までには必ず...あぁ」

電話のボタンを通話ボタンを押すと、ブチッとあまり美しくはない音がなる
電話と言うのは幸福も不幸も運んでくる、均等だがそれは人によりける
実にアンバランスだが究極のバランスを保っている、その矛盾した存在感は嫌いではない
嫌いではないが、如何せんこの電子音というものは美しさに欠ける、実に勿体無い。

「そう、電子音にも様式美が欲しいな...それでは...だ、今日の服装から考えて行こうか」

そう声高らかに言い上げると
彼の済む部屋の各所にある影が微かに動いてその言葉に反応したように見える

そう彼もまた真っ黒な闇の世界「亜空」に選ばれた者
「娯楽浄土」またの名を「重装メイナー」

あの日壊れた重装システムの正しい適合者にして
桃源にとって欠かせない仲間である...そして、その行動に「無駄」と言う概念はない

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日も落ちかけた夕刻、桃源の事務所「再装填社」の駐車場には
珍しく車が止まっている、それは黒く大きな乗用車。当然見覚えがある。

それが駐車されていると言う事は、最高権力者が来ている証
ここ数カ月姿をくらませていた自称大首領である「礎アキ」が来ているのだ
そんな中で私は招かれた客として話を聞いている。

「...で、頼まれていた追加兵装を用意してきたわけだが
流石に持ち込むには大きすぎるから亜空間に置きっぱなしだ」

目前のレディーが随分と偉そうにソファに座って、資料に目を通しながら説明している
「大首領指定席」と書かれた1人掛のソファは彼女には明らかに大きく何か変に見える
私自身、この大首領に会うのは久しぶりだが、桃源はどうも違うらしい

「帰ってきたなら自分の家に帰れば良いのに...さっきから娯楽ちゃん無言になってるでしょうが」

明らかにイライラしている、聞いた話では奴の師匠はこの美麗な女性である。
そして私の一番上の上司でもあるわけだが、いつ見ても普通の少女に見える

見た目は学生といった感じだ、制服をいつも着ているのもあるがそう見える
だが歳は50近いらしい、ミクロ地球人だとかそんなのと悪宇宙人との戦いで
一度小さくされて、そこから戻って亜空の世界に紛れ込んだりと既に人ではないと言う

加えておけば私は別に無口なのはいつもの事だが、今はいい具合にその特性を利用しているようだ
お互いに特性を知っている上でそれが通じるかは疑問だが
その点も含めて彼等は中々面白い存在である

「...興味深い」

いつもの事だが、考えの結末はつい口に出てしまう
大体聞こえていないだろうと思っても都合悪く聞こえていることが多い
だが、このレディーの場合は聞こえていた場合もリアクションが中々に興味深いと言うことに気がついた

「...どこら辺がだ?耳か?耳なのか!?」

普通こういう場合、疑問の表情を浮かべるか、今説明している内容についてだと思われそうなものだが
大首領のポイントは「耳」である、私は耳など見ていない、むしろ既に見飽きた感がある

「いや...その新しい兵装と言う奴だ。当然メイナーシステムにもあるのだろう?」

ここはあえて”本来の興味”とは別の対象を答えておこう
「君達だ」と言ってもまず返す答えに明確な「解」が存在しないのも明白
それより話を勧め、これから”倒すべき興味”への助力を知っておきたいものだ

ふと、机上に置かれた資料に目を送れば「亜空キャノン」と名づけられたスケッチが見える
一部はCGだか細かい部分は手で書かれているように見える、彼女が書いたのだろうか
そのデザインや、やり過ぎなまでの武装は実に心を掴まれるものがある

「既に見ているそれがメイナー用だ、手で持てないレベルの火器を詰め込んだが...どうだ?使えそうか?」

「完璧だろ」と顔にそのまま書いてる、そんな顔をしながら、言葉は疑問形なのが実に違和感がある
この均等ではない感じが何故か妙に安心感を与えてくれるが
この兵装、一つだけ大きな穴がある...名前だ
メイナーベルトのデザインの時も思ったが、何処か一つだけこのレディーはセンスが欠落する癖があるようだ

「名前が残念だ...が、物自体は悪くない、それどころか理想の形であると言える」

防御用シールドとなる左右の巨大なバインダー、そこに装備されるミサイルやレーザー
更に中央には「フルブラスト亜空キャノン」と書かれた大型の砲までついている
そしてなにより飛行補助能力が有る点は素晴らしい、近づかずして的確に相手を破壊出来る

それは即ち「相手の死角」から「必要な箇所」を「的確に撃ちぬく事」が可能になる
...そう、よく見たい、手にしてみたい”未知なる部分”を傷つけず手に出来る

「名前か...やはり亜空とついた方が統一感が合って良いかと思うのだが?」

「いや、ここは個性を押し出すべきだ。本来の正義の味方が出てきた時に混乱する」

ここで言う本来の正義の味方、というのは偽りの正義を語る宇宙人達を倒した後に
必ず現れるであろう正義を志す人間のことである
常に未来のことを考えて置くのは重要なことだ...が、実際はそれより個性付けが大事だと思う側面が強い

「まぁ好きなように呼べば良んじゃないの?ゲームが皆ファミ○ンと呼ばれるようなもんでさ」

この最中、ひたすら茶菓子に手を伸ばし話を聞いていた桃源が会話を両断する
言われてみれば、確かに名前など、その時々で見た人間で変わることだってある
現在の名は形式、後からついた名はニックネームでいいだろう

こんな時は第三の目があると言うのは有難い
普段はその人間の目を無駄に感じ、浮世から離れているが
やはり議論の場ではこうでなくては困るのだ

...そしてこの矛盾すらも我が悪の証明になってくれる
所詮正義などにはなれぬ身だからこそ、やっと見据えられた地平だ

「無駄な議論は不要か、私はそれで一向に構わんが大首領はどう思う?」

メガネが微かに輝くと、レンズにアキが写っている
アキは一度軽く目を閉じ、「ふぅ」と息をつくと一言「良いんじゃないか」と軽く言い
無防備に大きく伸びをすると迷惑お構いなしにソファーに倒れ込む

「何と言うかもう作ってあるんだよこれ、んでそれの作業でつかれたから寝る
...やらしい事は、しても良いけど後悔するぞ〜」

そのまま仰向けに倒れた姿勢で眠りに入ったアキを見て
若干呆れた表情を見せる桃源と、何か考え込んでいる娯楽
互いに彼女が下心を持てるような”普通の”人間じゃないことはよく知っている

「ここ俺の家なんだけど!?最初からこれ目的で来よったなこのダメ師匠」

アキは基本的に近くにいる時は桃源の家に居座ることが多い
それ以前は一人で生きてきた彼女が友達や仲間を知ってしまったことで
「一人は寂しい」と気がついてしまったことは桃源も把握している

「そういう割には、いつも母親のように面倒を見ているように見えるが」

心を鬼にしていつも追い出そうとしている、が結局は母親のような対応をしていることが多い
娯楽にとってこれほど感情が読みやすい偽りというのも中々経験出来ない興味の対象である

「まぁなぁ...ほら、一応師匠だから、放っとくと死にそうじゃんこの人」

何だかんだと言って桃源にとっては大事な人間の一人であるアキは
普段こそかなり無茶苦茶な生活をしているが、真面目にすれば美人で頼れる大首領なのだ
...と思いたいが、どうも二人はそこまでは思える程、良い扱いはされていないようである

「で、興味深いのだが亜空世界の人間は”そういう事”をすると後悔するのか?」

不意な質問に桃源が固まるが、亜空人間の葉子と夫婦である以上
この疑問に明確に答えられる人間は彼しかいない

「またまた凄いこと聞いちゃうのね...まぁ、普通なんじゃないかなぁ...少なくとも知る限りは」

「ふむ、大首領の言う事とは矛盾しているな...だがそれもまた良いだろう」

あくまで普通の口調で答える桃源と、一切表情すら変えず出されたお茶を飲む娯楽が
なんとも言えない空気の中、心地良い程のアンバランスな空間を作り上げる。

その穏やかな静けさのまま空になったカップを机に置くと
改めて質問を続ける...ここからは至って真面目な話だ

「でだ、今回の敵については既に電話で聞いているが、もう少し詳しく頼む」

既に何度か現れている機動兵器化した宇宙人、通称「スノッブ」
大量に存在し、侵略の道具として各地に潜み何かを行っているようだが
その動向を探っている最中に、シュリョーンは違う形のスノッブを発見していた

「4機程いたスノッブの中に明らかに違うタイプ、しかも巨大な奴がいた
サイズは倍ってところか、見た目はまんま蜘蛛型だった...リーダー格か輸送機かもしれないな」

その時点では直接の攻撃は控え、記録を取ることに専念したが
明らかの巨大なその蜘蛛型のスノッブは脅威となり得る存在だ

「蜘蛛型には妙なバリアもあるらしい、その為に師匠に頼んで空戦仕様の追加装備を用意して貰ったって訳」

先程までアキが説明していた装備類は予てより想定されていた新たな敵に対応するためのものであり
「大量の敵」が出てきた場合を想定して生まれた、かなり昔に作られた飛行用の武装である

そこにアレンジを加えた結果各専用へと進化し現在の姿となっているが
その作業をアキと桃源、そして亜空の世界からの援護で行った為、
かなり急拵えではあるがシュリョーンとメイナー両人の個性に合わせた改良が的確に施されている

「なるほど、大体把握した。メイナーが必要だというから余程の事態かと思ったが
シュリョーンスーツが無いだけで、追加兵装もあるのならば趣味に走っても問題はなさそうだ」

大体の状況を把握した娯楽は少し嬉しそうな表情を見せ
再び亜空キャノンと書かれた設計図を見て、考え込む

「...メイナード、そうだなメイナードと呼ぼう」

横目で桃源はてっきり対策でも考えているのかと思っていたのだが
どうやらまだ名前に不満があったらしい

娯楽は名前を決めると、設計図を置き、スッと席を立ち身支度を始める
その動きに無駄はなく、全てが規則正しく計算されている

「あら?もう帰るのか...って言うかもう潰しに行くのか!?」

付き合いの長い桃源にはすぐに理解出来た
娯楽は既に「新しい興味対象を破壊し手に入れる」事に我慢が効かないことを
しかし、相手側が何かアクションを起こしてこなければ攻撃する理由が無い

「相手はまだ何もしてきていない、今攻撃すれば俺達は単なる理由ない悪だぞ」

相手の動きが間違いなく殺意や悪意をもって危害を加える世界にとって悪影響となる事象でなければ
単なる一方的な攻撃となってしまう、それではエイリアンと同類でしか無い
行ってしまえば建前なのだが、悪として戦うにしてもそれだけは避けなければならないのだ
...むしろ、正義の味方より制限は多いかもしれない。

「地上にいると言う事は既に目的があるのだろうさ、それにそんな思想には興味はないのでな
...とは言え、まぁ心配するな、何もなければ奥の手も用意してある。では行ってくる」

一瞬邪悪な笑みを浮かべ、全て予想済みと言った風に
カツカツと足音をたてながら事務所のドアを明け、娯楽は目標地点まで向かうのだった

「...大丈夫かよありゃ、葉子の用事が終わってれば変神して援護もできるが」

シュリョーンスーツは亜空の世界で使用されている場合呼び出すことが出来ない
心配はいらないだろうが、”いざ”という時はなんとかして助けねばならないだろう

早速準備を始める桃源だったが、彼の心配は娯楽に向けたものというよりは
相手を倒した後の現場の破壊を最低限に抑える方に向けられている

「戦いに関しては心配ないけど、多分相当グロいことになるんだろうなぁ」

準備をしながら桃源はアキを軽くゆすり、簡単に状況を説明すると
留守を任せ足早に事務所を後にするのであった

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Re:Top/NEXT