町外れにある古びた倉庫兼事務所、そこが自称悪の組織「再装填社」
桃源矜持はそこで首領と言う名を掲げて様々な依頼を受けている
いわば便利屋、本人はあくまで「俺はデザイナーなの」と言い張っている

常にジリ貧、しかし心は錦
数十年前の約束と今は無き妻の為、彼は今日も思案し活動する

そんな再装填社だが、依頼が入る日もある
と言うより入ってくれないとやっていけないのだが、現状は「たまに」である
そんな”稀な”依頼が、トンでもない依頼だった...
なんて書けば意外に見えるかもしれないが、既にこの事務所とってそれは日常的
...かもしれない。少なくともここは、この街、この都市は普通から離れてしまった

今の日本は言うならば多数の国の集合体、かつての日本はもうそこにはない。
2013年の地球の日本は”何か”の手によって壊され、それでもしぶとく生き残った
そのにあるのは根性と、ほんの少しばかりの維持と、人間らしい生へしがみつく姿勢だけ。

そしてこの事務所の主は、その荒れる世界に現れた影でもある
「一体彼は何者なのか」
それはこの先いやでも知っていくことになるだろう。

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外は澄んだ空気だが、晴れは遠き曇天
桃源は珍しく入った依頼に重い腰を上げ、軽い口を開いた

「依頼ってこれ一介のデザイン屋の仕事じゃないだろ、明らかにヤバイ系?」

今回の依頼は、彼にとってはイレギュラー
名目は「人探し」、しかも老人が歩き回って迷子...なんて物ではない
市内の高校に通う女生徒2人組みだというのだ

「それは警察の仕事だっつの、なぁ?ヨウビーお前どう思うよ?」

「ドーオモウってナンダー?」

「だよなー、聞く以前だよなぁ...んまっ、良いや。そこらに聞き込みに行くか」

飲みかけのコーヒーを一気に飲み干し、桃源が身支度を始める
ふとシャツにアイロンをかけていなかったことに気が付き、あからさまに表情に出る

「うん、メンドクサイ。ヨービーちょっとクッキーでも食べて待ってて」

「アイヨー...何枚ぐらいで終わるさー」

「んだなぁ...3〜4枚ぐらいかなぁ、おなか一杯で寝るなよ寂しいから」

いつものやり取りは嵐の前の静けさか、折角のロスタイム
その間に数時間前に時をさかのぼろう
この依頼は、一体どんな厄介ごとなのか、まずそれを知らねばならない

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...まだ太陽も昇りきらない午前中
看板を出しに表へ出た桃源の前に彼女は現れた

「あの..ここが何でも屋さんだと聞いたのですが、お願いしたい事があって」

そう、今回の依頼主「有拐 結花(アリカイ・ユカ)」その人である
彼女は「私立ベリアーゼル女学院」で教師をしているのだが
そんな彼女が受け持つクラスの生徒2人が行方不明だというのだ

「行方不明...というと、それは警察のお仕事では?」

出されたコーヒーを飲み、少し落ち着きを見せたところで本題に入る
普段は気の抜けきった桃源であるが、仕事となれば見た目だけはそれなりに
何とかしてくれそうな雰囲気を盛りやり作り上げる、言わば嘘のプロ。

そんな彼の元に舞い込んだのは失踪事件、しかもなにやら複雑に糸が絡んでいるようだ

「事件になっていればそう出来るんですが、学校には来ているんです」

「...?..っと、それは行方不明とは言わないのでは...?」

お客さんに対しては極めてフレンドリーな桃源が珍しく怪訝な表情を見せると
有拐は目を見開き、強い表情でこの事件の不可解さを説き始める

「確かに授業には出ているのです、だけど家に帰らず、帰り道にも姿が見えないのです
私にも上手く説明できませんが、学校の外では消える...そう彼女達は学校の敷地内でしか存在しないんです」

彼女自身も「自分が何を言っているのか」それが理解出来ていない
そんな風に感じさせる、繋げられる言葉も何かを探り無理やりつなげたような
解らなくはないが、実に奇怪な「理解し難さ」が宿っている

「それは...確かにおかしい話ですね、帰り道や休日にも目撃されない..と?家族すらも?」

「はい、それに彼女達は地方の出ですから近くのアパートで共同生活をしていたんです...」

「地方...つまり他県、あっ..いや今は他国と言うべきか、警察も協力しない訳ですね」

「はい、なので頼れるのは何でも屋さんだけだと、刑事さんからも聞いています」

2013年現在、日本は幾多の自然災害と大きな地震の被害により
首都とその他の県という存在をなくし、各都道府県が一つの国として独立した
いわば個性の強い合衆国となっている、そのため各県..ではなく国を跨いだ事件の場合
警察は大きく動きを制限される、これを利用した事件も増えているのだ

「なるほど、そこには戻らず学校にだけ存在している...本人に確認は?」

「幾ら話をしてもはぐらかされて、帰る姿を追ってもいつの間にか消えてしまっていて..」

彼女が話すその不可解な事象に桃源は困惑していた
それと同時に興味深い、そう感じている自分にホトホトうんざりしていた
だが、この世界にある不可解を消す事もある意味で「彼の仕事」なのだ

言うならばこれもまた「慣れた仕事」
最近ではこの系列の「奇怪な事件」を扱うことの方が多い

まず警察が仕事をしていないのだ、荒んだ世界では役に立つのは日陰者ばかり
ある意味いい時代かもしれないが、それを喜べるほど環境は良くはない

「良いでしょう、この件お受けいたします...良い結果が出るかはまた別ですが」

「解っています、もう頼りになるのは便利屋さんだけですから」

「えっと、まぁ一応は私、デザイン業なんですけどねぇ...まぁ腕は保障しますよ」

...とそんな感じで事件を捜査することと相成ったのだ
大まかだけど解って頂けたかな?それではまた時間を戻そう
数時間後...そうだな、ヨービーがクッキーを食べ終わる頃に進めよう...

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身だしなみにおいて男性の準備の速さはある種の武器である
事件解決ははスピードが勝負、だからといって女性の身だしなみは実に文化的だ
どちらを良しとするかは人それぞれ、桃源はアイロンをかけながらそんな事を話していた

事務所の扉を閉めると外は冬空
特有の曇天が嫌でも気分を盛り下げるが鋭い寒さは頭には快適だ

キャスケット帽を被り、朱色のコートを着込んだ桃源は
ヨービーをマフラーのように巻きつけてとりあえず聞き込みを開始した
...が、道行く「べゼ女生(ベリアーゼル女学院生徒・略称)」に声をかけようとした所で
まず最初の壁にぶち当たる

「...これは困った、幾らまだ若いとはいえ女子高生に聞き込みなんてしたら当然逃げられる、下手すりゃ捕まる」

「時代が時代さー...どうするよ桃ちゃんサー」

ヨービーがからかうように桃源に語りかけると
早速手詰まりと言わんばかりに桃源の軽口が収まる

この2013年の世界は災害やら不景気やらで相変わらず事件が多い、以前より当然増えた
高校生、しかも女子となると警戒心が強くなるのも当たり前なのだ
むしろ「学校」という機関が機能していることを喜ぶべき、それほど世界は混乱している

「むむっこれは困った...っと、待てよ?待てよヨービー」

思考の奈落に落ちたかと思われた桃源だったが
ふと首にまとわりついたヨービーの特殊能力を思い出しその口がまた軽くなる

「そうだ、そうよ、正にそれ。ヨービー、お前さん今日は何時間ほど葉子に戻れる?」

「アーあれかー、あれ疲れるから4時間ってとこカー」

「十分、早速戻って..って言う前に、亜空への扉を開かねばいけないね」

そう言うか言わぬか、桃源は拳を握り宙を叩く
するとまるで薄い氷を砕くようにバリバリと空間が割れる
かざした左手首にはなんだかよく解らない機械のブレスレットが巻かれている
それがこの「不可思議な世界」への扉の鍵なのだ

「綺麗な黒だ、綺麗な黒から綺麗なお嬢さんが出てくる。良い光景さ」

開いた、そこは亜空間
桃源達、悪の組織「再装填社」のメンバーだけが持つ
この世と別の世の間にある漆黒の空間を開く能力
彼らはこの中に様々な道具をしまい、取り出し、時に着込む事でその力を発揮する

桃源が従えるヨービーもまたその力を持つ亜獣であり
桃源が数年前に死別した愛妻の魂の器でもあるのだ
そしてその器たるヨービーの能力こそ、亜空間より桃源の妻「葉子(ハジ)」の体を呼び出し
一時的にこの世に蘇らせる「黄泉転生」と呼ばれる能力なのだ

「亜空よ開け!...さぁヨービー準備はOK、いつでもどーぞ。」

「はいはいナー...ヨミヨミテンセー...ドドンと!!」

亜空間は暗い、表現としては「黒い」の方が合っているかもしれない
青紫のビリビリとした空間の奥はまるでチューブから出した黒絵の具
漆黒で何も見えない、息を呑む暗黒が広がっている

その闇に向かいヨービーが呪文..というより即興曲のような言霊を放つと
暗闇が女性の体へと姿を変え、ヨービーを包み込む
最後にバリンッと言う音とともに黒い闇が割れ橙色の髪をした美しい少女が現れた

「...おっ、おお!!久しぶり〜葉子、会いたかった、もう死ぬほど会いたかった」

「フフッ愛の抱擁はま・た・後・で!...でもさぁ、前から2週間しか経ってないじゃないの」

自然な動作で抱きついた桃源を葉子と呼ばれた少女は
さも当たり前のように無視して会話している
彼らはかつて夫婦だった...そう”かつて”は、そして今限定的に復活している

葉子は亜空の世界でヨービーと契約する事で
その魂で「ヨービーが現世に存在できる事」を引き換えに
数時間だけこの世に”存在してはいけない”「人」として復活できるのだ
現実ではありえてはならない、再装填者だから許される現実がここにある

「あぁんもう、そのサラッと感がいい...でもおかげで助かるよ、ゴメンねこんな形でしか呼べなくて..」

「良いって、解ってる。事件の全容は向こうで見聞きしてたから、ほら制服準備しといた」

亜空は望んだものを呼び出す欲望と探求、そして夢と絶望を運ぶ世界
その世界の住人となった葉子は現代に限られた時間しか出現できない代わりに
その服や使う道具は自在に呼び出す事が出来るのだ

今回は「べゼ女」の制服を着ている、ご丁寧に学生書や名札まで完備である
勿論、戸籍等は生前の物を使用する、彼女は書面上はまだ「生きている」扱いだ
色々と説明したいが、彼女と桃源の関係や最初の死別の話は...長くなるからまた別の機会にしよう

「準備良いー流石は葉子、制服もよく似合う..特に胸の無さッでっ...!?」

「胸の事を言う奴はあれだ、協力してあげないんだかんね」

容赦ない鉄拳が桃源に直撃した
普段は優しき気の効く言わば心も美人な葉子だが
胸の小ささは彼女にとって自身が感じる弱点であり、その話題はご法度である。

「いや違うんだ、ほら俺その胸大好き、全部好きで、好きだから話に出やすいってそういう...」

いつもの会話、これが彼と彼女にとってどれだけの幸せだったか
男女という項目を越え生と死の後者、死が二人を分かつ時を越えてしまった二人が
またこうして語り、お互いに笑い怒り謝る、それは葉子にも桃源にも少しの平穏を与えた

「...ふふっ、なんだか久しぶりだね、さぁ行きましょ早く終わらせてお茶ぐらいさせてよね」

常時掛け合いを続ける二人の表情は、まるで愛を語るように
それでいて歩みは常に進め、見た感じ女子高生とそれの彼氏っぽい二人は
何とか聞き込み調査を開始するのであった

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ベリアーゼル女学院の16個目の七不思議
それはここ数日で生まれた、その名も「同級生がリアル幽霊」
さっきまで話していた友達が唐突に消え、また翌朝現れる

「いつの間にか」または「気が付いたら」言葉にするならそんな感じ
学校でしかあえない同級生、それは実にミステリーな存在で
その噂はみるみるうちに、ほとんどの生徒へと伝わった

学校という限定空間は、狭い世界で実に面白い現実の縮図を作り上げる
何が起きても変わらないもの、それは若き好奇心と学校という場所かもしれない
そして今回のこの怪事件にはその学校と大きく関わる影が潜んでいる
...が、桃源と葉子はまだそこには行き着いていない

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桃源と葉子は聞き込みを開始して早1時間
そんな短時間でも”局地的に”行方不明の2人の生徒情報は相当数が集まった

十分すぎる情報量を整理する意味も含めて
桃源と葉子は当初「終わったら行く」はずだった喫茶店に立ち寄っていた
こんな当たり前の風景も、この二人には2週間ぶり、現世と亜空の果てなく遠い遠距離恋愛である

「ん〜大体聞ける話は全部聞いたって感じかねぇ」

「そうだね、いなくなったマコちゃんとアイちゃんは学校には来ていて
でも家には帰ってない、そして通学路での目撃情報も無い...そこまでは基本で」

「更に新情報としていつの間にか消えてる、気が付くといる、
でも食事は取るし携帯も繋がる..って感じかねぇ」

軽い食事とコーヒーを頼み、残り時間を情報整理に当てることにした二人は
解った情報を纏め、そこから繋がる点と線を結び始めていた
白い湯気を出すコーヒーはもう既におかわり3杯目である

「携帯が繋がるって事はどこかに帰ってる、それに現実に存在してるって事だよね」

「メールしか確認取れてないとはいえ、そうなるか...まさか葉子と同じ?」

「それは無いよ、だってこんな不可思議な存在私以外にもいるなんて聞いた事無いもん」

「あっそうか、向こうにいけるなら葉子とも会ってるはずだもんね」

なまじあり得ない世界を知っているからか、どうにも推理は飛躍する
作り置きのコーヒーと同じく考えが煮詰まりかけた二人だったが
一つの証言がこの事件の謎の影へと繋がる線となる

「んじゃこれは?この深夜に屋上あたりに発光体が出るとか言う14個目の七不思議〜」

「七なのに14個目...でも、これなら誰かがイタズラしてる可能性もあるね
誘拐して屋上に?考えたくは無いけど監禁とか出来るものなのかな?」

少し考え込んで、頼んでいたケーキを口に運ぶと
葉子の頭にあまり考えたくない展開が巡る...がその可能性は高い

「でも発光ってのがわかんないんだわねぇ、UFOでも出るってか」

「まぁ私みたいな状態がアリだとすれば不思議ではないけど...あっこれ美味しい」

「こっちも中々、半分で交換とかいかがかな葉子様」

「おっし!そういう事なら乗っちゃう...あっこっちも美味しい、あっちの食べ物不味いんだなー」

久しぶりの夫婦の会話を交えつつ
事件のポイントは「屋上の発光体」と「未知なる何かの仕業」という
推理としては落第点だが、割とありえなくも無い結論へと行き着く
彼女達の安否も気にかかるが、現れては消える、その真意は何なのであろうか?

「まぁこうなりゃ、深夜の屋上に突撃しかないかなぁ」

「深夜じゃ私はいけないけど、大丈夫?」

彼女の制限時間は4時間、既にそのうちの2時間は消費している
夕暮れ時、まだ時間までは数時間ある、葉子の同行は不可能である

「大丈夫、何せ俺は悪の超人ですから...夜の学校怖いけどね〜」

「...それ大丈夫じゃないって事じゃん、まぁいざとなったらアレ使いなよ!」

”アレ”とは何か、それは二人が持つ未知の世界への案内者
彼らがあえて危険な未知を生きる意味、それこそがその”アレ”に大きく関与している

「おうさ、その時は二人で一つか...楽しみだ」

「まぁ使わないに越したことは無いけど...実は私も楽しみかも?」

学校の怪を紐解くのは新たな怪
桃源と葉子に隠された何か、工作する事象は内外ともに山のよう。
全ての謎は今宵の月が照らす頃、ベリアーゼル女学院にて明かされる...


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Re:Top/NEXT