--- 刺すような風が露出した肌、手や顔に容赦なく刺さる真冬の深夜 桃源は「べリアーゼル女学院」の屋上に繋がる会談の踊り場にいた 「ここまで意味不明な事件だと...やっぱ、”アイツ等”絡みだろうな」 数時間前、葉子との推理の結果導き出された「屋上の怪」 この一連の事件は、屋上から発せられる謎の光が大きく関与しているのは間違いない 2人は学校と言う狭い範囲でしか活動できない...と考えれば 何者かが、現代ではありえない「何か」を使って2人を縛っている そう考える以外、この奇怪な現象は証明不可能なのだ 階段を登り廊下を駆ける足音に思考が追随する、思考は先に答えへと走り そして桃源と葉子はその「何か」を使う者たちを知っている、と解を示す 当然ながら「友好的存在」ではない、戦いは避けられないだろう 「...一人で大丈夫とは言ったけど、やっぱこれはちと怖いな 幽霊とかは平気だが、グロ〜いスプラッターは御免蒙りたいねぇ」 桃源はこの事件の「犯人」を突き止めるために早速この事件の焦点となる現場に訪れたのだ 勿論、不法侵入ではなく依頼者である有拐から許可を得ての校内探検である 「地下・音楽室・食堂に体育館、全て何もなし、やっぱり屋上か...時間は..まだ早いな」 この合間、改めてこの事件の問題点を洗い出してみよう 一連の女子生徒2人が学校以外では行方不明となる怪事件 学園14個目の七不思議、「屋上に現れる謎の発光体」 これが現れだした頃から、行方不明のマコ・アイの二人がおかしくなり始めたという だがこの屋上の怪、七不思議によれば深夜2時45分から5分間しか起こらないと言う。 光、限定空間しか存在しない二人、人間には出来ない不可解な現象 そしてその先には桃源と葉子だけが知る「未知なる存在」が見え隠れする 既にこの事件は「普通」ではない、解るのはそれぐらいだろう 「しかし学校ってのは広いな、もう何年ぶりか...明るくても嫌だが、暗いともっと来たくない場所だこと」 僅かな時間で桃源の頭の中に数々の考えが浮かび、消える その考え達は揃いも揃って同じ事絵を導くと気が付き仕方がなく桃源は 時間まで他に人が監禁できそうな教室や体育館を見回っていたのだった 「今が2時40分、そろそろ...か。光る前にその発端を押さえるか アイツ等が出たとしてもこの規模なら大したことは無いだろうし、足と..左手だけ変化させればまぁ良いだろう」 月明かりが差し込む踊り場で桃源は左手をかざす すると巻きつけられた機械の塊のようなベルトが赤紫の光を放ち 桃源の左肘、そして両足を包みその刹那、バリッバリッと音を立て砕けた 「変神!...ってカッコつけても足と手だけだけども」 桃源が左手をブンブンと振るう、その手は装甲に覆われ まるで特殊なスーツを着たかのような物に変化していた これが彼が持つ能力「変神」 「亜空間」に眠る葉子の力と「一つになる」ことで生まれ 彼を護り、彼と彼女を「同一の存在へと変えた」亜空間の産みし「黒き戦士」 ...なのだが、この姿はまだ全てではない 「おっと、遊んでる場合じゃない、さっさとお片づけして2人をお助けしましょうかね」 まるで飛び跳ねるように軽快な動き 手すりを掴むと軽々と飛び上がり瞬く間に階を上がり跳ね上がる それは明らかに人のなせる物ではない 黒い装甲で覆われた手・足は桃源が既に人ではなくなった事を示していた まるで影が飛ぶかのように怪談を2つ、4つ、6つ ...トントン、と軽快に飛ばしあっという間に屋上へと飛び出た 大きな満月が照らす深夜にしては明るい月夜 高く飛んだ桃源の目前に、この事件の最重要人物 ...いや、人かは解らないが、犯人がいると思われる屋上の管理小部屋が写りこむ 「見るからに怪しい物に近づかないのは一般の方。私は近づくのがお仕事なのよ...」 すると桃源は、高く飛んだ体を傾け 音を立てず、静かに降り立ち、その扉の前で聞き耳を立てる かすかな声、音、何かが聞こえれば、それは”まだ助けられる証” 「...かすかに動く音がする..声もあるな、まだ大丈夫..か?」 深夜、包み込まれるような静寂の中かすかな音、もしかすると声か、何かが中から聞こえる 桃源はドアノブに手をかけると一気に扉を押し開いた その先に写ったのは... 「これは!?..行方不明の二人、意識が無い...のか?」 桃源がドアを開けた先には座り込んだ状態で柱に鈍く光る輪のような物で縛られている 行方不明だった2人の女性との姿だった、まるで魂でも抜かれたように 息をせず、冷たい肌...だが微弱ながら心臓は鼓動ている 死んでいる訳ではない、しかし何か特殊な力で「生命として機能を停止させられている」 「動けない...というより、完全に拘束されている肉体も精神も...まてよ?」 だが、何かがおかしい、彼女達は動けない筈 では扉の向こうから聞こえた「声」そして「物音」は何が出した物だ? 様々な思考が瞬時に巡る...”もう一人”いた? 桃源の頭がその事実に行き着くか否か突如背後から激しい音が走り抜ける ”ガリガリガリッッ” 何かが削れる巨大な音が背後から迫る 桃源はこの状況を良く知っている、この音は... 『オ前ハ何モノダァ!?』 形容しがたい声、言わば怪物の声といえば最も適切な表現だろう 巨大な音に振り向いた桃源の目先に、禍々しい異形が写りこむ 「おうおう追いで成すって...ぜ〜んぜん会いたくなったけどさ」 ロボットのような体の中に脳味噌がむき出しになったような異形の影が見える 後部からは4本の機械の触手のような物がうごめいている その姿はどう見ても「話し合いで解決できる」タイプではない 「んで...お前が、この二人をこんな目にあわせたのか?」 普段とは違う、鋭く張り詰めた表情、声で桃源が問う だが目前のエイリアンはその表情すら変えず同じ言葉、「お前は何者だ」を繰り返す 桃源の表情は既に怒りをあらわにしている 「あぁそうかい、話は無しね。簡単でいいや」 ...桃源は知っている、彼らが何か そして憎んでいる、それはなぜか 答えは簡単、奴等が彼の愛する妻を奪ったのだから 「答えれば、もうちょっと穏やかに倒してあげる気も...まぁ無いけどさっ」 桃源が左手をかざす、その手首には機械が集まったような 形容しがたい形のブレスが輝き、機械が激しく回転している 『腕!?..オオッ貴様ハ..ショリョーン!?』 桃源の手を見た異形の者がビクッっと体を揺らす そう、桃源が彼らのことを知っているように 奴等も彼を知っている、桃源矜持...否、彼の名は 「「そう、知っているだろ?私は...我は変人ショリョーン」」 言い終わるか否か、黒い影が桃源の全身を包み すぐさまバリバリとヒビが入り、割れ落ちる |
||
一枚、また一枚捲れ落ちたその向こうにあるのは ”赤く光る目” 黒い影のガラスの向こうで輝く瞳が目前の異形の者を振るわせる 本能が「逃げろ」と伝えるが、その感覚が何なのかすら彼等は知らない 「「どうした?見かけによらず臆病なようだが?」」 全身が黒く、機械なのか生命なのかそれすらも曖昧な漆黒の姿 男性と女性の声が重なった生命と非生命の間の声がスっと異形の頬をかすめる。 声が切れるか否か、シュリョーンはカツカツと足を慣らし歩みを始める 未だ割れた影がバラバラと落ちているがその姿は既に完全に見えている 荒み、生まれ変わらんとする世界に現れた「変神」、その名は「シュリョーン」 桃源と葉子が亜空力を使い融合し、変化したこの黒い姿は 悪であり悪を斬る、歪みを断つ黒い剣士の姿である。 そして、その漆黒の足が一歩、また一歩異形に近づく 「「犯人はやはり貴様等か、彼女等の魂...還してもらうぞ」」 黒い、しかし体の各所が金に輝き瞳は赤く輝いている 表情は見えない、だがその周りを漂う空気が怒りに震えているのが解る ゆっくりと歩みを進めていた足が次第に速くなる その両手にはいつの間にか2本の緑に輝くナイフが握られている シュリョーンはその出現した物を確認する事も無く 当然の動作であるかのように軽く手を振るい投げつける 「「亜空スライサー、これでも十分だろう」」 シュンッと軽快な音を立てとんだナイフは異形の者へと突き刺さる 1本胴体、もう1本は中身を守るガラスのカバーに深く刺さっている 『グギィ...キサマァァァッ!?』 状況が理解できない混乱と、痛みに絶叫を上げる だが、そのその痛みは怯えたその体を動かす原動力にもなってしまった もはや錯乱状態となった異形の者が背中の触手を伸ばし その場にいる人間勢い良く放たれたのだ 4本のうち2本はシュリョーンに向かい もう2本は捕らえられていた女生徒へと延びる 「「弱いものから狙うとは、下衆が...まずはあの厄介な触手を叩く」」 シュリョーンはグッと足を踏み込むと手を腰に伸ばし叫ぶ 先程のナイフと同じ緑の光が一瞬輝きシュリョーンが叫ぶ 「「アクドウマル!この歪み斬り伏せよ!!」」 シンッ...という鋭い音が響き シュリョーンの手が大きく空を切る 風が通り抜けた、そんな感覚が一瞬だけ突き抜ける その風こそがアクドウマルの一閃 先程まで猛スピードで延びていた触手は まるで元からバラバラだったかのように崩れ落ちる 『ッ?...ギエェェッ!!?』 異形の者の絶叫が木霊する その刹那、シュリョーンが守りを失った異形の者の前に立つ その手には緑色に輝く刀が握られている 「「答えよ...貴様等は何者だ!?何を目的とする?」」 男性と女性の声が重なった不思議な声 シュリョーンはエイリアンの首に刃を向けると問う 極めて冷静に、しかしその口調は極めて鋭い 『シュリョーン..我等ガ..敵...』 透明なガラスが砕け、中からこの異形なる機械を操る いわば...映画に出てくるようなエイリアンが這いずり出て来る その息は既に虫の息であり、投げつけられたナイフが深く突き刺さっている シュリョーンが思う以上に中の異形は脆いらしい。 『シュリョーン..抹殺スル!』 シュリョーンの赤い瞳が一瞬細くなり ヒュッ...という音と共に一瞬手が動いたかと思うと その次の瞬間エイリアンの両腕が吹き飛ぶ 答えねばその身を破壊する、彼は正義ではない...言わば悪、情けなど無い 「「もう一度言う、答えよ。貴様達は...何者だッ!!」」 ギリギリと刃がその首を締め付け 先程までの力を失った異形の者は最早人よりよほど弱い状態となっている 「「ヒッ..ヒーポクリシー...ドッ..ドクゼン..様ノ為死スベシッ!!?」」 彼らの言葉か、意味の解らない言葉を叫ぶと 異形の者は光を放ちボンッと音を立て爆発した 「「自爆...誰かの指示で活動を行っているのか...忠誠心がある? 最後の言葉”ドクゼン様の為死すべし”..か」」 シュリョーンの赤い目がまた細く鋭く光る 燃え上がる異形を目にシュリョーンはその言葉を脳裏に刻む 「「ヒーポクリシーにドクゼン、また少し奴等の情報を得られたか..むっ、あれは」」 かすかな炎が浮かぶ屋上 燃え尽きたエイリアンの残骸の中にクリスタルが輝いている これこそ、2人の女生徒の魂、「生命エネルギーの結晶」 2人はエイリアンにより生命エネルギーを吸い上げられていたのだ 「「やはり魂は結晶化されていたか、間に合って良かった」」 シュリョーンが戦ったエイリアン、奴等は人の魂をクリスタルに変えて その生命を奪う、言わば「命の泥棒」 結晶状となったその魂は、ヨービーによってのみ持ち主に返すことが出来る 「「さぁヨービー...頼むぞ」」 「アイアイさー!モドルモドーレオンタマシイー!」 ヨービーが歌うように呪文を読み上げると 魂の結晶体は2人の生徒の中へと戻ってゆく 見る見るうちに体温が戻り、安らかな眠りの表情を見せ始めた 「「...変人解除。どうにも意図が見えない後味の悪い事件だったな」」 「桃ちゃん、オツカレヨ、そしてオチツクヨー」 「おう、解ってるって。ただ...どうもイライラさせてくれるね異形共は」 まだ燃えている異形の者の残骸を見つめ 桃源は拳を握る、その瞳には静かに怒りが燃えていた だが、今はまだ奴等の正体を掴むには何もかもが足りない 「...さっ2人を連れて有拐先生の所に戻ろう」 少しの喧騒の後、訪れた静かな夜 この静寂を護るのは、情け無用の黒き剣士 桃源矜持とは一体何者か、そして異形の者の正体とは何なのだろうか 「やっぱり、葉子がいてくれないとダメだな、すぐ怒りに負けちまう」 静まり返る後者の階段を下りながら 誰にも聞こえないような小さな声で呟いた 幾ら少女とはいえ、2人の女子生徒は少々重い だが、彼女達を救ったその事実を感じると怒りは消えるような気がした --- 「オーイ桃ちゃん、朝でゴザイー」 ...昨夜の出来事は夢か幻か 横たわった胸の上に猫のようなウサギのような オレンジの斑点が朝見るには少々五月蝿いそんな獣が乗っている 「ウルセー、今日ぐらい良いだろうに...ちょっと待ってろーい」 いつもと変わらぬ朝、ほんの少し遅く目覚めた桃源が 顔を洗い、着替え、コーヒーメーカーのスイッチを入れる そして朝の最初の仕事、店の看板を出しに表へ出ると 数日前と同じく有拐結花が現れた、昨日の礼に訪れたらしい 実にベストなタイミングだが、桃源の頭に若干の不安がよぎった 「あの、どうも2人とも無事で何よりでした...何かありました? まさか、お二人にまだ何か起きてた...り?」 桃源の寝起きの頭はその状況で即座に覚醒した シュリョーンの事、ましてやエイリアンの事など言えるはずも無いが 確かに事件は解決した...自分はそう思っている 彼女達にまだ何か後遺症があったか? それとも昨夜の詳細を聞きに来たのか!? どちらにしろあまり良い予感はしない...こんな時は神頼みしかない 「いえ、実際の所何が起きていたのか知りたく思いまして」 とりあえず2人は無事で胸を下ろすも 当然ながら後者の方の質問が降りかかって来た、当然のことである。 あれだけの不可解な事件であれば自分でも同じ質問をする、誰だってそうだ 言葉を用意していないわけではないが、やり過ごせるか自身はない 少しの間、取り繕う言葉を捜し桃源が口を開けようとすると 予想だにしなかった声がその質問に答えを投げた 「あの二人、あそこで星を見ていたんだそうですよ」 桃源の隣にいつの間にか良く知った女性が立っていた まるで最初から射たかのようにナチュラルに会話を繋げる 「ほら、学校ってここら辺で一番高い建物ですから 暫く二人で放課後に学校に隠れて残って小屋を観測室にしてたんだそうですよ」 有拐の質問に答えたのは葉子だった なぜ出てこれているのかも不思議だったが 何より条項を飲み込めず桃源はただ唖然とするばかり 「ああっそう言うことでしたか...この度は家の生徒がご迷惑をおかけしました」 「いえいえ、依頼料も頂いておりますし毎度ありがとうございました あっ、怒らないであげてくださいね、大事になるなんて思ってなかったでしょうから」 女性との行方不明期間は1週間程度、言い訳としてはギリギリのレベルだが 葉子が言葉をつなげると妙に説得力が生まれるのも事実 その場にいる有拐と桃源はなぜか妙に納得してしまっている。 「ええ、それは勿論...で、貴方様は?」 「私はこの桃源の妻の葉子と申します、お二人によろしくお伝えください」 葉子は満面の笑みで昨日の出来事をでっち上げると さも当たり前のように挨拶をし、有拐も何事も無くそれを受け入れている 「まぁ!そうでしたか、あっいけないそろそろ行かないと、すみません失礼しますね」 「はい、また何かありましたらいつでもお越しくださいね」 葉子はその場を丸く治めると 何度も振り返りっぺこぺことお辞儀をしながら遠ざかる有拐を見送る その様子に桃源は定型のお礼を言うしか無かった、そして疑問が口から出る 「あっ...あのさ、葉子...なんでいるの?」 「なんか昨日のクリスタルの作用でちょっと充電できちゃってさ、助けに来たのよ〜」 「あっああ、うん、ありがとう葉子...なんかもう何がなんだか、とりあえず朝ごはんにしようか」 そう言うと二人は、昨日までの事件はひとまず忘れて、少しの時間と空腹を満たしたのであった --- -1話「失踪少女」 ・終、次回へ続く。 |
||
前半へ/Re:Top | ||